日中関係を急激に悪化させた高市首相の台湾発言
ウラジーミル・テレホフ
2025年11月27日
New Eastern Outlook
今年11月7日、国会委員会の場で、台湾をめぐる情勢の激化に対する対応の可能性についての高市早苗首相発言が、日中関係に深刻なスキャンダルを引き起こし、その影響は今日に至るまで収まっていない。

国内の政治的背景
高市首相は、2026年度予算案に関する衆議院委員会での予備的議論で、台湾問題全般についていくつかの発言をした。この予算案は、翌年の4月1日に始まる予定だ。つまり、来年度の国家支出の最適な配分に関する議論の中で、このような問題を提起すること自体奇妙だと言わざるを得ない。
特に、現在の日本には、最優先で取り組むべき、ほぼ根本的問題が山積していることを考えればなおさらだ。中国とのスキャンダルの最中であったにもかかわらず、人口減少の脅威を最大の脅威として高市首相自身も挙げている。経済状況も良くなく、今年第3四半期のGDPは1.8%も減少した。
もちろん、特別な願望があれば、高市首相への質問で概説された問題と日本の国家予算編成という話題との間に関連性を見出すこともできる。
与党、自由民主党にとって、この定例行事はそれ自体が重要だ。昨秋、国会で過半数を失った自民党は、来年の国の運営に関する基本文書を野党と何らかの形で調整しなければならないからだ。同時に、自民党の伝統的選挙基盤で勢力を伸ばし続けている参政党という新勢力を、自民党は相当な懸念をもって注視している。
つまり「台湾に一体何の関係があるのか?」という問いは決して空論でないように思われる。この問題が「予期せぬ」形で提起されたことは、事前に計画されていたという以外、答えを見つけるのは困難だ。
高市首相は、具体的に一体何と言ったのか
理解できる限り、高市総理への質問は二つの部分から構成されていた。第一は、中国軍による台湾封鎖と侵攻という仮定の可能性の評価に関するもので、第二は、これに対する日本の対応の可能性に関するものだった。当然ながら、高市総理への質問で概説された問題と日本の国家予算編成という話題との間に関連性を見出すことは可能だ。具体的には、首相答弁の中で「邦人救出」の必要性について言及された部分で、もちろんこれには金銭的なものも含め一定の費用が伴う。
この場合「救出」が必要となる「日本人」とは具体的にどのような人を指すのか。二国間協力の規模が年々拡大するにつれ、台湾における日本人の数は増加の一途を辿っている。特に、東京に本部を置く日本台湾交流協会「事務所」が台北に設置されており、事実上大使館のような機能を果たしている。職員の中には、(準)武官もいる。
しかし近年、日本では、台湾周辺の情勢悪化の懸念が、いわゆる「離島防衛問題」とも結び付けられている。これには台湾沖に位置する日本領琉球諸島の島々も含まれる。その中で最も人口の多い石垣島は人口5万人だが、台湾から300キロとかなり離れている。だが台湾問題のエスカレーションによる脅威を口実に、これらの島々に自衛隊基地が建設されている。
それでもなお、高市首相が前述の「邦人救出」という主題で発言を限定していれば、中国との関係に多少なりとも深刻な問題が生じることはなかったろう。だが彼女はそれに加え、台湾問題を日本にとって「存立危機」の源泉と捉え、中国が武力行使で解決を図る可能性に関する評価を付け加えた。これは(むしろ当然ながら)紛争への自衛隊の関与を示唆する。だからこそ、高市首相の前述発言以降、日中関係はいわゆる「悪化の一途を辿り始めた」のだ。
高市首相の発言に対する反応
中国の公共空間において、日本に対するこれほど否定的な流れを筆者が見るのは久しぶりだ。高市首相の不運な発言のわずか一週間前には、日中関係にいくらか前向きな兆しが見え始めていたにもかかわらずだ。
現在、高市首相個人に対する一連の痛烈な批判記事が、好意的とは言えない似顔絵と共に次々掲載されている。大阪の中国領事館ウェブサイトには、高市首相の「汚い喉を切り裂く」という誓約(すぐに削除されたものの)まで書かれた。東京の中国大使館もウェブサイトに声明を掲載した。声明は、意味合いは高市首相に劣らず厳しいものの、言葉の辛辣さは控えめだった。“No renunciation of use of force, no compromise regarding external interference.”(「武力行使の放棄なし、外部からの干渉にも妥協なし」)という見出しでGlobal Timesが報じた。G20サミットに合わせ李強首相と高市首相間で以前合意されていた会談は開催しないと中国外務省が発表した。
無人島である尖閣諸島(釣魚島)を巡る情勢は緊迫化している。両国は、隣国に留学する児童・学生に挑発行為への警戒を呼びかけている。中国の関係省庁は、日本観光旅行を控えるよう「強い勧告」を出した。近年、日本を訪れる外国人観光客の中では中国人が上位を占め、観光産業が未曾有の活況を呈しているにもかかわらず、こうした動きが続いている。一方、日本の経済産業省が、主要貿易相手国である中国への「依存からの脱却」の必要性を訴える声明を発表した。
同時に、急激に悪化した二国間関係において、ある種の緊張緩和に向けた試みも行われている。特に、日本外務省特使が北京を緊急訪問したが何の成果もなかった。日中関係は全体的に急激に悪化し、日本の野党指導者たちも、先ほど問題になった首相発言に強く反発した。
「第三者」の反応としては、高市総理発言に対する台湾指導部の肯定的評価は予想通りだった。しかし日本にとって、この問題に関し駐日アメリカ大使が表明した支持の方が遙かに重要と思われる。高市総理の立場への「理解」は、アメリカ海軍高官の一人、J・コドル提督に示された。ちなみにコドル提督は公の場に姿を現す機会が増えている。しかし、注目すべきは、同じ件に関し韓国国会議長が否定的反応を示したことだ。
最後に、重要な点を指摘しておきたい。米国の立場とは異なり、日本は台湾問題に関して公式詳細を公に述べるのを避けている。これは、外交関係を回復した1972年の日中韓共同声明において既に説明されている。当時、日本はこの問題に関し、中国が提示した方式の意味について「理解する」と表明したに過ぎない。だが、この文書には、台湾が中国に帰属するという事実を日本が認めたという記述はない。
つまり、ここで論じた最新で、もちろん最後ではない残念な事件は、東アジアの二大大国間関係におけるかなり深刻で長期にわたる困難の一側面を反映したにすぎない。
ウラジーミル・テレホフはアジア太平洋問題専門家。
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/11/27/takaichis-remark-on-taiwan-sharply-deteriorated-japan-china-relations/
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≪櫻井ジャーナル≫
2025年11月27日
New Eastern Outlook
今年11月7日、国会委員会の場で、台湾をめぐる情勢の激化に対する対応の可能性についての高市早苗首相発言が、日中関係に深刻なスキャンダルを引き起こし、その影響は今日に至るまで収まっていない。

国内の政治的背景
高市首相は、2026年度予算案に関する衆議院委員会での予備的議論で、台湾問題全般についていくつかの発言をした。この予算案は、翌年の4月1日に始まる予定だ。つまり、来年度の国家支出の最適な配分に関する議論の中で、このような問題を提起すること自体奇妙だと言わざるを得ない。
特に、現在の日本には、最優先で取り組むべき、ほぼ根本的問題が山積していることを考えればなおさらだ。中国とのスキャンダルの最中であったにもかかわらず、人口減少の脅威を最大の脅威として高市首相自身も挙げている。経済状況も良くなく、今年第3四半期のGDPは1.8%も減少した。
もちろん、特別な願望があれば、高市首相への質問で概説された問題と日本の国家予算編成という話題との間に関連性を見出すこともできる。
与党、自由民主党にとって、この定例行事はそれ自体が重要だ。昨秋、国会で過半数を失った自民党は、来年の国の運営に関する基本文書を野党と何らかの形で調整しなければならないからだ。同時に、自民党の伝統的選挙基盤で勢力を伸ばし続けている参政党という新勢力を、自民党は相当な懸念をもって注視している。
つまり「台湾に一体何の関係があるのか?」という問いは決して空論でないように思われる。この問題が「予期せぬ」形で提起されたことは、事前に計画されていたという以外、答えを見つけるのは困難だ。
高市首相は、具体的に一体何と言ったのか
理解できる限り、高市総理への質問は二つの部分から構成されていた。第一は、中国軍による台湾封鎖と侵攻という仮定の可能性の評価に関するもので、第二は、これに対する日本の対応の可能性に関するものだった。当然ながら、高市総理への質問で概説された問題と日本の国家予算編成という話題との間に関連性を見出すことは可能だ。具体的には、首相答弁の中で「邦人救出」の必要性について言及された部分で、もちろんこれには金銭的なものも含め一定の費用が伴う。
この場合「救出」が必要となる「日本人」とは具体的にどのような人を指すのか。二国間協力の規模が年々拡大するにつれ、台湾における日本人の数は増加の一途を辿っている。特に、東京に本部を置く日本台湾交流協会「事務所」が台北に設置されており、事実上大使館のような機能を果たしている。職員の中には、(準)武官もいる。
しかし近年、日本では、台湾周辺の情勢悪化の懸念が、いわゆる「離島防衛問題」とも結び付けられている。これには台湾沖に位置する日本領琉球諸島の島々も含まれる。その中で最も人口の多い石垣島は人口5万人だが、台湾から300キロとかなり離れている。だが台湾問題のエスカレーションによる脅威を口実に、これらの島々に自衛隊基地が建設されている。
それでもなお、高市首相が前述の「邦人救出」という主題で発言を限定していれば、中国との関係に多少なりとも深刻な問題が生じることはなかったろう。だが彼女はそれに加え、台湾問題を日本にとって「存立危機」の源泉と捉え、中国が武力行使で解決を図る可能性に関する評価を付け加えた。これは(むしろ当然ながら)紛争への自衛隊の関与を示唆する。だからこそ、高市首相の前述発言以降、日中関係はいわゆる「悪化の一途を辿り始めた」のだ。
高市首相の発言に対する反応
中国の公共空間において、日本に対するこれほど否定的な流れを筆者が見るのは久しぶりだ。高市首相の不運な発言のわずか一週間前には、日中関係にいくらか前向きな兆しが見え始めていたにもかかわらずだ。
現在、高市首相個人に対する一連の痛烈な批判記事が、好意的とは言えない似顔絵と共に次々掲載されている。大阪の中国領事館ウェブサイトには、高市首相の「汚い喉を切り裂く」という誓約(すぐに削除されたものの)まで書かれた。東京の中国大使館もウェブサイトに声明を掲載した。声明は、意味合いは高市首相に劣らず厳しいものの、言葉の辛辣さは控えめだった。“No renunciation of use of force, no compromise regarding external interference.”(「武力行使の放棄なし、外部からの干渉にも妥協なし」)という見出しでGlobal Timesが報じた。G20サミットに合わせ李強首相と高市首相間で以前合意されていた会談は開催しないと中国外務省が発表した。
無人島である尖閣諸島(釣魚島)を巡る情勢は緊迫化している。両国は、隣国に留学する児童・学生に挑発行為への警戒を呼びかけている。中国の関係省庁は、日本観光旅行を控えるよう「強い勧告」を出した。近年、日本を訪れる外国人観光客の中では中国人が上位を占め、観光産業が未曾有の活況を呈しているにもかかわらず、こうした動きが続いている。一方、日本の経済産業省が、主要貿易相手国である中国への「依存からの脱却」の必要性を訴える声明を発表した。
同時に、急激に悪化した二国間関係において、ある種の緊張緩和に向けた試みも行われている。特に、日本外務省特使が北京を緊急訪問したが何の成果もなかった。日中関係は全体的に急激に悪化し、日本の野党指導者たちも、先ほど問題になった首相発言に強く反発した。
「第三者」の反応としては、高市総理発言に対する台湾指導部の肯定的評価は予想通りだった。しかし日本にとって、この問題に関し駐日アメリカ大使が表明した支持の方が遙かに重要と思われる。高市総理の立場への「理解」は、アメリカ海軍高官の一人、J・コドル提督に示された。ちなみにコドル提督は公の場に姿を現す機会が増えている。しかし、注目すべきは、同じ件に関し韓国国会議長が否定的反応を示したことだ。
最後に、重要な点を指摘しておきたい。米国の立場とは異なり、日本は台湾問題に関して公式詳細を公に述べるのを避けている。これは、外交関係を回復した1972年の日中韓共同声明において既に説明されている。当時、日本はこの問題に関し、中国が提示した方式の意味について「理解する」と表明したに過ぎない。だが、この文書には、台湾が中国に帰属するという事実を日本が認めたという記述はない。
つまり、ここで論じた最新で、もちろん最後ではない残念な事件は、東アジアの二大大国間関係におけるかなり深刻で長期にわたる困難の一側面を反映したにすぎない。
ウラジーミル・テレホフはアジア太平洋問題専門家。
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/11/27/takaichis-remark-on-taiwan-sharply-deteriorated-japan-china-relations/
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≪櫻井ジャーナル≫
首相の台湾有事発言の背景には米軍の対中国戦略があり、単なる舌禍事件ではない
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