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2025年10月29日 (水)

中国は希土類を巡って争う用意ができている



ロレンツォ・マリア・パチーニ
2025年10月28日
Strategic Culture Foundation

 世界最大の経済大国ともなれば、戦いに備えなければならない。

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 世界最大の経済大国ともなれば、戦いに備えなければならない。

 希土類元素における優位性を確保するために中国は戦う準備ができている。

 ドナルド・トランプ大統領によるガザ地区でのいわゆる「強制」停戦、20項目の「和平案」、西アジアにおける外交戦略に世界の注目が集まる中、北京の予想外の決定が、世界経済の地図と米中関係の枠組みを突如塗り替えた。10月9日、中国商務省が希土類元素の輸出に厳しい制限を課す新たな規制を発表した。これは防衛産業と半導体産業に直接的影響を与え、既に脆弱だったワシントンと北京の緊張緩和を崩壊させるものだ。

 北京の発表はトランプ大統領を激怒させたと言って過言ではない。翌日、トランプ大統領はTruth Socialで攻撃し、11月1日から中国からの輸入品に100%の追加関税を課すと宣言した。トランプ大統領は中国を「世界を人質に取っている」と非難し「中国はレアアースを巡り全ての国を困難な立場に追い込んでいる。ガザ和平計画が進行中のこの時期に、これは特に不適切だ!」と綴った。

 APEC首脳会議に合わせて予定され大いに期待されていた習近平国家主席とトランプ大統領の会談は今のところ実現しそうにない(あるいは何かひねりがあるのだろうか?)。

 しかし、具体的に一体何について話しているのだろう?
 
希土類元素の重要性

 化学的観点から見ると、希土類元素は17種類の金属物質のグループを指す。周期表のランタノイド系列に属する15種類の元素に加え、スカンジウムとイットリウムが含まれる。誤解を招く名称だが、これら元素は地殻中に比較的豊富に存在している。「希少」なのは、商業的に利用可能な濃度が稀で、分離工程が極めて複雑なためだ。希土類元素は現代技術に不可欠な存在で、電気自動車のバッテリー、風力タービン、スマートフォンや戦闘機のレーダーなどの高度な軍事機器に使用されている。

 米国地質調査所(USGS)によると、これら元素がなければ、人工知能(AI)、防衛技術、再生可能エネルギー・システム用半導体の生産は完全に停止してしまう。風力タービン1基には約300キロのネオジムが必要で、F-35戦闘機1機には数千ドル相当の希土類元素が使われている。

 中国はこの分野で圧倒的な地位を占めている。USGSの2025年版報告書によると、世界の埋蔵量約36%、約4,400万トンが中国に集中しており、次いでベトナム(22%)、ブラジル(18%)となっている。生産量においては、この不均衡は更に顕著で、2024年には中国が世界の生産量(27万トン)の約70%を占め、2025年もこの数字は安定すると予想されている。精製能力に関しては中国の優位性は圧倒的で、世界全体の90%以上を占めている。

 この優位性は偶然ではない。1980年代以降、中国政府は国家補助金、低コストの採掘、そして最大17%の輸出割引を通じて、この産業を支援してきた。対照的に、アメリカは総埋蔵量の僅か2%しか保有しておらず、輸入の約70%を中国に依存している。ワシントンは代替サプライチェーン構築に取り組んでいるが、2030年までに本物の多様化を実現するのは極めて困難だと専門家は一致している。従って、中国の新たな輸出制限は、特に脆弱な点を突いていると言えるだろう。
 
中国の採掘技術

 過去20年間、中国は世界のレアアース分野における支配的地位を確固たるものにし、世界生産量の60%以上で、下流の精製・加工においては更に高い割合を占めている。この優位性は、単に資源の豊富さだけでなく、エネルギー転換と世界的な技術安全保障にとって戦略的とみなされるこの分野において、中国が構造的優位性を維持してきた産業政策と、技術革新と環境戦略の協調的な組み合わせによるものだ。

 中国の希土類元素抽出技術は、硬岩鉱山からの抽出とイオン性粘土鉱床からの抽出という2つの主な手法に分かれている。

 前者の場合、中国は従来の露天掘りおよび地下採掘方法を採用し、爆薬と機械的破砕技術を用いてバストネーサイト、モナザイト、ゼノタイムなどの鉱物を採掘している。しかし、革新性はその後の段階にある。最初の分離は選択的かつ高強度の磁気浮上法によって行われ、その後、希酸を用いた化学的前処理により原鉱の収率を最大化している。

 江西省、広東省、広西チワン族自治区などの南部地域に典型的に見られるイオン性粘土鉱床で用いられる工程は、より高度だ。これらの場合、希土類元素は結晶構造ではなく粘土表面に吸着されているため、より繊細で化学的に制御された抽出技術が必要になる。中国は、アンモニウム塩、硫酸塩、または塩化物を含む溶液を土壌に注入する原位置浸出法(in-situ leching)の利用を完成させた。この技術により、大量の岩石を掘削したり輸送したりすることなく、希土類元素イオンが得られる。この方法は環境への影響と人件費を削減するが、地下水汚染のリスクを伴う。現在では、モニタリング・プロトコルと地質化学的バリアにより、このリスクは部分的に軽減されている。

 中国の真の技術力は分離・精製段階にあり、中国はそこで非常に効率的な手法を開発している。鍵となる技術は、希土類元素同士を分離する多重溶媒抽出だ。この工程は数千段階の分離段階を経て行われ、酸と有機溶媒の混合物が閉ループシステム内で循環することで、99.99%を超える純度を実現している。

 同時に、包頭希土類研究所や中国科学院プロセス工学研究所といった研究センターでは、イオン交換樹脂やナノ濾過膜を基盤とした革新的技術を導入し、試薬の消費量を削減し、回収効率を向上させている。これらの技術は、酸の大量使用を伴う環境汚染の大きい手法に徐々に取って代わり、この分野の持続可能性向上に貢献している。

 これら全てが、人工知能とモノのインターネット(IoT)システムを鉱業オペレーションに統合する高度なデジタル化プロセスへと明らかに移行しつつある。リアルタイム・センサー、機械学習アルゴリズム、予測モデルを活用することで、企業は試薬の使用量を最適化し、鉱物の挙動を予測し、抽出フローを監視して廃棄物とエネルギー経費を削減することが可能になった。

 中国北方希土類集団やミンメタルズ希土類有限公司などのこの分野の大手企業は、自律走行車、地質マッピング用ドローン、化学浸出作業用遠隔操作システムなどを含む鉱業インテリジェンス・ソリューションを導入している。これらイノベーションは「中国製造2025」計画に示された国家産業近代化戦略の一環で、グリーン経済に不可欠な材料分野における中国の技術的リーダーシップを強化することを目指している。

 数十年にわたる集中的採掘により甚大な生態系被害がもたらされたことを受け、レアアース関連の環境プロトコルも大幅に見直しが行われた。特に、トリウムとウランを含む廃水や放射性廃棄物の処理に関し、より厳格な規制が導入された。同時に、永久磁石、触媒、使用済み電池に湿式製錬法と乾式製錬法を適用するリサイクルチェーンが開発された。この「都市型採掘」戦略により、貴重資源の回収が可能となり、新規鉱床への依存度を低減し、レアアースセクター全体の環境影響を軽減している。

 これにより、中国は、生産能力(規模は膨大で依然比類のないものだ)だけでなく、垂直統合型サプライチェーンにおいても優位性を獲得している。この統合モデルにより、中国は原材料だけでなく、風力発電、エレクトロニクス、電気自動車、防衛といった戦略分野におけるグローバルサプライチェーンや環境負荷の少ない最先端技術の面でも優位性を獲得している。
 
中国の新たな法令は地政学的メッセージ

 10月9日の大統領令は「国家安全保障」を理由に輸出制限を正当化している。トランプ大統領の関税への報復として2025年4月に導入された当初の制限は、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムの7元素を対象にしていた。10月の発表では、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ユーロピウム、イッテルビウムの5元素が新たに追加され、輸出許可の対象となる元素の総数は12になった。また、これらの許可はレイセオンやロッキード・マーティンなどアメリカの大手防衛産業請負業者には発行されないこと、制裁対象となっている通信市場のリーダーで、防衛産業請負業者でもあるファーウェイを含む中国企業も保護されることが明確にされた。

 中国の新たな計画は単なる経済的な決定にとどまらず明確な地政学的メッセージを発しているのは明らかだ。北京は天然資源における東洋の優位性を主張して欧米諸国の技術的主張に対抗しようと試みており、実際、中国は長年にわたり、特に2010年の対日禁輸措置で、レアアースを地政学的手段として利用してきた。アメリカの防衛産業は依然として中国原料に大きく依存しており、新たな輸出制限は生産ラインを麻痺させる可能性がある。

 一方、トランプは彼最大の懸念を露呈している。それは「アメリカ第一主義」経済が国内インフレを加速させ逆効果になる可能性だ。こうした事態への報復は中国本土沿岸から僅か数十キロ沖合、アメリカ体制のあらゆる政党が切望する台湾で起きるかもしれない。

 この断固たる行動により、北京は対立の舞台を自らが選んだ場所へ移した。たとえ習近平国家主席とトランプ大統領の韓国での会談が最終的に実現したとしても、APEC首脳会議が外交と経済戦争が激突する新たな戦場になるのは既に明らかだ。

記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2025/10/28/china-ready-fight-over-rare-earths/

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 The Mearsheimer Lens
URGENT: China Weaponizes Rare Earths – Washington STRIKES BACK! | Prof. John Mearsheimer 31:11
 多数コメントが寄せられているが、今回「意見に賛成」多数派ではさそう。

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