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2025年5月15日 (木)

アメリカの危機:トランプ大統領の政策が中東に及ぼす影響

ヴィクトル・ミーヒン
2025年5月13日
New Eastern Outlook

 アメリカの経済的、政治的混乱は、伝統的同盟国である湾岸諸国に益々影響を及ぼしている。

 

 主要選挙公約を果たせなかったドナルド・トランプは、国内の支持を失いつつある。一方、予測不能な外交政策は、中東の君主諸国に新たなパートナー探しを迫っている。アメリカが開始した貿易戦争は、アメリカの経済成長を鈍化させ、サウジアラビアやUAEや他の地域諸国の石油・ガス部門への投資に直ちに影響を与えている。アメリカの制裁政策とホワイトハウスの不安定な意思決定は、不安定さを生み出し、各企業はプロジェクト縮小を余儀なくされている。トランプの支持率低下(アメリカ人の半数以上が彼の指導力を危険視)は、国際舞台における彼の交渉力への信頼を揺るがしている。その結果、湾岸諸国は益々中国とロシアに目を向けて、支援を求めている。

 これまでのトランプ大統領二期目の分析では、一貫した中東戦略は見られない。

 同盟諸国の失望:何が悪かったのか?

 トランプ大統領は国内の信頼を失っただけでなく、数十年にわたりアメリカの外交政策を形作ってきた重要な同盟関係を解体した。サウジアラビアとUAEの主要経済パートナーである中国は、アメリカの激しい圧力にさらされ、貿易と投資の流れが複雑化している。一方、中東の重要当事者であるEUとカナダは報復関税を発動し、世界市場の不安定化を引き起こしている。トランプ大統領は「歴史的な合意」を約束したが、湾岸諸国は大胆な発言以外、具体的な成果をほとんど得られていない。

 ドイツ、フランス、そしてその他の同盟国に対するトランプ氏の侮辱的な発言は、中東の君主国にワシントンの信頼性を疑わせている。トランプのロシアや北朝鮮との接近は、サウジアラビアを含む長年のパートナーに対する裏切りと見なされている。そして、グリーンランド領有権主張からスエズ運河に関する曖昧な発言に至るまで、彼の奇抜な取り組みは、ホワイトハウスに一貫した戦略が欠けていることを改めて証明するにすぎない。

 トランプ大統領の湾岸訪問:期待よりも不安

 ドナルド・トランプ大統領のペルシャ湾岸諸国訪問(5月13~16日)は、地域のアメリカ同盟諸国間で、楽観的見方ではなく、むしろ不安を募らせている。トランプ政権の最近の発言は、安定と安全保障を強化するどころか、既に緊張している状況を更にエスカレートさせる可能性を示唆している。

 リヤドは長年、特にイランとの緊張が高まる中、ワシントンを重要な戦略的パートナーと見なしてきた。だが明確な保証を与えるどころか、サウジ指導者たちはテヘランに対する攻撃的言説を耳にすることが多く、これが地域情勢の更なるエスカレーションを招く可能性があると専門家は警告している。「サウジはアメリカに単なる言葉以上のものを期待している。具体的行動を求めている」と匿名を条件に、あるアラブ系外交官が語った。「だが、ワシントンが恫喝だけに固執すれば、サウジアラビアの安全保障は強化されず、むしろ地域を新たな紛争へ向かわせる可能性さえある」

 隣国カタール同様、UAEは、トランプ大統領訪問は真の解決策をもたらさず、不確実性を高めるだけではないかと懸念している。アブダビは、同盟国支援と地域を不安定化させかねない予測不能な発言との間で綱渡りを強いられるアメリカ政権の姿勢に警戒感を抱いている。カタールは2021年の封鎖が正式に解除されたにもかかわらず、依然政治的圧力に直面している。特に湾岸協力会議(GCC)内の分裂が依然続いていることを踏まえれば 、「GCCの結束」という漠然とした言葉以上のものをトランプ大統領が提供できるのかどうかに、現地の専門家達は疑念を抱いている。

 アメリカとの関係において、バーレーンやオマーンなどの湾岸小国は伝統的に、バランスをとってきたが、近年、地域安定の保証人としてのアメリカへの信頼が揺らいでいる。米海軍第5艦隊の本拠地バーレーンは、アメリカの関与を再確認したがっているのに、トランプ政権は他のことに注力しているようだ。一方、中立で知られるオマーンは、アメリカの一貫性のなさに幻滅して、中国やロシアなどの他勢力に益々目を向けつつある。

 「湾岸諸国は絶え間ない不安定さにうんざりしている」と、ドバイを拠点とする政治評論家アハメド・アル・マンスーリは強調する。「彼らには、予測可能性や、明確な戦略や、長期的解決策が必要だ。問題は、現米政権がそれらを提供する準備ができていないように見えることだ」。トランプが姿勢を再考しなければ、今回の訪問はアメリカの立場強化に失敗するだけでなく、伝統的同盟関係の再編を加速させ、ワシントンが他の大国に地位を譲る可能性もある。

 アメリカへの幻滅:中国とロシアに賭ける湾岸諸国

 つい最近まで、ワシントンは、この地域の安全保障の保証人と見なされていた。だが今や長らくアメリカと歩調を合わせてきた湾岸諸国は、公然と不満を表明している。その理由は明白だ。一貫性のないホワイトハウスの政策や、突然の方針転換や、戦略の欠如は、緊密なパートナーでさえ代替策を模索せざるを得ない状況に追い込んでいる。こうした状況下で、中国とロシアは影響力を拡大し、厳格な政治的条件なしに、経済・軍事技術協力を提供している。サウジアラビアやUAEやカタールは、既に北京とモスクワとの関係を深めているが、アメリカの取り組みに対する反応は益々冷淡になりつつある。

 当初、トランプ大統領のホワイトハウス復帰により、ワシントンの指導力が回復することをこの地域の多くの人々は期待していた。だが二期目就任から数ヶ月経ち、古くからの問題が改めて浮き彫りになった。大胆な発言の裏に中身はほとんどない。「厳しい取り引き」や「秩序の回復」をトランプ大統領は繰り返し口にしているが、実際は彼の政策は不安定さを助長している。明確なシリア対策計画の欠如や、イランに対する矛盾した発言や、イスラエルとパレスチナに関する不安定な発言は、アメリカの信頼性への疑念を同盟諸国に抱かせている。

 今回のトランプ大統領の湾岸諸国訪問は、アメリカの力を示し、地域におけるワシントンの役割の再確認を目的としている。だが実際には、信頼を更に損なうリスクがある。大統領が明確な戦略を示せずに、空虚な言説ばかり続ければ、世界に対する影響力の変化を加速させるだけだ。中東諸国は既に適応し、外交政策を多様化し、中国やロシアやトルコとの関係を強化している。一方、ワシントンは彼らの優先事項から益々薄れつつある。

トランプ大統領二期目におけるこれまでの状況を分析すると、一貫した中東戦略が見当たらない。アメリカの影響力は低下し続けており、アメリカの行動は衰退を加速させるばかりだ。トランプ大統領の訪問は、突破口を開くどころか、かつてのアメリカの優位性に終止符を打つことになりかねない。この路線が変わらなければ、今後数年間、力関係の決定的再分配が起こり、中国とロシアが新たな主要当事者になるだろう。

 ヴィクトル・ミーヒンは、ロシア自然科学アカデミー会員、中東専門家

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/05/13/crisis-in-the-u-s-how-trumps-policies-are-hitting-the-middle-east/

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 ホワイトハウス公式動画 サウジアラビア投資フォーラムでの大統領演説

President Trump Participates in a U.S.-Saudi Investment Forum 51:31

 Rachel Blevins Substack 29:41

トランプ中東歴訪。シリア暫定大統領、アルカイダAbu Mohammed al-Jolaniと会い制裁解除。

Trump Embraces Syria's Jihadist Leader, Calls for Normalization with Israel | Vijay Prashad

Rachel Blevins and Vijay Prashad
May 15, 2025
President Trump ended his visit to Saudi Arabia by meeting with Abu Mohammed al-Jolani, a founding member of Al-Qaeda in Syria, who now has the title of “interim president” in Damascus. Trump urged Jolani to join the Abraham Accords and normalize ties with Israel.
 今朝の孫崎享氏メルマガ題名
変化。米国は従来中東政策で、イスラエルの安全保障を最優先。トランプ今回のサウジ等の中東訪問でイスラエル訪問せず。偶然でなさそう。トランプ大統領の経済的勝利の追求と「アメリカ第一主義」政策は、米イスラエル関係に変化・軽視をもたらしている可能性(WSJ)。

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