« ゼレンスキー大統領には強硬な態度を取り、ネタニヤフ首相には武器を送るトランプ大統領 | トップページ | Atlantic誌:消耗を無視すれば、ウクライナが勝つ »

2025年3月 9日 (日)

アメリカに大打撃を与えるトランプ関税戦争

2025年3月6日
Moon of Alabama

 関税がアメリカ国内に製造業を呼び戻すのに役立つとドナルド・トランプ大統領は思い込んでいるようだ。

 トランプ大統領の関税は、これまでアメリカ隣国のカナダとメキシコや中国、そして間もなく欧州連合の4か国を対象とする。

 一期目の任期中に、アメリカと近隣諸国を対象とする自由貿易圏USMCAをメキシコおよびカナダとトランプ大統領は交渉した。現在、彼は同協定の規則変更を試みている。だが、彼の手法は一貫性に欠けている。

 1月21日、カナダとメキシコに対する関税をトランプ大統領は約束した。2月1日に彼はそれを発表した。三日後、彼は関税実施を延期した。2月27日、関税が3月4日に発効すると彼は述べた。3月5日、彼は再び撤回を余儀なくされた(アーカイブ)。  
水曜日、前日最もアメリカに近い貿易相手国に課した25%関税が株式市場を混乱させ、業界から強い抵抗を引き起こしたのを受けて、カナダとメキシコからアメリカに輸入される自動車への関税を一か月間停止するとトランプ大統領は発表した。

 水曜日、トランプ大統領声明をキャロライン・レビット・ホワイトハウス報道官が読み上げ、ホワイトハウスが自動車メーカー最大手三社と協議し、アメリカ・メキシコ・カナダ協定に基づいて輸入される自動車には一カ月の免除が与えられると述べた。
 一か月の免除は冗談だ。ある国から別の国に部品生産を移すには何年もかかる。メキシコやカナダやアメリカには自動車に使われる無数の部品を製造している企業が何百社もある。それは完全に統合された産業で、構築に何年もかかっている。

 アメリカ自動車メーカーはUSMCAが維持されると信じていた。近いうちに関税が適用されれば、メーカーは大幅値上げをするか、生産を停止しなければならないだろう。  北米に対するトランプ大統領関税は、近隣諸国から価値ある譲歩を引き出すための圧力手段とみられる。これは交渉計画の一部で、長期的問題になる可能性は低い。

 だがトランプ大統領の対中関税は別問題だ。トランプ政権は中国を戦略的敵とみなして、深刻な打撃を与えたいと考えている。だが中国は反撃できるのだ(アーカイブ)。  
火曜日、トランプ大統領の最新関税が発効した数分後、アメリカからの輸入食品に独自の広範な関税を課し、アメリカ企業15社への販売を事実上停止すると中国政府は発表した。

 中国財務省は、アメリカ産鶏肉や、小麦、トウモロコシ、綿花輸入に15%の関税を課し、大豆から乳製品まで他食品にも10%の関税を課した。更にアメリカ最大のドローン・メーカーで米軍や救急業務に納入しているスカイディオを含むアメリカ企業15社に、特別な許可がない限り中国からの製品購入を禁止すると中国商務部が発表した。

 アメリカは世界貿易機関の自由貿易ルールに違反していると中国全国人民代表大会報道官楼欽建氏が非難した。「アメリカは一方的関税を課すことでWTOの規則に違反し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安全と安定を破壊した」と彼は述べた。
 アメリカで広く使用されている中毒性の合成オピオイド、フェンタニルの違法輸入を阻止するには中国への関税が必要だとトランプ大統領は主張している。

 フェンタニルと、その原料となる化学物質に対し既に厳しい規制を設けていると中国は反論している。アメリカ国内にしか存在しない問題に対して、中国を責めることはできない。  
フェンタニル問題がアメリカで深刻化している理由は決して外部的なものでなく、麻薬を厳しく禁止している中国とは何の関係もない。違法フェンタニルは1980年代早々にアメリカ市場に流入し始めた。その後、アメリカ製薬会社が合成オピオイドの依存性を隠し、医師が鎮痛剤を過剰処方し、患者の間で中毒が蔓延していることがメディアで明らかにされた。統計によると、世界人口の5%を占めるアメリカが世界のオピオイドの80%を消費しているが依然フェンタニル関連物質を分類として恒久的に規制していない。異常な需要が違法フェンタニル市場の発展を後押しし、アメリカでのフェンタニル蔓延に根本的に貢献している。
 薬物中毒の社会的原因を環球時報が指摘している。  
アメリカにおける社会統治の欠如が麻薬問題を悪化させている。JD・ヴァンス副大統領も自伝で同様の状況を述べている。多くの低所得世帯は教育や監督が不十分な混沌とした地域社会で暮らしている。このため多くの子どもが麻薬乱用や麻薬密売の劣悪な環境下で暮らしており、断ち切るのが困難な悪循環を形成している。
 中国政府報道官は反撃すると誓っている。  
我々は脅迫を怖れない。いじめは効果がない。圧力や強制や脅迫は中国に対処する正しい方法ではない。中国に最大限の圧力をかけている人々は、相手を間違え、計算を間違えている。アメリカが本当にフェンタニル問題を解決したいなら、中国と対等に接して協議するのが正しいやり方だ。

 もしアメリカが戦争を望むなら、関税戦争であれ貿易戦争であれ、あるいは他のいかなる種類の戦争であれ、我々は最後まで戦う用意がある。
 このような中国発言は通常発言とは全く異なる。そのため、アメリカと中国間ですぐに妥協が成立する可能性は低いと思われる。

 ヨーロッパに関して、ヨーロッパから輸入する商品数はヨーロッパへの輸出量を上回るとアメリカは主張している。これは事実だが、経済関係の全範囲を網羅しているわけではない。アメリカがヨーロッパに輸出するサービス(ソフトウェアなど)はヨーロッパがアメリカに輸出するサービスより遙かに多い。商品とサービスの交換総額は差し引きゼロだ。ヨーロッパ商品に関税をかけることにアメリカが固執する場合、EUはアメリカの全てのサービスに関税を課して対抗できる。結果は理論上、引き分けになるはずだ。

 だが関税は危険だ。関税は市場を歪め、参加者全員に多大な代償を負わせる。その痛みを最も感じるのアメリカ消費者だ。  
計画されている関税の全てが発動されれば、アメリカの関税率はわずか数週間で20%を超え、第一次世界大戦前以来の高水準となる。ジョセフ・ポリターノが指摘している通り、これらの措置の代償は莫大で、アメリカ輸入品1兆3000億ドル、つまりアメリカに持ち込まれる全商品の約42%に相当し、100年近く前の悪名高いスムート・ホーリー法以来最大の関税引き上げとなる。
...
 これら関税の総額は、アメリカ消費者と企業が輸入品購入に支払う金額が増えることで1600億ドルの増税となり、今後も更に増える見込みだ。火曜日にトランプ大統領が発表した措置は、提案した措置の40%にすぎない。次の措置が実施されれば、輸入経費は6000億ドル以上、GDPの1.6%にまで上昇することになる。

...  トランプが計画を撤回しなければ、世界経済は1930年代の大恐慌のような崩壊に直面する可能性があるとアメリカ国際商業会議所は懸念している。「これが1930年代の貿易戦争の領域に陥る下降スパイラルの始まりになるのではないかと深く懸念している」と国際商業会議所のアンドリュー・ウィルソン副事務局長は述べた。トランプの措置は「ちょっとした混乱」を遙かに超える可能性があるのだ。
記事原文のurl:https://www.moonofalabama.org/2025/03/trumps-tariff-wars-will-hurt-us-the-most.html#more

----------

« ゼレンスキー大統領には強硬な態度を取り、ネタニヤフ首相には武器を送るトランプ大統領 | トップページ | Atlantic誌:消耗を無視すれば、ウクライナが勝つ »

アメリカ」カテゴリの記事

カナダ」カテゴリの記事

トランプ大統領」カテゴリの記事

Moon of Alabama」カテゴリの記事

コメント

おひさしぶりです。
トランプの関税について、面白い記事を見つけました。

■トランプ革命の余波で米国が不況入り…日本ほか世界経済も共倒れの危機へ
=高島康司(2025/3/11)
https://www.mag2.com/p/money/1587518
4ページ目抜粋

トランプの目指すものは明らかだ。
所得税が導入される以前、
つまり1913年以前(←★★★)の状態に関税の水準を戻して、
関税収入で米政府の主な歳入がカバーされてしまう状況を作り出したいのである。すると、政府の歳入が米国民の所得税に依存する必要性は大きく減る。

この結果、所得税と税の還付を主な仕事にする「IRS」は不要になる。
規模を大幅に縮小し、関税徴収のための「外税庁」へと改組する。
このように、「IRS」の閉鎖と高関税の適用はセットになっている。

高関税の適用で所得税を廃止し、(←★★★下記動画を見るとわかるが所得税は法律違反)
個人消費を引き上げて景気を上昇させるという大胆な計画だ。
これを実現するために、「FRB」も廃止して別組織に改組する計画だ。

参考動画■連邦準備制度(FRB)の下では恐慌が科学的に引き起こされる
zeitgeist(時代精神) 日本語字幕 11/15
https://www.youtube.com/watch?v=4IZru5t0_CE

-------------
さらにトランプと中国との関係。

米露接近は中国のお膳立てで、ノーベル平和賞を餌にした、とのこと。
この遠藤誉氏の解釈は興味深いので、できればトップから、
遠藤氏の他の記事もご覧下さい。
トランプ自身が「ウクライナ危機はバイデンが起こした」と発言している記事とかあります。

■史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は
習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か? (2025-02-22)
https://grici.or.jp/6039

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ゼレンスキー大統領には強硬な態度を取り、ネタニヤフ首相には武器を送るトランプ大統領 | トップページ | Atlantic誌:消耗を無視すれば、ウクライナが勝つ »

お勧め

  • IWJ
    岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal

カテゴリー

ブックマーク

最近のトラックバック

無料ブログはココログ