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2025年5月27日 (火)

関税破綻後の米中関係再考

マイク・ホイットニー
2025年5月18日
The Unz Review


 4月2日にドナルド・トランプ大統領が広範囲な関税を課した際、彼には二つ主目的があった。

  1. 貿易赤字削減
  2. 雇用と製造業をアメリカに戻す
 これらは公言された目標だったが、早速明らかになった通り、本当の狙いは、アメリカ消費者への中国製品販売を阻止して、中国を弱体化させることだった。またトランプ政権は、中国との貿易削減に同意する国々に誘因を与え、関税を利用して中国を孤立化させた。つまり、関税は、工業生産と技術生産のほぼ全分野でアメリカを追い超した同等の競争相手に対する貿易戦争の主力兵器だった。

 幸いにも、トランプの計画は失敗し、彼は主要な狙いを全く実現することなく関税を緩和せざるを得なかった。「幸いにも」と言うのは、関税政策がアメリカ国民の利益に全く貢献しなかったからだ。それどころか国際貿易ルールを無視し、サプライチェーンを不必要に混乱させる一方的政策で、アメリカ国民は損害を被っている。その結果、価格が上昇し、雇用が減り、経済成長が鈍化するだけだ。更に、ライバル国を潰す目的で関税を操作するのは、全ての人々の利益を守るために広く受け入れられているWTOルール違反だ。

 アメリカとは対照的に、中国は独自の社会主義解釈に根ざした、より広範な社会哲学に合致した行動をとった。中国は道徳的に優位に立ち、原則に基づいて行動し、トランプの圧力に屈するのを拒んだ。中国が対抗措置を講じたのは、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)で明確に規定されているルールを完全に無視したトランプの関税攻勢に対してのみだった。各国が恣意的に「譲許税率」を超過したり、特定国に145%の関税(禁輸措置に相当)を課したりしてはならないとGATTは定めている。トランプは単独行動し、基本的に国際システムと自らの権力に対するあらゆる法的制約を無視した。下記は環球時報の引用だ。  
WTOを中核とする多国間貿易体制は国際貿易の礎で、世界経済の統制上、重要な役割を果たしている。各国はWTOの枠組みの下、対等な対話を通じて意見の相違や紛争を解決し、多国間主義と自由貿易を共に推進し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定と円滑な機能を促進するべきだ。(環球時報)


 言い換えれば、トランプの敗北は、国際貿易体制の勝利だった。だが中国が「自らの主張を貫き」、ワシントンの威圧に屈するのを拒んだため、中国にとっても勝利だった。以下にブルームバーグ報道を引用する。  
ドナルド・トランプ大統領に毅然とした態度を貫く習近平の決断は、中国指導者として、これ以上良いものはなかったろう。

 スイスでの二日間にわたる緊迫した協議を経て、月曜、世界の主要経済大国の貿易交渉担当者が関税の大幅引き下げを発表した。綿密に調整された共同声明で、アメリカは中国製品への関税を90日間、145%から30%に引き下げ、中国は大半の製品への関税を10%に引き下げた。

 この劇的引き下げは中国の予想を上回り、ドルと株価を急騰させた。国内のインフレ加速が見込まれる中、圧力にさらされているトランプ大統領にとって、これは市場での待望の安堵感になった。中国株も急騰した。この合意は、最終的に、中国側の主要要求をほぼ全て満たすものとなった。4月2日にトランプ大統領が34%に設定した中国に対する「相互」関税は一時停止され、アメリカ最大のライバル、中国は、長年のアメリカ同盟国、イギリスと同じ10%の税率を課されることになった…。

 「アメリカが譲歩したのは中国にとっておそらく最良の結果と言えるだろう」と調査会社トリヴィアム・チャイナ共同創業者トレイ・マッカーバーは述べた。「今後、中国側はあらゆる交渉でアメリカに対し優位に立てると確信するだろう」。スイス・インフォ
 繰り返す。これは中国が期待していた最良の結果だ。アメリカが譲歩したのだ」



 アメリカの対中政策は、極めて不道徳なだけでなく逆効果だ。海外報道で最近の出来事を追っていた人なら誰でも、強気な戦術で、アメリカが自らをひどく傷つけたのを理解しているはずだ。アメリカ以外の人々が目にしたのは、高齢で衰えたボクサーが、獰猛な若い挑戦者とリングに上がり、1ラウンドでノックアウトされたというものだった。

 わずか六週間足らずで、支持者への面目を保つために、トランプ大統領は関税の大部分を30%に引き下げた。その見返りとして、中国から何も得られなかった。中国政府は、トランプ大統領が中国製品関税を20%から30%に引き上げるのを認めた以外、一切譲歩しなかった。つまりトランプ大統領の最も熱烈な支持者、ブルーカラー男女は行きつけのデパートで更に10%高い買い物をしなければならない。つまりトランプ大統領が、超富裕層向け大規模減税を約束する一方、労働者階級の税金はなんと10%も引き上げられたのだ。ガーディアン紙から更に以下の記事を引用する。  
月曜日の米中貿易戦争の一時休戦を、ドナルド・トランプ大統領は必然的に勝利と主張するだろうが、金融市場はそれを降伏と解釈したようだ…。

 言い換えれば、大統領は屈服したのだ。市場の動揺に動揺した可能性もあるが、棚の空っぽ化について小売業者が悲観的警告を発し、アメリカ港湾への貨物輸送量が激減していることを示すデータに裏付けられたことが政権内の貿易穏健派支持を強めた可能性の方が高いように思える。

 玩具不足の警告に直面したトランプ大統領は、子どもは「30個ではなく2個の人形」で満足するはずで、通常より「数ドル高くても構わない」と記者団に述べた。だが世界最大の経済大国アメリカにおいて、新型コロナウイルス時のような主要物資不足の責任を負わされ始めた場合、この最も強気な大統領さえ、攻撃に耐えられるとは想像しがたい。

 その代わりに、ホワイトハウスは戦術的撤退を選択したようだ。米中対立は、常にトランプの貿易戦争における最も激しい対立の舞台で、メキシコとカナダに対する空想的攻撃より長い歴史と国民の深い支持を得ている。

 トランプ大統領が実際北京に対し譲歩する用意があるなら、彼の貿易政策の他の攻撃的側面のいくつかは交渉可能だという信号になる。トランプ大統領は、対中関税の勝利を主張するかもしれないが、これは降伏の日だ、ガーディアン
 トランプ大統領が表明した狙い(貿易赤字削減と、雇用と製造業のアメリカ回帰)に関しては、大統領は両方で失敗した。だが暗黙の狙い(中国の弱体化と孤立化)も、同様に失敗した。そして、失敗の理由は以下の三つだ。
 
  1. 多様化を通じて世界貿易の流れを中国は維持できた(アメリカ向け輸出品の新たな買い手を見つけた)
  2.  
  3. 財政刺激策と政府介入の必要性に中国は迅速に対応した(これで成長目標は維持された)
  4.  
  5. 中国は輸出を差し控えアメリカに深刻な痛みを与え西海岸の港湾を深刻な危機に陥れた。
 中国が成し遂げたことは想像できる限りの完勝に近い。それでもなお和解が発表された直後、株式市場は急騰した。だからトランプ大統領の恥ずべき失策を誰も気にしていないようだ。



 関税騒動で奇妙な点の一つは、トランプ陣営が中国の報復措置を全く予想していなかったことだ。実に驚くべきことだ。政権は情報バブルに陥っており、滑稽な「解放記念日」発表後、中国が屈すると予想していた。一体何を考えていたのだろう?

 スコット・ベッセント財務長官が何を考えていたかは明らかだ。彼は「アメリカは財政赤字国だ」という理由で、中国に対し優位に立っていると何度も公言していたからだ。CNBCインタビューで彼が語った内容は以下の通りだ。  
我が国は赤字国だ。彼らが我が国に売る商品の量は、我々が彼らに売る商品のほぼ5倍だ。だから関税を撤廃する責任は彼らにある。彼らにとって関税は持続不可能だ。」関税が継続すれば、中国で500万から1000万人の雇用が失われる可能性があるという推計を彼は引用し、中国経済の脆弱性を浮き彫りにした。
 これは愚かだ。ボロをまとった街角の乞食が、銀行に何百万ドルも貯金がある裕福な実業家よりも有利だと言っているようなものだ。アメリカが36兆ドルの負債を抱えているのに対して、中国は3兆ドルの黒字を誇っている!「貧乏」がどうして「有利」になるのだろう。中国がまだアメリカ通貨を受け入れてくれるだけでも幸運なのに、貧乏なことが「優位」だと財務長官は考えている。こんな男は財務長官になるべきではない。彼は経済の仕組みやアメリカの国益に貢献する政策を全く理解していないことを繰り返し示している。ベッセントに関するGrokの見解は下記の通り。  
ベッセントの公式発言は、中国の経済的脆弱性と、最終的なジュネーブ合意に支えられたアメリカの財政赤字を、交渉上の優位性として戦略的に重視していることを反映しているだが中国の東南アジアへの輸出シフトや、積み替え戦術や、国内経済の回復力は、彼が中国の関税対応能力を過小評価し、アメリカの優位性を限定していたことを示唆している。双方代償を払ったが、中国の適応力を考えれば、財政赤字の優位性は、ベッセントが主張したほど決定的なものではなかった。(Grok)
 これはベッセントが全てにおいて間違っていたことの、かなり冗長な言い方だ。



 アメリカ経済に更なる打撃を与える前に、トランプ大統領が「関税戦略」を断念したのは我々全員にとって感謝すべきことだ。彼がここ数週間の出来事を振り返り、自滅的対中関係を真剣に再考してくれるよう願うばかりだ。中国の台頭は世界秩序におけるアメリカの優位な地位に対する深刻な脅威だという認識は欧米諸国エリート層やメディアや政界全体で一致している。この誤った前提こそが、アメリカの対中政策を形成し、我々を軍事衝突に導いている。我々はこの破壊的な考えを根底から払拭し、安全保障の向上や繁栄の促進や戦争終結につながるプロジェクトにおいて中国と協力できる建設的方法を模索しなければならない。

 中国は我々の敵ではなく、アメリカとの対立を望んでもいない。中国が望んでいるのは、ほとんどの一般アメリカ人が望んでいることと同じだ。平和が永続する普遍的に安全で「共に繁栄する、開放的で包摂的な、清潔で持つ美しい世界を構築する。」これは中国の習近平国家主席の言葉だ。彼の考えは、同様に力強いジョン・F・ケネディ大統領のこの言葉を思い出す年配読者には馴染み深いものかも知れない。  
「結局、我々の最も基本的な共通点は、この小さな惑星に暮らしていることだ。我々全員同じ空気を吸っている。我々全員子どもの未来を大切に思っている。そして我々全員死すべき運命にある。」
YouTube アメリカン大学卒業式でのジョン・F・ケネディ演説「平和への戦略」



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記事原文のurl:https://www.unz.com/mwhitney/rethinking-us-china-relations-after-the-tariffs-shipwreck/

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