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2025年6月 1日 (日)

アメリカ抜きの欧州防衛:新しい経費報告書は何と言っているのか?




2025年5月23日
Strategic Culture Foundation

 アメリカの撤退はNATOの欧州加盟諸国に大きな「防衛上の空白」を残す。

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 「Defending Europe Without the United States: Costs and Consequences.(アメリカなしでヨーロッパを守る:経費と結果」)と題する報告書をロンドンに本拠を置く国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies 略称IISS)が発表した。

 1958年に設立されたIISSは、世界の安全保障、防衛、地政学的問題を調査しており、その報告書はNATO、国連、国防省により頻繁に引用されている。

 ベン・バリー、ダグラス・バリー、ヘンリー・ボイド、ニック・チャイルズ、マイケル・ジャースタッド、ジェームズ・ハケット、フェネラ・マクガーティ、ベン・シュリーア、トム・ウォルドウィンが執筆したこの報告書は、NATOからアメリカが離脱した場合、欧州諸国は今後25年間で防衛に1兆ドル割り当てる必要があると結論付けている。

 これは防衛費をGDPの3%に引き上げることを意味する。

 このシナリオによると、総支出の約50%が軍事装備(戦車、装甲車、航空機、航空機、船舶、ミサイル、UAV等)の調達、25%が、諜報網、宇宙軍、指揮統制システム開発に、20%が、要員の装備、訓練、兵站支援に、15%が防衛産業への投資と海外からの購入に費やされる。

 この膨大な金額は、2027年までに128,000人の米兵と装備全てがヨーロッパから完全撤退するシナリオに基づいている。
 
報告書には何が書かれているのか。

 32ページの報告書は、ヨーロッパが直面する脅威を二つの主要見出しに分けている。

 ロシアの軍事力について、まず次のように述べている。

 「ロシア経済は戦争体制にあり、防衛産業はフル稼働している。ウクライナでの戦闘が停止しても、NATO-欧州に対してロシアは軍を再建できる」

 第二の大問題は、アメリカの焦点の移行だ。

 「欧州はもはや自動的なアメリカ支援には頼れない」という以前のNATOに関するドナルド・トランプ大統領言説や、2025年の「今やヨーロッパは防衛を自ら担わなければならない」というピート・ヘグセス国防長官発言は、ワシントンの関心が太平洋に移動したことを示している。従って、欧州同盟諸国は、アメリカの支援なしにロシア侵略を抑止できる能力を構築しなければならない。  
中心的想定

 報告書は、2025年半ばのウクライナでの停戦を前提としており、その後、アメリカはNATOから撤退し、ヨーロッパから軍隊を撤退させ始める。

 報告書の予想は、停戦後、ロシアが再び脅威をもたらせる速さ、NATOに対する現在のアメリカ貢献の規模、ヨーロッパ軍隊の準備、装備のギャップ、費用、日程、指導力の問題を扱っている。  
「欧州に対するロシアの脅威」

 ロシアは「依然「欧州大西洋地域に対する主要軍事的脅威」だと報告書は第1節で強調している。

 NATO同盟諸国にとっての主要課題は、戦争停止後、軍隊をどれだけ早くモスクワが再生できるか判断することだ。

 ロシアの潜在的脅威に関する重要な洞察には下記がある。

  • 2022年2月の水準にロシア軍を再建するには、ウラジーミル・プーチン大統領にとって5年、戦争で露呈した弱点を是正するには更に5年かかる可能性があるとイギリスのトニー・ラダキン参謀総長は述べている。
  • 「ソ連式大規模軍」は技術的には遅れているものの、10年以内にNATOを深刻に脅かす可能性があるとエストニア対外情報局は警告している。
  • 同盟諸国の準備期間は2~3年しかないとノルウェーのEirik Kristoffersen国防長官は考えている。
  • ロシアは停戦6カ月後に、地域での国境紛争を、2年以内に、バルト海での地域戦争を、5年以内に大規模な欧州攻撃を仕掛ける可能性があるとデンマーク国防情報局は評価している。
 IISSの著者たちはデンマーク予測を支持し、次のように付け加えた。

 困難にもかかわらず、早ければ2027年に、ロシアはNATO同盟諸国、特にバルト三国に深刻な軍事的挑戦をもたらす可能性がある。それまでに、ロシア陸軍は2022年2月の戦力に近づくかもしれないが、(受けた打撃が遙かに少ない)空軍と海軍はほとんど無傷のままだ。ロシアの急速な再生能力は過小評価すべきでなく、ロシア経済と産業は完全に戦争体制に移行し、モスクワは海外からも軍事ハードウェアを調達している。
 
停戦:「ロシアにとっては、一息つく機会、ヨーロッパにとっては、秒読み」
 報告書の詳細数字によると、ロシア防衛費は2023年から2024年にかけて実質で41.9%増加し、13.1兆ルーブル(約1,459億ドル、購買力平価基準で4620億ドル)に達した。現在防衛費はGDPの6.7%に相当し、戦前平均の2倍以上で、2025年には7.5%に上昇すると予想されている。

 モスクワは停戦後、支出を削減するだろうか? ヨーロッパは疑っている。

 「ウクライナでの戦略目標をクレムリンは放棄しておらず、欧州を不安定化させる取り組みも中止していないため、防衛費は高止まりするのは確実だと想定している。

 どんな停戦も、ロシアに息抜きの機会を与え、ヨーロッパにとって秒読みが始まるとヨーロッパは懸念している。

 「ロシア地上部隊は大きな損失を被ったが、迅速に回復可能な航空能力と海軍能力は、ヨーロッパの防衛態勢を恒久的に警戒させ続ける。」
 
ヨーロッパに対するNATOの「大戦争」計画

 報告書の第二部は、常に4つ星アメリカ将軍または提督が就任するNATO最高軍事司令部、SACEUR(欧州最高連合軍司令部)に焦点を当てている。

 SACEURのニーズに対応し、2022年以前より30~50%大きい防衛計画を実行するため必要な総力をNATO参謀が考慮したと報告書は回想している。

 連合軍は2025年6月の閣僚会議で新たな目標を承認する予定だが、Allied Command Transformation司令官ピエール・ヴァンディエ提督は明らかな空白を強調している。既に現在の公約は以前の目標より30%遅れており、新たな公約は更に30%の増加を求めている。

 ロシアとの全面ヨーロッパ戦争におけるアメリカの貢献規模を公式データは明記していない。だが、アメリカの戦略諜報機関、宇宙空間、サイバー資産や膨大な核戦力に、NATOは大きく依存しているとIISS専門家たちは指摘している。

 「欧州でのロシア侵略に対抗する通常作戦での、アメリカ支援は、約128,000人の要員に、陸海、空軍を合計した部隊に相当する。」
 
NATOとヨーロッパからアメリカが撤退したら、どうなるか?

 報告書の第三部は、アメリカ撤退の結果を考察している。

 この劇的シナリオ(時間がかかるシナリオだが)を想定して、IISSシミュレーションは以下のように説明している。

  • 米軍基地や演習場や他のインフラは、受け入れ国や商業的買い手に売却可能で、余剰軍需品やスペアはヨーロッパの軍隊に引き渡される可能性がある。
  • アメリカが提供する訓練施設やチームや機器はヨーロッパ独自に置き換わる必要がある。
  • アメリカ諜報情報共有の減少はヨーロッパ空間と全ドメインの情報・監視・偵察網の空白を露呈し、早期警告やロシア攻撃に対抗する計画を酷く妨げるだろう。
 
値札

 既存のアメリカ能力をヨーロッパがまかなわなければならない場合、一回限りの調達法案と25年のライフ・サイクル・コストは約1兆米ドルに達するだろうが、この数値は諜報、宇宙、サイバー、核兵力を除いたものだ。

 アメリカの拠出金に見合う年間経費は、2,260億米ドルから3,440億米ドルだ。

 「たとえ資金が見つかっても、製造能力が欠如している」

 たとえヨーロッパが法案に賛成できたとしても製造能力が不十分だと著者は強調している。

 「欧州防衛企業は組立ラインを追加し、合併や買収を進めているが、進展は不均一で、大きな障害が残っている。

 同盟諸国が追加の空母や原子力攻撃潜水艦を望んだ場合、実現は大変な難題になる。

 装甲車の短期的需要を満たすことは現在の生産量を上回る。各国が大規模投資を注入し、他部門から工場を転換し、カナダやアメリカなどの長期サプライヤー、あるいは非ヨーロッパ生産者と契約を結ぶ必要がある。

 調達は国別に行われることが多いため、アメリカの購入量と比較して注文量は少ない。大規模注文を行う多国間協力を、この報告書は推奨している。
 
結論と推奨事項

 中核的意図は明確だ。アメリカ撤退は、NATOの欧州加盟国に大きな「防衛の空白」を残すはずだ。停戦後、2027年までにロシアが地上軍を再建できる可能性と相まって、ヨーロッパでは警鐘が響いている。

 欧州の防衛産業をロシア型「戦争経済」に引き上げるだけでは不十分だ。労働力、生産ライン、サプライチェーン、金融など障害は計り知れない。たとえば、追加戦闘機400機の注文だけでも世界の製造能力を考えれば大規模な作業だ。

 この暗いシナリオから逃れるにはヨーロッパには下記が必要だ。

  • 現在の計画以上に防衛費を増やす。
  • 負担を分散させるため共同多国籍調達を行う。
  • 公共支出を展開し、市民に必要性を納得させる。
  • 大胆な金融・産業措置を開始して、公共投資と民間投資を混合し、支出を優先し、より高いリスクを受け入れる。
 だが資金とハードウェアは最も困難な課題ではない。最も困難な課題は政治的団結共通の意志だ。

 既にヨーロッパは移民や気候・経済危機に直面している。現在の対ウクライナ援助レベルでさえ広範な社会不安を引き起こしている。安定と安全の要求に支えられた極右の勃興は各国政府を動揺させ始めつつある。

 そのような政治情勢の中、アメリカが離脱し「更なる軍事化」が唯一の答えになれば、ヨーロッパ大陸全体が長引く政治的動乱に直面しかねない。

記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2025/05/23/europe-defence-without-us-what-does-new-cost-report-say/

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