« アメリカはイランと交渉をしているのか、あるいは今後交渉する予定があるのか? | トップページ | イラン・アメリカ・UAE・パキスタンの謎 »

2026年4月 5日 (日)

アメリカ・イスラエル・イラン戦争から学ぶ教訓:戦略と幻想と戦争の変容

リカルド・マルティンス
2026年3月29日
New Eastern Outlook

 ドナルド・トランプからベンヤミン・ネタニヤフに至るまで、アメリカ・イスラエルの対イラン戦争は戦略的誤算だけでなく、戦争の遂行方法や正当化の仕方や長期化の仕方におけるより深い変革を露呈している。真の教訓は、もはや権力が支配を保証するものではなく、戦略に代わってエスカレーションが主流になっていることではないだろうか?

 アメリカ・イスラエル・イラン戦争から学ぶ教訓:戦略と幻想と戦争の変容

 はじめに

 「36年間、米軍基地が我々を守ってくれていると我々は信じていた。だが、この初めての戦争で、我々こそが基地を守っていたのだと分かった。」サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン・アル・サウド外相の発言とされるこの言葉は、湾岸地域における安全保障の論理の根本的な転換を如実に物語っている。

 アメリカ、イスラエル、イラン間で最近発生した紛争は、地域の勢力図を塗り替えただけでなく、戦争自体の性質における、より深い変化をも露呈した。この紛争は欧米諸国が主導する戦略パラダイムから、より断片化され適応力ある世界秩序への移行を示すものだと元イギリス外交官でMI6職員だったアラステア・クルックなどの専門家は強調している。

 ドナルド・トランプやベンヤミン・ネタニヤフといった指導者の行動は、規範的限界の侵食と国際秩序の将来について根本的疑問を投げかけている。

 カール・フォン・クラウゼヴィッツ以降の古典理論では、戦争は他の手段をもってする政治の継続だとされてきた。だが、この戦争が示唆しているのは、より憂慮すべき事態だ。戦争は益々政治的統制を逃れ、指導者たちが意図せず、また十分に理解していない形で、戦略と国際体制の両方を再構築する力学を生み出しているのだ。

 以下で、この戦争が地政学専門家にもたらす13の教訓を概説する。可能な限り理論的な視点を取り入れて、分析に深みを持たせている。

 アメリカとイスラエルによる対イラン戦争から得られる地政学的教訓

1. 非対称戦争は権力の概念を再定義している

 イランの戦略は、軍事的劣勢がもはや戦略的弱さを意味しないことを示している。分散型ネットワークや、ドローンや、サイバー能力や、海上における妨害工作を通じて、イランは相手に不釣り合いなほどの代償を課している。アラステア・クルックが指摘している通り、狙いは従来の意味での勝利ではなく、敵の意志と結束を弱体化させることにある。戦争は殲滅ではなく、持久戦に変貌する。

2. アメリカの抑止力は明らかに低下している

 基地、艦船、サプライチェーンの脆弱性は、揺るぎないアメリカの優位性というイメージを損なってきた。今や抑止力は、技術的優位性より、持続的圧力に対する回復力に依存するようになっている。これは紛争環境下における高価値資産の脆弱性の高まりを指摘するランド研究所の分析とも一致する。

3. 同盟国は自動的に連携しなくなった

 欧州の躊躇は、階層的同盟体制からのより広範な移行を反映している。アラステア・クルックが同じインタビューで主張しているように、西側諸国の結束は、経済的、安全保障上の利害の相違の重みにより益々分裂しつつある。連帯は条件付きで、当然のことではないのだ。

4. 湾岸諸国はリスク分散を図っている

 地域諸国は戦略の見直しを進めている。今回の戦争で露呈した逆説は、アメリカ軍駐留がかえって脆弱性を高める可能性があるという点だ。そのため湾岸諸国はイランとの関係を慎重に維持しつつ、中国をはじめとするパートナー国との関係を深めるなど、安全保障の多様化を図っている。安全保障はもはや外部委託ではなく、交渉によって確保されるものになっている。

5. 地政経済学は戦場と化した

 ホルムズ海峡の混乱は経済の流れがいかに精密に兵器化され得るかを示している。石油や海上輸送路や脱ドル化を含む金融体制は、今や戦争に不可欠な要素になっている。国際戦略研究所の分析が指摘している通り、地政学的分断と競争の激化は、特に戦略的要衝やエネルギーの流れを巡る経済的相互依存関係を安定ではなく紛争の領域へ変貌させている。

6.政権転覆戦略には構造的欠陥が残っている

 イラクからリビアに至るまで、数十年にわたる失敗にもかかわらず、強制力により政治体制を変革できるという信念は根強く残っている。だが指導者排除戦略が政治的服従を勝ち取るのは稀だと専門家たちは繰り返し指摘している。むしろ、こうした戦略は政権の結束と正当性を強化し、民族主義的反発を招き、根本的な制度構造解体には至らないことが多い。イランのクルド人などの国内少数民族や反体制派が外部の圧力によって政権に反旗を翻すだろうという期待も、同様に的外れなことが証明されている。外部圧力はイラン国家を弱体化するどころか、むしろ強化している。「国旗の下に結集する」効果により、国内の不満は外部の脅威へ向けられる。イラク戦争やベトナム戦争で見られたこのパターンは驚くほど一貫して繰り返されている。

7.介入主義の中核にある戦略的錯覚

 圧力によってイランが崩壊するという予想は、ロバート・ジャービスが国際政治における誤解として指摘した現象を反映している。(アメリカ情報機関全体ではない)トランプ大統領側近、ネタニヤフ首相の40年来の願望や、モサドなどの外部主体は、複雑な社会に対して自らの思い込みを投影し、その結果、回復力と適応能力を過小評価している。さらに、意思決定者は過去の信念によって形成された認知フィルターを通して外部からのシグナルを解釈するため、体系的誤りが生じるとジャービスは主張している。

8. 軍事的勝利から物語の管理へ

 決定的勝利が見通せない状況下で、戦いは認識の場へ移行する。指導者たちは益々国内向けに結果を解釈し、戦略的曖昧さを政治的物語へ変えていく。戦争は、領土支配や戦略的成果だけでなく、物語作りやメディア支配にも大きく左右されるようになる。

9. 終わりのないエスカレーションの罠

 アメリカは明確な政治的撤退戦略を持たないまま紛争に突入した。グレアム・アリソンが指摘するように、官僚機構の勢いと信頼性への懸念が、目的が不明確な場合でも継続的関与を促すのだ。こうしてエスカレーションは自己持続的なものになる。

10.脱覇権秩序が形成されつつある

 この紛争は、単一主体が一方的に結果を押し付けられない、より広範な権力再分配を反映している。その顕著な例は、ドナルド・トランプが緊張緩和とホルムズ海峡の封鎖解除のために中国に協力を求めた場面だ。これは、ワシントンが主要安全保障の保証者として行動してきた従来のヒエラルキーの逆転だ。アラステア・クルックなどの評論家が指摘している通り、これは、より交渉的で多元的な秩序への移行を示しており、支配的大国でさえ、もはや単独では制御できない危機に対処するためライバルに頼らざるを得ない状況になっている。

11.帝国主義的論理の持続性

 度重なる失敗にもかかわらず、介入主義の教義は根強く残っている。 『War on the Rocks』の分析や関連するシンクタンクの議論が示す通り、介入主義はアメリカの国家安全保障体制に深く根付いており、孤立した政策選択ではなく、共通の規範と制度的誘因に支えられている。これは、スティーブン・ウォルトなどの学者が「リベラル覇権」の持続性と呼ぶものを反映している。リベラル覇権とは、海外の政治秩序を再構築することを目的とした戦略で、制度的惰性だけでなく、海外の政治的結果を形成することへのより深いイデオロギー的関与をも明らかにしている。ジョン・ミアシャイマーはそれを率直に「大いなる幻想――リベラルの夢と国際的現実」と表現している。更に、ポール・ケネディ、そして後にジャック・スナイダーに関連付けられる国際関係論の概念「帝国主義的過剰拡張」は、大国が逆効果になる場合でも関与を拡大し続ける理由を説明している。

12.戦争と平和の境界の曖昧化

 この紛争は、戦争と平和の境界線が、フランク・G・ホフマンが「ハイブリッド戦争」と概念化した状態や、国際戦略研究所が「グレーゾーン」競争と呼ぶ状態といかに曖昧になってきたかを如実に示している。サイバー作戦、経済的強制、代理戦争といった行為は、宣戦布告の閾値以下の継続的対立状態を維持している。この意味で、戦争はもはや単発的出来事ではなく、明確な時間的・法的境界を持たずに複数領域にまたがって展開する、恒久的戦略的状況となっている。

13.規範的制約の侵食

 より深刻な問題は戦争を律するルールの弱体化だ。均衡性、消防士、電力網、学校、病院といった民間インフラや、先制攻撃をめぐる疑問は、ドナルド・トランプやベンヤミン・ネタニヤフなどの連中が、確立された武力紛争の規範を拡大解釈し、破っているのではないかという懸念を引き起こしている。ガザ地区などで見られる通り、この傾向は前例がないわけではないが、武力行使の解釈がより寛容になる可能性を示唆している。

 結論

 すると、この戦争は今日、そして未来に向けて、我々に何を教えてくれるのだろう? 歴史的に見て、戦争は政治的学習のための残酷な実験場として機能してきた。だが、ここで浮かび上がってくる教訓は、適応ではなく、反復だ。何十年もの経験を経てもなお、誤解、行き過ぎた行動、明確な終わりのないエスカレーションといった同じパターンが繰り返されるのだ。ロバート・ジャービスが指摘している通り、意思決定者は新たな紛争を、受け継いだ認知的枠組みを通して解釈する傾向があり、変化する現実に適応するのではなく、しばしばそれを誤解してしまうのだ。

 ファイサル・ビン・ファルハン・アル・サウード発言は、この変化を如実に示している。安全保障はもはや外部の保証では成り立たず、戦争も容易に封じ込めることはできない。むしろ、戦争は地域や経済や政治体制全体に影響を及ぼす。ドナルド・トランプやベンヤミン・ネタニヤフなどの指導者の行動は、規範的限界の崩壊と国際秩序の将来について、根本的な問いを投げかけている。

 結局、戦争は依然教訓を与えてくれるが、教訓は学ぶ意欲にかかっている。過去の例から判断する限り、問題は、教訓が得られないことではなく、教訓が組織的に無視されることにある。実際、国内の世論や迫りくる選挙サイクルに向けて正当化する物語を構築する必要性が、戦略的な考察より優先されることがしばしばあるのだ。

 リカルド・マルティンスは社会学博士、ヨーロッパおよび国際政治、地政学専門家。

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2026/03/29/lessons-from-the-u-s-israel-iran-war-strategy-illusion-and-the-transformation-of-war/

----------

 今朝の孫崎享氏メルマガ記事題名
イラン戦争とりまとめ、国際法無視、1万2300個超え攻撃cnn、4月3日 3,000人以上死亡(民間人1,300以上)、最高指導者等殺害。イラン攻撃能力保有「米情報機関、ミサイル発射装置半数無傷、ドローン数千機残存。沿岸防衛用ミサイル大部分無傷→ホルムズ海峡制御

« アメリカはイランと交渉をしているのか、あるいは今後交渉する予定があるのか? | トップページ | イラン・アメリカ・UAE・パキスタンの謎 »

イラン」カテゴリの記事

アメリカ」カテゴリの記事

アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事

イスラエル・パレスチナ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« アメリカはイランと交渉をしているのか、あるいは今後交渉する予定があるのか? | トップページ | イラン・アメリカ・UAE・パキスタンの謎 »

お勧め

  • IWJ
    岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal

カテゴリー

ブックマーク

最近のトラックバック

無料ブログはココログ