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2026年3月 3日 (火)

欺瞞的トランプ外交の終焉



アラステア・クルック
2026年3月2日
Strategic Culture Foundation

 外交の衰退とともに、紛争は戦略的計算と現実主義の領域から、心理的条件付けの領域へ移行した。

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 木曜日(2月26日)の外交交渉は仲介者や交渉担当者による万能の主張にもかかわらず、本質的な行き詰まりを改めて確認した。アメリカがイランに提示した要求は下記通りだった。
  • フォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンの核施設の完全解体。
  • 濃縮ウランをアメリカに移送する。
  • 全ての日没条項および永久的制限の終了。
  • 濃縮度ゼロの受け入れ – テヘラン研究炉のみ存続が認められる。
  • 制裁措置軽減は事前は最小限に抑え、完全な遵守が達成された後にのみ更なる軽減が行われる。
 これら要求は、外交的解決を促進するためではなく、むしろ妨害するために策定されたのは明らかだ。これはイランが弱体だという本能的に信じられていた戦略を反映している。アメリカの軍事力誇示に直面したイランは必ず屈服すると確信していたのだ。だが、この仮説は最初から傲慢だった。そして予想通り、テヘランがアメリカの要求を拒否したことで、この仮説が明らかに誤りであることが証明された。
 
  • [イラン]は(NPTに基づく)民生用ウラン濃縮の権利を認めるよう主張した。
  •  
  • 「ゼロ濃縮」を拒否した。
  •  
  • イランの濃縮ウランを自国領土から移送することを拒否した。
  •  
  • いかなる合意にも、イランの核濃縮権の承認と制裁の大幅解除の両方が含まれなければならないと主張した。自国に課される無期限の制限という考え方をイランは拒否する。
 会談終盤の雰囲気は断固明るいものだった。イラン側首席交渉官アラグチ外相は「今日の協議はこれまでの協議の中で最良のものだった。我々は要求を明確に示した」と述べた。イランは国内外の聴衆に(少なくとも)真剣に交渉した姿勢を明確に示そうとした。

 だがアメリカからの報道は、攻撃決定は2025年12月29日に行われたネタニヤフ首相とトランプ大統領間のマール・アー・ラーゴ首脳会談時点で既になされていたと示唆している。

 イラン指導部は、協議においてイランが合理的に提示したいかなる譲歩も、トランプが望むような迅速な政治的「勝利」につながらないことを十分理解していた。ミサイル防衛システムは交渉の余地がないとイランが主張したため、なおさらその認識は強かった。

 ルビオ国務長官は、今回の(最後の)交渉を前に、イラン核開発計画を協議の中心に据えつつも、ワシントンの観点からはイランの弾道ミサイルの脅威は「無視できない根本的要素」だと強調した。

 だがルビオのありそうもない主張は、イスラエルのヘブライ語メディアの報道とも一致している。ネタニヤフ首相が2025年12月にトランプ大統領と会談した後、アメリカがイランの弾道ミサイル能力を攻撃するよう要求したのはネタニヤフ首相で、イラン核施設攻撃よりもイランのミサイル兵器庫攻撃を優先すべきだと主張したと同メディアは報じている。

 同じ(イスラエル)報道によれば、トランプ大統領はネタニヤフ首相の断固たる要求を受け入れたという。

 全体的に見て、イランとの紛争結果がどのようなものであれ、イランの降伏により実現するか軍事力により実現するかに関わらず、個人的に「強い」印象を与え、歴史的「功績」を成し遂げて紛争から脱出しなければならないとトランプは断固主張し続けている。
 
根拠を求める戦争

 このように、外交の衰退に伴い、この紛争は戦略的計算とリアリズムの領域から、心理的条件付けの領域へ移行した。つまり、益々疑念を抱くアメリカ国民に対し、明確な根拠のない戦争を、いかに描写するか、そして中間選挙を前にトランプに適切な心理的優位性を与えるために、いかにして戦争を誘発するのが最善か、という問題だ。

 そのため、トランプはイランがアメリカ本土を攻撃するためのICBM開発を進めているという不条理な主張をしている。この心理的物語では、トランプはイスラエルを救うだけでなく、アメリカを救うのだ!

 こうした心理的条件付けの考慮は、分裂したトランプ陣営を現実から益々遠ざけ、対イラン軍事攻撃を正当化するもっともらしい開戦理由を必死に探し回らせている。ルビオの主張に反して、イランはICBMでアメリカを脅かしてはいない。イランはアメリカにとって全く脅威でなく、核兵器も保有していない。

 ウィル・シュライバーは次のように述べている。  
「これはアメリカが選んだ戦争だ。この戦争、そしてその全ての結果は、アメリカが引き起こすものだ。これはトランプの戦争だ。この戦争は2020年1月3日、ドナルド・トランプの直接命令によって開始された。」
 だが、イラン攻撃はイスラエルの中東覇権を強化するためだとトランプ陣営が大声で主張すれば、犠牲者を嫌い、トランプがイスラエルの利益を優先していることに益々懐疑的になっているアメリカ国民に「もう一つの大きな中東戦争」を喧伝するには受け入れ難い枠組みだと同陣営は考えている。

 戦争の根拠の欠如というジレンマは明らかに非常に深刻になり、アメリカ当局は、イランとの戦争をアメリカ国民にとって、できるだけ「政治的に受け入れやすい」ものにするため、イスラエルが先に攻撃することに同意した。

 先週、アンナ・バースキーがヘブライ語「マーリヴ」紙に寄稿し、イスラエルが「先手を打つ」という示唆は「皮肉から冷酷さが滲み出る。イスラエルが、意識的に、そして意図的に、何よりもまずアメリカに意識的影響をもたらすことを意図した動きの最初の一撃として機能するシナリオを描いているためだ」と主張した。

 当初、トランプ大統領は米軍の増強自体がイランにとって心理的に十分な威圧感になり、降伏は運命づけられていると考えていた。FOXニュースでウィトコフは率直にこう語った。「トランプ大統領は、イラン近海にこれほどの米軍が展開しているにもかかわらず、なぜイランがまだ降伏しないのか困惑し苛立ちを感じていた」

 だが、それ以上に壮大な発言と「信じられないほどのアメリカ軍事力」という約束を掲げるトランプにとって、戦力増強にもかかわらず、アメリカは「イランに対する4~5日間の激しい空襲、あるいは一週間の低強度攻撃を超えて持続する」軍事力を持っていないことが明らかになったことに彼は動揺した。後に、彼は将軍たちの発言を否定した。

 トランプ大統領の将軍連中は遙かに複雑な状況を彼に伝えていた。彼らは政権転覆を保証するつもりはなく、作戦期間にも不確実性があり、テヘランの反応や地域への影響は正確には予測できないといっていたのだ。

 警告にもかかわらず、おそらくトランプは、数日間の短い血みどろの戦争を想像(または期待…)し、その後、広がった瓦礫に対し「勝利」を主張し、メディアの見出しで再び「トランプ平和」を叫んで停戦に向けて動き出すのを期待していたのだろう。

 もちろん、戦争は決して一方だけで決着するものではない。攻撃されれば、イラン国内だけでなく地域全体で全面戦争を引き起こすとイランは警告していた。開戦初日イランはまさにその通りの行動に出た。ペルシャ湾全域の米軍基地を攻撃し、米軍基地炎上し、煙を上げている。これは誰の目にも明らかだ。大手石油会社はホルムズ海峡を通る石油輸送を停止したばかりだ。

 トランプ大統領、いや、より正確にはネタニヤフ首相は、多方面(イラン、イエメン、イラクなど)からイスラエルへの攻撃を伴う多方面戦を引き起こした。短期戦争より長期戦になる可能性が高い。

 トランプは自分に不利な動きしか出来ない状況に陥っている。イランに対し行動を起こさざるを得ない状況にあるが、その行動により自らの立場、つまり「不利な動きしか出来ない状況」を悪化させているのだ。報道によると「アメリカがイランとの大規模紛争に過剰関与し、その結果『素晴らしい』成果を上げられなければ世代を超える大惨事に直面すると国防総省内の多くは考えている」という。

 しかし、ネタニヤフ陣営とアメリカ国内の多様な支援者や援助国から生まれた攻撃へのイデオロギー的勢いは強力なものだった。彼らは、アメリカの攻撃を「一世代に一度あるかないかの好機」と捉え、地政学的戦略図を塗り替え、イスラム過激派と戦う新たな連合で、イスラエルの親西側同盟国にイランを作りかえようとしているのだ。

 こうした感情は、たとえ空想的なものであれ、軽々しく軽視すべきではない。文化や様々な終末論的信仰に深く根付いているためだ。

 戦争の兵站には独自の勢いがある。軍事展開の「バネ」が一度解き放たれると、それを巻き戻すには多大な努力が必要になる。第一次世界大戦勃発当初、ヨーロッパ指導者たちは、鉄道に内在する制約のため、展開の仕組みを逆転させるのが不可能だと分かった。広範な戦争の勢いを止めるには、多大な努力が必要になる。

 トランプ大統領は、このような存亡をかけた世界的力比べを引き起こしたが、クヌート王のように潮の流れを「引き締める」ことはできるまい。彼は世界の地政学的未来を決定づける出来事を起こしたのだ。中国、ロシア、イランの未来は、いずれにせよ危うい状況に陥る。

 経済も危うい状況にある。トランプの債務危機解決策は主に貿易戦争にかかっている。債務負担を軽減するためのトランプ関税の実現可能性はドル覇権にかかっている。そして、ドル覇権は主にアメリカの並外れた軍事力の無敵神話を維持するための機能だ。

 だが、トランプのはったりをイランが事実上見破ったことで、トランプは屈辱的な選択に直面している。TACO(トランプはいつも土壇場でしりごみする)作戦で撤退するか(つまり、12日間戦争の時のように、時期尚早な停戦要請を歪曲して「勝利」を宣言するか)、あるいは戦争が長期化した場合、米軍が張り子の虎とみなされ、その結果が債務市場全体に波及するのを受け入れるかのどちらかだ。

 トランプは本当に熱心なイスラエル支持者だが、イスラエルという岩の上で大統領職に力尽きる寸前だ。

 おそらく彼には選択の余地がなかったのだ。

記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2026/03/02/end-deceptive-trumpian-diplomacy/

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 今朝の孫崎享氏メルマガ題名
米国のイラン攻撃は正当化できるか 国際法は武力攻撃が行われた時の個別・集団的自衛権は容認。体制変革の為の武力攻撃は容認せず。イスラエルは核兵器保有、その使用に制限を課していない。安全保障上核保有の発想はありうる考え。トランプ国際法に制限されずを実施

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