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2025年1月30日 (木)

いかにして中国はトランプとOpenAIに勝ったのか

2025年1月24日
Moon of Alabama

 人工知能を巡る誇大宣伝や、それを独占しようとするアメリカの試みの失敗や、最近の中国の反撃は、イノベーションのあり方についての教訓だ。また、アメリカがイノベーションを行う能力を失いつつあることも示している。

 2023年半ば、人工知能の誇大宣伝が注目を集めた時に私は下記のように書いた。
 
「人工知能」は(ほとんど)見かけ倒しのパターン認識だ

 現在、ChatGPTのような大規模言語モデル・ファミリーが話題になっている。このプログラムは自然言語入力を読み取り、それを処理して関連する自然言語コンテンツ出力を生成する。これは新しいものではない。最初のアーティフィシャル・リングイスティック・インターネット・コンピューター・エンティティ(A.L.I.C.E.)は、1960年代初頭にMITのジョセフ・ワイゼンバウムが開発した。1980年代に、私はメインフレーム端末でELIZAと愉快なチャットをした。ChatGPTはもう少し気が利いたもので、その反復結果、つまりそれが作成する「会話」は、一部の人々を驚かせるかも知れない。だが、それを巡る誇大宣伝には根拠が無い。
...
 現在、大規模言語モデル出力の、事実上最高の正確性は推定80%だ。これらモデルは記号やパターンを処理はするが、それら記号やパターンが何を表しているのかは理解していない。これらは数学的問題や論理的問題や、非常に基本的な問題さえ解けない。

 書き言葉の翻訳のようなニッチなアプリケーションでは、AIやパターン認識が驚くべき結果をもたらす。だが全ての単語を正しく翻訳できるとはまだ考えられない。このモデルは、アシスタントとしては使えるが、その結果を常に二重チェックする必要がある。

 現実世界の状況を判断するには、全体的に現在のAIモデルの正確性は、まだまだ低すぎる。データや計算能力を増やしても状況は変わらない。限界を克服したければ、根本的に新しい発想を見いだす必要がある。
 だが、誇大宣伝は続いた。一つの巨大AIモデル、ChatGPTは、非営利団体OpenAIがもたらした。だがCEOのサム・アルトマンは、すぐに自分が稼げるかもしれない莫大な金額の匂いに気がついた。OpenAIの非営利組織を一年守った後、アルトマンは、事実上、理事会を乗っ取り、組織を非公開にした。  
ChatGPTの開発元OpenAIは、中核事業を非営利理事会による管理がなくなる営利法人に再編する計画を進めていると事情に詳しい関係者がロイター通信に語った。これにより、同社は投資家にとって一層魅力的な企業になるだろう。

 この営利企業の株式をサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は初めて受け取ることになる。再編後、同社の価値は1500億ドルに達する可能性があり、投資家への運用益上限も撤廃しようとしていると関係者は付け加えた。
 OpenAIが提供したChatGTP大規模言語モデルはクローズ・ソースだった。金を支払って、クラウドで実行されるブラック・ボックスで、料チャットや、翻訳や、コンテンツ生成や、特定の問題の分析に使用したりできる。

 ChatGTPのトレーニングと維持には、大量の計算能力と費用が必要だった。多少高価だったが新技術はなかった。使用されたアルゴリズムは良く知られており、それを「プログラム」するために必要なトレーニング・データは、無料で入手できるインターネット・コンテンツだった。

 AIに関する大騒ぎこそあるものの、AIは秘密でもなければ新技術でもない。競争の参入障壁は低いのだ。

 これが、イギリス人ジャーナリストのエドワード・ジトロンに「OpenAIは一体どうやって生き残るのか?」とNaked CapitalismのYvesが質問した理由だ。生き残れない。あるいは生き残る可能性はほとんどない。アメリカでの議論は、この事実を決して認めない。

 AIは次の大物で、アメリカの世界支配を更に推進するはずだと政治家連中は考えていた。その分野でアメリカが持っていると思った優位性に対抗するあらゆる競争の可能性を彼らは阻止しようとした。アメリカ最後の大手チップメーカーNvideaは、中国への最新AI特化モデルの販売を禁止され、数十億ドルの損失を被った。

 二日前、アメリカにおける5000億ドルのAIインフラ投資、スターゲイトをトランプ大統領が発表した。  
火曜日、アメリカで人工知能インフラを拡大するため、スターゲイトという新会社を設立すると大手ハイテク企業三社が発表した。

 火曜日午後、オープンAIのサム・アルトマンCEO、ソフトバンクの孫正義CEO、オラクルのラリー・エリソン会長がドナルド・トランプ大統領と並んでホワイトハウスに現れ、トランプ大統領が「史上最大のAIインフラ・プロジェクト」と呼ぶ同社の発表を行った。

 各社はこのプロジェクトに、まずは1000億ドル投資し、今後数年で最大5000億ドルをスターゲイトに投入する計画だ。このプロジェクトにより、アメリカで10万人の雇用創出が期待できるとトランプは述べた。

 スターゲイトは、データセンターを含む「次世代AIを支える物理的および仮想的インフラ」を全米各地に構築する予定だとトランプは述べた。このグループ初の100万平方フィートのデータ・プロジェクトを既にテキサスで建設中だとエリソンは語った。
 同日ながら、遙かに静かな形で、中国企業が別のAIモデルを発表した。  
我々の第一世代の推論モデルであるDeepSeek-R1-ZeroとDeepSeek-R1をご紹介します。DeepSeek-R1-Zeroは、予備段階として教師あり微調整 (SFT) を行わずに、大規模強化学習 (RL) でトレーニングされたモデルで、推論において優れた性能を発揮します。RLを使用することで、DeepSeek-R1-Zeroは強力で数多くの興味深い推論動作を自然に実現します。
 新しいDeepSeekモデルは、他のどのモデルよりも優れたベンチマークを有している。これを実現するために、異なる技術の組み合わせや、より少ないトレーニング・データや遙かにに少ない計算能力を使用している。使用費用が安く、OpenAIとは対照的に、本物のオープン・ソースだ。

 フォーブスはこう書いている。  
先端半導体に対するアメリカの輸出規制は、中国のAIの進歩を遅らせるのが狙いだったが、気づかぬうちにイノベーションを促進してしまったのかもしれない。最新ハードウェアだけに頼ることができなくなったため、杭州を拠点とするDeepSeekなどの企業は、少ない資源で、より多くのことを実現する創造的解決策を見つけざるを得なくなったのだ。
...
 今月、DeepSeekはR1モデルを発表した。これは純粋強化学習などの高度な手法を使用し、世界で最も素晴らしいモデルの一つであるだけでなく、完全にオープンソースであるため、世界中の誰もが、それに対し分析し、変更し、構築できるモデルを作成したのだ。
...
 数学、コーディング、複雑な推論など、様々なタスクにわたり、DeepSeek-R1の性能はOpenAIのトップ推論モデルに匹敵する。たとえば、AIME 2024数学ベンチマークでは、DeepSeek-R1のスコアは79.8%だったのに対し、OpenAI-o1は79.2%だった。MATH-500ベンチマークでは、DeepSeek-R1は97.3%を実現し、o1は96.4%だった。コーディング・タスクでは、DeepSeek-R1は Codeforcesで96.3パーセンタイルに達し、o1は96.6パーセンタイルに達した。ただし、ベンチマークの結果は不完全な場合があり、過度に解釈すべきではないことに注意が重要だ。

 だが、最も注目すべき点は、DeepSeekが最新コンピュータ・チップに頼るのではなく、主に新機軸の採用を通して、これを実現できたことだ。
 Natureも同様に感心している。  
DeepSeek-R1と呼ばれる中国製の大規模言語モデルは、OpenAIのo1などの「推論」モデルに対する、手頃な価格で、オープンなライバルとして科学者たちを興奮させている。
...
 「これは驚くべきもので、全く予想外だ」と、イギリスを拠点とするAIコンサルティング会社DAIR.AI共同創設者でAI研究者のエルビス・サラビアがXに書いた。

 R1が際立っているのには別の理由がある。このモデルを開発した杭州の新興企業DeepSeekは、このモデルを「オープンウェイト」として公開したのだ。つまり研究者はアルゴリズムを研究し、その上に構築が可能なのだ。MITライセンス下で公開されたこのモデルは自由に再利用できるが、トレーニング・データが公開されていないため、完全なオープンソースとは見なされていない。

 「DeepSeekのオープン性は実に素晴らしい」と、ドイツ・エアランゲンのマックス・プランク光科学研究所の人工知能研究室リーダーのマリオ・クレンは言う。それに比べると、カリフォルニア州サンフランシスコのOpenAIが構築したo1や他モデル、最新のo3も含めたモデルは「本質的にブラックボックス」だと彼は言う。
 全てを見てきた長年のインターネット投資家たちさえ感銘を受けている。
マーク・アンドリーセン 🇺🇸 @pmarca - 2025年1月24日 9:19 UTC

Deepseek R1は、私がこれまで見た中で最も素晴らしく印象的な飛躍的前進の一つで、オープンソースとして世界への大きな贈り物だ。🤖🫡
 Natureは次のように付け加えている。

 DeepSeekは、R1のトレーニングにかかる全コストを公表していないが、同社のインターフェースを使用するユーザーには、O1の運用コストの約30分の1を請求する。
 同社はまた、計算能力が限られている研究者がモデルを操作できるように、R1のミニ「凝縮」版も作成している。

 それが実際機能するのだ!
Brian Roemmele @BrianRoemmele - 2025年1月23日 14:34 UTC

皆様、我々は成し遂げたと思っています!
夜間テストで確認されれば、インターネットに接続されていないRaspberry Piで1秒あたり200トークンで動作するオープン・ソースのDeepSeek R1が完成します。
 「OpenAI」より優れた最先端AIが完全にあなたのポケットに入り無料で使用可能です!
 全てのテストが完了すれば、Piイメージを公開します。Raspberry Piに挿入するだけでAIが手に入ります!
 これは、AIモデルを真にオープン・ソース化した時に発揮される力のほんの始まりにすぎない。

 最新のRasberry Piハードウェア価格は50ドルからだ。ソフトウェアは無料だ。

 これは OpenAIにとっての死刑宣告だ。  
アルノー・ベルトラン @RnaudBertrand - 2025年1月21日 14:23 UTC

中国のDeepseekがOpenAIにとってどれほど悪いニュースかを、ほとんどの人はおそらく気づいていない。

 彼らは、様々なベンチマークでOpenAIの最新モデルo1に匹敵し、更にそれを上回るモデルを考案し、その価格のわずか3%で提供している。

 本質的に、誰かがiPhoneと同等の携帯電話を発表したが、それを1,000ドルでなく、30ドルで販売するようなものだ。それほど劇的だ。
 更に、オープンソースとして公表されているため、OpenAIでは提供されないオプションとして、APIを全く使用せず、「無料」で自分でモデルを実行することも可能だ。...

 DeepSeekの背景も素晴らしい。

 2007年、三人の中国人技術者がAIを使ったクオンツファンド(金融投機)構築に着手した。彼らは大学を卒業したばかりの意欲的人材を雇った。彼らのHigh-Flyerファンドはある程度成功したが、ここ数年、中国政府は金融工学、クオンツ取引、投機を取り締まり始めた。

 時間と研究室にある未使用計算能力を利用して、技術者たちはDeepSeekモデル構築を開始した。費用は最小限だった。OpenAI、Meta、GoogleがAI構築に数十億ドル費やしたのに対し、公開されたDeepSeekモデルのトレーニング経費は僅か500万~600万ドルだった。
ヘンリー・シー @henrythe9ths - 2025年1月20日 23:20 PM

7. 教訓は?

時に僅かしか持っていないことが、より多くのイノベーションを生むことがある。下記のようなものが必要ではないことをDeepSeekは証明している。

- 数十億ドルもの資金
- 数百人の博士号取得者
- 著名家系
 優秀な若い頭脳と違った考え方をする勇気と決してあきらめない根性だけで良いのだ
 もう一つの教訓は、優秀な若者の頭脳は、金融投機を最適化するために無駄にされるべきではなく、実際に使えるものを作るべきだということだ。

 DeepSeekは、貿易障壁や技術障壁を利用して、競合相手を技術から遠ざけることが、いかに不可能かを実証している。適切な資源があれば、それら障壁を回避するだけでイノベーションを起こすことが可能なのだ。

 たとえ何十億ドルもの資金や、トランプのような声高なマーケティング専門家担やサム・アルトマンのような自己宣伝詐欺師がいても、良く訓練された技術者の豊富な人材とは競争できない。

 察者网のある筆者は次のように述べている(機械翻訳)。  
米中科学技術戦争において、中国独自の優位性は、まさにアメリカの禁輸措置から生まれたものだ。ワシントンに追いやられたが、我々の強い生存意志で、限られた資源を最大限に活用することが突破口を開く秘訣だと言える。歴史上、弱者が強者に勝つたり、小さな者が大きな物と戦ったりする物語は新しいものではない。

 自国の絶対的優位性に頼りすぎて、アメリカは多くの資源を浪費し、国内消費にのめり込むベトナム戦争型ジレンマに陥るだろう。
 アメリカがその教訓を(再)学習するのに一体どれくらい時間がかかるのだろう?

記事原文のurl:https://www.moonofalabama.org/2025/01/how-the-chinese-beat-trump-and-openai.html#more

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