« 近隣諸国との紛争で傲慢な首長国は存続できなくなるかもしれない | トップページ | 中国、アメリカ制裁に対抗 »

2026年5月 6日 (水)

対イラン戦争は、トランプの対世界市場兵器にになりつつある



ロレンツォ・マリア・パチーニ
2026年4月29日
Strategic Culture Foundation

 狂人理論は失敗したのではなく進化を遂げたのだ。そして舞台は、もはや国連安全保障理事会ではなく、世界中のあらゆるトレーディング・ルームにあるブルームバーグ端末に移行したのだ。

❗️Telegram Twitter , と VK でご参加願いたい。

お問い合わせ: info@strategic-culture.su
 
狂人理論

 近年、世界中のトレーダーが認識するようになったパターンがある。アメリカ大統領による深夜の声明、アジア市場の下落と、ロンドンで夜明けを迎える前からのエネルギー関連商品の混乱だ。震源地はほぼ常に同じで、ホルムズ海峡とイラン・イスラム共和国との緊張関係だ。

 これらは単なる孤立した事件や、現実の危機に対する場当たり的な反応ではない。本記事で分析するように、これらは構造的に更に複雑なものだ。つまり地政学的脅威が、計画的な金融変動を引き起こす手段へと変貌したのだ。それは立証が困難で、訴訟を起こすことも不可能な、静かな武器でありながら、世界資本に対する再分配効果は壊滅的だ。

 この仕組みを理解するには遙か昔に遡る必要がある。1970年代にアメリカ国務省の廊下で発展した戦略ドクトリン、いわゆる「狂人理論」の誕生から始めなければならない。

 「狂人理論」はドナルド・トランプが提唱したものではない。冷戦期に最も影響力のある戦略家だったヘンリー・キッシンジャーとトーマス・シェリングが提唱したものだ。根底にある考え方は、残酷なまでに単純明快だ。すなわち、アメリカ指導者は、外交的あるいは軍事的譲歩を引き出すために、核兵器の使用を含む非合理的な行動を取るほど狂っていると敵国に信じ込ませるというものだ。

 「狂人理論の価値は、予測不可能性にある。あなたが何でもできると敵が考えているなら、あなたを挑発するのに、もっと慎重になるだろう」と『The Strategy of Conflict(紛争の戦略)』(1960年)でトーマス・シェリングは述べている。

 リチャード・ニクソンはベトナム戦争中にこの戦略を試み、ソ連、ひいては北ベトナムに対し、核兵器使用の拡大も辞さない構えであることを示そうとした。だが「ダックフック作戦」として知られるこの作戦は、完全な失敗に終わった。誰も本気で信じず、信じたとしても、行動を変えるほどの恐怖心はなかったのだ。

 ニクソンが適用した「狂人理論」の構造的問題点は二つあった。一つは指導者の信頼性だ。ニクソンは、敵から、本当に予測不可能な人物ではなく、現実主義的な政治家と見なされていた。もう一つは、制度的抑制と均衡を備えたアメリカの指揮系統が、一方的エスカレーションを誰も信じようとしなかったことだ。この理論は机上の空論に終わった。

 50年後何かが根本的に変わった。しかも、それは大統領の人格だけの問題ではない。
 
工業化された狂気

 ドナルド・トランプの場合、一期目の大統領任期中も、二期目において、更に顕著に、狂人理論は質的変容を遂げた。単に適用されるだけでなく、工業化されたのだ。もはや壮大な外交ゲームで時折用いられる戦術ではなく、大統領の発信におけるオペレーティング・システムになり、ルーチンとサイクルと計算可能な効果を持つようになったのだ。

 ニクソンとの違いは大きい。トランプは外国政府を説得するだけでなく、世界の金融市場をも説得しなければならない。そして彼はそれを驚くべき成功を収めて成し遂げている。市場は政府とは違い、ミリ秒単位で反応する。脅威の信憑性を評価する時間などなく、リスクの現実ではなく、リスクに対する認識に反応するのだ。

 これが変革の核心だ。トランプ、あるいは彼の顧問連中が、狂人理論の真の力は軍事的抑止力にあるのではなく、必要に応じて金融市場の変動を生み出す能力にあることに気づいたのだ。

 2018年から現在までのイランとの主要な危機を分析すると、驚くほど一貫性のある、繰り返し現れるパターンが明らかになる。

 フェーズ1 — トリガー:アメリカの夜にTruth SocialまたはX(旧Twitter)に投稿される記事。終末論的なトーンが特徴的なことが多い。キーワードは「深刻な結果」「最大限の圧力」「完全な殲滅」など様々だが、修辞構造は同一だ。

 フェーズ2 ― 宣言的エスカレーション:今後数日間で、政権当局者によるメッセージを強化する声明が発表される。ペルシャ湾における米海軍の動き。制裁措置の発表または脅迫。

 フェーズ3 ― エネルギー・ショック:原油価格の高騰。ブレント原油とWTI原油は大幅な値上がりを見せる。ホルムズ海峡を通る航路の保険市場で保険料が引き上げられる。

 フェーズ4 — 市場のパニック:先物市場が反応する。株式市場は変動が激しくなる。資金は安全資産(ドル、金、アメリカ債)に移行する。  フェーズ5 ― 突然の逆転:特に理由もなく緊張が緩和される。トランプ大統領が「大きな進展があった」とツイートしたり、イラン当局者が曖昧な声明を発表したり、あるいは単に大統領の沈黙が効果を発揮したりする。市場は回復する。

 これは混沌ではなく、非常に明確なパターンで、金融市場におけるパターンは数十億ドルもの価値があるのだ。

 イランが、この戦略にとって理想的舞台である理由を理解するには、ホルムズ海峡の地政学的重要性を把握する必要がある。アラビア半島とイラン領の間に位置するこの海峡は、最も狭い地点で僅か33キロしかないが、地球上で最も重要なエネルギーのボトルネックとなっている。世界の石油生産量の大部分がこの海峡を通過する。実際の混乱であれ、単に起こりうると認識される混乱であれ、あらゆる混乱は、エネルギー価格に即座に世界的影響を与える。石油タンカーが実際に攻撃される必要はない。保険市場が保険料を引き上げたり、アメリカの空母が進路を変えたりするだけで、連鎖反応が引き起こされる可能性があるのだ。

 ホルムズ海峡は世界経済を左右するスイッチだ。

 因果関係は直接的かつ極めて単純明快だ。海峡における緊張の高まり → 原油価格の上昇 → 産業界と消費者のエネルギー・コストの上昇 → インフレ圧力 → 中央銀行の対応 → 株式市場と債券市場への影響。たった一つのレバーを適切な場面で引くだけで、世界経済体制全体に波及効果をもたらすのだ。

 そして、その手段には名前がある。イランに関するアメリカ大統領の言説だ。
 
富の再分配手段としての変動性

 ここで最も厄介な点に触れる。なぜなら、ボラティリティは中立的なものではなく、むしろ富を再分配するからだ。しかも、大規模かつ迅速に、そして(いつ起きるか知っていれば)非常に大きな利益をもたらす。地政学的緊張の高まりによって原油価格が急騰すると、特定投資家層が不均衡な利益を得る。例えば、原油先物契約の買い持ち、エネルギー企業に投資しているファンド、ショック発生前に株価指数のプットオプションを購入していた投資家や、ヘッジとして金やアメリカ債を保有していた投資家などだ。逆に、輸入エネルギーに依存する消費者や企業、エネルギー貿易赤字を抱える新興国、株式市場に投資している年金基金や、ヘッジ手段を利用できない個人投資家は損失を被る。

 トランプや側近が公式発言に基づいて取り引きを調整していたと言っているわけではない(これは正確に述べておく必要がある)。インサイダー取り引きに該当し、特別な注意を要するため、ここでは取り上げない。我々が指摘したいのは、もっと微妙で、おそらく更に厄介な点だ。それは、このシステムが、パターンを読み解ける者(そして、これまで見てきたように、そのパターンは再現可能で認識しやすいものだ)が、合法的に利益を得られるような構造になっていることだ。

 そして、これはトランプ個人の政策を遙かに超えた金融権力構造に関する疑問を提起する。

 この話の中心には逆説がある。トランプに最も激しく反対するメディア、つまり彼を「予測不可能」「制御不能」「危険」と呼ぶメディアこそが、まさに彼の戦略を最も効果的に増幅させているのだ。

 「トランプが実際イランを攻撃するかもしれない」とか「予測不能なトランプが市場を不安にさせる」といった見出しは、リスク認識を強化するのに役立ち、そのリスク認識こそが戦略の成功に不可欠な要素になる。いわゆる「代替メディア」の大部分は、しばしば無意識のうちに、この物語システムの一部になっている。

 これは、メディアが大統領の行動について沈黙すべきだという意味ではない、もちろんそうではないが、これは世界の情報システムが構造的な罠に陥っている兆候だ。トランプの恫喝を報道すれば、不安定さが増幅され、それを無視することはジャーナリズム的にも民主主義的にも容認できない。そこから抜け出す簡単な道はない。

 解決策があるとすれば、それは表現の仕方を変えることにある。「トランプはイランを脅迫している」ではなく、「大統領の発言が市場を動かすという、これまでに実証されたパターンはこうだ」というように。あらゆる金融操作戦略には、市場の回復力という本質的限界があり、市場が学習すれば、そのメカニズムは効果を失う。トランプのイラン戦略でも、少なくとも部分的に、まさにこのことが起きているのだ。

 トレーダーや金融アナリストの間では、市場の懐疑的な見方の高まりを象徴する略語「TACO」が生まれた。これは「Trump Alwasy Chickens Out トランプはいつも尻込みする」という意味だ。トランプはいつも引き下がる。脅迫、エスカレーション、静かな撤退というパターンが何度か繰り返された後、市場は事前に撤退を織り込み始め、急騰の規模を縮小し、正常化への回帰を加速させた。

 この現象は重要な意味を持つ。戦略的には、脅威が信頼性を維持するためには絶えず進化する必要があることを意味する。つまり、より過激になるか、あるいは脅威をより現実味のあるものにする具体的行動を伴う必要があることだ。経済的には、ボラティリティのサイクルが、時間とともに短縮化し、弱まっていくことを意味する。

 しかし、もう一つ、おそらく最も危険な含意がある。市場がトランプの撤退を前提に賭けてきたとしたら、トランプが、国内政策であれ外交政策であれ、何らかの理由で撤退しないと決めた日に何が起こるのだろう? 市場は、壊滅的な地政学的出来事を誤って価格設定していたことに気づき、それがシステム全体に影響を及ぼす可能性もある。
 
領土征服を伴わない戦争?

 我々と国際紛争の論理における根本的変革に直面している。何世紀にもわたり、戦争は領土、資源、あるいは政治権力を征服するための手段だった。20世紀の大部分において、戦争は抑止力としても機能し、紛争の脅威は戦争の現実化に代わる選択肢として用いられてきた。そして世界経済の金融化に伴い、第三の機能が出現した。戦争(あるいはその脅威)が金融の変動を積極的に管理するための手段として機能するようになったことだ。

 もちろん、これはトランプ特有の現象ではないが、トランプは、その最も顕著な例で、伝統的外交の制約を最も受けない人物だ。彼の場合、個人的経済的利益、検閲のないソーシャルメディアでの発信と外交政策手段の利用が混ざり合い、アメリカ史上未曾有の組み合わせを生み出している。

 この枠組みで、対イラン戦争は、石油価格を変動させるエネルギー要因、金融政策への期待に影響を与えるインフレ要因と、世界の資本の流れを変える金融要因という複数の側面を同時に持つことになる。

 これら全ては、資産運用会社、中央銀行、年金基金や個人投資家にとって何を意味するのだろう?

 第一に、これは金融アナリストのツールキットの定番「地政学的リスク分析」で数年前まで過剰と思われていたレベルのコミュニケーション分析と行動分析を統合する必要があることを意味する。大統領の発信パターンを理解することは、リスク管理の不可欠な要素となり、アナリストにとって一種の日常的課題になっている。第二に、これは中央銀行にとって体系的課題となる。エネルギー・ショックが、実際の不足ではなくコミュニケーションのダイナミクスによって生み出される部分的に人為的なものである場合、中央銀行はどのように対応すべきだろう。大統領のツイートによって引き起こされたエネルギー・インフレに対応して利上げを行うことは、仮想的混乱に対応して実体経済に深刻な損害を与えるリスクがある。第三に、体系的公平性の問題がある。高度な分析モデル、リアルタイムの情報、洗練されたヘッジ・ツールにアクセスできる人々は、こうした変動サイクルを乗り切り、更に利益を得ることさえできる。そのようなアクセスを持たない人々、つまり一般市民、中小企業、新興国は、その影響を相殺できないまま苦しむのだ。この意味で、変動は資本に対する逆進的税金として機能する。  
正しい質問をする

 この分析の最後に生じる最も難しい疑問は、この問題に対する制度的対応策は存在するのか、という点だ。民主主義国家、国際金融機関と、市場自体は、合法で、立証が困難で、主権の行使と構造的に結びついたこの種操作(もしそれが操作であると仮定するなら)に対して、どのように自らを守れるのだろう。

 既に部分的な答えはいくつか存在する。アメリカの証券取り引き委員会(SEC)からイタリアの証券取り引き委員会(Consob)、欧州証券市場監督機構(ESMA)に至るまで、市場規制当局は、影響力の大きい政治的声明に先行する異常な市場変動を調査する権限を有している。理論的には、大統領の通信に関連するインサイダー情報に基づく協調取り引きの証拠が出てきた場合、介入するための法的手段は存在する。だが実際には、行政機関と市場との距離は非常に大きく、こうした調査は極めて複雑で、場合によっては不可能に近い。

 もう一つ、考えられる対応策は構造的なもので、エネルギー源の多様化を通じてホルムズ海峡への世界的依存度を低減することだ。気候変動危機だけでなく、中東の地政学的不安定さによっても加速されている再生可能エネルギーへの移行は、この影響力を弱めるという好ましい副次的効果をもたらす。湾岸石油への依存度が低い世界は、イランに関する言説がエネルギー市場に与える影響力が弱まる世界なのだ。

 だが、これらは長期的な構造的解決策だ。短期的に最も効果的な対応策は依然意識を高めることだ。つまり、その仕組みを理解し、記録し、公に分析することだ。本記事で試みているように、それを可視化することが、その影響を抑制するための第一歩になる。

 長年にわたり、メディアや外交の議題を支配してきたのは「トランプは本当にイランを攻撃するのか?」という問いだった。だが、それは間違った問いだ。いや、むしろ、それは我々が問いかけるべき問いだ。それは認識されるリスクを増幅させ不安定さを引き起こす問いなのだから。

 正しい問いはこうだ。午前3時に、アメリカ大統領がソーシャル・メディアに3行メッセージを投稿した時、あなたのポートフォリオ、年金基金、変動金利住宅ローン、会社の光熱費はいくらになるのだろう? そして、もし我々がその仕組みを正しく理解していれば、答えはこうだ。まさにその瞬間に、市場の反対側にいる誰かが稼いでいる金額と全く同じ価値になるのだ。

 これはトランプ政権のイデオロギー分析ではなく、アメリカ政治指導者のコミュニケーション力(誰が、どのようなスタイルで行使しようとも)が、いかにして世界金融市場の構造と決定的に絡み合ってきたかを構造的に分析するものである。トランプはこの絡み合いをより可視化し、より直接的にし、従来の外交による媒介を少なくした。しかし、この構造的問題は、どの大統領より古く、より根深いものだ。

 狂人理論は失敗したのではなく進化を遂げたのだ。そして舞台はもはや国連安全保障理事会ではなく、世界中のあらゆるトレーディング・ルームにあるブルームバーグ端末に移ったのだ。

記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2026/04/29/how-conflict-with-iran-becoming-trump-weapon-against-global-markets/

----------

 植草一秀の『知られざる真実』
オオカミ少年とトランプ大統領

« 近隣諸国との紛争で傲慢な首長国は存続できなくなるかもしれない | トップページ | 中国、アメリカ制裁に対抗 »

イラン」カテゴリの記事

アメリカ」カテゴリの記事

アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事

シェール・ガス・石油」カテゴリの記事

トランプ大統領」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 近隣諸国との紛争で傲慢な首長国は存続できなくなるかもしれない | トップページ | 中国、アメリカ制裁に対抗 »

お勧め

  • IWJ
    岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal

カテゴリー

ブックマーク

最近のトラックバック

無料ブログはココログ