シリアにおける帝国の傲慢さ(とその結果)
アラステア・クルック
2025年1月1日
Strategic Culture Foundation
シリア情勢は「アサド大統領が倒れ」「テクノクラート・サラフィー主義者」が権力を掌握した、というほど単純ではない。
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どうやら、シリア情勢は「アサド大統領が倒れ」「テクノクラートのサラフィー主義者」が権力を掌握した、というほど単純ではなさそうだ。
ある意味で、この崩壊は予測可能だった。アサド大統領は、過去数年、エジプトとUAEの影響を受けていたことが知られている。イランとロシアとの関係を断ち切り、欧米諸国側に転じるよう彼らはアサド大統領に促していた。3~4年にわたりアサド大統領は徐々にそうした動きを示し実行してきた。特にシリア軍と協力する作戦上の問題でイランは益々困難に直面していた。アサド大統領の移行は対イラン・メッセージとして意図されていた。
アメリカによる長年にわたるシーザー制裁に加え、占領下のシリア北東部でアメリカが押収した農業とエネルギー収入の全てを失い、シリアの財政状況は壊滅的だった。シリアには経済が全く存在しなかったのだ。
アサドにとって、ジレンマから抜け出す唯一の現実的方法は、イスラエルとワシントンに接触をはかることだったのは確実だ。「正常化」は制裁解除につながる可能性があると連中は彼を誘った。そしてアサドと連絡を取っていた人々によれば、(HTS「侵攻」の土壇場でさえ)ワシントンに近いアラブ諸国は、シリアがサラフィー主義の狂信者の餌食になるのを見るよりも、彼の指導継続を選ぶだろうとアサドは信じていた。
誤解のないように言っておくと、アサド大統領に対し、軍隊(全体として)は脆弱で、給与も低く、外国情報機関に浸透され、賄賂を受け取っているため、国家を効果的に防衛できるとは考えられないと、モスクワとテヘランは警告していた。また、アサド大統領はアレッポを占領しようとしているイドリブの聖戦主義者の脅威についても繰り返し警告されていたが、大統領は警告を無視しただけでなく、反論した。
ジョラニの民兵が進軍していた「最後の日々」でさえ、一度ならず二度も非常に大規模な外部軍事力派遣をアサドは申し出られた。アサドは拒否した。最初の機会には「我々は強い」と相手に語ったが、その後すぐ二度目には「我が軍は敗走している」と認めた。
アサドは同盟諸国に見捨てられたわけではない。その時はもう遅すぎたのだ。アサドは余りに頻繁に態度を変えた。アサドの同意がなければ支援できなかった主要国中の二国(ロシアとイラン)は苛立っていた。
アサド家と知り合いで、アレッポ侵攻直前に大統領と長時間話をした、あるシリア人は、アサド大統領が驚くほど楽観的で動揺していないことに気づいたという。その友人に対し、ジョラニの脅威に対処できるだけの兵力(2,500人)がアレッポにいると彼は保証し、シシ大統領がシリア支援に介入する用意があるかもしれないとほのめかした。(もちろんエジプトは、かつて世俗主義だったバース党の国で、ムスリム同胞団のイスラム教徒が権力を握るのを恐れていた)。
アサド大統領も同様の認識を持っているとアル・アクバル紙編集者イブラヒム・アル・アミンは指摘している。
「アメリカや一部欧州諸国との問題をアブダビが解決できるという確信をアサド大統領は深めていたようで、抵抗勢力との同盟を離脱する戦略に同意した場合の、経済的な誘惑を彼はよく耳にしていた。武装勢力の攻撃を止めるため何か大きなことが起きることをアサド大統領はまだ期待していたとアサド大統領がダマスカスを離れる直前まで同行していた部下の一人は語っている。イスラム主義者がシリア政権掌握するよりも自分が権力の座にとどまるのを「アラブ社会と国際社会」は望むはずだとアサド大統領は考えていた」。しかし、ジョラニ軍がダマスカスに至るM5高速道路にいた時でさえ、撤退準備や、親しい友人にそのような不測の事態について考えるよう警告する努力をアサド一族や主要当局者は一切していなかったと、この対談者は語った。モスクワへ向かう途中で、アサドがフメイミンに向かっていた時でさえ「撤退せよ」という助言は友人に送られなかった。
アサド大統領がモスクワに向けて静かに出発した後、一体誰が、いつシリア軍に撤退と政権移行準備を命じたのかは分からないと後者は述べた。
11月28日、アレッポ県でのHTS攻撃と南方への急速な進撃の翌日(レバノンでの停戦の翌日)にアサド大統領はモスクワを短時間訪問した。モスクワでの大統領会談の内容についてロシア当局は何も語っておらず、ロシアから口を閉ざしたまま大統領は帰国したとアサド家は語っている。
その後、アサド大統領は最終的にモスクワに向け出発した(12月7日、自家用機でドバイまで複数回飛行した後、または12月8日に)。永久出国することを、またもや身近な人や家族の誰にもほとんど告げなかった。
この普段の振る舞いと違う考え方の原因は一体何だったのか? 誰にもわからないが、愛する妻アスマの重病で、バッシャール・アル・アサド大統領は精神的に深刻な混乱に陥っていたのではないかと家族は推測している。
率直に言えば、三つの主要諸国は事態の方向性を明確に理解していたものの シリア(国家の脆弱性は驚くべきことではなかった)、それでもアサドの否定的な考え方と、その結果としての軍事的結末の速さは驚きだった。それが本物の「想定外の事態」だった。
一体何がきっかけだったのか? 数年にわたり、エルドアンは、アサドに対し、まず「正当なシリア反体制派」との交渉、次に憲法起草、そして最後にエルドアン大統領との直接会談(アサドは一貫してこれを拒否していた)を要求してきた。三勢力全てが、「反体制派」と交渉するようアサドに圧力をかけたが、アサドは応じず、エルドアンとは会わなかった(両者は互いに嫌悪し合っている)。これらの点に対する不満は高かった。
今や議論の余地なくエルドアン大統領が「旧シリア」を「所有」している。オスマン帝国領土回復の感情は熱狂的で、更なるトルコの復讐を要求している。だがより世俗的なトルコ都市住民など他の人々はトルコの宗教的民族主義誇示にはさほど熱狂していない。
だが、エルドアンは、おそらく(あるいは、もうすぐ)後悔の念を抱くだろう。確かにトルコはシリア新領主として堂々立っているが、次に何が起きるかは今や彼が「責任」を負っている(HTSはトルコ代理人であることが明白に暴露されている)。少数派が殺害され、宗派間の残忍な処刑が加速し、宗派主義は一層過激になっている。シリア経済回復は視野に入っておらず、収入はなく、ガソリン精製所(以前イランが供給していた)燃料もない。
エルドアンが支持する、衣替えし西洋化したアルカイダは、常に弱体化する危険がある(宗派間殺人が残酷なほど示す通り)。スーツを着たアルカイダ変身を異端派信奉者連中にジョラニは押し付けられるだろうか? 当時(2012~2013年)アル・バグダディ最高側近だったアブ・アリ・アル・アンバリは、ジョラニを以下のように痛烈に評価していた。
「彼は狡猾な人物で、裏表があり、自分を崇拝し、兵士を気にかけず、メディアで自分の名を上げるためには兵士の血を犠牲にするのもいとわない。衛星放送で自分の名前が取り上げられると彼は満足感に浸る。」
いずれにせよ、エルドアンの策略により、以前(そして大部分)静まっていたスンニ派宗派主義とオスマン帝国主義が再燃する結果になったのは明白だ。影響は多岐にわたり地域全体に波及するだろう。既にエジプトは不安を抱いており、ヨルダンのアブドラ国王も同様だ。
シリア転覆の「勝者」だと多くのイスラエル人は自認している。抵抗枢軸の補給線が途中で切断されたためだ。11月19日にイスタンブールでトルコ情報機関長イブラヒム・カリンと会談した際、イスラエルの治安責任者ロナン・バールは予想されるイドリブ侵攻について説明を受けた可能性が高い。イスラエルがレバノン停戦を発効し、ヒズボラ軍のシリア侵入を阻止するのに間に合うように(イスラエルはレバノンとシリアの国境検問所全てを直ちに爆撃した)。
それでも、再燃したサラフィー主義の熱狂は、自分たちの味方ではなく、最終的に自分たちの利益にもならないことにイスラエル人は気づくかもしれない。
2025年1月17日、イランはロシアとの待望の防衛協定に署名予定だ。
ロシアはウクライナ戦争に集中し、中東の泥沼からは距離を置くだろう。進行中のゆっくりとした世界再編や、やがてアジアの「ハートランド」とBRICSの安全保障上の利益をトランプ大統領が認め、リムランド(大西洋主義)安全保障圏の境界線に合意し、世界戦略の安定と欧州の安全保障問題に関する協力で合意できるようにする大局的試みに焦点を合わせるためだ。
(本記事の第一部は、Conflicts Forum の Substackでご覧いただける)。
記事原文のurl:https://strategic-culture.su/news/2025/01/01/imperial-hubris-and-its-consequences-in-syria/
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Scott Ritter Extra
Trump versus “The Establishment”今朝の孫崎享氏メルマガ題名
Scott Ritter
Jan 05, 2025
ドイツ経済の不振。ドイツ中銀も2025年の成長見通しを修正し、12月に1.1%から0.2%に下方修正。ハンデルスブラット研究所は、2023年に0.3%、2024年に0.2%のマイナス成長に続き、2025年には0.1%のマイナスになると予測。安価なロシア・天然ガスが途絶え、エネルギー高騰が一因。
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