ロマン・アブラモビッチに法的措置を取るとキア・スターマーが恫喝しているのは、違法なだけでなく、経済的にも汚い行為だ。

イアン・プラウド
2025年12月23日
Strategic Culture Foundation
既に欧州諸国はウクライナへのいわゆる賠償融資を支援するためユーロクリアに保管されているロシア国家資産を没収しようとして失敗し、同様の失敗を経験している。
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2022年3月にイギリスがロマン・アブラモビッチに制裁を科したのは私の知ったことではないが、外務省在職中に、ロシアの個人および企業800件以上の指定を私は承認した。私はオリガルヒとは何の関係もないし、チェルシーを支持してもいない。しかし、ブルーズ売却益の処分をめぐってキア・スターマーが彼を提訴すると脅していることには懸念を抱いている。売却益の処分は失敗に終わりそうだ。
12月17日、スターマーは議会で立ち上がり「アブラモビッチへのメッセージは…刻々と時間が迫っている。約束を守って今すぐ支払え。支払わなければ、プーチンの違法戦争により人生が引き裂かれた人々に一銭たりとも無駄にしないよう我々は法廷闘争も辞さない」と述べた。
2022年3月10日にアブラモビッチはイギリス政府から制裁を受けた。2019年のロシア(制裁)(EU離脱)規則に基づき、イギリスにおける彼の資産は全て凍結され、現在もその状態が続いている。また取締役資格の剥奪(チェルシーなどのイギリス企業の取締役としての職務遂行は禁止)や渡航禁止など他の制限措置も課された。
アブラモビッチへの制裁措置の実質的影響は、チェルシーを短期的資金難に陥れたことだった。クラブ(つまりアブラモビッチ)の資産が凍結されたためだ。チェルシーの支出は、財務省の金融制裁実施局(OFSI)が発行する許可により厳しく規制されるようになった。これによりアブラモビッチは資産を売却せざるを得なくなり、2022年5月にトッド・ボーリー率いるコンソーシアムがチェルシーを買収した際、売却を実行した。売却益はそれ以来凍結されている。
この売却は、当時のイギリス制裁体制の法律的有効性を証明したと言えるだろう。リズ・トラス外務大臣は、イギリスに資金を預けていたロシアの巨大オリガルヒの総称である「ロンドングラード」閉鎖を自らの使命としていた。2003年にアブラモビッチが購入したチェルシーを売却せざるを得なかったことは、イギリスの報道で大きく取り上げられた点において、確実に彼女の功績と言えるだろう。
だが、2022年2月24日にウクライナ戦争が勃発し、アブラモビッチをはじめとするイギリスを拠点とするオリガルヒへの制裁圧力が高まる中、彼は既に3月2日にクラブ売却決定を発表していた。その際、彼は「売却による純利益の全額」を「ウクライナ戦争の犠牲者」に寄付すると約束した。
アブラモビッチの意図は資金の大半がウクライナの戦争犠牲者に渡される一方、一部はロシアを含む他国の犠牲者にも渡るというものだったし今後もそうあり続けると思われる。
彼がこの発表を行った際、資金はウクライナにのみ送るようイギリスのロビイスト連中が直ちにイギリス政府に強く要求し、資金の一部が元ロシア軍関係者を含むロシアの戦争被害者の手に渡るのではないかと懸念を表明した。この圧力こそが、イギリス政府が現在の立場を取った理由なのは確実だ。
だがスターマー発言は、単なる美徳を示すものにすぎないように思われる。
これら資産は凍結されているものの、アブラモビッチが所有している。イギリス政府には処分方法を決定する権限はない。制裁は永続的なものではない。ウクライナ戦争の終結時期は依然不透明だが、和平合意が締結され維持されれば、イギリス制裁が将来的に解除される可能性は十分ある。そうなれば、アブラモビッチはチェルシー売却益を含む自身の資本に再び触れ自由に使用できるようになる。アブラモビッチの資産凍結はイギリスの制裁法上合法だが、これら資産をウクライナに送金するよう強要するのは違法だ。
オリガルヒの中でもアブラモビッチはウクライナ戦争終結への取り組みを最も積極的に支援し、2022年3月と4月に行われた失敗に終わったイスタンブール和平交渉にも出席した。チェルシーの収益を慈善事業に寄付するという彼の申し出は、彼の和平努力に沿ったものだったが、法的拘束力はなかった。
また、これはユニークな取り組みで、これまでイギリスに拠点を置いていた他のオリガルヒ連中が同様提案をしたことはなかった。
開戦以来、250億ポンドを超えるロシア資産をイギリスは凍結している。これら資金をウクライナに一方的に送金する権限は政府にはない。それは窃盗に等しいからだ。同様に制裁を受けているオリガルヒ、ミハイル・フリードマンが自身の投資会社レター・ワンが所有するホランド・アンド・バレットを2022年に売却することを選んでいたら売却益をビタミン・サプリメントやナッツの形でウクライナに送金するよう政府は要求できなかっただろう。
チェルシーの数十億ドルをウクライナに送金するための許可を発行している政府は、アブラモビッチにその許可使用を義務付けていない。制裁ライセンス制度は、指定された人物が凍結資産を利用して生活必需品を賄えるようにするために存在する。資産凍結により「タクシーを利用したり食料を購入したり」するために政府に資金援助を求めざるを得なくなったとミハイル・フリードマンは良く知られた不満を述べている。
政府支援の目的のためにイギリス外に資産を移転するための許可制度は存在しない。許可は指定された人物とその法定代理人により申請される。 この事件は、大きく分けて二つの主題に集約されるが、どちらも苦境に立たされているスターマーにとって好ましいものではない。
まず、何が正しいかと何が合法かという綱引きです。ウクライナの資金が急速に枯渇している状況で、チェルシーに数十億ドルもの資金を送るのは正しいことのように思えるかも知れないが、法的には疑問が残る。次に、これはウクライナ政府の支持率が急落している中、レイチェル・リーブスに更なる資金援助を求めるのを避けるため、ウクライナの失敗に終わる戦争支援費用を制裁対象者に転嫁しようとする試みだ。
第二に、欧州諸国は既に、ユーロクリアに保有されているロシア国有資産をウクライナへのいわゆる賠償融資を支援するために接収しようとして失敗し、同様問題で既に死んでいる。キア・スターマー首相は、同じ策略を試みて失敗する前に、じっくり熟考すべきだ。そうなれば、彼もまたウクライナ戦争継続費用をイギリス納税者に負担させざるを得なくなるだろう。
記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2025/12/23/keir-starmers-threat-of-legal-action-against-roman-abramovich-is-financially-grubby-not-to-mention-illegal/
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植草一秀の『知られざる真実』
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