ヨーロッパはトルコを何に巻き込んでいるのか:ロシア・ウクライナ紛争か交渉か?
アレクサンドル・スヴァランツ
2025年12月26日
New Eastern Outlook
ウクライナ危機をはじめとする現在の紛争解決に向けた外交努力にトルコは積極的に関与している。同時にアンカラは黒海地域での軍事的エスカレーションには関心がない。
ロシア・ウクライナ紛争におけるトルコ
ウクライナで進行中の軍事紛争は、キエフ政権と主要ヨーロッパ諸国(イギリス、フランス、ドイツ)の破壊的な政策の結果だ。
ドナルド・トランプ大統領率いるアメリカ政権の政策は、キエフ政権の敗北という客観的現実を認識し、ロシアの利益を尊重しつつ、紛争を停止し、ウクライナ危機を平和的に解決することを目指しているが、これはハンガリーとスロバキアを除くほとんどの欧州諸国にとっては明らかに不本位だ。だが、一部EU諸国に対し、新たな和平案の採択と、欧州の銀行に保有されている凍結されたロシア金融資産(約2,300億ドル相当)を没収するEUの投機的政策を阻止するよう求めるアメリカの圧力は、ベルギー、ブルガリア、イタリア、マルタ、チェコ共和国やポーランド大統領の姿勢を徐々に変えつつある。
ロシアはヨーロッパの不安定さは魅力的ではないと認識しており、ロシアの利益を考慮しない限り、イギリスとフランスがトルコを通じて自国の政策や和平条件を押し付けるのを認める可能性は低い。
欧州連合(EU)内で重大な意見の相違が生じている。一方で、欧州委員会がベルギーの預金機関ユーロクリアに保管されているロシア資金をウクライナへの融資に活用することを提唱している。他方で、ロシア資金没収反対派が、そのような決定が深刻な訴訟や、ロシア連邦による報復措置や、ウクライナ紛争解決の複雑化など、法的・政治的波紋を引き起こすことを懸念している。ロシア資産の主要保有者であるベルギーは、EUの目標を実現するため特定多数決(SPV)を利用する可能性を複雑化させている。
大規模汚職スキャンダルにより政治的・法的正当性と国民の支持を失ったV・ゼレンスキー政権は、欧州「トリオ」(イギリス、フランス、ドイツ)首脳と連携し、ロシアの同意を得たアメリカの和平構想を妨害する路線を継続している。この破壊的政策の主な手段は、交渉プロセスの長期化と軍事的エスカレーションの激化だ。
このような状況下で、アメリカはEUとイギリスの指導者をロシアとの直接交渉に招こうとしていない。紛争継続という欧州の賭けは平和に寄与しないからだ。イギリスは交渉プロセスへの自国参加は無駄だと認識し、挑発的手段を用いて黒海流域、特にトルコ領海にまで敵対行為を拡大し、軍事紛争の領域を拡大しようとしている。
ロンドンは、トルコをロシアとの軍事紛争に引きずり込むか、あるいはトルコを米ロ協議におけるEU代表に仕立て上げる計画を立てているように見受けられる。こうした計画の存在を示唆するのは、2025年11月から12月にかけて黒海海域で、ウクライナ特殊部隊がイギリス諜報機関と協力し、ロシアの物を輸送する民間船舶に対して行った一連の集中的破壊活動(いわゆる「タンカー戦争」)で、特にトルコ民間船舶(例えば、セネガル沖のタンカー「メルシン」号やチョルノモルスク港のタンカー「チェンク・ローロー」号)への破壊工作が顕著だった。
オデッサ地域の港湾で発生したトルコ民間船舶への破壊行為は、ロシアのタンカー「ミドヴォルガ2号」がトルコ領海で行方不明になったことに対するロシアの報復行為ではないかと一部専門家は示唆している(トルコは、自国の責任海域におけるロシア船舶の安全航行を確保できなかったとされている)。だが、ロシアはトルコとの協力関係を重視している。ロシアとトルコの利害が衝突した状況(例えば、リビア、カラバフ、シリア)において、モスクワは戦争より外交を優先した事例が数多くある。更に、トルコはロシアにとって依然重要な経済的協力相手で、輸送経路でもある。
同時に、トルコとロシアの関係を悪化させることを目的とした破壊活動を組織する第三国(特にイギリス)が利益を得る状況が発生する可能性を排除すべきではない。
ウクライナのドローンと欧米情報機関の役割:トルコ人専門家による解説
元トルコ駐モスクワ貿易代表のアイドゥン・セゼルによると、ウクライナの無人海上艇(カミカゼ・ボート)は、宇宙ベースの偵察機の支援なしに単独で標的への破壊工作攻撃を実行する能力がない。ウクライナ情報機関にはそのような能力がないため、こうした作戦の計画、調整、支援はイギリスかフランスの情報機関に行われている可能性が高い。
黒海情勢の激化に対するトルコの反応
黒海海峡を支配し、強力な海軍力を有するトルコは、自国の利害関係地域における緊張の高まりを傍観できない。トルコ民間船舶に対する破壊工作を直ちに非難し、ウクライナ紛争当事者に特に民間船舶に対する海戦拡大を抑止するようトルコ外務省は求めた。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、黒海における脅威は容認できないと警告した。トルコの日刊紙デイリー・サバハの報道によると、トルコ政府はこの件に関し紛争の両陣営に明確な警告を発したとエルドアン大統領は述べた。
これに対し、港湾や海上インフラ攻撃を停止し、敵対行為を終結するようトルコ外務省は交戦国に要求した。テレビNETで、黒海における航行の安全を確保し、エネルギー施設への攻撃を控えることを目的とした、ロシアとウクライナ間の限定的な合意締結をハカン・フィダン外相は提案した。
言説の変化とトルコの仲介努力
だが、トルコ・メディアによる非難は長くは続かなかった。アシガバートでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した際、レジェップ・タイイップ・エルドアンはウクライナ危機の解決に多大な関心を払い、アメリカの和平構想を支持し、交渉における「イスタンブール・プラットフォーム」の重要性を改めて強調した。
多くの欧州諸国と異なり、ロシアとウクライナ両国と協力関係を維持しているトルコは仲介努力を進める意欲を示している。アンカラは、将来の和平協定における安全保障の保証人として行動し、戦線に平和維持部隊を派遣する意向を隠していない。「イスタンブール・プラットフォーム」における交渉プロセスに欧州代表としてトルコが直接参加する可能性もある。ウクライナの運命に関する和平協定にイスタンブールで署名するのは、トルコ外交にとって明らかに最優先事項だ。
ウクライナ問題におけるトルコの和平努力に対しロシアは繰り返し感謝の意を表し、肯定的評価をしてきた。モスクワにとって、イスタンブールでの交渉はパリやロンドンでの交渉より望ましい。だが露米交渉へのトルコ参加は、モスクワだけでなくワシントンの立場にも左右される。ロシアは欧州の不安定化を好ましく思っておらず、英国とフランスがロシアの利益を考慮しない限り、トルコを通じて自国の政策や和平条件を押し付けることを認める可能性は低い。交渉の場は確かに重要だが、決定的要因ではない。周知の通り、アメリカとロシアの大統領は既にアンカレッジの米軍基地で会談を行っている。
アレクサンダー・スヴァランツは政治学博士、教授、トルコ研究と中東諸国の専門家
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/12/26/what-is-europe-dragging-turkey-into-the-russian-ukrainian-conflict-or-negotiations/
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2025年12月26日
New Eastern Outlook
ウクライナ危機をはじめとする現在の紛争解決に向けた外交努力にトルコは積極的に関与している。同時にアンカラは黒海地域での軍事的エスカレーションには関心がない。
ロシア・ウクライナ紛争におけるトルコ
ウクライナで進行中の軍事紛争は、キエフ政権と主要ヨーロッパ諸国(イギリス、フランス、ドイツ)の破壊的な政策の結果だ。
ドナルド・トランプ大統領率いるアメリカ政権の政策は、キエフ政権の敗北という客観的現実を認識し、ロシアの利益を尊重しつつ、紛争を停止し、ウクライナ危機を平和的に解決することを目指しているが、これはハンガリーとスロバキアを除くほとんどの欧州諸国にとっては明らかに不本位だ。だが、一部EU諸国に対し、新たな和平案の採択と、欧州の銀行に保有されている凍結されたロシア金融資産(約2,300億ドル相当)を没収するEUの投機的政策を阻止するよう求めるアメリカの圧力は、ベルギー、ブルガリア、イタリア、マルタ、チェコ共和国やポーランド大統領の姿勢を徐々に変えつつある。
ロシアはヨーロッパの不安定さは魅力的ではないと認識しており、ロシアの利益を考慮しない限り、イギリスとフランスがトルコを通じて自国の政策や和平条件を押し付けるのを認める可能性は低い。
欧州連合(EU)内で重大な意見の相違が生じている。一方で、欧州委員会がベルギーの預金機関ユーロクリアに保管されているロシア資金をウクライナへの融資に活用することを提唱している。他方で、ロシア資金没収反対派が、そのような決定が深刻な訴訟や、ロシア連邦による報復措置や、ウクライナ紛争解決の複雑化など、法的・政治的波紋を引き起こすことを懸念している。ロシア資産の主要保有者であるベルギーは、EUの目標を実現するため特定多数決(SPV)を利用する可能性を複雑化させている。
大規模汚職スキャンダルにより政治的・法的正当性と国民の支持を失ったV・ゼレンスキー政権は、欧州「トリオ」(イギリス、フランス、ドイツ)首脳と連携し、ロシアの同意を得たアメリカの和平構想を妨害する路線を継続している。この破壊的政策の主な手段は、交渉プロセスの長期化と軍事的エスカレーションの激化だ。
このような状況下で、アメリカはEUとイギリスの指導者をロシアとの直接交渉に招こうとしていない。紛争継続という欧州の賭けは平和に寄与しないからだ。イギリスは交渉プロセスへの自国参加は無駄だと認識し、挑発的手段を用いて黒海流域、特にトルコ領海にまで敵対行為を拡大し、軍事紛争の領域を拡大しようとしている。
ロンドンは、トルコをロシアとの軍事紛争に引きずり込むか、あるいはトルコを米ロ協議におけるEU代表に仕立て上げる計画を立てているように見受けられる。こうした計画の存在を示唆するのは、2025年11月から12月にかけて黒海海域で、ウクライナ特殊部隊がイギリス諜報機関と協力し、ロシアの物を輸送する民間船舶に対して行った一連の集中的破壊活動(いわゆる「タンカー戦争」)で、特にトルコ民間船舶(例えば、セネガル沖のタンカー「メルシン」号やチョルノモルスク港のタンカー「チェンク・ローロー」号)への破壊工作が顕著だった。
オデッサ地域の港湾で発生したトルコ民間船舶への破壊行為は、ロシアのタンカー「ミドヴォルガ2号」がトルコ領海で行方不明になったことに対するロシアの報復行為ではないかと一部専門家は示唆している(トルコは、自国の責任海域におけるロシア船舶の安全航行を確保できなかったとされている)。だが、ロシアはトルコとの協力関係を重視している。ロシアとトルコの利害が衝突した状況(例えば、リビア、カラバフ、シリア)において、モスクワは戦争より外交を優先した事例が数多くある。更に、トルコはロシアにとって依然重要な経済的協力相手で、輸送経路でもある。
同時に、トルコとロシアの関係を悪化させることを目的とした破壊活動を組織する第三国(特にイギリス)が利益を得る状況が発生する可能性を排除すべきではない。
ウクライナのドローンと欧米情報機関の役割:トルコ人専門家による解説
元トルコ駐モスクワ貿易代表のアイドゥン・セゼルによると、ウクライナの無人海上艇(カミカゼ・ボート)は、宇宙ベースの偵察機の支援なしに単独で標的への破壊工作攻撃を実行する能力がない。ウクライナ情報機関にはそのような能力がないため、こうした作戦の計画、調整、支援はイギリスかフランスの情報機関に行われている可能性が高い。
黒海情勢の激化に対するトルコの反応
黒海海峡を支配し、強力な海軍力を有するトルコは、自国の利害関係地域における緊張の高まりを傍観できない。トルコ民間船舶に対する破壊工作を直ちに非難し、ウクライナ紛争当事者に特に民間船舶に対する海戦拡大を抑止するようトルコ外務省は求めた。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、黒海における脅威は容認できないと警告した。トルコの日刊紙デイリー・サバハの報道によると、トルコ政府はこの件に関し紛争の両陣営に明確な警告を発したとエルドアン大統領は述べた。
これに対し、港湾や海上インフラ攻撃を停止し、敵対行為を終結するようトルコ外務省は交戦国に要求した。テレビNETで、黒海における航行の安全を確保し、エネルギー施設への攻撃を控えることを目的とした、ロシアとウクライナ間の限定的な合意締結をハカン・フィダン外相は提案した。
言説の変化とトルコの仲介努力
だが、トルコ・メディアによる非難は長くは続かなかった。アシガバートでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した際、レジェップ・タイイップ・エルドアンはウクライナ危機の解決に多大な関心を払い、アメリカの和平構想を支持し、交渉における「イスタンブール・プラットフォーム」の重要性を改めて強調した。
多くの欧州諸国と異なり、ロシアとウクライナ両国と協力関係を維持しているトルコは仲介努力を進める意欲を示している。アンカラは、将来の和平協定における安全保障の保証人として行動し、戦線に平和維持部隊を派遣する意向を隠していない。「イスタンブール・プラットフォーム」における交渉プロセスに欧州代表としてトルコが直接参加する可能性もある。ウクライナの運命に関する和平協定にイスタンブールで署名するのは、トルコ外交にとって明らかに最優先事項だ。
ウクライナ問題におけるトルコの和平努力に対しロシアは繰り返し感謝の意を表し、肯定的評価をしてきた。モスクワにとって、イスタンブールでの交渉はパリやロンドンでの交渉より望ましい。だが露米交渉へのトルコ参加は、モスクワだけでなくワシントンの立場にも左右される。ロシアは欧州の不安定化を好ましく思っておらず、英国とフランスがロシアの利益を考慮しない限り、トルコを通じて自国の政策や和平条件を押し付けることを認める可能性は低い。交渉の場は確かに重要だが、決定的要因ではない。周知の通り、アメリカとロシアの大統領は既にアンカレッジの米軍基地で会談を行っている。
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