UAEのOPEC戦略:巧妙な権力闘争か、それとも混乱への道か?
アブダビが石油カルテルから離脱したのは石油の生産量よりも権力闘争が狙いで、リヤドの姿勢を試し、トランプ政権を支援し、湾岸諸国の同盟関係を再構築するためだ
公開日:2026年4月30日 14:46 | 更新日:2026年4月30日 15:50
RT
中東研究センター所長、モスクワ高等経済学院客員講師、ムラド・サディグザデ
Telegram
UAEのOPEC戦略:巧妙な権力闘争か、それとも混乱への道か?
© Getty Images / Buena Vista Images
アラブ首長国連邦は、OPECおよび、広範なOPEC+の枠組みからの離脱を、自国のエネルギー戦略および長期経済計画の一環として提示しようとしているが、そのタイミングと地域情勢から判断すると、これは政治的な行為だと考えられる。
今回の離脱により、UAEはリヤドの権威に挑戦し、自国の戦略的自律性を強化するとともに、ワシントンにエネルギー価格に影響を与える有効な手段を提供し、アメリカとイスラエルが対イラン圧力作戦において中心的役割を担う地域構造に近づいている。これは、数十年にわたり湾岸地域の石油体制を形成してきたサウジアラビア中心の秩序において、アブダビはもはや二次的参加者として振る舞うことを望まないという意思表示だ。
経済的野心
経済的説明が最も分かりやすい。UAEは長年にわたり生産能力を構築してきたが、OPEC+の枠組みでは、それを十分に活用できなかったからだ。アブダビの生産能力は日量約485万バレルと推定されているが、同国は2027年までに日量500万バレルを目標としている。しかし、最近の地域的ショック以前は、日量約340万バレルを生産しており、OPEC+の実質的上限に近い水準にとどまっていた。アブダビは、石油市場で、より大きな役割を果たすための産業、金融、物流の基盤を既に構築していたにもかかわらず、カルテルの共同ルールにより、野心と能力が制限されているかのように活動せざるを得なかったため、この矛盾は益々深刻化していった。
最も慎重な最初のシナリオは、抑制されていた供給を段階的に解除するものだ。このシナリオでは、UAEは輸出経路が安定し、イラン戦争で混乱したインフラが復旧すれば、本格的価格戦争を直ちに引き起こすことなく、日量数十万バレルを市場に供給できる。このような道筋をたどれば、アブダビはOPEC+離脱が本物の商業的利益をもたらすことを実証できると同時に、サウジアラビアとの直接衝突を避け、価格を暴落させることなく軟化させ、リヤドや他の産油国との関係を完全に断ち切らずに新たな自由の限界を試せる。
地域情勢が落ち着き、アジアの需要が堅調に推移すれば、より野心的シナリオが現実のものとなり、UAEは12~18カ月以内に日量420万バレル、あるいは450万バレルまで増産できる可能性がある。最も積極的なシナリオでは、日量500万バレル近くまで増産し、これまでの制約された生産量に比べて日量約130万~150万バレルを追加することになる。市場が逼迫している状況で、こうした増産は価格を安定させ、消費者に安心感をもたらす可能性があるが、市場が軟調な状況では、価格下落圧力を強め、OPEC+の規律を弱め、サウジアラビア主導の抑制策の外で、UAE産原油が市場に流入する政治的象徴性を容認する覚悟があるかどうかをサウジアラビアが決定せざるを得なくなる可能性がある。従って、OPEC+にとっての本当の危険は、原油価格の低下だけでなく、集団的規律が国家の野心よりも強いという確信の喪失にある。
アラブ首長国連邦対サウジアラビア:根深いライバル関係
だが経済的議論は、たとえどれほど重要でも、決定の表面的部分しか説明しておらず、より深い意味は政治的なものだ。アブダビは単に輸出割当量の拡大を求めているわけでも、生産能力と生産限界の間の技術的な不均衡を是正しようとしているわけでもなく、石油を利用して、湾岸諸国での自国の地位を再構築しようとしているのだ。サウジアラビアは何十年にもわたり、OPECを地域における自国指導力の延長線上にあるものとして捉えてきた。そして、生産国を招集し、供給不足を管理し、価格に影響を与えるリヤドの能力は、アラブ世界およびイスラム世界における指導力主張の基盤の一つになってきた。
アラブ首長国連邦の離脱は、この枠組みに挑戦するもので、アブダビは、もはやサウジアラビアが主導権を握り、他国がそれに合わせて野心を調整する体制を受け入れないことを示唆している。これにより、この問題は、湾岸地域の経済・政治秩序を定義する権利を一体誰が持つのかという争いに発展した。
アラブ首長国連邦とサウジアラビアの競争は何年も前から激化しており、その範囲は石油だけにとどまらない。両国は外部の脅威に直面した際は協力関係を維持し、利害が重なる特定分野では協力を続けるかもしれないが、湾岸地域の未来を誰が形成するのか、誰が世界の資本を引きつけるのか、誰が物流を支配するのか、そして誰が東西を結ぶ主要地域拠点となるのかという問題になると、両国は益々ライバル関係に陥る。
サウジアラビアは「ビジョン2030」構想の下、金融、物流、エンターテインメント、投資の中心地へ変貌を遂げようとしている一方、アラブ首長国連邦(UAE)は、ドバイの商業ネットワーク、アブダビの政府系ファンド、UAEの航空会社、港湾、自由貿易地域、投資プラットフォームなどを通じて、既にこれら分野の多くを占めている。両国とも脱石油時代の湾岸経済において不可欠な中心地としての地位を確立しようとしているため、両国の競争は構造的なものとなっている。
石油の役割
サウジアラビアは大規模変革計画の資金調達のために高い原油価格を必要とする一方、アラブ首長国連邦(UAE)は経済多角化が進み、財政収支均衡水準が歴史的に低いため、比較的低価格でも耐えられることが多い。このためアブダビは、価格よりも量を優先する余地が大きく、リヤドは国内変革の資金調達を守るために価格の下限を維持する傾向が強い。
この相違は必ずしも紛争を必然的に引き起こすわけではないが、妥協をより困難にする。両国は、もはや共通の枠組みの中で単に割当量を議論しているのではなく、湾岸諸国の権力のあり方や、経済変革の構想や、石油による富を政治的影響力に転換する方法について、それぞれ異なる立場を主張しているためだ。
UAEが石油を利用してサウジ指導部を弱体化させようとしているとサウジアラビアが判断した場合、対立は表面化する可能性がある。その場合、リヤドは増産、市場シェアの防衛、外交圧力の行使、あるいはアラブ諸国の中でアブダビを孤立させる試みといった対応を取るかもしれない。
リスクは単なる価格競争にとどまらない。湾岸協力会議、アラブ連盟、イスラム外交と、広範な石油体制で、サウジアラビアは依然大きな影響力を持っている。UAEの動きが、イランとの対立局面において、アメリカとイスラエルの戦略に資すると見なされれば、リヤドはアブダビを自国の狭い利益のためにアラブ諸国の合意を不安定化させている国家として描く方法を見いだすかもしれない。
トランプにとっての朗報
アラブ首長国連邦(UAE)のOPEC離脱は、アメリカ、特にドナルド・トランプ大統領政権にとって潜在的な戦略的優位性をもたらす可能性がある。長年、OPECが供給を抑制し、原油価格の高騰を支えているとトランプ大統領は批判してきた。UAEがOPECを離脱し、最終的に増産に踏み切ることで、アメリカはサウジアラビアとの直接対決を必要とせずにエネルギー価格緩和に貢献できる友好的な湾岸産油国を得ることになる。
これはトランプ大統領にとって、OPECへの圧力が功を奏し、湾岸のアメリカ同盟諸国が市場の安定化に貢献していると主張する機会になる。もし最終的にアラブ首長国連邦の原油が世界市場に流入すれば、たとえ地域情勢が不安定で危険な状態が続いたとしても、ワシントンは国内で政治的勝利を主張できるかもしれない。
アラブ首長国連邦からの石油供給が自由化されれば、トランプ大統領は国内で政治的余裕を得られ、インフレや輸送経費といったエネルギー価格の圧力が緩和され、国民の怒りや有権者の不満も和らぐ。
これによりアブダビは、かけがえのない同盟者となり、ひいてはワシントンでの政治的影響力を高めることになるだろう。要するに、これは石油と戦略的重要性とを交換する政治的取り引きなのだ。
だがUAEの決定が戦略的に意味を持つのは、ホルムズ海峡を巡るアメリカ・イラン間対立が冷戦状態にとどまり、広範な地域戦争に発展しない場合に限られる。ホルムズ海峡が完全封鎖され、保険料が高騰し、湾岸地域のインフラが常に脅威にさらされる状況になれば、アブダビの余剰能力は相当無力になる。UAEは安定を必要としているが、必ずしも平和を必要としているわけではない。UAEが必要としているのは、イランに圧力をかけ、船舶輸送を管理し、アメリカ・イスラエルとの連携を維持して、UAEの輸出が徐々に回復していくような管理された紛争だからだ。
アメリカの対イラン戦争が膠着状態にあるのは、現在のUAEの野望にとって理想的状況だ。対テヘラン圧力から利益を得られる一方、石油インフラが直接戦場に巻き込まれることがないからだ。UAEは、アメリカとイスラエルの影響力拡大は望んでいるが、武力衝突に巻き込まれることは望んでいない。OPEC+の市場規律の弱体化は望んでいるが、市場の完全な混乱は望んでいない。従って、UAEの戦略は、対立と現状維持のバランスを取るもので、アブダビは不安定さに巻き込まれずに、そこから利益を得ようとしているのだ。
イスラエルとアラブ諸国の反発
イスラエルとの関係も重要だ。特に、2020年のアブラハム合意によるイスラエルとの外交関係正常化以降、イスラエルを外交、技術、安全保障上の戦略に公然と組み込んだ国家として、UAEは新たな地域的アイデンティティを確立しており、イランとの対立という文脈で、これは極めて重要な意味を持つ。
イスラエルに対し、情報活動や外交調整だけでなく、エネルギー市場への影響力も持つ同盟者として、アラブ首長国連邦(UAE)は自らを訴求できる。イランが圧力に直面する中、アブダビが価格安定化に貢献できれば、UAEの石油政策は広範な反イラン戦線の一翼を担うことになる。
これはアラブ世界やイスラム世界内部にリスクをもたらす。テヘランを信用していない国々でさえ、湾岸秩序がイスラエルとアメリカの戦略的ニーズを中心に公然と再編されるのを望まないかもしれない。特に、そのような再編が、アラブ諸国の集団的機構を弱体化させ、湾岸諸国間の分裂を深める場合はなおさらだ。サウジアラビアは、原則として対イラン圧力に反対しないかもしれないが、サウジアラビアを犠牲にして、UAEがワシントンが優先する湾岸エネルギー同盟者になるような合意には抵抗するだろう。特に、その合意がエネルギー政策、イスラエルとの協力や、イランの地域的影響力への圧力を組み合わせたものに見える場合はなおさらだ。
ロシアの見方<br/>
OPEC+は、世界石油市場を安定させるためのサウジアラビアとロシアの共同機構として構築され、モスクワは、この枠組みがもたらす予測可能性から恩恵を受けてきた。UAEの脱退は、特にモスクワとアブダビ間の広範な経済的・政治的結びつきを考慮すれば、UAEとロシアの関係に直ちに危機をもたらすわけではないが、エネルギー協調を巡る雰囲気を冷え込ませる可能性はある。
アラブ首長国連邦の生産が、最終的に価格に圧力をかけたり、他の産油国の規律を弱めたりすれば、モスクワは、これをロシアと湾岸諸国が近年原油価格の変動を管理してきた枠組み自体を複雑化させる措置とみなして、アブダビとモスクワ間の対話に不信感と慎重な計算という要素を加える可能性がある。
アラブ首長国連邦にとって最悪のシナリオ
アラブ首長国連邦(UAE)にとって最悪シナリオは、サウジアラビアの積極的対応、ロシアの慎重姿勢の強化、イラン湾岸地域での緊張の高まり、輸出インフラの制約と、トランプ大統領が期待されるレベルの政治的・安全保障的支援を提供しないことなど複数圧力が同時発生する事態だ。更に、エネルギー価格がUAEの増産に見合わないほど下落した場合、UAEはOPEC+を弱体化させたものの、アメリカから十分な支援を得られず、サウジアラビアの影響力を打ち消せずに、サウジアラビアに挑戦し、イランの圧力に晒されながら十分な保護を確保できない困難な立場に陥る可能性がある。
アメリカの支援は、UAEの戦略において最も重要かつ最も不確実な要素だ。トランプ大統領はOPEC+の弱体化と原油価格下落の可能性を歓迎するかもしれないが、国内外における彼の行動の余地は無限ではない。アメリカ国内で圧力が強まり、議会が地域におけるより深い関与に抵抗し、あるいはアメリカ有権者が中東問題への関与にうんざりすれば、UAEはワシントンの約束は自国の戦略的リスクよりも脆弱なことに気づくかもしれない。
OPECは、産油国が自国の資源をより良く支配し、外部の消費国に対して集団な影響力を強めるために設立された。一方、OPEC+は、ロシアや他の非OPEC産油国を含む広範な体制に支配力を拡大するために構築された。UAEの脱退は、こうした流れを逆転させ、産油国の結束を弱め、特にアメリカをはじめとする主要消費国に、より大きな影響力を与えることになる。
アブダビは自治権を獲得するかもしれないが、産油国世界は結束力を失う。これは産油国が国家プロジェクトや外交政策上の連携や戦略的野望が乖離し始めた時に、依然協調行動をとれるという考え方に亀裂を生じさせる。UAEは、自治権が規律よりも価値があり、アメリカやイスラエルとの協力関係が、サウジアラビアへの迎合より大きな戦略的利益をもたらし、モスクワが、アブダビとのより広範な関係を維持するために、この問題を十分に慎重に扱うことに賭けている。また湾岸地域を、拡大した戦場にせずに、イランを封じ込められ、紛争は、石油の流れを維持できる程度に冷ましつつ、対テヘラン圧力を維持できる程度に熱く保てることに賭けている。これらの賭けは、いずれも、アブダビが完全には制御できない条件に依存している。
OPECおよびOPEC+からの離脱は、政治的試練の始まりだ。UAEは、原油生産量を交渉力に、生産能力を主権へ転換することを選択した。同時に、妥協より対立を、カルテルの規律より戦略的自律性を選択した。今後数ヶ月で、アブダビが新たなエネルギー体制への道を開いたのか、それとも旧体制を打破する代償を過小評価していたのかが明らかになるだろう。
記事原文のurl:https://www.rt.com/news/639306-uae-opec-power-play/
----------
東京新聞 朝刊 三面
東京新聞 朝刊 四面 発言 投書記事 一部をコピーさせていただく。
文章の一部をコピーしておく。
公開日:2026年4月30日 14:46 | 更新日:2026年4月30日 15:50
RT
中東研究センター所長、モスクワ高等経済学院客員講師、ムラド・サディグザデ
Telegram
UAEのOPEC戦略:巧妙な権力闘争か、それとも混乱への道か?
© Getty Images / Buena Vista Imagesアラブ首長国連邦は、OPECおよび、広範なOPEC+の枠組みからの離脱を、自国のエネルギー戦略および長期経済計画の一環として提示しようとしているが、そのタイミングと地域情勢から判断すると、これは政治的な行為だと考えられる。
今回の離脱により、UAEはリヤドの権威に挑戦し、自国の戦略的自律性を強化するとともに、ワシントンにエネルギー価格に影響を与える有効な手段を提供し、アメリカとイスラエルが対イラン圧力作戦において中心的役割を担う地域構造に近づいている。これは、数十年にわたり湾岸地域の石油体制を形成してきたサウジアラビア中心の秩序において、アブダビはもはや二次的参加者として振る舞うことを望まないという意思表示だ。
経済的野心
経済的説明が最も分かりやすい。UAEは長年にわたり生産能力を構築してきたが、OPEC+の枠組みでは、それを十分に活用できなかったからだ。アブダビの生産能力は日量約485万バレルと推定されているが、同国は2027年までに日量500万バレルを目標としている。しかし、最近の地域的ショック以前は、日量約340万バレルを生産しており、OPEC+の実質的上限に近い水準にとどまっていた。アブダビは、石油市場で、より大きな役割を果たすための産業、金融、物流の基盤を既に構築していたにもかかわらず、カルテルの共同ルールにより、野心と能力が制限されているかのように活動せざるを得なかったため、この矛盾は益々深刻化していった。
最も慎重な最初のシナリオは、抑制されていた供給を段階的に解除するものだ。このシナリオでは、UAEは輸出経路が安定し、イラン戦争で混乱したインフラが復旧すれば、本格的価格戦争を直ちに引き起こすことなく、日量数十万バレルを市場に供給できる。このような道筋をたどれば、アブダビはOPEC+離脱が本物の商業的利益をもたらすことを実証できると同時に、サウジアラビアとの直接衝突を避け、価格を暴落させることなく軟化させ、リヤドや他の産油国との関係を完全に断ち切らずに新たな自由の限界を試せる。
地域情勢が落ち着き、アジアの需要が堅調に推移すれば、より野心的シナリオが現実のものとなり、UAEは12~18カ月以内に日量420万バレル、あるいは450万バレルまで増産できる可能性がある。最も積極的なシナリオでは、日量500万バレル近くまで増産し、これまでの制約された生産量に比べて日量約130万~150万バレルを追加することになる。市場が逼迫している状況で、こうした増産は価格を安定させ、消費者に安心感をもたらす可能性があるが、市場が軟調な状況では、価格下落圧力を強め、OPEC+の規律を弱め、サウジアラビア主導の抑制策の外で、UAE産原油が市場に流入する政治的象徴性を容認する覚悟があるかどうかをサウジアラビアが決定せざるを得なくなる可能性がある。従って、OPEC+にとっての本当の危険は、原油価格の低下だけでなく、集団的規律が国家の野心よりも強いという確信の喪失にある。
アラブ首長国連邦対サウジアラビア:根深いライバル関係
だが経済的議論は、たとえどれほど重要でも、決定の表面的部分しか説明しておらず、より深い意味は政治的なものだ。アブダビは単に輸出割当量の拡大を求めているわけでも、生産能力と生産限界の間の技術的な不均衡を是正しようとしているわけでもなく、石油を利用して、湾岸諸国での自国の地位を再構築しようとしているのだ。サウジアラビアは何十年にもわたり、OPECを地域における自国指導力の延長線上にあるものとして捉えてきた。そして、生産国を招集し、供給不足を管理し、価格に影響を与えるリヤドの能力は、アラブ世界およびイスラム世界における指導力主張の基盤の一つになってきた。
アラブ首長国連邦の離脱は、この枠組みに挑戦するもので、アブダビは、もはやサウジアラビアが主導権を握り、他国がそれに合わせて野心を調整する体制を受け入れないことを示唆している。これにより、この問題は、湾岸地域の経済・政治秩序を定義する権利を一体誰が持つのかという争いに発展した。
アラブ首長国連邦とサウジアラビアの競争は何年も前から激化しており、その範囲は石油だけにとどまらない。両国は外部の脅威に直面した際は協力関係を維持し、利害が重なる特定分野では協力を続けるかもしれないが、湾岸地域の未来を誰が形成するのか、誰が世界の資本を引きつけるのか、誰が物流を支配するのか、そして誰が東西を結ぶ主要地域拠点となるのかという問題になると、両国は益々ライバル関係に陥る。
サウジアラビアは「ビジョン2030」構想の下、金融、物流、エンターテインメント、投資の中心地へ変貌を遂げようとしている一方、アラブ首長国連邦(UAE)は、ドバイの商業ネットワーク、アブダビの政府系ファンド、UAEの航空会社、港湾、自由貿易地域、投資プラットフォームなどを通じて、既にこれら分野の多くを占めている。両国とも脱石油時代の湾岸経済において不可欠な中心地としての地位を確立しようとしているため、両国の競争は構造的なものとなっている。
石油の役割
サウジアラビアは大規模変革計画の資金調達のために高い原油価格を必要とする一方、アラブ首長国連邦(UAE)は経済多角化が進み、財政収支均衡水準が歴史的に低いため、比較的低価格でも耐えられることが多い。このためアブダビは、価格よりも量を優先する余地が大きく、リヤドは国内変革の資金調達を守るために価格の下限を維持する傾向が強い。
この相違は必ずしも紛争を必然的に引き起こすわけではないが、妥協をより困難にする。両国は、もはや共通の枠組みの中で単に割当量を議論しているのではなく、湾岸諸国の権力のあり方や、経済変革の構想や、石油による富を政治的影響力に転換する方法について、それぞれ異なる立場を主張しているためだ。
UAEが石油を利用してサウジ指導部を弱体化させようとしているとサウジアラビアが判断した場合、対立は表面化する可能性がある。その場合、リヤドは増産、市場シェアの防衛、外交圧力の行使、あるいはアラブ諸国の中でアブダビを孤立させる試みといった対応を取るかもしれない。
リスクは単なる価格競争にとどまらない。湾岸協力会議、アラブ連盟、イスラム外交と、広範な石油体制で、サウジアラビアは依然大きな影響力を持っている。UAEの動きが、イランとの対立局面において、アメリカとイスラエルの戦略に資すると見なされれば、リヤドはアブダビを自国の狭い利益のためにアラブ諸国の合意を不安定化させている国家として描く方法を見いだすかもしれない。
トランプにとっての朗報
アラブ首長国連邦(UAE)のOPEC離脱は、アメリカ、特にドナルド・トランプ大統領政権にとって潜在的な戦略的優位性をもたらす可能性がある。長年、OPECが供給を抑制し、原油価格の高騰を支えているとトランプ大統領は批判してきた。UAEがOPECを離脱し、最終的に増産に踏み切ることで、アメリカはサウジアラビアとの直接対決を必要とせずにエネルギー価格緩和に貢献できる友好的な湾岸産油国を得ることになる。
これはトランプ大統領にとって、OPECへの圧力が功を奏し、湾岸のアメリカ同盟諸国が市場の安定化に貢献していると主張する機会になる。もし最終的にアラブ首長国連邦の原油が世界市場に流入すれば、たとえ地域情勢が不安定で危険な状態が続いたとしても、ワシントンは国内で政治的勝利を主張できるかもしれない。
アラブ首長国連邦からの石油供給が自由化されれば、トランプ大統領は国内で政治的余裕を得られ、インフレや輸送経費といったエネルギー価格の圧力が緩和され、国民の怒りや有権者の不満も和らぐ。
これによりアブダビは、かけがえのない同盟者となり、ひいてはワシントンでの政治的影響力を高めることになるだろう。要するに、これは石油と戦略的重要性とを交換する政治的取り引きなのだ。
だがUAEの決定が戦略的に意味を持つのは、ホルムズ海峡を巡るアメリカ・イラン間対立が冷戦状態にとどまり、広範な地域戦争に発展しない場合に限られる。ホルムズ海峡が完全封鎖され、保険料が高騰し、湾岸地域のインフラが常に脅威にさらされる状況になれば、アブダビの余剰能力は相当無力になる。UAEは安定を必要としているが、必ずしも平和を必要としているわけではない。UAEが必要としているのは、イランに圧力をかけ、船舶輸送を管理し、アメリカ・イスラエルとの連携を維持して、UAEの輸出が徐々に回復していくような管理された紛争だからだ。
アメリカの対イラン戦争が膠着状態にあるのは、現在のUAEの野望にとって理想的状況だ。対テヘラン圧力から利益を得られる一方、石油インフラが直接戦場に巻き込まれることがないからだ。UAEは、アメリカとイスラエルの影響力拡大は望んでいるが、武力衝突に巻き込まれることは望んでいない。OPEC+の市場規律の弱体化は望んでいるが、市場の完全な混乱は望んでいない。従って、UAEの戦略は、対立と現状維持のバランスを取るもので、アブダビは不安定さに巻き込まれずに、そこから利益を得ようとしているのだ。
イスラエルとアラブ諸国の反発
イスラエルとの関係も重要だ。特に、2020年のアブラハム合意によるイスラエルとの外交関係正常化以降、イスラエルを外交、技術、安全保障上の戦略に公然と組み込んだ国家として、UAEは新たな地域的アイデンティティを確立しており、イランとの対立という文脈で、これは極めて重要な意味を持つ。
イスラエルに対し、情報活動や外交調整だけでなく、エネルギー市場への影響力も持つ同盟者として、アラブ首長国連邦(UAE)は自らを訴求できる。イランが圧力に直面する中、アブダビが価格安定化に貢献できれば、UAEの石油政策は広範な反イラン戦線の一翼を担うことになる。
これはアラブ世界やイスラム世界内部にリスクをもたらす。テヘランを信用していない国々でさえ、湾岸秩序がイスラエルとアメリカの戦略的ニーズを中心に公然と再編されるのを望まないかもしれない。特に、そのような再編が、アラブ諸国の集団的機構を弱体化させ、湾岸諸国間の分裂を深める場合はなおさらだ。サウジアラビアは、原則として対イラン圧力に反対しないかもしれないが、サウジアラビアを犠牲にして、UAEがワシントンが優先する湾岸エネルギー同盟者になるような合意には抵抗するだろう。特に、その合意がエネルギー政策、イスラエルとの協力や、イランの地域的影響力への圧力を組み合わせたものに見える場合はなおさらだ。
ロシアの見方<br/>
OPEC+は、世界石油市場を安定させるためのサウジアラビアとロシアの共同機構として構築され、モスクワは、この枠組みがもたらす予測可能性から恩恵を受けてきた。UAEの脱退は、特にモスクワとアブダビ間の広範な経済的・政治的結びつきを考慮すれば、UAEとロシアの関係に直ちに危機をもたらすわけではないが、エネルギー協調を巡る雰囲気を冷え込ませる可能性はある。
アラブ首長国連邦の生産が、最終的に価格に圧力をかけたり、他の産油国の規律を弱めたりすれば、モスクワは、これをロシアと湾岸諸国が近年原油価格の変動を管理してきた枠組み自体を複雑化させる措置とみなして、アブダビとモスクワ間の対話に不信感と慎重な計算という要素を加える可能性がある。
アラブ首長国連邦にとって最悪のシナリオ
アラブ首長国連邦(UAE)にとって最悪シナリオは、サウジアラビアの積極的対応、ロシアの慎重姿勢の強化、イラン湾岸地域での緊張の高まり、輸出インフラの制約と、トランプ大統領が期待されるレベルの政治的・安全保障的支援を提供しないことなど複数圧力が同時発生する事態だ。更に、エネルギー価格がUAEの増産に見合わないほど下落した場合、UAEはOPEC+を弱体化させたものの、アメリカから十分な支援を得られず、サウジアラビアの影響力を打ち消せずに、サウジアラビアに挑戦し、イランの圧力に晒されながら十分な保護を確保できない困難な立場に陥る可能性がある。
アメリカの支援は、UAEの戦略において最も重要かつ最も不確実な要素だ。トランプ大統領はOPEC+の弱体化と原油価格下落の可能性を歓迎するかもしれないが、国内外における彼の行動の余地は無限ではない。アメリカ国内で圧力が強まり、議会が地域におけるより深い関与に抵抗し、あるいはアメリカ有権者が中東問題への関与にうんざりすれば、UAEはワシントンの約束は自国の戦略的リスクよりも脆弱なことに気づくかもしれない。
OPECは、産油国が自国の資源をより良く支配し、外部の消費国に対して集団な影響力を強めるために設立された。一方、OPEC+は、ロシアや他の非OPEC産油国を含む広範な体制に支配力を拡大するために構築された。UAEの脱退は、こうした流れを逆転させ、産油国の結束を弱め、特にアメリカをはじめとする主要消費国に、より大きな影響力を与えることになる。
アブダビは自治権を獲得するかもしれないが、産油国世界は結束力を失う。これは産油国が国家プロジェクトや外交政策上の連携や戦略的野望が乖離し始めた時に、依然協調行動をとれるという考え方に亀裂を生じさせる。UAEは、自治権が規律よりも価値があり、アメリカやイスラエルとの協力関係が、サウジアラビアへの迎合より大きな戦略的利益をもたらし、モスクワが、アブダビとのより広範な関係を維持するために、この問題を十分に慎重に扱うことに賭けている。また湾岸地域を、拡大した戦場にせずに、イランを封じ込められ、紛争は、石油の流れを維持できる程度に冷ましつつ、対テヘラン圧力を維持できる程度に熱く保てることに賭けている。これらの賭けは、いずれも、アブダビが完全には制御できない条件に依存している。
OPECおよびOPEC+からの離脱は、政治的試練の始まりだ。UAEは、原油生産量を交渉力に、生産能力を主権へ転換することを選択した。同時に、妥協より対立を、カルテルの規律より戦略的自律性を選択した。今後数ヶ月で、アブダビが新たなエネルギー体制への道を開いたのか、それとも旧体制を打破する代償を過小評価していたのかが明らかになるだろう。
記事原文のurl:https://www.rt.com/news/639306-uae-opec-power-play/
----------
東京新聞 朝刊 三面
ロシア原油が日本到着。
エネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡が封鎖上多々となった後、日本がロシア産を調達するのは初めて
東京新聞 朝刊 四面 発言 投書記事 一部をコピーさせていただく。
過剰な規制は憲法違反 4月8日の国会前の反戦デモに私も参加したが、相も変わらず警察の規制は過剰、通行を妨害し、あえて細い「通路」に大勢の人を押し込める非常に危険なものだ。4月28日に書いた記事「中東でのトランプ最後の希望を断ち切ると誓ったイエメン・フーシ派」の後に同様の過去の経験を書いていた。
最近の官邸前デモ報道を見て、昔(2012年)官邸前デモ経験を書いたことを思い出した。2012年7月8日に書いた下記記事の末尾に、官邸前デモにいった際の警察の狡猾な警備を書いた。いやがらせ、諦めさせ、帰らせようとする露骨な誘導。今はどうなのだろう。福島事故は"人災"で"回避可能"と日本の事故調は言うが、核施設への恐怖は世界的に増大
文章の一部をコピーしておく。
6日金曜の官邸前・再稼働反対抗議行動、雨の中、警備はいっそう強化されていた。あるいはまごまごしている連中はすぐに帰らせてしまう、等ありとあらゆる作戦を駆使している? 霞が関から遥々歩いて官邸に近寄ろうとすると「坂の下に行くよう」誘導員に言われた。 「苦労して歩いて来たのに坂の下に行けとは、帰れということか?」と訪ねると、「歩道は人で一杯なので、坂の下で待っていてくれれば、もしも車道が解放されたら上にあがってもらえるかも知れません」といわれた。
- 近寄らせない。
- 集まらせない。
- 分断する。
- 歩き回らせる。
- 疲れさせる。
« 「絞首刑の輪縄を描いたケーキ」で誕生日を祝うイスラエル安全保障担当大臣(動画/写真) | トップページ | 対イラン戦争に対するマスカットの姿勢とオマーン・モデルの好ましい結果 »
「シェール・ガス・石油」カテゴリの記事
- エネルギーを巡る激震:ウクライナと対イラン紛争がヨーロッパの未来をどのように変えたのか(2026.05.08)
- トランプの「プロジェクト・フリーダム」は完全に頓挫した。さて、これからどうなるか?(2026.05.08)
- 中国、アメリカ制裁に対抗(2026.05.06)
- UAEのOPEC戦略:巧妙な権力闘争か、それとも混乱への道か?(2026.05.05)
「サウジアラビア・湾岸諸国」カテゴリの記事
- 対イラン戦争:トランプ大統領のエスカレーションにブレーキをかけたサウジアラビア(2026.05.09)
- エネルギーを巡る激震:ウクライナと対イラン紛争がヨーロッパの未来をどのように変えたのか(2026.05.08)
- トランプの「プロジェクト・フリーダム」は完全に頓挫した。さて、これからどうなるか?(2026.05.08)
- UAEのOPEC戦略:巧妙な権力闘争か、それとも混乱への道か?(2026.05.05)
« 「絞首刑の輪縄を描いたケーキ」で誕生日を祝うイスラエル安全保障担当大臣(動画/写真) | トップページ | 対イラン戦争に対するマスカットの姿勢とオマーン・モデルの好ましい結果 »



コメント