IAEAはイラン核科学者暗殺に加担しているのか? 核不拡散の中核における信頼性の危機
リカルド・マルティンス
2025年7月7日
New Eastern Outlook
国際機関は、監視対象国に対して武器として利用されているのだろうか? 本調査では、イラン核科学者暗殺への共謀疑惑やイスラエルに対する二重基準が蔓延する中、IAEAの信頼性危機を検証する。
IAEAはイラン核科学者暗殺に加担しているのか?
イラン核科学者暗殺は長らくイスラエル諜報活動によるものとされてきたが、最近の暴露は、まさに世界の核安全保障を担う機関、国際原子力機関(IAEA)の中立性に影を落としている。今イランは、ラファエル・グロッシ現事務局長率いるIAEAが、これら標的殺害に無意識のうちに、あるいは共犯者として加担しているのではないか公然と疑問を呈している。
IAEAとイランの協力崩壊は世界の核ガバナンスの潜在的転換点になる可能性がある。
この論争は、イラン情報機関がイスラエルの情報源から入手したとされる機密文書の公開を受けて起きた。この文書は、テヘランとIAEA間の機密通信がCIAやモサドを含む外国情報機関に漏洩されたことを示唆しているようだ。ファルス通信、ロイター通信、国営放送IRIBの報道によれば、これら漏洩により、後に暗殺された複数のイラン人科学者の身元が特定された可能性がある。彼らは白昼堂々、あるいは自宅で暗殺された。もしこれが立証されれば、多国間機関における史上最悪の信頼侵害の一つになるだろう。
漏洩と言説:危険な組み合わせ
IAEAの最新報告書が「イランが核兵器開発能力を有しているかどうかは確認不可能」と結論付けたことで、現在の危機は沸点に達した。これは不遵守宣言ではないものの、声明の曖昧さが、6月中旬にイスラエルとアメリカがイラン核施設を攻撃するのに十分な修辞的口実となった。報告書の文言は曖昧で、ほぼどの国にも当てはまる可能性があり、そしておそらく最も重要なのは、非常に不安定な状況において、政治的に扇動的だとして、広く批判された。
核施設への爆撃は挑発的なだけでなく、国際人道法に違反する違法行為だ。ジュネーブ条約第1議定書第56条は、原子力発電所への攻撃がもたらす壊滅的な人道的・環境的影響を理由に、攻撃を明示的に禁止している。この禁止は、そのような施設が軍事目標とみなされる場合であっても有効だ。1981年の国連安全保障理事会決議487号は、イスラエルによるイラクのオシラク原子炉への攻撃を非難し、この規範を再確認した。従って、IAEAの保障措置下にあるイランの核インフラを標的としたいかなる軍事行動も深刻な法的懸念を引き起こし、危険な前例となるリスクがある。
マスード・ペゼシュキアン大統領やアッバース・アラグチ外相を含むイラン当局者は、グロッシがIAEAの公平性を損なったと非難している。彼らの見解では、グロッシの姿勢は「技術的というより政治的」で、中立性と技術的厳格さに正当性が依存する組織の指揮官として彼が留まるべきかどうかという喫緊の課題を提起している。
批判にさらされる監督
グロッシを批判する人々は、彼の経歴が科学者ではなく外交官であることを指摘する。政治フォーラムやインタビューへの頻繁な参加は、地政学的偏見さえ避けるべき機関に、益々活動家的役割を担う姿勢を示していると彼らは主張する。特に、グロッシの指導力がイスラエルによる攻撃の「口実」となり、彼がこれら攻撃を明確に非難するのに消極的だったことは暗黙の承認に等しいとテヘランは主張している。
内部データによれば、グロッシ事務局長の下、IAEAは2024年だけで運用能力の25%以上をイランに割り当てている。一方、核兵器保有国でありながら核拡散防止条約(NPT)に署名していないイスラエルは、同様の監視を受けていない。ディモナにあるイスラエルの主要施設は、IAEAの管轄権から完全に外れている。
この監視の非対称性は、イランのみならず、フランスのドミニク・ド・ビルパン、イギリスのアラステア・クルック、元アメリカ大使のチャス・フリーマンやクレイグ・マレー、ジェフリー・サックスやジョン・ミアシャイマーなど学者を含む著名外交官や独立評論家からも二重基準という非難を招いており、彼ら全員が、多国間機関の政治化と国際法の選択的適用について懸念を表明している。
グロッシは辞任すべきか?
疑惑の規模と増大する政治的影響を考慮すると、次の疑問が浮かぶ。IAEAの信頼性を守るため、ラファエル・グロッシは辞任すべきだろうか?
一方、彼が欧米諸国の圧力に対処しながら、頑固なイランとの協力関係を維持しようと不可能な外交的状況を切り抜けようとしていると彼を擁護する人々は主張する。他方、批判する人々は、彼のリーダーシップの下、IAEAはイランの信頼を失っただけでなく、中立的な仲裁機関としての評判も損なわれたと主張する。
被害は既に目に見えている。6月下旬、イラン議会はIAEAとのあらゆる協力を停止すると決議した。イランはNPTを脱退してはいないものの、この停止措置によりIAEAはイランの核濃縮活動を監視する能力を事実上失うことになる。これは世界の核の透明性にとって危険な展開だ。
トランプ要因
興味深いことに、最近のNATO首脳会議で、ドナルド・トランプ大統領は、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を、広島と長崎への原爆投下になぞらえ、この作戦を「戦争終結」のための攻撃行為と見なしていることを示唆した。トランプ政権は既に2018年にイラン核合意(JCPOA)から離脱しており、トランプの最近の発言は、法的ニュアンスや制度上の信頼性に対する懸念をほとんど示していない。グロッシ指導力が、意図的か否かに関わらず、この強硬姿勢に同調しているように見えるのは、IAEAの政治化に対する懸念を更に高めている。
なぜイスラエルは立ち入り禁止なのか?
この危機によって生じた最も重大な疑問の一つは、なぜイスラエル核計画は欧米諸国の監視を受けないままなのかだ。
イスラエルはNPT締約国ではなく、核兵器保有を公式に認めたことはない。しかしSIPRIによると、イスラエルは少なくとも80発の核兵器を保有していると推定されている。IAEAはイスラエルのソレク研究施設を査察しているが、ディモナには立ち入りできない。
この問題に関しイスラエルへの圧力を欧米指導者たちは一貫して控えており、しばしば「自衛権」を援用しながら、度重なる国際法違反には沈黙を守っている。こうした文脈において、地域における力の均衡を回復し、イスラエルによる一方的行動を抑止するため、イランが自衛権を行使するのは、論理的に、核抑止力を含む同様の戦略的能力を追求する権利を意味すると言えるだろう。
NPTへの最後の一撃か?
IAEAとイランの協力体制崩壊は、世界の核統治における潜在的転換点となる可能性がある。IAEAの曖昧な文言により正当化され、欧州とアメリカが容認しているイラン攻撃は、核拡散防止条約(NPT)体制の終焉の始まりを告げる可能性がある。
もし世界で最も著名な核監視機関が危ういとみなされ、核兵器を保有する非署名国が条約の監視下にある国々を攻撃するのを許されれば、ルールに基づく秩序は崩壊し、むき出しの地政学的権力が優位に立つことになる。
多国間主義が既に甚大な圧力にさらされている今、IAEAは中立性を回復するため断固たる行動を取らなければならない。それが内部監査、公的説明、あるいは指導者交代を伴うかどうかはまだ分からないが、国際的核不拡散体制の信頼性は、この行動にかかっていると言えるだろう。
リカルド・マルティンスは社会学博士、専門は国際関係論と地政学
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/07/07/is-the-iaea-complicit-in-the-assassination-of-iranian-nuclear-scientists-a-crisis-of-credibility-at-the-heart-of-non-proliferation/
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Judging Freedom
2025年7月7日
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国際機関は、監視対象国に対して武器として利用されているのだろうか? 本調査では、イラン核科学者暗殺への共謀疑惑やイスラエルに対する二重基準が蔓延する中、IAEAの信頼性危機を検証する。
IAEAはイラン核科学者暗殺に加担しているのか?
イラン核科学者暗殺は長らくイスラエル諜報活動によるものとされてきたが、最近の暴露は、まさに世界の核安全保障を担う機関、国際原子力機関(IAEA)の中立性に影を落としている。今イランは、ラファエル・グロッシ現事務局長率いるIAEAが、これら標的殺害に無意識のうちに、あるいは共犯者として加担しているのではないか公然と疑問を呈している。
IAEAとイランの協力崩壊は世界の核ガバナンスの潜在的転換点になる可能性がある。
この論争は、イラン情報機関がイスラエルの情報源から入手したとされる機密文書の公開を受けて起きた。この文書は、テヘランとIAEA間の機密通信がCIAやモサドを含む外国情報機関に漏洩されたことを示唆しているようだ。ファルス通信、ロイター通信、国営放送IRIBの報道によれば、これら漏洩により、後に暗殺された複数のイラン人科学者の身元が特定された可能性がある。彼らは白昼堂々、あるいは自宅で暗殺された。もしこれが立証されれば、多国間機関における史上最悪の信頼侵害の一つになるだろう。
漏洩と言説:危険な組み合わせ
IAEAの最新報告書が「イランが核兵器開発能力を有しているかどうかは確認不可能」と結論付けたことで、現在の危機は沸点に達した。これは不遵守宣言ではないものの、声明の曖昧さが、6月中旬にイスラエルとアメリカがイラン核施設を攻撃するのに十分な修辞的口実となった。報告書の文言は曖昧で、ほぼどの国にも当てはまる可能性があり、そしておそらく最も重要なのは、非常に不安定な状況において、政治的に扇動的だとして、広く批判された。
核施設への爆撃は挑発的なだけでなく、国際人道法に違反する違法行為だ。ジュネーブ条約第1議定書第56条は、原子力発電所への攻撃がもたらす壊滅的な人道的・環境的影響を理由に、攻撃を明示的に禁止している。この禁止は、そのような施設が軍事目標とみなされる場合であっても有効だ。1981年の国連安全保障理事会決議487号は、イスラエルによるイラクのオシラク原子炉への攻撃を非難し、この規範を再確認した。従って、IAEAの保障措置下にあるイランの核インフラを標的としたいかなる軍事行動も深刻な法的懸念を引き起こし、危険な前例となるリスクがある。
マスード・ペゼシュキアン大統領やアッバース・アラグチ外相を含むイラン当局者は、グロッシがIAEAの公平性を損なったと非難している。彼らの見解では、グロッシの姿勢は「技術的というより政治的」で、中立性と技術的厳格さに正当性が依存する組織の指揮官として彼が留まるべきかどうかという喫緊の課題を提起している。
批判にさらされる監督
グロッシを批判する人々は、彼の経歴が科学者ではなく外交官であることを指摘する。政治フォーラムやインタビューへの頻繁な参加は、地政学的偏見さえ避けるべき機関に、益々活動家的役割を担う姿勢を示していると彼らは主張する。特に、グロッシの指導力がイスラエルによる攻撃の「口実」となり、彼がこれら攻撃を明確に非難するのに消極的だったことは暗黙の承認に等しいとテヘランは主張している。
内部データによれば、グロッシ事務局長の下、IAEAは2024年だけで運用能力の25%以上をイランに割り当てている。一方、核兵器保有国でありながら核拡散防止条約(NPT)に署名していないイスラエルは、同様の監視を受けていない。ディモナにあるイスラエルの主要施設は、IAEAの管轄権から完全に外れている。
この監視の非対称性は、イランのみならず、フランスのドミニク・ド・ビルパン、イギリスのアラステア・クルック、元アメリカ大使のチャス・フリーマンやクレイグ・マレー、ジェフリー・サックスやジョン・ミアシャイマーなど学者を含む著名外交官や独立評論家からも二重基準という非難を招いており、彼ら全員が、多国間機関の政治化と国際法の選択的適用について懸念を表明している。
グロッシは辞任すべきか?
疑惑の規模と増大する政治的影響を考慮すると、次の疑問が浮かぶ。IAEAの信頼性を守るため、ラファエル・グロッシは辞任すべきだろうか?
一方、彼が欧米諸国の圧力に対処しながら、頑固なイランとの協力関係を維持しようと不可能な外交的状況を切り抜けようとしていると彼を擁護する人々は主張する。他方、批判する人々は、彼のリーダーシップの下、IAEAはイランの信頼を失っただけでなく、中立的な仲裁機関としての評判も損なわれたと主張する。
被害は既に目に見えている。6月下旬、イラン議会はIAEAとのあらゆる協力を停止すると決議した。イランはNPTを脱退してはいないものの、この停止措置によりIAEAはイランの核濃縮活動を監視する能力を事実上失うことになる。これは世界の核の透明性にとって危険な展開だ。
トランプ要因
興味深いことに、最近のNATO首脳会議で、ドナルド・トランプ大統領は、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を、広島と長崎への原爆投下になぞらえ、この作戦を「戦争終結」のための攻撃行為と見なしていることを示唆した。トランプ政権は既に2018年にイラン核合意(JCPOA)から離脱しており、トランプの最近の発言は、法的ニュアンスや制度上の信頼性に対する懸念をほとんど示していない。グロッシ指導力が、意図的か否かに関わらず、この強硬姿勢に同調しているように見えるのは、IAEAの政治化に対する懸念を更に高めている。
なぜイスラエルは立ち入り禁止なのか?
この危機によって生じた最も重大な疑問の一つは、なぜイスラエル核計画は欧米諸国の監視を受けないままなのかだ。
イスラエルはNPT締約国ではなく、核兵器保有を公式に認めたことはない。しかしSIPRIによると、イスラエルは少なくとも80発の核兵器を保有していると推定されている。IAEAはイスラエルのソレク研究施設を査察しているが、ディモナには立ち入りできない。
この問題に関しイスラエルへの圧力を欧米指導者たちは一貫して控えており、しばしば「自衛権」を援用しながら、度重なる国際法違反には沈黙を守っている。こうした文脈において、地域における力の均衡を回復し、イスラエルによる一方的行動を抑止するため、イランが自衛権を行使するのは、論理的に、核抑止力を含む同様の戦略的能力を追求する権利を意味すると言えるだろう。
NPTへの最後の一撃か?
IAEAとイランの協力体制崩壊は、世界の核統治における潜在的転換点となる可能性がある。IAEAの曖昧な文言により正当化され、欧州とアメリカが容認しているイラン攻撃は、核拡散防止条約(NPT)体制の終焉の始まりを告げる可能性がある。
もし世界で最も著名な核監視機関が危ういとみなされ、核兵器を保有する非署名国が条約の監視下にある国々を攻撃するのを許されれば、ルールに基づく秩序は崩壊し、むき出しの地政学的権力が優位に立つことになる。
多国間主義が既に甚大な圧力にさらされている今、IAEAは中立性を回復するため断固たる行動を取らなければならない。それが内部監査、公的説明、あるいは指導者交代を伴うかどうかはまだ分からないが、国際的核不拡散体制の信頼性は、この行動にかかっていると言えるだろう。
リカルド・マルティンスは社会学博士、専門は国際関係論と地政学
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/07/07/is-the-iaea-complicit-in-the-assassination-of-iranian-nuclear-scientists-a-crisis-of-credibility-at-the-heart-of-non-proliferation/
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Prof. Jeffrey Sachs : Is Netanyahu Lobbying for More War? 27:55植草一秀の『知られざる真実』
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台湾は過去中国と深い関係。台湾輸出米国17.6%、日本7.3%、中国 22.1%、香港13.1%。中国本土に投資。今米国の圧力で中国との経済的結びつきを減少する方向に動く。企業はそれが成功するか岐路。」イケメン・ハーバード修士・頼総統は台湾人に+なのでしょうか。
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