エネルギーを巡る激震:ウクライナと対イラン紛争がヨーロッパの未来をどのように変えたのか

ロレンツォ・マリア・パチーニ
2026年5月6日
Strategic Culture Foundation
根本的な問題は、ヨーロッパが産業基盤と国際経済システムにおける地位を永久に失うことなく、エネルギー危機を乗り越えられるかどうかだ。
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2021年から2024年にかけて、欧州のエネルギー・システムは、戦後大陸の経済史において未曾有の急速かつ衝撃的な変革を遂げた。2022年2月のロシアによるウクライナへの特別軍事作戦、それに伴う制裁措置、モスクワによるエネルギー面での報復と、中東の海上輸送ルートにおける構造的緊張が重なり、いわば二重の地政学的・エネルギー的ショックが発生した。すなわち、欧州の主要化石燃料供給経路である東側のロシア回廊と、南東側のペルシャ湾回廊が同時に寸断されたのだ。
この危機の規模を理解するためには、まず危機以前の状況を明確に把握する必要がある。2021年、欧州連合はロシアから約1,550億立方m(Bcm)の天然ガスを輸入し、これは総需要の45%を占めた(ユーロスタット、2022年)。ロシアからの原油輸入量は1日あたり約270万バレルで、総輸入量の27%を占めた。ロシア産石炭は欧州の輸入量の46%を占めた。合計すると、ロシアはEUの一次エネルギー消費量の約24%を供給していたと推定され、これは現代世界において、他のどの同盟体制にも見られない依存度だ。
同時に、欧州の液化天然ガス(LNG)輸入量のかなりの部分、そして増加傾向にある部分は、ペルシャ湾岸地域、特にカタールから来ており、現在もその傾向は続いている。これらの供給は、欧州の再ガス化港に到達する前に、ホルムズ海峡と紅海を経由しなければならない。2023年末に始まったイエメン危機と紅海におけるフーシ派の作戦は、数十年間、理論上の問題にとどまっていた脆弱性を具体的現実に変えてしまった。
ロシアやイランからのエネルギー供給ルートに代わる、ヨーロッパのエネルギー供給ルートの現状はどのようなものか。こうした代替経路への強制的移行がもたらす本当の代償は、価格面だけでなく、産業競争力、インフレ、社会安定性といった面で、どのようなものか。そして、今後10年から15年間に、ヨーロッパのエネルギー・システムの構造的回復力に関して、具体的見通しはどうなっているのか。
2021年、ロシアは欧州連合が輸入するガスの45%、石油の27%、石炭の46%を供給していた。これらの供給がほぼ同時に途絶えたことは、1973年以来、欧州大陸史上最大のエネルギー供給ショックとなった。
2.1 2022年以前のシステムの構造
1990年から2020年までの30年間に構築された欧州のエネルギー供給システムは、戦略的多様化より経済的安定と費用削減を優先するロシアとのインフラ統合という論理に基づいていた。ロシア・ガスは、主に3つの回廊を中心としたパイプライン網を通じて欧州に供給されていた。
北ヨーロッパ回廊(ノルドストリーム1号線と2号線、総容量110Gmc/年)、ウクライナ送電システムを経由するウクライナ回廊(近年は約40~45Gmc/年)、およびトルクストリームとバルカンシステムを経由する南部回廊(約30Gmc/年)。
このシステムには明確な経済的利点があった。危機以前のロシア・パイプラインガスの価格は1メガワット時(MWh)あたり5~10ユーロだったのに対し、中東やアメリカからのスポットLNGは10~15ユーロだった。統合は深く、長期契約(通常15~25年)によって欧州の買い手には予測可能性が保証され、ロシアの予算には安定収入が確保された。このシステムの論理は、国際関係論者が「複雑な相互依存」と呼ぶものだった。相互依存の関係にあるため、紛争は双方にとって、経済的に非合理的なものになるはずだった。
崩壊は瞬時に起きたのではなく、徐々にエスカレートする過程をたどり、欧州の対応を更に困難にした。ロシア特別軍事作戦数ヶ月前の2021年夏には、ガスプロムは自社の貯蔵備蓄を低く抑えつつ、欧州への供給量を削減していた。多くの専門家(Pirani、2022年、Oxford Institute for Energy Studies、2022年)は、これを冬に備えて価格をつり上げ、欧州の備蓄を弱体化させるための意図的な戦略だと解釈していた。2022年2月~3月に制裁が始まると、供給量は徐々に減少した。ノルド・ストリーム1は2022年6月に容量の40%に、7月には20%に削減され、2022年8月には完全に停止した。公式にはタービンに関する技術的紛争が原因とされているが、事実上、制裁への対応だった。
決定的な出来事は、2022年8月にノルドストリーム1号線と2号線のパイプラインが破壊されたことで、これは破壊行為で、責任は国際調査の対象になっているが、これにより、これら回廊の喪失は短期から中期的に物理的に不可逆となった。ウクライナ回廊は別の輸送協定の下で運用が続けられたが、この協定は2024年12月31日に期限切れとなり、ウクライナは更新しないことを選択した。トルコ・ストリームは引き続き稼働しているが、主にバルカン半島とトルコの市場に供給している。全体的影響として、ロシアからEUへのガス供給量は2021年の155 Gmcから2023年には約25 Gmcに減少し、僅か2年間で130 Gmcの純損失となった(IEA、2024年)。
ホルムズ海峡は、航行可能な最小水路幅が約33キロで、世界のエネルギー・システムにおいて最も重要な輸送拠点だ。
ホルムズ海峡は、1日あたり約2,000万~2,100万バレルの石油および精製製品が通過し、世界の石油消費量の約21%を占めるとともに、世界LNG貿易の相当部分を占めている(EIA、2023年)。ヨーロッパにとって、ホルムズ海峡の重要性は2022年以降劇的に高まっている。ロシア産ガスを、カタール産LNG(カタールは世界第2位のLNG輸出国)に置き換えることで、ヨーロッパはエネルギー依存の一部を、地政学的にリスクの高い東側回廊から、地政学的に脆弱な南東側の別回廊へ移した。
2023年11月にガザ紛争への対応としてフーシ派が海上交通を攻撃したことから始まった紅海危機は、この理論上の脆弱性を具体的運用上の問題へと変えた。危機のピーク時にはスエズ運河の交通量が40~50%減少した(Kpler、2024年)。そのため、多くの船舶が喜望峰を迂回する航路を取らざるを得なくなった。この代替航路は航海に10~14日余計にかかるため、輸送費、保険料、設備投資費用が増加する。
2022年以前、ロシア産ガスの欧州における価格は5~10ユーロ/MWhだった。代替品として用いられるアメリカ産またはカタール産LNGは、通常の市場状況下では10~20ユーロ/MWhで安定しており、2022年8月には投機的高騰で340ユーロ/MWhに達した。この構造的価格差こそが、欧州の競争力問題の根源だ。
2022年から2023年にかけて、アメリカは欧州へのLNGの主要供給国となり、欧州大陸への輸出量は危機以前の期間と比べて2倍以上に増加した。2021年の約22Gmcから2023年には56Gmc以上になった(アメリカ・エネルギー情報局、2024年)。この増加には、ルイジアナ州とテキサス州で承認された新施設によるアメリカの液化能力拡大と、欧州での再ガス化ターミナルの建設またはチャーターを急ぐことが必要だった。2021年にはLNGターミナルがなかったドイツは、2022年12月から2023年半ばにかけて4基の浮体式ターミナル(FSRU)を稼働させ、総容量は約20Gmc/年となった。
だがアメリカ産LNGには構造的制約があり、ロシア産ガスを完全に代替するのは困難だ。まず価格の問題だ。アメリカ産LNGには液化、大西洋横断輸送、保険、再ガス化の費用が含まれるため、パイプラインガスより構造的に高価になる。
第二に、契約の柔軟性の欠如:アメリカ産LNGの長期契約のほとんどは「仕向け地指定なし」条項を課しているものの、価格決定メカニズムはアメリカのヘンリーハブ市場に連動しており、欧州のニーズとのずれを生じさせている。第三に、輸送能力:世界のLNGタンカー船隊は、これまでパイプラインで輸送されていた量を完全に代替できるほど十分な規模ではなく、船隊を急速に拡大するには、1隻あたり3~5年の建造期間が必要になる。
カタールは2022年から2023年にかけて、ドイツ、フランス、ベルギー、イタリアを含む複数欧州諸国と長期契約を締結した。これらの契約は通常15年から27年間続き、ある程度の予測可能性をもたらす一方、2つの根本的問題を抱えている。1つ目は地理的な集中だ。カタールのLNG輸出は全てホルムズ海峡を経由しなければならず、本来軽減されるはずだった地政学的脆弱性がそのまま残ってしまう。海峡での軍事危機や(テヘランが頻繁に発動する抑止措置)イランによる封鎖は、カタールのLNGと湾岸諸国の石油の欧州供給を同時に混乱させるだろう。
2つ目の問題は、カタールLNGを巡るアジア市場との競争だ。中国、日本、韓国は伝統的にペルシャ湾からの輸出の大部分を吸収しており、カタールの拡張能力(2027年までに輸出能力を年間7700万トンから1億2600万トンに増加させるノースフィールド拡張プロジェクト)は、ウクライナ危機以前に締結された契約を通じて、既に一部がアジア市場に先行販売されている(カタール・エネルギー、2023年)。
ノルウェーは2022年以降、ヨーロッパへのパイプライン・ガスの主要供給国となり、輸出量は2021年の約113億立方mから2023年には122億立方m以上に増加した(NPD、2024年)。しかし、ノルウェーのガス田は既に最大生産能力に近づいており、新たなパイプライン建設には時間と投資が必要で、短期的には不足分を補えない。アルジェリアは、メドガス(スペイン)とトランスメド(イタリア)のパイプラインを経由してヨーロッパにガスを供給しており、量は年間約30~35億立方メートルで安定している。ここでも拡張能力は地質的制約と、新たなガス田の開発に多額の投資が必要なことから制限されている。
南部ガス回廊は、アゼルバイジャンのカスピ海ガス田と、TAP(トランスアドリア海パイプライン)を経由してジョージア、トルコ、ギリシャ・イタリアを結び、ヨーロッパと繋がっている。
— 2021年に年間約100億立方mのフル稼働能力に達した。2022年7月、アゼルバイジャンはEUと、2027年までに輸出量を年間200億立方mに倍増し、更に300億~350億立方mまで拡大する協定を締結した。この回廊は、ロシアやホルムズ海峡に依存しない利点があるが、その能力は欧州の需要やロシアの供給不足に比べると依然限定的だ。
天然ガスの欧州における主要指標TTF(Title Transfer Facility)指数は、2022年に未曾有の変動を経験した。1月には約75ユーロ/MWh(過去の平均の4倍)で始まり、2022年8月には340ユーロ/MWhのピークに達したが、貯蔵施設の満杯、暖冬、産業需要の減少といった要因が重なり、徐々に下落した。2023年には、TTFは35~60ユーロ/MWhの範囲で安定したが、それでも危機前の水準の2~3倍で、欧州の生産コストに恒久的影響を与えている。
電力に関しては、欧州市場の構造が影響を増幅させた。欧州市場では「限界価格設定」メカニズムが採用されており、電力価格はピーク需要時に稼働する限界発電所(通常はガス火力発電所)により決定される。その結果、産業用電力価格は2022~2023年に欧州のいくつかの国で300~400ユーロ/MWhまで上昇した(ユーロスタット、2023年)。これは危機前の平均60~100ユーロ/MWhと比較して大幅な上昇だ。
エネルギー危機の影響を最も受けているのは、エネルギー集約型産業で、エネルギー費用が総生産費用のかなりの割合(通常15~40%)を占めている。欧州鉄鋼業界は、鉄鋼生産量を2021年の1億5200万トンから2023年には1億2900万トンに削減し、生産能力の約15%を失った(WorldSteel、2024年)。一次アルミニウム生産量は、ドイツ、フランス、スペインの多数の電解工場が一時的または恒久的に閉鎖されたことにより、約25%減少した(European Aluminium、2023年)。
化学産業は、ドイツを中心地とし、同国のGDPの3%以上を占めているが、2022年には生産量が12%減少し、2023年には更に8%減少した(VCI、2023年)。特に深刻なのは、窒素肥料の原料となるアンモニアの生産だ。ヨーロッパのほとんどの工場は原料として天然ガスを使用しており、コスト上昇により、ヨーロッパの生産は中東やアメリカに比べて競争力を失っている。多くの肥料メーカーが生産量を削減したり、海外からアンモニアを輸入したりしており、農業サプライチェーンに波及効果をもたらしている。
イタリア、ドイツ、スペインが世界をリードするセラミックス・ガラス産業は、生産工程のエネルギー集約度(窯の温度が1200~1700℃)の高さから壊滅的影響を受けている。イタリアの業界団体(Confindustria Ceramica)は、2022~2023年の期間に、トルコ、中国、インドの生産者に対する競争力が30~40%低下すると予測している(Confindustria Ceramica、2023年)。
エネルギー危機の影響は製造業にとどまらず、インフレを通じて経済全体に波及した。ユーロ圏の総合消費者物価指数は2022年10月に10.6%のピークに達し(ECB、2022年)、単一通貨導入以来の最高水準となった。このインフレのほぼ半分はエネルギー関連要因によるものだったが、食料、輸送、サービスなどの価格上昇といった二次的影響は経済全体に広がった。
家計の購買力低下は、経済的影響だけでなく、政治的、社会的な影響も及ぼし、ロシアへのエネルギー依存モデルを構築・擁護してきた欧州機関や各国の政治エリートに対する不満を煽った。エネルギー分析において、しばしば見落とされがちな社会的結束という側面は、あらゆるレジリエンス戦略の長期的な政治的持続可能性を理解する上で極めて重要だ。脆弱な家計や、最も影響を受けやすい産業部門に対する適切な補償制度がなければ、エネルギー転換の資金調達に必要な合意形成が損なわれる恐れがある。
2023年における欧州と中国の産業用電力費用の差は約5対1だった。欧州と(IRAとシェールガスの恩恵を受けている)アメリカの差は約3.5対1だった。この構造的格差により、欧州製造業の多くの分野が国際比較において競争力が欠如している。
ロシアとイランの二重ショックに対する長期的構造的対応策は、再生可能エネルギーへの移行を加速させて、化石燃料輸入への依存度を低減すること以外にあり得ない。これは理想論的な目標ではなく、国家安全保障のあらゆる面において必要不可欠なことだ。2035年までに欧州が電力の70~80%を再生可能エネルギー源から発電するようになれば、化石燃料の輸入への依存度は2021年と比較して60~70%減少し、エネルギー供給ルートの危機に対する構造的な脆弱性が効果的に解消されると国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は推定している(IRENA、2024年)。
この方向での進展は既に著しい。2023年には、史上初めて再生可能エネルギー源(風力、太陽光、水力)が欧州の電力生産量の44%以上を占め、ドイツ、スペイン、デンマークではピーク時に50%を超えた(Ember、2024年)。EUにおける太陽光発電設備の設置容量は、2023年だけで約56GW増加し、これは過去最大の年間増加量となった。洋上風力発電は、コストが急速に低下しており、2030年までに北欧諸国や沿岸諸国で主要な発電源となる見込みだ。
しかし、再生可能エネルギーへの移行には、依然として部分的にしか解決されていない2つの根本的な問題、すなわち断続性(太陽光発電は日中のみ、風力発電は風がある時のみ発電する)と季節規模のエネルギー貯蔵に対する解決策が必要だ。リチウム・イオン電池は日々の変動を管理するには十分だが、エネルギー需要が最も高く太陽光発電量が最も低い冬季の再生可能エネルギー生産不足を補うには不十分だ。グリーン水素(再生可能電力を用いた水の電気分解により生成される)は、季節的エネルギー貯蔵と高温を必要とする産業プロセスの脱炭素化にとって最も有望な解決策のように見えるが、産業規模での導入には依然多額の投資と技術革新が必要だ。
2022年以降の欧州のエネルギー情勢における最も重要な展開の一つは、低排出で信頼性の高いエネルギー源としての原子力発電の再評価だ。2011年の福島原発事故以降、ベルギー、ドイツ、スイスなど欧州諸国のエネルギー政策を支配していた反原発パラダイムは、エネルギー危機により根本的に覆された。ドイツは、原子力発電所、最後の3基の運転期間を2023年4月まで延長した(その後、物議を醸す決定で、更なる延長の選択肢を放棄した)。ベルギーは2023年に、原子炉の閉鎖を10年間延期すると決定した。通常、国内電力生産の70~75%を賄う56基の原子炉を保有するフランスは、新たに6基のEPR2型原子炉を建設する計画を開始した。
欧州レベルでは、いわゆる小型モジュール式原子炉(SMR)への関心が高まっている。SMRは、従来の大型原子炉に比べて建設コストが低く、建設期間も短い小型のモジュール式原子炉だ。ポーランド、チェコ共和国、ルーマニア、スウェーデンなど、いくつかの欧州諸国は、2030年から2035年までにSMRを建設するための評価プロセスや商業契約を開始している。原子力発電が、安定した信頼性の高い低排出電力供給基盤を提供できるのであれば、欧州のエネルギー・レジリエンス戦略において不可欠な柱になるだろう。
エネルギー効率化による需要削減は、再生可能エネルギーの拡大と並んで、2022年の危機に対する最も迅速に実施された対応策だった。EUにおける天然ガス需要は、2022年に13%、2023年にさらに7%減少し、合計で2021年より約55GMc減少した。この減少は、ロシアからの供給なしで冬を乗り切るために必要な量を上回るものだった(IEA、2024年)。この減少は、個人の行動(建物の暖房を減らす、サーモスタットの設定温度を下げる)、産業対策(ガスを他のエネルギー源に置き換える、生産量を減らす)、および公共政策(啓発活動、建物の改修に対する税制優遇措置)の組み合わせによって達成された。
更なる効率向上の可能性は非常に大きい。欧州の建物の約75%がエネルギー効率が悪いとされているが、これらの建物のエネルギー改修により、暖房用エネルギー消費量を40~60%削減できると推定されている(欧州委員会、2023年)。2022年5月に採択されたREPowerEU計画では、エネルギー転換を加速するために3,000億ユーロが割り当てられ、そのかなりの部分が建物と産業の効率化に充てられている。
今回の危機は、欧州エネルギー体制のインフラ面における脆弱性だけではなく、エネルギー安全保障ガバナンスにおける制度的弱点も浮き彫りにした。エネルギー政策は、これまで各国の専権事項で、欧州レベルでの調整は域内市場の一般原則に限られていた。その結果、各国はそれぞれ異なるエネルギー依存度を抱え、脆弱性のレベルも大きく異なっている。例えば、ドイツはガス輸入の55%をロシアに依存している一方、スペインはLNGターミナルのおかげで、ほぼ完全にエネルギー源を多様化している。
今回の危機への対応は、緊急事態下における協調能力(2022年夏にガス消費量を15%自主的に削減するという欧州の合意は維持された)と、分断されたガバナンス限界の両方を示した。自動的な連帯メカニズム、共有の戦略的貯蔵、LNGの一元的契約といった、本当の共通欧州エネルギー政策は、将来の危機発生時の集団的脆弱性を大幅に軽減できるだろう。国際エネルギー機関(IEA)と同様の権限を持ち、加盟国に対して拘束力を持つ欧州エネルギー機関(EEA)設立案は、欧州大陸の政治議論に再び力強く浮上しており、真剣に検討されるべきだ。
欧州が現在のペースで再生可能エネルギーの拡大を維持し、REPowerEUで概説されているエネルギー効率化計画を実施すれば、2035年までにガス輸入への依存度は年間300GMc(2021年)から年間100GMc未満に低下し、エネルギー供給経路の危機に対する脆弱性の大部分を構造的に解消できる可能性がある。
最初のシナリオでは、欧州は2023年に記録した再生可能エネルギー拡大のペースを維持し、建物の改修プログラムを加速させ、蓄電(バッテリー、水素、揚水発電)に多額の投資を行い、原子力発電容量を維持または拡大する。このシナリオでは、2035年までに、化石燃料は欧州の一次エネルギー構成の30%未満を占めることになる。ガス輸入への依存度は年間80~100 GMcに低下し、その全てがロシア以外の供給源(ノルウェー、アルジェリア、アメリカLNG、アゼルバイジャン)で賄われる。中東の供給経路における危機に対する脆弱性は大幅に軽減され、再生可能エネルギーのコスト低下により、産業用エネルギー費用は、アメリカと同等の競争力を持つようになる。
2番目のシナリオ(現在の傾向に基づくと最も可能性が高いシナリオ)では、欧州は化石燃料への依存度を低減するものの、そのペースは当初の目標より遅くなる。官僚的障害、加盟国間の規制上の対立、新規風力発電所に対する地域住民の反対、送電網投資の遅れなどが移行を遅らせる。ガス輸入への依存度は2035年までに年間150~180 GMcの範囲にとどまり、そのかなりの部分が脆弱な航路(ホルムズ海峡、紅海)を経由して輸送される。欧州は、2022年より対応手段は発達しているものの、依然エネルギー危機に繰り返し直面することになる。
3つ目のシナリオでは、移行コスト、インフレ圧力、共通エネルギー政策に反対する民族主義勢力の台頭によって引き起こされる国内政治危機が、欧州のエネルギー政策の分断を招く。各国は代替供給国と二国間協定を締結し(ウクライナでの停戦時にはロシアからの供給を部分的に再開する可能性もある)、欧州の協調体制を放棄する。このシナリオでは、集団的脆弱性は依然高く、供給国に対する欧州の交渉力は大幅に低下する。
2022年から2024年にかけて、欧州は1973年の石油危機以来最も深刻なエネルギーショックに見舞われた。これは、30年以上にわたるロシア・エネルギー供給依存により生じた構造的脆弱性の下で起きた。だが供給源の多様化、LNGインフラの建設加速、需要削減、再生可能エネルギーの拡大といった迅速な対応により、多くの人が懸念していた大規模な配給制や産業停電を回避できた。これは決して小さな成果ではなく、欧州経済と諸機関が圧下で迅速に適応できる能力を示したものだ。
だが、急激な衝撃を乗り越えたからといって、構造的問題が解決するわけではない。欧州は、一つの依存(パイプライン経由のロシア産ガス依存)を、部分的に異なる複数の依存(アメリカ産LNG、カタール産LNG、総需要を満たすには不十分な再生可能エネルギー)に置き換えたが、その中にはホルムズ海峡や紅海といった地政学的に脆弱な航路を通るものもある。
アジアやアメリカの企業とのエネルギー費用差は依然大きく、戦略的分野における静かな脱工業化につながるリスクがある。
長期的回復力の可能性は存在し、具体的に達成可能だが、そのためには当然とは考えられないいくつかの要素が揃う必要がある。すなわち現在のペースより高い割合で再生可能エネルギーへの投資を継続すること、季節的蓄電問題を解決すること、原子力発電能力を維持すること、本物の共通政策に向けた欧州のエネルギーガバナンス改革と、移行を政治的に持続させるために必要な社会的結束を維持する家計や脆弱な部門への支援体制だ。
根本的な問題は、ヨーロッパがエネルギー危機を乗り越えられるかどうかではない。乗り越えられるのは確実だ。問題は、産業基盤と国際経済体制における地位を永久に失うことなく乗り越えられるかどうかだ。答えは、今後3年から5年の間に欧州機関と各国政府が下さなければならない政策選択にかかっている。歴史は、この好機をいつまでも維持してくれるとは限らない。
記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2026/05/06/the-energy-smash-how-ukrainian-and-iranian-conflicts-have-reshaped-the-european-future/
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東京新聞 夕刊 一面
米イラン 海峡で攻撃応酬
トランプ氏「停戦継続」










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