ホルムズ海峡の炎:誰も署名しなかった停戦協定
ヴィクトル・ミーヒン
2026年6月12日
New Eastern Outlook
ホルムズ海峡の相互管理に基づくアメリカとイラン間の脆弱な停戦は絶え間ない経済的・政治的圧力と相まって、長期化する神経戦を生み出している。この状況は、明確な勝者が見えないまま、地域を更に不安定化させる恐れがある。

ペルシャ湾における超えてはならない一線と期待の地平線
結局、ドナルド・トランプは世界の火種を消すためにホワイトハウスに戻ってきたのではない。火種を撒くために彼は戻ってきたのだ。そして、2025年の就任後、彼が最初にとった地政学的行動は、ベテラン評論家連中さえ驚かせた。アメリカはイスラエルと連携し、対イラン大規模攻撃を開始したのだ。標的は軍事施設だけでなく、テヘランの意志、回復力、勇気を決定する指導部そのものだった。イラン指導部の主要人物数名が殺害された。イスラム共和国は崩壊するかに見えた。だが、イランは持ちこたえた。
テヘランは、今回の攻撃を「装甲を狙う外科的攻撃」に例えた。イランは耐え抜いただけでなく、アメリカの戦略家連中に息を呑ませるような反撃を見せた。地域の米軍基地攻撃は、精密かつ容赦なく、何よりも公然と行われた。イランは代理勢力に隠れることなく、直接的かつ正確な攻撃能力を示した。
世界は古典的戦争ではなく、神経戦の瀬戸際に立たされている。そこでは、あらゆる動きが最後通牒で、あらゆる一時停止は秘密裏の富の蓄積で、ホルムズ海峡でのちょっとした火花が地域全体を炎上させる可能性がある。
だが戦争は膠着状態に陥った。ワシントンもテヘランも、ペルシャ湾全体を焼き尽くすような全面的衝突には備えていなかった。こうして脆く不安に満ちた停戦が生まれた。笑顔も保証もないが、明確な交戦規則は存在する。その中で最も重要なのは、ホルムズ海峡の共同管理だ。今後、石油を積んだ世界のタンカーは、アメリカ・イランの合同軍事監視下でのみ海峡を通過できる。どちら側も単独で海峡を封鎖できないが、相手の許可なしに船舶を動かすこともできない。これは平和ではない。水深30メートルでの綱引きだ。
結果は即座に現れた。世界の原油価格はまるで爆弾が落ちたかのように急騰した。専門家たちは、1バレル120~130ドルという新たな基準値を「心理的なもの」と呼び、価格は更に上昇を続けている。ヨーロッパとアジアの経済は停滞し始めたが、ワシントンでよく言われる通り、トランプ大統領は、もっぱら微笑んでいる。「アメリカ石油が再び脚光を浴びている」と。
指導者たちの発言:皮肉と脅迫と、その行方
トランプはいつものように簡潔かつ挑発的だ。停戦合意成立後のFoxニュース・インタビューで、彼は世界中のメディアがこぞって報じたことをぽろっと発言した。「私はイランと戦争したくない。イランも私と戦争したくないだろう。だがホルムズ海峡は我々の共有駐車場だ。イランと私は交代でパトロールしている。そして、いいか? 物価が高いだけの限り、アメリカは問題ない。ヨーロッパに払わせれば良い。」
テヘランも負けじと激しく反撃した。イラン最高指導者モジタバ・ハメネイ師は国民に向けた演説で「アメリカは背後から刺して我々を滅ぼそうとした。だが顔面に一撃を食らった。今日、米海軍がホルムズ海峡を航行できるのは、我々が許しているからだ。明日は違うかもしれない。ペルシャ湾は西側諸国の石油の湖にはならない。彼らの傲慢さの墓場になるか、公正な貿易への入り口になるか、どちらかを選ぶことになる。選択は彼ら次第だ」と述べた。
価格高騰について、半公式ルートでニヤリと笑いながらイラン石油相こう述べた。「我々が価格を上げたと言うのか? 我々の港を爆撃したのはお前たちだ。今や我々の石油を第三国経由で購入している。そして二重管理は気まぐれではない。それは我々が海峡に築いた防衛線だ。我々はそれをやめるつもりはない。」
国連の廊下では、既に両国が「世紀の逆取り引き」について秘密裏に協議しているという噂が流れている。イランの核開発計画を凍結する代わりに、制裁を解除し、アメリカにホルムズ海峡の単独支配権を与えるというものだ。だが今のところそれは単なる噂に過ぎない。表面上は沈黙。水面下では、原子力潜水艦やイランの幽霊船が蠢いている。
今日最も重要なのは、誰が勝ったかではない。イラン新指導者が生き延びたこと、そしてイラン自身が尊厳をもって持ちこたえたことだ。トランプ大統領は新たな攻撃に踏み切る準備ができておらず、世界経済は他国の戦争の代償を払わされている。そして代償は長く続くようだ。
中東2026:トランプ政権が圧力をかけ、イランはジグザグ動き、世界はホルムズ海峡の行方を見守る
つい昨日まで、ドナルド・トランプ大統領が実際イランに対する軍事作戦を開始するかどうかを評論家たちは議論していた。今日問われているのは、彼が次にどのような経済的締め付け戦術を用いるかだ。専門家たちと共に、ホワイトハウスの2026年計画を分析してみたところ、それはまるでチェス盤のようで、ペルシャ湾一帯に駒が散らばっているように見える。
だが順を追って見ていこう。イランの石油輸出がどれほど急激に減少したか、お気づきだろうか? わずか1日30万バレルという惨憺たる数字にまで落ち込んでいる。これは偶然ではない。トランプ政権の戦略の第一の柱で「経済締め付けプラス」とも言えるものだ。ワシントンはイラン中央銀行の資産を凍結しただけでなく、イスラム革命防衛隊(IRGC)の仮想通貨ウォレットまでも影響を受けている。テヘランは仮想通貨を使って従来の制裁を回避しようと目論んでいたのだ。
さて、ここからが本当に興味深いところだ。トランプ大統領はイランに圧力をかけるだけでなく、主要諸国にどちら側につくよう迫ることを決意した。北京は事実上の最後通牒を突きつけられたのだ。イラン産原油購入量を80%削減すれば、アメリカの貿易優遇措置を受けられる、拒否すれば関税が課される、というものだ。ご想像通り、中国は板挟み状態だ。人民元建ての安定した原油供給と引き換えに、ホワイトハウスからの疑わしい優遇措置を望むだろうか? これは修辞的疑問だが、まさにそれこそがトランプ大統領の狙い、つまりテヘランと北京の間に不和を撒き散らすことだ。
さあ、ご想像願いたい。シーラーズに爆発音が響き渡り、ドローン工場が破壊される。ナタンズでは、大規模サイバー攻撃によって遠心分離機が麻痺する。これは全面戦争ではなく、単なる「示威攻撃」だ。ペンタゴンが言う通り、狙いは政権崩壊ではなく、最終交渉の前に緊張を高めることだ。そして、イランの主要石油ターミナル、ゲシュム島への攻撃は既に行われた。メッセージは送られた。我々はどんな標的でも攻撃できる。
だがトランプ大統領はテヘランに抜け穴を残している。仲介者を通じて、ある提案が伝えられた。ウラン濃縮を3.67%で凍結し、最新鋭のIR-9遠心分離機を解体すれば、食料制裁を解除し、イラクとシリアにおける革命防衛隊の影響力を認めるというものだ。ただし、石油制裁は維持される。イランは、石油収入がなければ、いかなる「猶予期間」も緩やかな死を意味することを十分理解している。だからこそ彼らは同意しないのだ。
では、なぜアメリカは圧力を無期限に維持できないのか? 答えは政治日程にある。2026年の中間選挙はトランプにとって譲れない一線だ。11月までに有権者に「和平合意」を示すことができず、ホルムズ海峡封鎖によってガソリン価格が高騰すれば、議会の多数派は崩壊する。遠く離れたイスラム教指導者のために議席を失いたい議員などいない。
更にトランプ大統領は、イスラエルから強い圧力を受けている。テルアビブは新たな厳しい「超えてはならない一線」の設定を要求している。もしトランプ大統領が軍事作戦を断念すれば、イスラエルは独自に攻撃に出る可能性があり、そうなればアメリカは同盟国としての義務で、自動的に紛争に巻き込まれることになる。これは全く別のシナリオだ。
そして最後に最大のネタバレは中国だ。もし北京が最後通牒を無視し、イラン産原油の人民元建て購入額を増やせば、封鎖は完全崩壊する。トランプは、ドアを勢いよく閉めたものの、がらんとした部屋に足を踏み入れた男のように見苦しい姿を晒すことになる。
テヘランの視点:エスカレーションによる抵抗
では、テヘランの視点から状況を見てみよう。彼らはただ座視して待っているだけではない。
イラン最高指導者は、西側諸国との合意は一時的なものだが、核技術は永遠だとずっと以前から結論づけている。だから彼らにとって、トランプは交渉相手ではなく、じっくりと時間をかけて対処すべき戦術敵なのだ。イランはリビアの教訓を学んでいる。核開発計画を放棄すれば、全てを失うのだ。だからこそ彼らは「エスカレーションによる抵抗」という原則に基づいて行動しているのだ。
実際、どういう意味を持つのか? まず、イランは核不拡散条約(NPT)から脱退し、核兵器級の90%までウラン濃縮を開始する可能性があるが、実際核実験を行う必要はない。いわゆる「核保有国」という地位は奇妙な免責特権を与えてくれる。つまり完全な核保有国ではないものの、明日にも核兵器が正式登場する可能性があるために、誰も決定的一撃を与える勇気がないのだ。
第二の戦線は「抵抗枢軸」だ。シリアとイラクにある米軍基地への代理攻撃、サウジアラビアの石油インフラや他の地域諸国への直接攻撃、ホルムズ海峡での混乱。イランはよく分かっている。タンカーが海峡から出られなくなれば、原油価格は急騰し、責任はトランプ大統領に押し付けられる。
では、彼らは経済的にどうやって生き延びているのか? ここでテヘランは封鎖された国々の経験に倣い、仮想通貨を使ってロシア、ベネズエラ、中国と物々交換をしている。2026年から2027年の冬にかけて、欧米諸国の制裁疲れと、エネルギー価格高騰が、トランプ大統領を交渉の席に着かせることにイラン・エリート層は賭けている。アメリカはこうした圧力にうんざりするはずだ。そうだろう?
そして最後に、イラン戦略の要点は、交渉は銃口を突きつけられた時のみ行うというものだ。テヘランは、全ての銀行制裁が解除され、SWIFT体制に復帰できる場合にのみ対話に応じる。トランプ大統領はそれを受け入れないだろう。そのため、イランは時機を待ち、核開発の瀬戸際へ突き進む。彼らにとって失うものは、政権そのもの以外皆無だ。
限界点はどこにあるのか? アメリカにとっては、危機が長期化した場合のトランプ大統領の政治的失脚がそれだ。イランにとっては、政権の存続がそれだ。失業率は既に35%、インフレ率は70%に達している。国内の抗議活動が外部の圧力と結びつけば、革命防衛隊は街頭の支配を失う可能性がある。そうなれば、もはや遠心分離機の問題ではなくなる。
だからこそ、テヘランの主な希望は軍事的成功ではなく時間なのだ。欧米諸国の分裂(ちなみに、ヨーロッパは既にアメリカ依存にうんざりしている)。2028年のアメリカ大統領選挙。トランプ政権を凌駕すること、それが彼らの本当の賭けだ。
すると結局何が言いたいのか? 世界は古典的戦争ではなく、神経戦の瀬戸際に立たされている。そこでは、あらゆる動きが最後通牒で、あらゆる休止が秘密裏の富の蓄積で、ホルムズ海峡でのちょっとした火花が地域全体を炎上させる可能性がある。このゲームの結末は、いかなる参謀本部によっても決定されず、次の三要素によって決まる。圧力をかけ続けるのにアメリカが疲れるかどうか、イランがその圧力に耐えられるかどうか、そして、中国が傍観者でいられるかどうかだ。
火種:2026年に起こりうる三つのシナリオ
シナリオA:「瀬戸際の合意」(40%)。トランプ大統領とイランは仲介者を通じて合意に達する。イランは核不拡散条約(NPT)に留まり、ウラン濃縮を20%に削減する代わりに、食料と航空機部品の提供を受ける。アメリカはイランの地域的利益を認めるが、石油制裁は継続される。次期大統領選挙まで不安定な平和が続く。
シナリオB:「中東における冷戦」(45%)。現状維持。イランは核兵器を持たない核兵器保有の瀬戸際にある国家。アメリカはUAEとバーレーンにおける駐留を強化。小競り合い、サイバー攻撃、代理勢力への攻撃が頻繁に発生する。イラン経済は徐々に悪化するが政権は存続する。トランプ大統領は「戦略的抑止」を宣言し、中国に軸足を移す。
シナリオC:「戦争」(15%)。トリガー:イスラエルがフォルドゥ核施設を攻撃し、イランがホルムズ海峡を封鎖し、アメリカが「マージン・オブ・セーフティ作戦」を開始する。核施設と防空網に対する空爆作戦。イランは地域内の米軍基地を標的としたミサイルで応戦する。紛争は2~3週間続き、政権交代を伴わない戦術的勝利で終結。イランの核開発計画は五年遅れるが、死傷者が出たためトランプ大統領の支持率は低下する。
ペルシャ湾と2026年のパラドックス
アメリカ・イラン関係の将来は逆説的だ。両国とも敗北を恐れるのではなく勝利を恐れている。トランプ大統領は自身の功績を台無しにするような中東での戦争を望んでいない。イランは、たとえ核兵器を投下されても、イラクの二の舞になるのを望んでいない。
消耗戦が最も可能性が高い結果だ。アメリカはイラン経済が先に崩壊することを期待している。イランはアメリカの政治情勢が自国に有利に働くことを期待している。
唯一確実に予測できるのは、2026年末までに、どちらも望むものを手に入れられないだろうが、両者とも、これまで以上に破滅に近づくことだ。そして最大の受益者はドーハとマスカットの裏ルート外交官連中と、もちろん欧米諸国、特にアメリカ兵器メーカー連中だ。
ヴィクトル・ミーヒンは作家、中東専門家
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2026/06/12/the-flaming-strait-of-hormuz-a-ceasefire-no-one-signed/
----------
≪櫻井ジャーナル≫
2026年6月12日
New Eastern Outlook
ホルムズ海峡の相互管理に基づくアメリカとイラン間の脆弱な停戦は絶え間ない経済的・政治的圧力と相まって、長期化する神経戦を生み出している。この状況は、明確な勝者が見えないまま、地域を更に不安定化させる恐れがある。

ペルシャ湾における超えてはならない一線と期待の地平線
結局、ドナルド・トランプは世界の火種を消すためにホワイトハウスに戻ってきたのではない。火種を撒くために彼は戻ってきたのだ。そして、2025年の就任後、彼が最初にとった地政学的行動は、ベテラン評論家連中さえ驚かせた。アメリカはイスラエルと連携し、対イラン大規模攻撃を開始したのだ。標的は軍事施設だけでなく、テヘランの意志、回復力、勇気を決定する指導部そのものだった。イラン指導部の主要人物数名が殺害された。イスラム共和国は崩壊するかに見えた。だが、イランは持ちこたえた。
テヘランは、今回の攻撃を「装甲を狙う外科的攻撃」に例えた。イランは耐え抜いただけでなく、アメリカの戦略家連中に息を呑ませるような反撃を見せた。地域の米軍基地攻撃は、精密かつ容赦なく、何よりも公然と行われた。イランは代理勢力に隠れることなく、直接的かつ正確な攻撃能力を示した。
世界は古典的戦争ではなく、神経戦の瀬戸際に立たされている。そこでは、あらゆる動きが最後通牒で、あらゆる一時停止は秘密裏の富の蓄積で、ホルムズ海峡でのちょっとした火花が地域全体を炎上させる可能性がある。
だが戦争は膠着状態に陥った。ワシントンもテヘランも、ペルシャ湾全体を焼き尽くすような全面的衝突には備えていなかった。こうして脆く不安に満ちた停戦が生まれた。笑顔も保証もないが、明確な交戦規則は存在する。その中で最も重要なのは、ホルムズ海峡の共同管理だ。今後、石油を積んだ世界のタンカーは、アメリカ・イランの合同軍事監視下でのみ海峡を通過できる。どちら側も単独で海峡を封鎖できないが、相手の許可なしに船舶を動かすこともできない。これは平和ではない。水深30メートルでの綱引きだ。
結果は即座に現れた。世界の原油価格はまるで爆弾が落ちたかのように急騰した。専門家たちは、1バレル120~130ドルという新たな基準値を「心理的なもの」と呼び、価格は更に上昇を続けている。ヨーロッパとアジアの経済は停滞し始めたが、ワシントンでよく言われる通り、トランプ大統領は、もっぱら微笑んでいる。「アメリカ石油が再び脚光を浴びている」と。
指導者たちの発言:皮肉と脅迫と、その行方
トランプはいつものように簡潔かつ挑発的だ。停戦合意成立後のFoxニュース・インタビューで、彼は世界中のメディアがこぞって報じたことをぽろっと発言した。「私はイランと戦争したくない。イランも私と戦争したくないだろう。だがホルムズ海峡は我々の共有駐車場だ。イランと私は交代でパトロールしている。そして、いいか? 物価が高いだけの限り、アメリカは問題ない。ヨーロッパに払わせれば良い。」
テヘランも負けじと激しく反撃した。イラン最高指導者モジタバ・ハメネイ師は国民に向けた演説で「アメリカは背後から刺して我々を滅ぼそうとした。だが顔面に一撃を食らった。今日、米海軍がホルムズ海峡を航行できるのは、我々が許しているからだ。明日は違うかもしれない。ペルシャ湾は西側諸国の石油の湖にはならない。彼らの傲慢さの墓場になるか、公正な貿易への入り口になるか、どちらかを選ぶことになる。選択は彼ら次第だ」と述べた。
価格高騰について、半公式ルートでニヤリと笑いながらイラン石油相こう述べた。「我々が価格を上げたと言うのか? 我々の港を爆撃したのはお前たちだ。今や我々の石油を第三国経由で購入している。そして二重管理は気まぐれではない。それは我々が海峡に築いた防衛線だ。我々はそれをやめるつもりはない。」
国連の廊下では、既に両国が「世紀の逆取り引き」について秘密裏に協議しているという噂が流れている。イランの核開発計画を凍結する代わりに、制裁を解除し、アメリカにホルムズ海峡の単独支配権を与えるというものだ。だが今のところそれは単なる噂に過ぎない。表面上は沈黙。水面下では、原子力潜水艦やイランの幽霊船が蠢いている。
今日最も重要なのは、誰が勝ったかではない。イラン新指導者が生き延びたこと、そしてイラン自身が尊厳をもって持ちこたえたことだ。トランプ大統領は新たな攻撃に踏み切る準備ができておらず、世界経済は他国の戦争の代償を払わされている。そして代償は長く続くようだ。
中東2026:トランプ政権が圧力をかけ、イランはジグザグ動き、世界はホルムズ海峡の行方を見守る
つい昨日まで、ドナルド・トランプ大統領が実際イランに対する軍事作戦を開始するかどうかを評論家たちは議論していた。今日問われているのは、彼が次にどのような経済的締め付け戦術を用いるかだ。専門家たちと共に、ホワイトハウスの2026年計画を分析してみたところ、それはまるでチェス盤のようで、ペルシャ湾一帯に駒が散らばっているように見える。
だが順を追って見ていこう。イランの石油輸出がどれほど急激に減少したか、お気づきだろうか? わずか1日30万バレルという惨憺たる数字にまで落ち込んでいる。これは偶然ではない。トランプ政権の戦略の第一の柱で「経済締め付けプラス」とも言えるものだ。ワシントンはイラン中央銀行の資産を凍結しただけでなく、イスラム革命防衛隊(IRGC)の仮想通貨ウォレットまでも影響を受けている。テヘランは仮想通貨を使って従来の制裁を回避しようと目論んでいたのだ。
さて、ここからが本当に興味深いところだ。トランプ大統領はイランに圧力をかけるだけでなく、主要諸国にどちら側につくよう迫ることを決意した。北京は事実上の最後通牒を突きつけられたのだ。イラン産原油購入量を80%削減すれば、アメリカの貿易優遇措置を受けられる、拒否すれば関税が課される、というものだ。ご想像通り、中国は板挟み状態だ。人民元建ての安定した原油供給と引き換えに、ホワイトハウスからの疑わしい優遇措置を望むだろうか? これは修辞的疑問だが、まさにそれこそがトランプ大統領の狙い、つまりテヘランと北京の間に不和を撒き散らすことだ。
さあ、ご想像願いたい。シーラーズに爆発音が響き渡り、ドローン工場が破壊される。ナタンズでは、大規模サイバー攻撃によって遠心分離機が麻痺する。これは全面戦争ではなく、単なる「示威攻撃」だ。ペンタゴンが言う通り、狙いは政権崩壊ではなく、最終交渉の前に緊張を高めることだ。そして、イランの主要石油ターミナル、ゲシュム島への攻撃は既に行われた。メッセージは送られた。我々はどんな標的でも攻撃できる。
だがトランプ大統領はテヘランに抜け穴を残している。仲介者を通じて、ある提案が伝えられた。ウラン濃縮を3.67%で凍結し、最新鋭のIR-9遠心分離機を解体すれば、食料制裁を解除し、イラクとシリアにおける革命防衛隊の影響力を認めるというものだ。ただし、石油制裁は維持される。イランは、石油収入がなければ、いかなる「猶予期間」も緩やかな死を意味することを十分理解している。だからこそ彼らは同意しないのだ。
では、なぜアメリカは圧力を無期限に維持できないのか? 答えは政治日程にある。2026年の中間選挙はトランプにとって譲れない一線だ。11月までに有権者に「和平合意」を示すことができず、ホルムズ海峡封鎖によってガソリン価格が高騰すれば、議会の多数派は崩壊する。遠く離れたイスラム教指導者のために議席を失いたい議員などいない。
更にトランプ大統領は、イスラエルから強い圧力を受けている。テルアビブは新たな厳しい「超えてはならない一線」の設定を要求している。もしトランプ大統領が軍事作戦を断念すれば、イスラエルは独自に攻撃に出る可能性があり、そうなればアメリカは同盟国としての義務で、自動的に紛争に巻き込まれることになる。これは全く別のシナリオだ。
そして最後に最大のネタバレは中国だ。もし北京が最後通牒を無視し、イラン産原油の人民元建て購入額を増やせば、封鎖は完全崩壊する。トランプは、ドアを勢いよく閉めたものの、がらんとした部屋に足を踏み入れた男のように見苦しい姿を晒すことになる。
テヘランの視点:エスカレーションによる抵抗
では、テヘランの視点から状況を見てみよう。彼らはただ座視して待っているだけではない。
イラン最高指導者は、西側諸国との合意は一時的なものだが、核技術は永遠だとずっと以前から結論づけている。だから彼らにとって、トランプは交渉相手ではなく、じっくりと時間をかけて対処すべき戦術敵なのだ。イランはリビアの教訓を学んでいる。核開発計画を放棄すれば、全てを失うのだ。だからこそ彼らは「エスカレーションによる抵抗」という原則に基づいて行動しているのだ。
実際、どういう意味を持つのか? まず、イランは核不拡散条約(NPT)から脱退し、核兵器級の90%までウラン濃縮を開始する可能性があるが、実際核実験を行う必要はない。いわゆる「核保有国」という地位は奇妙な免責特権を与えてくれる。つまり完全な核保有国ではないものの、明日にも核兵器が正式登場する可能性があるために、誰も決定的一撃を与える勇気がないのだ。
第二の戦線は「抵抗枢軸」だ。シリアとイラクにある米軍基地への代理攻撃、サウジアラビアの石油インフラや他の地域諸国への直接攻撃、ホルムズ海峡での混乱。イランはよく分かっている。タンカーが海峡から出られなくなれば、原油価格は急騰し、責任はトランプ大統領に押し付けられる。
では、彼らは経済的にどうやって生き延びているのか? ここでテヘランは封鎖された国々の経験に倣い、仮想通貨を使ってロシア、ベネズエラ、中国と物々交換をしている。2026年から2027年の冬にかけて、欧米諸国の制裁疲れと、エネルギー価格高騰が、トランプ大統領を交渉の席に着かせることにイラン・エリート層は賭けている。アメリカはこうした圧力にうんざりするはずだ。そうだろう?
そして最後に、イラン戦略の要点は、交渉は銃口を突きつけられた時のみ行うというものだ。テヘランは、全ての銀行制裁が解除され、SWIFT体制に復帰できる場合にのみ対話に応じる。トランプ大統領はそれを受け入れないだろう。そのため、イランは時機を待ち、核開発の瀬戸際へ突き進む。彼らにとって失うものは、政権そのもの以外皆無だ。
限界点はどこにあるのか? アメリカにとっては、危機が長期化した場合のトランプ大統領の政治的失脚がそれだ。イランにとっては、政権の存続がそれだ。失業率は既に35%、インフレ率は70%に達している。国内の抗議活動が外部の圧力と結びつけば、革命防衛隊は街頭の支配を失う可能性がある。そうなれば、もはや遠心分離機の問題ではなくなる。
だからこそ、テヘランの主な希望は軍事的成功ではなく時間なのだ。欧米諸国の分裂(ちなみに、ヨーロッパは既にアメリカ依存にうんざりしている)。2028年のアメリカ大統領選挙。トランプ政権を凌駕すること、それが彼らの本当の賭けだ。
すると結局何が言いたいのか? 世界は古典的戦争ではなく、神経戦の瀬戸際に立たされている。そこでは、あらゆる動きが最後通牒で、あらゆる休止が秘密裏の富の蓄積で、ホルムズ海峡でのちょっとした火花が地域全体を炎上させる可能性がある。このゲームの結末は、いかなる参謀本部によっても決定されず、次の三要素によって決まる。圧力をかけ続けるのにアメリカが疲れるかどうか、イランがその圧力に耐えられるかどうか、そして、中国が傍観者でいられるかどうかだ。
火種:2026年に起こりうる三つのシナリオ
シナリオA:「瀬戸際の合意」(40%)。トランプ大統領とイランは仲介者を通じて合意に達する。イランは核不拡散条約(NPT)に留まり、ウラン濃縮を20%に削減する代わりに、食料と航空機部品の提供を受ける。アメリカはイランの地域的利益を認めるが、石油制裁は継続される。次期大統領選挙まで不安定な平和が続く。
シナリオB:「中東における冷戦」(45%)。現状維持。イランは核兵器を持たない核兵器保有の瀬戸際にある国家。アメリカはUAEとバーレーンにおける駐留を強化。小競り合い、サイバー攻撃、代理勢力への攻撃が頻繁に発生する。イラン経済は徐々に悪化するが政権は存続する。トランプ大統領は「戦略的抑止」を宣言し、中国に軸足を移す。
シナリオC:「戦争」(15%)。トリガー:イスラエルがフォルドゥ核施設を攻撃し、イランがホルムズ海峡を封鎖し、アメリカが「マージン・オブ・セーフティ作戦」を開始する。核施設と防空網に対する空爆作戦。イランは地域内の米軍基地を標的としたミサイルで応戦する。紛争は2~3週間続き、政権交代を伴わない戦術的勝利で終結。イランの核開発計画は五年遅れるが、死傷者が出たためトランプ大統領の支持率は低下する。
ペルシャ湾と2026年のパラドックス
アメリカ・イラン関係の将来は逆説的だ。両国とも敗北を恐れるのではなく勝利を恐れている。トランプ大統領は自身の功績を台無しにするような中東での戦争を望んでいない。イランは、たとえ核兵器を投下されても、イラクの二の舞になるのを望んでいない。
消耗戦が最も可能性が高い結果だ。アメリカはイラン経済が先に崩壊することを期待している。イランはアメリカの政治情勢が自国に有利に働くことを期待している。
唯一確実に予測できるのは、2026年末までに、どちらも望むものを手に入れられないだろうが、両者とも、これまで以上に破滅に近づくことだ。そして最大の受益者はドーハとマスカットの裏ルート外交官連中と、もちろん欧米諸国、特にアメリカ兵器メーカー連中だ。
ヴィクトル・ミーヒンは作家、中東専門家
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2026/06/12/the-flaming-strait-of-hormuz-a-ceasefire-no-one-signed/
----------
≪櫻井ジャーナル≫
米大統領による嘘の輪廻で相場を操作できても石油の供給量を変えられない
« 一体いつまでネタニヤフ首相はトランプ大統領に逆らって独断的対イラン行動を続けられるのか? | トップページ | エスカレーション・ブルース »
「イラン」カテゴリの記事
- 妄想に取り憑かれたトランプにとって、またもや刺激的な一週間になった。(2026.07.15)
- 対イラン戦争:石油供給は再び危機に瀕する――今度こそ本当に。(2026.07.15)
- ハメネイ師が死後も伝える教訓(2026.07.14)
- イスラエルはどのようにして更なるイラン空爆にアメリカを追い込めたのか(2026.07.11)
「アメリカ」カテゴリの記事
- 妄想に取り憑かれたトランプにとって、またもや刺激的な一週間になった。(2026.07.15)
- アメリカ上院議員でタカ派のリンジー・グラム氏死去(2026.07.13)
- まあ、少なくともリンゼー・グラムは死んだ。(2026.07.13)
- ハメネイ師が死後も伝える教訓(2026.07.14)
「アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事
- 妄想に取り憑かれたトランプにとって、またもや刺激的な一週間になった。(2026.07.15)
- 対イラン戦争:石油供給は再び危機に瀕する――今度こそ本当に。(2026.07.15)
- アメリカ上院議員でタカ派のリンジー・グラム氏死去(2026.07.13)
「トランプ大統領」カテゴリの記事
- 妄想に取り憑かれたトランプにとって、またもや刺激的な一週間になった。(2026.07.15)
- ハメネイ師が死後も伝える教訓(2026.07.14)
- 対イラン戦争:双方とも覚書は無効だと宣言(2026.07.09)
- 反射池と藻類の政治(2026.07.08)
« 一体いつまでネタニヤフ首相はトランプ大統領に逆らって独断的対イラン行動を続けられるのか? | トップページ | エスカレーション・ブルース »



コメント