アメリカ・ウクライナ合意は実質的というより象徴的
Salman Rafi Sheikh
2025年5月19日
New Eastern Outlook
数ヶ月に及ぶいわゆる「厳しい」交渉を経てもなお、アメリカ・ウクライナ鉱物資源協定は象徴的意味しかない。アメリカの明確な安全保障保証がないことから、ウクライナは2022年の紛争勃発以前より依然状況が悪化している。
ウクライナの希土類金属
取り引き
アメリカ・ウクライナ協定は長らくウクライナの安全保障を保証するものとみなされてきた。だが、それも4月30日に署名されるまでのことだ。確かにトランプ大統領の最大3500億ドル軍事援助返還要求をウクライナは何とか押し返したが、この協定はウクライナが期待していた成果には程遠いものだった。この協定は基本的に、ウクライナの将来の経済復興に投資し、その恩恵を受けるため、アメリカ・ウクライナ共同運営基金(アメリカ・ウクライナ復興投資基金)を設立するものだ。この協定の未来志向は、ワシントンにもキーウにも即時的な利益がないことも意味する。だが、象徴的ではあるものの、この合意はアメリカとトランプ大統領をウクライナ経済の今後の成功に結びつけるのだ。それがいつ、どのように可能になるかは別の難問だ。採掘が開始されるまでには何年もかかるためだ。ウクライナ(とアメリカ)は、まず第一に、利用可能な鉱物資源の正確な地図を作成し、それら資源のうち、どれだけが国の再建に活用できるかを把握する必要がある。そして、そのためにはロシアとウクライナの軍事紛争を終わらせることも必要になる。
キーウがNATO拡大の手先になる前、キーウは鉱物資源の主権的管理権を持っていた。
この合意の象徴的価値は、アメリカによる軍事的・安全保障上の明確な保証がない点にも表れている。キーウは、鉱物資源採掘をアメリカに認める代わりに、この保証を得ようとしていた。スコット・ベッセント財務長官は、この合意はドナルド・トランプ大統領と政権が「長期にわたり自由で主権を持ち繁栄するウクライナを中心とする和平過程に誓約する」ことを示していると述べ、この合意の非軍事的性質を慎重に強調した。大統領は「アメリカ国民とウクライナ国民の協力関係は、ウクライナにおける永続的平和と繁栄への両国の誓約を示すもの」だとベッセント長官は付け加えた。
いかなる軍事危機の際にも、ワシントンが必ずウクライナ防衛に当たるというアメリカの安全保障上の保証はないが、この合意は依然アメリカによるウクライナへの継続的軍事物資供給の可能性を開いた。合意調印直後、トランプ大統領は、キーウに5000万ドル相当の武器売却を決定した。これは援助ではなく売却なので、ワシントンは現在進行中の軍事紛争から高い見返りを得ようとしている。それでも、疑問が残る。トランプ大統領はこの象徴的な合意を利用して、ロシアに紛争解決そのものに関する合意を受け入れさせることができるのだろうか?モスクワが合意内容に不満を抱く理由は想像に難くない。端的に言って、この合意はロシアにとって軍事的脅威どころか何の脅威にもならず、モスクワに何らかの合意を強制するには到底不十分だ。
当初の提案からの逸脱
当初ウクライナがなぜこの取り引きを提案したのかを忘れてはならない。ウクライナの重要鉱物と希土類元素の共同開発という当初の提案は、ウクライナ側から出されたものだった。この提案の目的は、アメリカからの最大限の支援を引き出すことと、アメリカとウクライナの経済および国家安全保障上の利益を恒久的に一致させることだった。トランプ大統領が1月の就任後、軍事支援と援助はアメリカ資源のゼロサム・ゲームだと明確に考えているため、この提案はウクライナ存続にとって極めて重要になった。ウクライナの意図は、この言説に対抗し、アメリカ納税者の支援に見合い、ウクライナ資源への採掘や開発を可能にして、トランプ大統領にとってウクライナ防衛が価値あるものになるような取り引きを議題に載せることだった。トランプ大統領は、この取り引き、つまり軍事支援と引き換えに鉱物資源採掘という政治的な売り込みができるが、キーウがアメリカの軍事支援を即時かつ恒久的に受けられるとは到底言えない。実際、アメリカがこれら資源の利用権を活用し、そこから利益を得たいなら、これまで以上に軍事紛争を終結させる必要がある。これは紛争継続により鉱物資源開発が困難になるため、トランプ政権がロシアの条件を受け入れ、これまでより遙かに寛大にロシア権益に配慮する姿勢を示す可能性があることを意味する。
ウクライナはどうなるのか?
今日のウクライナは、2022年2月以前のウクライナと比べて良い状態にあるのだろうか、それとも悪い状態にあるのだろうか。今回の紛争が始まる前、ウクライナはNATO加盟を望んでいた。少なくともバイデン政権はキーウにそう伝えていた。だが近い将来に実現する見込みはない。またキーウはEU加盟も望んでいた。アメリカとの現在の協定は、ウクライナのEU加盟を阻むものではないが、それがどのように、いつ可能になるかまだ分からない。第三に、キーウがNATO拡大の道具になる前、ウクライナは自国鉱物資源の主権的管理権を掌握していた。今日、ウクライナはこれら鉱床をアメリカと共有しているだけでなく、鉱物採掘にはアメリカの技術支援にも依存している。アメリカはこの協定により、利益分配は将来のアメリカによる軍事援助や支援に対する補償だと明確にしている。アメリカへのキーウ依存がかつてないほど深まっている今、今日のウクライナを、東欧におけるアメリカの地政学的拠点と表現するのは間違いだろうか。
Salman Rafi Sheikhは国際関係とパキスタン外交・内政の調査分析専門家
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/05/19/the-us-ukraine-deal-is-more-symbolic-than-substantive/
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Judging Freedm 冒頭は、虐殺を巡る南アフリカ、ラマポーザとトランプのやりとり。
2025年5月19日
New Eastern Outlook
数ヶ月に及ぶいわゆる「厳しい」交渉を経てもなお、アメリカ・ウクライナ鉱物資源協定は象徴的意味しかない。アメリカの明確な安全保障保証がないことから、ウクライナは2022年の紛争勃発以前より依然状況が悪化している。
ウクライナの希土類金属
取り引き
アメリカ・ウクライナ協定は長らくウクライナの安全保障を保証するものとみなされてきた。だが、それも4月30日に署名されるまでのことだ。確かにトランプ大統領の最大3500億ドル軍事援助返還要求をウクライナは何とか押し返したが、この協定はウクライナが期待していた成果には程遠いものだった。この協定は基本的に、ウクライナの将来の経済復興に投資し、その恩恵を受けるため、アメリカ・ウクライナ共同運営基金(アメリカ・ウクライナ復興投資基金)を設立するものだ。この協定の未来志向は、ワシントンにもキーウにも即時的な利益がないことも意味する。だが、象徴的ではあるものの、この合意はアメリカとトランプ大統領をウクライナ経済の今後の成功に結びつけるのだ。それがいつ、どのように可能になるかは別の難問だ。採掘が開始されるまでには何年もかかるためだ。ウクライナ(とアメリカ)は、まず第一に、利用可能な鉱物資源の正確な地図を作成し、それら資源のうち、どれだけが国の再建に活用できるかを把握する必要がある。そして、そのためにはロシアとウクライナの軍事紛争を終わらせることも必要になる。
キーウがNATO拡大の手先になる前、キーウは鉱物資源の主権的管理権を持っていた。
この合意の象徴的価値は、アメリカによる軍事的・安全保障上の明確な保証がない点にも表れている。キーウは、鉱物資源採掘をアメリカに認める代わりに、この保証を得ようとしていた。スコット・ベッセント財務長官は、この合意はドナルド・トランプ大統領と政権が「長期にわたり自由で主権を持ち繁栄するウクライナを中心とする和平過程に誓約する」ことを示していると述べ、この合意の非軍事的性質を慎重に強調した。大統領は「アメリカ国民とウクライナ国民の協力関係は、ウクライナにおける永続的平和と繁栄への両国の誓約を示すもの」だとベッセント長官は付け加えた。
いかなる軍事危機の際にも、ワシントンが必ずウクライナ防衛に当たるというアメリカの安全保障上の保証はないが、この合意は依然アメリカによるウクライナへの継続的軍事物資供給の可能性を開いた。合意調印直後、トランプ大統領は、キーウに5000万ドル相当の武器売却を決定した。これは援助ではなく売却なので、ワシントンは現在進行中の軍事紛争から高い見返りを得ようとしている。それでも、疑問が残る。トランプ大統領はこの象徴的な合意を利用して、ロシアに紛争解決そのものに関する合意を受け入れさせることができるのだろうか?モスクワが合意内容に不満を抱く理由は想像に難くない。端的に言って、この合意はロシアにとって軍事的脅威どころか何の脅威にもならず、モスクワに何らかの合意を強制するには到底不十分だ。
当初の提案からの逸脱
当初ウクライナがなぜこの取り引きを提案したのかを忘れてはならない。ウクライナの重要鉱物と希土類元素の共同開発という当初の提案は、ウクライナ側から出されたものだった。この提案の目的は、アメリカからの最大限の支援を引き出すことと、アメリカとウクライナの経済および国家安全保障上の利益を恒久的に一致させることだった。トランプ大統領が1月の就任後、軍事支援と援助はアメリカ資源のゼロサム・ゲームだと明確に考えているため、この提案はウクライナ存続にとって極めて重要になった。ウクライナの意図は、この言説に対抗し、アメリカ納税者の支援に見合い、ウクライナ資源への採掘や開発を可能にして、トランプ大統領にとってウクライナ防衛が価値あるものになるような取り引きを議題に載せることだった。トランプ大統領は、この取り引き、つまり軍事支援と引き換えに鉱物資源採掘という政治的な売り込みができるが、キーウがアメリカの軍事支援を即時かつ恒久的に受けられるとは到底言えない。実際、アメリカがこれら資源の利用権を活用し、そこから利益を得たいなら、これまで以上に軍事紛争を終結させる必要がある。これは紛争継続により鉱物資源開発が困難になるため、トランプ政権がロシアの条件を受け入れ、これまでより遙かに寛大にロシア権益に配慮する姿勢を示す可能性があることを意味する。
ウクライナはどうなるのか?
今日のウクライナは、2022年2月以前のウクライナと比べて良い状態にあるのだろうか、それとも悪い状態にあるのだろうか。今回の紛争が始まる前、ウクライナはNATO加盟を望んでいた。少なくともバイデン政権はキーウにそう伝えていた。だが近い将来に実現する見込みはない。またキーウはEU加盟も望んでいた。アメリカとの現在の協定は、ウクライナのEU加盟を阻むものではないが、それがどのように、いつ可能になるかまだ分からない。第三に、キーウがNATO拡大の道具になる前、ウクライナは自国鉱物資源の主権的管理権を掌握していた。今日、ウクライナはこれら鉱床をアメリカと共有しているだけでなく、鉱物採掘にはアメリカの技術支援にも依存している。アメリカはこの協定により、利益分配は将来のアメリカによる軍事援助や支援に対する補償だと明確にしている。アメリカへのキーウ依存がかつてないほど深まっている今、今日のウクライナを、東欧におけるアメリカの地政学的拠点と表現するのは間違いだろうか。
Salman Rafi Sheikhは国際関係とパキスタン外交・内政の調査分析専門家
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/05/19/the-us-ukraine-deal-is-more-symbolic-than-substantive/
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Judging Freedm 冒頭は、虐殺を巡る南アフリカ、ラマポーザとトランプのやりとり。
INTEL Roundtable w/ Johnson & McGovern : Weekly Wrap 23-May 34:07今朝の孫崎享氏メルマガ題名
①昨年度名目賃金は平均で3.0%増と4年連続のプラス。一方、消費者物価指数の上昇率は3.5%と高止まりし、実質賃金は差し引きでマイナス。②「上場企業で増加する人員削減、③上場企業6年ぶり減益 26年3月期、車・鉄鋼で米関税と円高進行重荷
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