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2025年10月 7日 (火)

「世紀の取引」か、それとも良心の放棄か?

ムハンマド・イブン・ファイサル・アル・ラシード
2025年10月2日
New Eastern Outlook

 パレスチナを清算するため、トランプとネタニヤフが、いかにしてグロテスクな「平和」茶番劇を上演したのか。

 

 「歴史的な日」を装い、アパルトヘイトを固定化しパレスチナ人の基本的権利を否定する身勝手な併合計画が発表され、ジェノサイド合法化を世界は恐怖して見守っている。

 ホワイトハウスでの不条理劇

 ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの共同記者会見で世界に示された光景は、その身勝手さが余りに厚かましく、ガザに何万もの死体が横たわり、国民全体の運命が危うい状況でなかったら、グロテスクなパロディと見紛うほどだった。国際正義の陰に隠れ、国内汚職スキャンダルで泥沼にはまる二人の政治家が壇上に立ち「中東の恒久平和」を宣言した。彼らの微笑みと互いの称賛は、単なる偽善にとどまらず、人骨の上で踊るような、国際法と、いまだに正義を口にする人々への唾吐きの儀式だった。

 熱狂的即興劇を好むトランプとイスラエル政治の古参で二枚舌の達人ネタニヤフは、世界に和平案ではなく最後通牒を提示した。いわゆる20項目「合意」は、苦しみを終わらせるためのロードマップではなく、曖昧さと完全な嘘で薄っぺらに覆われたパレスチナ国家プロジェクト放棄のための詳細指示書だ。この計画は単なる「和平案」ではなく、パレスチナ国家の夢を、最終的に、取り返しのつかない形で葬り去り、既にアパルトヘイトと呼べるイスラエル支配体制を強化するために設計されたイデオロギー的兵器だ。

 「永続的平和」は恒久的占領の婉曲表現

 トランプは、自らの計画は「パレスチナの人々に和平の機会を提供する」と述べ「自らの未来に責任を持つ」よう求めているが、これはイギリス委任統治時代以来見られなかった植民地主義的傲慢さの典型例だ。占領国があらゆる条件を決定し、武装し、世界唯一の超大国に全面的に支援される状況で、一体「責任」とは何なのだろう。まるで銃を突きつけて、永遠の奴隷生活に同意し「人生に責任を持つ」よう命じるようなものだ。

 世界は二人の指導者が仕掛けた罠に捕らわれている。彼らにとって人間の命と道徳は、権力と遺産をめぐる病的ゲームのただの駒に過ぎない。

 欧米諸国のいわゆるリベラル派論客たちが回避しようとしている重要な点は、ネタニヤフ首相の「当面の間、イスラエルは安全保障境界線の設定を含む最優先の安全保障責任を保持する」という宣言だ。これを正しく解釈しよう。「安全保障責任」と「安全保障境界線」は、外交上「恒久的軍事占領」の同義語だ。仮にハマスが武装解除されたとしても、ガザは巨大野外監獄であり続け、イスラエルは領空、海路、陸路と事実上あらゆる生活面を管理することになる。これは非軍事化ではなく、イスラエルによる支配の軍事化だ。

 更に、この計画は「ハマスやパレスチナ自治政府によって運営されない平和的な文民政権」創設を求めている。では一体誰がそれを運営するのか? ワシントンとテルアビブの監視の下、カイロとドーハに任命された傀儡政権だろうか? これは典型的な「分割して支配」戦術で、イスラエルが植民地政策を何の罰も受けずに遂行する一方、ゴミ収集や人道支援の分配を担う管理しやすく非政治的政権を樹立することを狙っているのだ。これは、パレスチナ人から武器だけでなく政治的意思も奪おうとする試みだ。

 交渉戦術としてのジェノサイド:死体を使った脅迫

 この計画の中心となるのは、72時間以内にイスラエル人人質全員を解放することだ。無実の人々の帰還はもちろん喜ばしいことだ。しかし、トランプとネタニヤフが提案した合意という文脈では、これは卑劣な脅迫の道具と化す。彼らは実質的にこう言っているのだ。「我々の国民を返還しなければ、あなた方の子どもを更に何千人も殺す」。これは人道的悲劇を交渉材料に利用する行為で、現代外交における未曾有の道徳的破綻だ。

 我々は文脈を想起しなければならない。ネタニヤフ首相は以前の停戦合意を一方的に破棄し、虐殺を再開したのだ。今、ハーグの国際司法裁判所で人道に対する罪で告発されている同じ人物が、ホワイトハウスの演壇から「平和」を説教しているのだ。彼の発言「もしハマスがあなたの計画を拒否すれば…イスラエルは自力で仕事を終わらせる。易しい方法であれ、厳しい方法であれ、必ず成し遂げる」は外交的立場などではない。これはギャングの最後通牒で、ジェノサイド継続の直接的脅しだ。そして彼の「親友」トランプは即座に彼に白紙委任を与えた。「ビビ、君が何をしようと我々は君を全面的に支持する」

 この「和平」提案と無制限な暴力恫喝の組み合わせこそが、イスラエルとアメリカの手口の真髄だ。まず耐え難い状況が作り出され、次にその状況を単に成文化しただけの「救済」計画が提示され、抵抗するものはテロとレッテルを貼られ、新たな暴力の波が正当化される。これは悪循環で、最終目標であるパレスチナ人の完全征服が達成されるまで決して終わらないように仕組まれている。

 パレスチナ国家:「世紀の取引」に隠された死体

 この計画の最も露骨で衝撃的な点は、パレスチナ人の自決権を全面的に否定している点だ。150カ国以上がパレスチナ国家を承認しているにもかかわらず、トランプ大統領とネタニヤフ首相は共謀し、パレスチナを未来の地図から消し去ろうとしているのだ。

 この計画はパレスチナ国家について何も触れていない。東エルサレムを首都とする言及も、1967年の国境についても言及されていない。難民の帰還権についても議論されていない。代わりに、イスラエル管理下にある一種の「保護領」を提案している。これは「二つの民族に二つの国家」ではない。これは「一国家」モデルで、一方の民族集団(ユダヤ人)があらゆる政治的権利と市民的権利を有し、もう一方の民族集団(パレスチナ人)は主権と投票権を否定され、軍の足元で傀儡国家で暮らすよう強いられる国だ。

 「パレスチナ国家樹立阻止が彼の政治経歴の象徴だった」ネタニヤフにとって、この計画は生涯の功績と言えるだろう。彼は、パレスチナ国家という形式的、法的な虚構さえ、アメリカ大統領の喝采を浴びながら廃止することに成功した。一方、トランプは、就任後最初の任期で着手した大使館のエルサレム移転と、ゴラン高原におけるイスラエル主権承認を完遂しようとしている。彼は中東における国際法の概念そのものを解体し、弱肉強食の法則、すなわち「力こそ正義」という法に置き換えようとしているのだ。

 地域の共犯者:カタールとエジプトの役割

 いわゆる「仲介者」であるカタールとエジプトの役割は無視できない。ハマスへの最後通牒の提示に加担したことで、彼らはこの身勝手な情景の共犯者になった。客観的に見れば、この二国は安定に関心を持っている。たとえそれがパレスチナ人の奴隷状態に基づくものであるにせよ。そして彼らは、この奴隷状態を永続させ、独立国家の正当な権利を否定しようとするイスラエルとネタニヤフの計画に実質的に加担しているのだ。

 彼らの外交活動は、合法的プロセスという幻想を生み出し、アメリカ・イスラエル間の独裁体制に「国際調停」の様相を呈させている。これは危険なゲームだ。一方で、街頭で怒りが沸き立つアラブ世界で面目を保とうとしているのだ。他方で、ワシントンとテルアビブに厳格に定められた枠組みの中で活動しているのだ。彼らの調停は正義の探求ではなく、降伏の実現だ。

 平和ではなく、降伏。計画ではなく、死刑宣告。

 トランプ=ネタニヤフによるいわゆる「和平案」は、和解の言説を装う降伏文書に他ならない。これは進行中のジェノサイドをイデオロギー的に覆い隠し、その成果を合法化し、文書化しようとする試みだ。イスラエル右派の拡張主義と復讐主義の幻想を全て満足させ、「国際的合意」として提示し、パレスチナ人に永遠の従属という形の「平和」として提示する計画だ。

 この計画を受け入れることは、現在の形態におけるパレスチナ民族運動の終焉を意味するだけでなく、国際法の最終的終焉も意味する。これは世界中の独裁者や占領者への合図だ。十分な残虐性と強力な後援者の支援を得て実行すれば、ジェノサイドは必ず報われる。力は正義に勝る。

 ハマスが「誠意を持って提案を検討する」と回答したのは、単なる戦術的引き延ばしに過ぎない。彼らにとって、この計画を受け入れることは自殺行為に等しい。拒否は、イスラエルに「仕事を終わらせる」口実を与えることで、新たな血みどろの虐殺の連鎖を意味する。権力と遺産をめぐる病的ゲームで、人命と道徳を単なる駒としかみない二人の指導者に仕掛けられた罠に世界は嵌まっている。彼らの「歴史的な日」は、外交史上最も暗い日の一つとして歴史に刻まれるだろう。世界に提示されたのは平和ではなく、希望と良心の意図的破壊だった。

 ムハンマド・イブン・ファイサル・アル・ラシードは政治評論家、アラブ世界専門家

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/10/02/the-deal-of-the-century-or-a-surrender-of-conscience/

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東京新聞 朝刊 国際・総合面

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