全速力で進むヨーロッパの戦争準備:フランス人軍事地図製作者はルーマニアで一体何をしているのか?

エルキン・オンカン
2025年4月17日
Strategic Culture Foundation
トルコが果たす役割は、NATO加盟国としても地域大国としても特に重要だ。
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ロシアとの紛争の可能性に備えて、フランス軍地図製作者がルーマニアに駐留しているという衝撃的記事をフランス新聞「ル・フィガロ」が掲載した。「ロシアとの緊張が高まる中、NATOの東側陣地にフランス軍の地図製作者が展開」と題されたニコラ・バロテ記者による記事は、ロシア攻撃を想定した新たな軍事準備について詳述している。
報道によれば、ルーマニアとモルドバ、ウクライナの国境沿い地域地図をフランス軍地図製作者が作成中だという。
5kmごとに給水塔や鐘楼などの高所を兵士が特定していることが注目される。
フランス軍兵士によれば、これら建造物は必要に応じて砲撃標的地点として利用される予定だという。
部隊移動経路と軍の前進軸を含む非常に詳細な地図もフランス軍は作成した。この地図作成の主目的は、衛星信号が途絶えた場合でも地上で方向感覚を確保することだ。
地図作製を実施したのは一体誰か?
地図作成作業は第28地理集団(28e Groupe Geographique)により実施された。
「28e GG」の略称で知られるこの部隊は、ストラスブール近郊のアグノーに駐屯しており、規模は小さいながらも、フランス陸軍において最も戦略的な部隊の一つだ。28e GGは、陸軍に対し地理情報、地図作成、地形解析支援を提供している。長年にわたり情報司令部の管轄下に置かれていたが、2023年秋、工兵旅団(brigade du genie)に再編された。
軍事作戦において極めて重要な役割を担うこの部隊は、作戦地域における地図作成、LIDAR(レーザー測位技術)、ドローン、モバイル・データ収集装置などを用いた3D地形地図作成を担当している。軍事標的やインフラへの経路特定、衛星信号が途絶えた場合に備えた基準点決定、標的識別や火力支援計画策定における砲兵支援も行っている。350名の隊員で構成されるこの部隊は、作戦だけでなく計画策定過程にも積極的に参加している。
ルーマニアにおけるフランス軍駐留
一方、フランス軍のルーマニア駐留は目新しいものではない。ロシア・ウクライナ戦争勃発時、NATOによるルーマニア東部防衛強化の一環として、フランスはルーマニア中部のトランシルヴァニア地方にあるチンクに1000人の部隊を派兵した。
フランス軍兵士は、NATOが設立したルーマニア駐留多国籍戦闘集団も指揮している。
なぜルーマニアなのか?
フィガロ紙によれば、部隊は既にルーマニアで作成した地図をアグノー本部の壁に掲示しているという。
ルーマニアの地図では、国の地形が3次元で表示されている。第28師団は5kmごとに基準点を設定し、軍の移動経路の地図を作成した。
この地図は、Googleストリートビューに類似した技術を用いて作成された。28eGGが使用した高解像度カメラとレーザー・センサーを搭載した車両が、この地域を3Dスキャンしたのだ。
この軍事準備の最も重要な側面はフォクシャニ門だ。
フォクシャニ門
フォクシャニ門(またはフォクシャニ峠)はルーマニア東部に位置し、歴史的、軍事戦略的に非常に重要な地域だ。
東カルパティア山脈とドナウ川平野の間の狭く平坦な地峡で、モルドバ、トランシルヴァニア、ドナウ川地域を結ぶ回廊として機能している。
周囲の山岳地帯と異なり、この平坦な地域は防御が難しく、攻撃が容易だ。
この経路を通ってロシアが攻撃を仕掛ける可能性があるとNATOが想定していることから、フォクシャニを経由するロシア侵攻が成功すれば、その侵攻はルーマニア中心部にまで広がり、コンスタンツァを経由して黒海にまで達する可能性があると予想されている。
更に、オスマン帝国、ロシア、ドイツ、ソビエト連邦が、フォクシャニを軍事目的で歴史的に利用してきたことは、この地域の戦略的関心に貢献している。
フォクシャニ経由でロシアが攻撃したらどうなるか?
フォクシャニへの重点的取り組みは「ロシア侵攻」という物語の下、ヨーロッパを軍事化しようとする広範な取り組みの一環なのは確実だ。だがNATOの想定が現実のものとなったらどうなるだろう?
予想通りフォクシャニを経由してロシアが攻撃した場合、最初に遭遇する部隊はルーマニアの第8師団と第2歩兵師団になるだろう。最初の航空攻撃は、フェテシュティ空軍基地とボルチャ空軍基地に駐留するルーマニア軍航空機により行われることになるだろう。
仮にNATOが第5条を発動し、ロシアと全面対決すると決断すれば、ルーマニアの黒海沿岸にあるミハイル・コガルニセアヌの米空軍基地も関与することになるだろう。
フォクシャニを経由してロシアが攻撃した場合、バルト地域におけるNATOの強力な存在は主要な影響を与えないだろう。例えば、カルパティア山脈の存在により、ポーランドをはじめとするバルト諸国がモルドバ・ルーマニア軸に直接介入するのは兵站的に困難だろう。これらの国々はせいぜいロシアに対する新たな戦線を北部に展開する陽動作戦を展開する程度だろう。
このようなシナリオで、NATOのもう一つの主要部隊として思い浮かぶのは、2001年にNATOの即時対応部隊として設立されたNATOイタリア緊急展開軍団だ。
トルコの立場
バランス外交を脇に置き、NATOで二番目に大きな陸軍を有する国としてトルコが同盟義務を履行すると仮定すれば、可能性があるトルコの行動には、72時間以内に部隊をルーマニアに派遣することが含まれるだろう。
2023年現在、トルコは第66機械化歩兵旅団(イスタンブール)やコマンド旅団など即応性の高い部隊と共に非常に高い即応性を備えた統合任務部隊(VJTF)に加盟している。
この文脈で、イスタンブールの第66機械化旅団と、シリアでの作戦で経験を積んだコマンド旅団が、ルーマニアに地上支援を提供できる最速部隊だと思われる。
トルコ海軍は黒海最大のNATO海軍力でもあり、フリゲート艦、高速攻撃艇、掃海艇を駆使して第2常設NATO海洋グループ(SNMG2)と第2常設NATO対機雷グループ(SNMCMG2)に交代で参加している。
同様に、トルコの空軍力は、ルーマニアのNATO基地に戦闘部隊と弾薬の増援を空輸できる。また無人機や海上哨戒機を活用すれば、偵察・抑止任務を遂行できる。NATOの作戦計画に基づき、上陸能力を備えた水陸両用部隊やSAT/SASコマンド部隊をルーマニア領内に展開させることも可能だ。
もちろん、このようなシナリオにおいて、トルコが直接軍事介入する可能性は、トルコの伝統的なバランス志向の外交政策の範囲外だと考えられている。
現在の政治状況下では、このようなシミュレーションが実現する可能性は明らかに低いが、そのためには、ロシアがまずオデーサを占領してモルドバ国境に到達し、次にモルドバ(トランスニストリア)経由でルーマニア侵攻を試みることが必要になる。
だが今のところトルコが直接戦争に関与する可能性は低いものの、現在の「抑止力」の概念の範囲内でトルコが新たな責任を担う可能性に関し声高に議論されることが増えている。
特に、欧州をドナルド・トランプ大統領が「見捨てた」と見られ、トルコに注目が集まっている政治情勢において、最近レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がアンタルヤ外交フォーラムで述べた「トルコは欧州の安全保障に責任を負う用意がある」という発言は、トルコが近い将来、欧州の安全保障体制において、より積極的な役割を果たすことをこれまでで最も明確に示している。
最近、トルコ軍がウクライナに派遣されるという話が多く出ているが、NATOの重要地域であるルーマニアにトルコ軍が派遣されても驚くには当たらない。
結論
東欧に加え、南東欧もロシアの潜在的攻撃ルートとNATOは見なし、それに応じて戦争準備を調整している。トランプ政権下で米欧関係は依然不安定な状況にあるが、現在進行中の準備は、どちら側もアメリカが短期間で欧州から軍を撤退させると本当に信じてはいないことを示唆している。実際、NATOとアメリカの当局者は、既にこの件について「安心感を与える」ための取り組みを開始している。
一方、NATOはルーマニアをロシア攻撃時の戦略的なルートと見なし、この地域を軍事的に極めて重要な地域と位置付けている。しかし、ルーマニアのような国における反NATOまたは反EUへの傾倒は、現在の戦略に深刻な打撃を与えるのは明らかだ。この事実は、ルーマニア大統領選挙第一回投票からも既に明らかだ…
現在ルーマニアは、NATOの南東側で重要な役割を果たしているものの、政治的志向の変化の兆候が現れ始めている。2024年ルーマニア大統領選挙第一回投票では、親欧米派および親EU派政党が大きく後退し、一方民族主義とEU懐疑派勢力が勢いを増した。この変化が続けば、この地域におけるNATOの将来計画に深刻な課題をもたらす可能性がある。
ロシアとの長期的対立を見据え、NATOは東部および南東部の戦線を強化する一方、加盟諸国の政治的変容を注意深く監視する必要がある。国民の不満や国家主義的な言説や極右政治運動の台頭が、同盟の結束力と作戦能力を損なう可能性がある。
更に、現在の米欧同盟は軍事協定のみに基づいて構築されているわけではないことが明らかになりつつある。この同盟の持続可能性は、加盟諸国における国内の政治的安定と国民の支持にも左右される。こうした文脈で、NATO加盟国として、そして南東欧と黒海流域の発展に影響を与える地域大国として、トルコが果たす役割は特に重要だ。
ルーマニアにおけるフランス軍による地図作成活動は、一見すると日常的な技術作戦のように見えるかもしれないが、実際は、より広範な戦争準備の一環だ。地図作成場所の選択や詳細度や、フォクシャニ門のような脆弱な回廊への重点的取り組みは、綿密に練られた軍事的緊急事態対応計画を物語っている。
要するに、ヨーロッパは再び戦争準備を進めているのだ。今回は遠く離れた敵ではなく、強大で核兵器を保有する隣国との戦争だ。そして、こうした断層線の交差点に位置するルーマニアのような国々は、急速に軍事化が進んでいる。これが本物の準備なのか、それとも計算された抑止力なのかはさておき、確かなことが一つある。戦争の地図を描いた連中は既に動き出している。
記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2025/04/17/full-speed-ahead-for-war-preparations-in-europe-what-are-french-military-cartographers-doing-in-romania/
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Daniel Davis/Deep Dive
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