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2026年5月 3日 (日)

ヨーロッパとアジアでの覇権を目指すアメリカのエネルギー覇権戦争

Brian Berletic
2026年5月3日

 明らかな軍事的後退にもかかわらず、アメリカによる対イラン戦争は、世界のエネルギーの流れを再構築し、ワシントンの地政学的影響力強化を目的とする広範な戦略の可能性がある。

 

 表面上、アメリカの対イラン戦争は、アメリカ軍事力の限界を示し、軍事産業能力の限界を更に露呈させた、壊滅的な戦術的・戦略的失敗のように見える。

 だが、ウクライナで、ロシアとの代理戦争が依然続いているのと同様に、標的国を圧倒的軍事力で制圧できない事実は、他の手段によって、地政学的な狙いをアメリカが依然推進している多くの方法から人々の注意をそらしてしまう。

 ウクライナでは、ウクライナ代理勢力への支援を通じてロシア軍を打ち負かすことにアメリカは完全に失敗した。だが、アメリカはこの戦争を利用して、費用のかかる長期にわたる高強度紛争にロシアを巻き込み、ヨーロッパ以外の地域、特に2024年のシリア崩壊に関して、ロシアの国益を明らかに損なわせた。

 確かにアメリカは軍事力と軍事産業基盤の面で増大する課題に直面しているが、軍事力だけでなく経済力や金融力も含む多領域戦争を用いて、あらゆる領域における覇権を追求している。

 またこの戦争は、ヨーロッパを安価で信頼性が高く豊富なロシア・エネルギー供給から切り離すのに成功し、ヨーロッパをアメリカ・エネルギーへの依存度を高めさせ、おそらく不可逆的なものにしようとしている。

 アメリカ・エネルギーへの依存は、明らかにアメリカ・エネルギー企業に経済的利益をもたらすだけでなく、欧州に対するワシントンの戦略的影響力、ひいては支配力を強化することにもつながる。そして、この支配力は、ロシアに対抗する欧州統一戦線の構築に効果的に利用されている。

 同様に、アメリカは対イラン戦争を利用して、中東全域からアジアへのエネルギー輸出を締め付け、アジアを安価で安定した豊富なガスと石油から切り離し、アメリカ・エネルギーへの依存状態に陥らせようとしている。こうしてアメリカは、アジアに対する戦略的影響力を獲得し、中国に対する統一戦線を構築しようとしているのだ。

 戦争によって、ヨーロッパをロシア・エネルギーから切り離す計画があった

 2019年にランド研究所が発表した「Extending Russia: Competing from Advantageous Ground(ロシアの手を広げさせる:有利な立場からの競争)」と題する論文で、ロシアの「手を広げさせ」させて、冷戦終結時のようなソ連崩壊を引き起こす可能性がある数々の「経済的」「地政学的」措置が提示されていた。

 「経済措置」として「石油輸出の妨害」「天然ガス輸出の削減とパイプライン拡張の妨害」「制裁措置の実施」「ロシアからの頭脳流出の促進」などを同文書は挙げている。

 本稿ではまず、これらの措置を実施する主要方法の一つは、アメリカの石油・ガス生産を拡大し、欧州への輸出を増やすことだと主張する。

 だが「成功の可能性」と題する節で、論文は下記の通り明確に認めている。  
欧州におけるロシア産ガスの平時消費量削減成功の可能性は中程度から低程度だ。ロシア依存から脱却するには費用がかかり、プロジェクトの実現は困難かもしれない。
 当時、アメリカは既にLNG輸出施設に投資し、欧州市場を標的にLNGを輸出していたことを忘れてはならない。しかも、アメリカの政策立案者たちは、そうすることに財政的にも経済的にも何の利点もないと認めていたにもかかわらずだ。

 だが、この文書はまだ完成には程遠かった。「地政学的措置」の項目で、文書は第一に「ウクライナへの殺傷兵器提供」を挙げている。

 同論文は、以下の点を認めている。  
「ウクライナへのアメリカの支援拡大、特に殺傷能力のある軍事支援は、ドンバス地域を維持するためのロシアの人的・経済的費用を増大させる可能性が高い。分離主義者へのロシアの支援強化とロシア軍の増派が必要になり、結果として支出の増加、装備の損失と、ロシア側死傷者の増加につながる。後者については、ソ連がアフガニスタンに侵攻した時と同様、ロシア国内で大きな論争を巻き起こす可能性がある。」
 言い換えれば、アメリカによるウクライナへの殺傷兵器供与(これはトランプ政権の一期目にアメリカが始めたことだ)は、アメリカがウクライナで、ロシアとの戦争を意図的に引き起こそうとしていることを意味する。

 その結果として起きる戦争は、ロシアにとって軍事的に大きな負担をもたらすだけでなく、ロシアの石油・ガス輸出の削減・阻害、およびアメリカLNG輸出の拡大に対する最大の障害である「平時」を、終わりのない戦争へと明らかに変えてしまう。

 実際、2014年以降、ロシア経済を標的とした制裁が始まった一方、アメリカがロシア国境沿いのウクライナを軍事的に強化する政策によって引き起こされたウクライナ戦争は、ノルド・ストリーム・パイプライン破壊と、ロシアのエネルギー輸出に対して益々厳しくなる制裁をもたらし、それまで非合理的だったアメリカからのLNG輸入をヨーロッパにとって不可欠なものにした。

 エネルギー支配のバランスを更にアメリカに有利に傾けるために、2025年後半に、ロシアの石油施設やタンカーに対するウクライナ・ドローン攻撃作戦を強化していたのは、アメリカ中央情報局(CIA)と米軍だったとニューヨーク・タイムズが報じた

 アメリカが引き起こした戦争は、平時には安価で信頼性が高く、豊富なロシアのエネルギー輸出からヨーロッパを切り離す絶好の機会になった。この切り離し過程は何年もかかり、いまだに完全実施はされていないものの成功を収めている。そのため、アメリカが中東やアジアに関し同様の成功を再現しようと考えていないとは、ほとんど考えられないほどだ。

 中国を締め付ける

 数十年にわたるアメリカ外交政策文書は、選択肢を議論し、政策を提案し、封鎖を通じて中国を経済的に締め付ける実際の兵器や軍事の組織的計画を導いてきた。封鎖は多くの場合、特にアジア太平洋地域を対象としていたが、世界中の海上交通の要衝や港湾も対象にしていた。

 2018年に海軍大学校が発表した「A Maritime Oil Blockade Against China – Tactically Tempting but Strategically Flawed(中国に対する海上石油封鎖 ― 戦術的には魅力的だが戦略的には欠陥がある)」と題された論文では、そのような政策が直面する障害と、それを克服するための様々な手段が列挙されている。

 同報告書は、マラッカ海峡などの要衝で中国への海上輸送を遮断する「遠隔封鎖」(中国の軍事力の大部分が及ばない範囲で実施される封鎖)に焦点を当てるだけでなく、中国がこれら要衝を迂回できるようにするために特別に構築された中国の「一帯一路」構想(BRI)プロジェクトを断ち切ることも論じていた。

 論文のある箇所では、ミャンマー・中国石油パイプラインについて論じている。このパイプラインにより、中国は中東のエネルギーをミャンマー沿岸の港湾施設で荷揚げし、ミャンマー国内を横断して中国南部の雲南省に直接輸送できる。

 論文は次のように示唆している。  
「遠隔地からの封鎖は、ミャンマーと中国を結ぶ石油パイプラインの遮断も必要とするだろう。このパイプラインは、ミャンマー沿岸部のチャウピューから中国南西部の雲南省まで、最終的には日量最大44万バレルの原油を輸送する可能性がある。チャウピューのターミナルでタンカーの荷揚げを阻止するには、海軍のプラットフォームを現地に留めておく必要はほとんど、あるいは全くない。紛争期間中は当該地域を立ち入り禁止区域に指定することができ、ミャンマー当局がこれに従わない場合、空爆、空中機雷、その他の武力行使により施設を無力化できる。要するに、米軍は、マラッカ海峡や、更に東にある他の要衝を回避し、他の海上侵入ルートを封鎖するために必要な戦力を中国が転用するのを阻止するため、中国が海上石油輸入のために利用する陸路を迅速に無力化できる可能性が高い。」
 単なる理論上の提案にとどまらず、アメリカは長年にわたり、ミャンマー中央政府と戦う武装勢力を支援してきた。これら武装勢力は、ミャンマー・中国間の石油パイプラインを繰り返し攻撃し、最近は、パイプラインが通過する地域を占拠しようと試みている。

 言い換えれば、アメリカは米中紛争が勃発するのを待ってから米軍の戦力でパイプラインを攻撃するのではなく、米中直接紛争が始まる前に、代理勢力を使って攻撃を仕掛けているのだ。こうした攻撃は、アメリカが中国に対する「遠隔封鎖」という概念を検討しただけでなく、既に段階的に実施すると決定している証拠だと言える。

 アメリカはパキスタンで同様のパイプラインや経済回廊を妨害する武装勢力を支援しており、同時にアメリカ自身もアジア太平洋地域での軍事的存在を拡大し続け、台湾近海と南シナ海での海上輸送を脅かしている。

 だが「遠隔封鎖」という概念は、アジア太平洋地域に限ったものではない。アメリカによるイラン攻撃は、中国から更に遠く離れた中東地域で事実上の封鎖を生み出している。

 この戦争は、イランとアメリカ双方による制限により、ホルムズ海峡を通る海上交通を阻害しただけでなく、アメリカによるイラン・エネルギー生産施設攻撃は、米軍を受け入れているペルシャ湾岸アラブ諸国のエネルギー生産施設への報復攻撃を招いた。

 地域全体のエネルギー生産量の減少に加え、ホルムズ海峡を通る海上交通の混乱が重なり、中東からのエネルギー輸入に依存している国々、特に中国を含むアジア諸国にとってエネルギー危機を引き起こしている。

 アジアと中東を切り離す

 Politicoなどの欧米メディアによると、パキスタン、ミャンマー、ベトナム、フィリピン、タイ、日本、韓国といったアジア諸国は、輸入エネルギーの50%から90%を中東から得ている。

 中国は輸入エネルギーの最大50%を中東から得ている。台湾では輸入エネルギーの60%以上を中東から得ている。

 アメリカが引き起こした新たな戦争により生産と輸出が混乱したため、アジア諸国は欧州ではなく、エネルギー需要を満たすため他地域に目を向けざるを得なくなった。

 アメリカは、欧州をロシアからのエネルギー輸入から意図的に切り離したのと同様に、アジア市場を特に標的としたLNG輸出施設の提案、投資、建設と稼働開始に何年も費やしてきた。この能力は既に一部稼働しており、アメリカ自身が中東で引き起こしたエネルギー危機や、今やアジア諸国を脅かしているこの危機を最大限に活用できる絶好のタイミングになっている。

 例えばベトナムのような国は選択肢は二つしか残されていない。数千万人の国民に調理用ガスなどの生活必需品を含むエネルギーを供給しないままにするか、中東からの輸入が途絶えた分を補うために、他に選択肢のない代替品を購入するかのどちらかだ。

 ベトナムの国営ガス大手は、アメリカから最大6万6000トンのLPG(液化石油ガス)を購入したと報じられている。これは中東からの4万4000トンを上回る量だ。なお同社がアメリカ産エネルギーを購入したのは今年が初めてだ。

 ベトナムは当然モスクワと緊密な関係にあり、エネルギー構成の一部をロシアから購入しているほか、中国からも石炭を輸入しているが、いずれもベトナムが依存していた中東からのエネルギー輸入の80%以上が現在途絶えている状況を直ちに補うだけの十分な能力はない。

 タイ、日本、韓国や台湾といった他の国々も同様に代替策を模索せざるを得なくなっている。ロシアに協力を要請し、不足分を補うことができた例もあるが、アメリカは意図的に自らを唯一の代替候補として位置づけている。

 近年、アメリカがアジア市場を標的に投資してきたLNG輸出プロジェクトは、提案および承認の初期段階で実行可能なビジネス・モデルを提示するのに苦労したことを指摘しておくべきだろう。これは、アメリカがロシアに対する代理戦争を開始するまで、欧州市場を標的にしたLNG輸出プロジェクトが抱えていた問題と同じだ。

 グレンファーン社によるアラスカLNGプロジェクトは、 2025年時点では「エネルギー安全保障」と「争いのない安全な航路」を主要セールスポイントとしていた。だが当時、アジアへのエネルギー輸出の流れを妨げるような競争が激化したり危険な航路は存在せず、このセールスポイントを正当化できる状況ではなかった。

 将来的に争いの対象となったり、安全が脅かされたりする可能性がある唯一の航路は、アメリカが数十年にわたり争い、安全を脅かす準備を進めてきた様々な海峡で、それはアジア太平洋地域だけでなく、中東のホルムズ海峡やそれ以外の地域にも及ぶ。

 もちろん、現在、アメリカによる対イラン戦争により、中東からのエネルギー輸出が阻害されているため、アラスカLNGのようなプロジェクトは、当初は採算の取れない事業計画だったものが、切実に必要とされ、かつ最適位置にあるエネルギー源へと変化した。これは、アメリカからヨーロッパへのLNG輸出と同様に、全て計画通りだ。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの最近の記事「U.S. Energy Exports Hit Records as World Adjusts to a Closed Persian Gulf(ペルシャ湾閉鎖への世界の適応に伴い、アメリカのエネルギー輸出が記録を更新)」は「oil, and gas shipments have soared, but the U.S. will face obstacles turning wartime demand into a permanent boost(石油とガスの出荷量は急増したが、アメリカは戦時中の需要を恒久的増加につなげる上で障害に直面するだろう)」と指摘している。

 誤った前提は、アメリカによる対イラン戦争は、アメリカの石油・ガス出荷量の急増や「戦時需要」とは無関係で、これは単なる好都合な偶然に過ぎない。

 しかし、ランド研究所が2019年に明らかにしたように、ヨーロッパをロシアのエネルギーから切り離す政策提案は、「平時」には機能しないとしても 「平時」を「戦時」に変えることで機能させることが可能だ。

 それはアメリカがヨーロッパに対して行ったことと同じで、今アメリカは明らかにこの過程を繰り返し、アジアを標的にしている。

 ロシア、中国、イラン、そしてアジア諸国、特に南アジアと東南アジア諸国を含む他の独立諸国は、アメリカが仕掛けたこの危険な罠を慎重に回避し、ヨーロッパに強いられたようなアメリカへの完全なエネルギー依存を避ける必要があるだろう。

 アメリカによる政治的支配と、アメリカへのエネルギー依存の高まりによって、既にヨーロッパは恐らく回復不可能な政治的・経済的損害を被っている。

 同様に、アジアも、アメリカへのエネルギー依存の高まりによって弱体化し、アメリカによる政治的支配の可能性が遙かに高まり、今度はロシアではなく中国に対する統一戦線へと変貌させられ、アジアの人々や平和や繁栄を犠牲にして、アメリカのために戦争を遂行するために利用される危険性がある。

 確かにアメリカは軍事力と軍事産業基盤の面で増大する課題に直面してはいるが、軍事力だけでなく経済力や金融力も含む多領域戦争を用いて、あらゆる領域における支配を追求している。これは、多くの人が戦争と結びつける戦場という物理的空間だけでなく、政治空間と、最も重要な情報空間においても展開される。

 アメリカは、他の国々と比較して軍事力が弱体化しているにもかかわらず、それを回避し、世界各国の政治的支配、グローバル情報空間の独占と、今やエネルギーの兵器化拡大といった手段を活用する能力を繰り返し示してきた。

 アメリカは、アメリカ国内でのエネルギー生産と輸出と、ベネズエラ、ロシア、イランなどにおける代替エネルギー源への組織的攻撃や押収や破壊を通じて、エネルギーを兵器化している。

 多極化世界が、軍事力の領域だけでなく、アメリカが戦争を仕掛けている他の全ての領域においても、適切に組織化できるかどうかは、時が経ってみなければ分からない。

 Brian Berleticは、バンコクを拠点とする地政学研究者、作家。

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2026/05/03/the-us-war-for-energy-dominance-seeks-dominance-over-europe-and-asia/

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