Brian Berletic
2025年8月20日
New Eastern Outlook
最近アラスカで行われたアメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談、それに続くワシントンでの欧州首脳、ウクライナ大統領、トランプ大統領の会談を受けて、予想通りのアメリカの政策が形になり始めている。
トランプ・欧州・ウクライナ会談:分業と戦略的順序付けの売り込み
今年2月、アメリカのピート・ヘグゼス国防長官が、ウクライナ防衛連絡グループで欧州首脳に
語った通り、アメリカがアジア太平洋地域に軸足を移し、そこでの中国封じ込めを優先できるようにすべく、NATOの支出、兵器生産、ウクライナへの物資支援の移転を増やすことで、ウクライナにおけるロシアとのワシントンの代理戦争を引き継ぐ任務を欧州は負っている。
ヘグゼス長官は、紛争は終結ではなく凍結されると明言し、凍結を確実にするために欧州および非欧州部隊(米軍ではない)がウクライナに派遣され、その後欧州がウクライナ軍の再編と再建を行うと述べた。
ヘグゼス長官が説明した通り「不足という現実」により、アメリカはロシアと中国、二つの大国間の紛争に、同時に、直接的かつ全面的には関与できず、アメリカが別の紛争を追求する間、一つの紛争を凍結する必要がある。
アメリカがウクライナでロシアと対峙したのと同じやり方で、アジア太平洋地域において中国と対峙しようとしている事実自体が、どちらの国(あるいはいかなる国)とも真の平和を築くことへの関心が全くないことを示している。中国を早期に封じ込められれば、後にロシアと対峙し、封じ込められるとアメリカは考えている。
元トランプ政権高官のウェス・ミッチェルによるマラソン・イニシアチブの2024年
論文「戦略的順序付け再考」は、次のように明確に述べている。
順序付けの考え方は、単純に、ある敵に資源を集中させて、その破壊力を弱め、その後別の敵に目を向け、その敵を阻止するか打ち負かすというものだ。
ミッチェルはまた、アメリカの「欧州とインド太平洋地域の同盟国」に関して「分業」という言葉を使ったが 、ヘグゼス長官は今年初めにブリュッセルでこの言葉をそのまま繰り返し、「分業」と「戦略的順序付け」がワシントンが追求している連携政策であることを明らかにした。
ロシアと台頭しつつある多極世界にとって究極の試練は、それぞれの国を狙うアメリカの計画に耐えられるかどうかだけでなく、この戦略をワシントンに逆らって転用できるかどうかにかかっている。
第一原則:アメリカ優位性の追求
冷戦終結にあたり、1992年の
記事「アメリカの戦略計画はライバル国の出現阻止を求める」でニューヨーク・タイムズが報じた通り、アメリカは「建設的な行動と、いかなる国家または国家集団もアメリカの優位性に挑戦するのを抑止できる十分な軍事力により、その地位を永続させることが可能な一つの超大国に支配される世界」を作ろうとした。
同じ記事で、今日では「多極主義」と呼ばれている「集団的国際主義」をワシントンが拒否していることにも言及している。
1990年代も現在も、ロシアと中国を封じ込めようとするアメリカの野望の原動力となっているのは、正当な国家安全保障上の懸念ではなく、アメリカ自身が決して他国によるそのような行為を容認しない方法での、両国の国境内および国境沿いの海外におけるアメリカ「権益」の保護だ。
アメリカの「戦略的シーケンシング」は、ロシアと中国だけに限ったものではない。これは、様々な「分業」の実施と相まって、アメリカの優位性に挑戦するあらゆる国を搾取し、弱体化させることを目的としている。
当面の焦点はアジア太平洋地域だが、中東、中南米、アフリカ諸国も戦略的に標的にされている。シリア情勢の不安定化、イランへの執拗な圧力、そして多極化した世界の他の国々において、ロシアや中国と関係を維持する国々(東南アジアのタイやカンボジアなど)を孤立させようとする継続的取り組みは全て、このより大規模な計画の一環だ。
ワシントンの目標は、自国の覇権主義的野望に効果的に対抗できる結束力ある多極同盟の形成を阻止することだ。アメリカは、一国ずつ、あるいは少数の国を一度に排除することで、自国の優位性を維持し、統一戦線の形成を阻止しようとしている。
アメリカ外交政策の統一原則が優位である限り、「平和の追求」は単に、ある地域で後退を修正し、別の地域で強化を図るための時間を稼ぐ手段にすぎない。
ウクライナはアメリカの戦争であり、アメリカだけの戦争だ。
ウクライナ戦争自体は、最近「バイデンの戦争」と表現したり、「ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアとの戦争をほぼ即座に終わらせることができる」とトランプ政権が
主張したりしているにもかかわらず、実際、この戦争はトランプ大統領の
一期目任期を含む複数の大統領政権にわたるアメリカ外交政策の産物だ。
今年初めにニューヨーク・タイムズに掲載された
記事によると、現在ウクライナ軍はアメリカが指揮を執っている。また、2014年以降、アメリカ中央情報局(CIA)がウクライナの情報機関を統制・指揮しているともニューヨーク・タイムズは
報じている。
従って、ウクライナ紛争は、アメリカがそう決定するか、ロシアにそうするよう強制された場合のみ終結できる。
ウクライナ紛争に関するアメリカ外交政策のこうした基本的な第一原則を理解することは、アメリカとその属国が「分業」と「戦略的順序付け」を試みるために使っているプロパガンダをうまく乗り切るためには不可欠だ。
トランプ政権における政策継続
トランプ政権は就任以来、世界的優位性を追求するため、ウクライナでのロシアに対する代理戦争、今年6月に全面戦争にエスカレートしたイランとの対立、中国周辺に沿ったアジア太平洋地域、更には台湾国内におけるアメリカの軍事的存在の継続的拡大など、バイデン前政権から引き継いだあらゆる紛争と対決を継続している。
ロシアに関するアメリカ政策は、2019年にRAND研究所が発表した
論文「ロシアの手を広げさせる:有利な立場からの競争」で詳しく説明されている。
この文書には、「石油輸出の妨害」「天然ガス輸出の削減とパイプライン拡張の妨害」「制裁賦課」といった経済対策が列挙されているが、これらの対策は、アメリカが文書発表当時と、それ以降も、第1次トランプ政権下、その後のバイデン政権下、そして現在トランプ大統領の第2期在任期間中を含め、実施してきたものだ。
RAND論文が挙げた地政学的措置には、第1次トランプ政権下で始まった「ウクライナへの致死的援助の提供」、昨年末、アメリカによるシリア政府転覆に成功したことで明らかになった「シリア反政府勢力への支援強化」、ロシアが今のところ首尾よく
無力化している「ベラルーシでの政権転覆の推進」、そして、トランプ政権下で現在展開されている、ロシアとイランの国境沿いに米軍を配置する可能性がある
99年間領土リースの形で展開されている「南コーカサスの緊張利用」などがある。
これらの政策は、アメリカがウクライナにおけるロシアとの「平和」に関心があるように見せかけながら、ロシア連邦を包囲し、封じ込め、弱体化させ、過度に拡大させようとする継続的な試みであり、最終的にはソ連型の崩壊を招こうとしているのだ。
過去がそうだったように、未来もそうなる
挫折や限界にかかわらず、アメリカが世界各国との建設的協力ではなく、それらの国々に対する優位性を追求し続ける限り、アメリカが「敵」や「脅威」と名付けた国々に対する「和平」提案は、一時停止や再編や再軍備や敵対行為の再開という確立されたパターンを表すもので、本当の政策転換ではない。
最近の例は、シリアに対するアメリカの政権転覆戦争だ。2015年のロシア介入後、戦争は一時中断された。アメリカはこの中断を利用して、シリア国内および周辺地域で代理勢力の再軍備と再編を行い、シリア同盟国であるロシアとイランは、他地域で一連の犠牲を伴う紛争に巻き込まれた。ロシアとイランが十分過剰に展開した時点で、アメリカは2024年後半に戦闘を再開し、迅速かつ確実にシリア政権を転覆させた。
シリア崩壊後、アメリカとイスラエルはイランに対し軍事作戦を遂行し、レバノン、イラク、イエメンに残るイラン同盟国を排除する動きが現在も続いている。
ウクライナにおけるロシアに対するワシントンの代理戦争が一時停止すれば、アメリカの取り組みは他の場所に移るだけだ。
ヘグゼス長官が2月に明らかにしたように、いかなる停戦も、アメリカとトルコがシリアを占領したのと同様、欧州軍によるウクライナ占領を伴うことになる。またウクライナ軍再武装と再編も含まれる(これはワシントンで最近行われた米欧ウクライナ会議でも具体的に言及された)。そして、状況が再びワシントンに有利になった時点で、敵対行為を再開することも含まれる。
これは、ヘグゼス国防長官の「分業」と「戦略的な順序付け」に関する発言が意味するだけでなく、冷戦中、そしてそれ以降ずっとアメリカが行ってきたことでもある。
ブッシュ・ジュニア政権時代、アメリカはコーカサス地域のジョージアに加え、東欧諸国でも政権転覆を謀ったことを
認めている。2003年にはジョージア政府を転覆させ、2014年にはウクライナ政府を転覆させた。ウクライナと同様、アメリカはジョージア軍の再編と強化を開始し、EUの
調査結果によると、2008年にはジョージアがロシア軍に対して短期間で失敗に終わった戦争を開始した。
翌年、オバマ政権下でアメリカは米ロ関係の「
リセット」を模索し、当時のアメリカ国務長官ヒラリー・クリントンはロシアのセルゲイ・ラブロフ外相に新たな関係の象徴として文字通り物理的 「リセット」 ボタンを贈呈した。
現実には、アメリカは単に次の一連の挑発行為を準備するための時間と空間を探していただけで実際そうだった。2011年以降、ロシアの同盟国リビアとシリアを標的にすることを含め、アラブ世界の多くを分裂させ破壊し、前述の2014年のウクライナ政府転覆に成功した他、オバマ政権下で始まり今日まで続くアメリカの「アジアへの回帰」もそうだ。
最近のアメリカの政策は、平和を求めているように見せかけながら次の一連の対立に備えるサイクルの最新のものに思われるだけでなく、アメリカは、ウクライナ紛争の凍結は、まず中国を封じ込めることを優先するための時間と空間をアメリカに与えるためであるとほぼ述べており、そのことは、その後ウクライナでロシアに敵対するためにアメリカが戻ってくることを暗示している。
アメリカが、ウクライナに関する「役割分担」を実施し、ロシアや中国や同盟諸国を打ち負かすための「戦略的順序付け」過程を推進する試みを、ロシアが、どの程度受け入れるか、または妨害するかは時間がたてば分かるだろう。また、多極世界の残りの国々が、ロシアを支援するため十分団結するか、または同様のアメリカの取り組みにより、自国が分裂し混乱させられるのを許すかどうかについても同様だ。
ロシアの計算は、特別軍事作戦(SMO)を最後まで継続し、ウクライナ軍を崩壊させ、2014年以降キーウに置かれたアメリカが据えた傀儡政権を排除できるという自信に基づくのか、それとも欧米諸国全体よりも有効に活用でき、将来より強い立場からアメリカとその代理勢力に対抗できるとモスクワが考える休戦に同意する必要性に基づくものか、いずれかになるだろう。
アメリカが東方へと目を向けるにつれ、ロシアはイランや中国といった同盟国を支援するための「ピボット」用資源を確保しようとしているのかもしれない 。しかし、アメリカとは異なり、ロシアにはワシントンのように、ある紛争に対処しつつ、別の紛争にピボットするために協力できるような膨大な数の属国がない。
多極世界の将来は、アメリカの侵略、強制、占領から自国を守るために多極諸国が互いに協力するのと同じくらい、アメリカによる政治的占領と搾取を防ぐため各国を支援することにかかっているのかもしれない。
ロシアと台頭する多極化世界にとって究極の試練は、それぞれの国を狙うアメリカの計画に耐えられるかどうかだけでなく、この戦略をワシントンに転用できるかどうかにかかっている。もしロシアがウクライナにおけるSMOを決定的に終結させ、同時に中国やイランなどの国々との同盟関係を強化できれば「分業体制」を無意味にできるだろう。
同様に、中国がこの期間を利用して地域的影響力を強化し、欧米諸国以外の国々との結びつきを深められれば、アジア太平洋地域への軸足の転換がそれほど効果的でなくなることにアメリカは気づくだろう。
現在の地政学的情勢は、まるで地政学的チェスゲームのような、一か八かの勝負を挑むゲームだ。アメリカはライバルを一人ずつ追い詰められると確信しているが、多極化世界が協調して王手を仕掛ければ、このゲームは永久に終結する可能性がある。成功とは、世界的な勢力バランスの中で、平和と安定と繁栄を特徴とする世界を実現することだ。失敗とは、我々共通の未来を、一世紀にもわた破壊しようとしてきたアメリカ国内の少数の特別権益利団体に手渡すことだ。
Brian Berleticはバンコクを拠点とする地政学研究者、作家。
記事原文のurl:
https://journal-neo.su/2025/08/20/trump-europe-ukraine-meeting-selling-division-of-labor-and-strategic-sequencing/----------
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