台湾海峡を「地獄の光景」に変えるワシントン計画が根本的に間違いな理由
2024年6月24日
ブライアン・バーレティック
New Eastern Outlook
アメリカと同盟諸国が軍隊を動員できるまで最大一「ヶ月」、中国軍と戦うのに、無人システムに依存するアメリカ防総省の戦略について、「米軍は中国の台湾攻撃を阻止するため『地獄の光景』を計画している」と題するジョシュ・ロギンによる論説記事で、ワシントン・ポストは根本的に誤った評価を示している。
この戦略をもっともらしいものとしてワシントン・ポストは売り込もうとしているが、その戦略が実行され実際に成功する可能性に関して、新聞自体が疑問視している。
不完全な前提に基づいた不完全な戦略
戦略自体の欠陥を検討する前に、まずこの戦略が使われる「台湾防衛」という前提全体が完全に間違っていることを指摘しなければならない。
自らの公式ウェブ・サイト「アメリカと台湾の関係」という項目で「我々は台湾独立を支持しない」とアメリカ国務省は明確に認めている。
アメリカ政府が台湾の独立を承認も支持もしない場合、台湾は暗に他国に「従属する」ことになる。1972年の上海コミュニケで示されたアメリカ自身の「一つの中国」政策によれば、その国とは中国で、唯一合法政府は中華人民共和国(PRC)だ。
1972年の文書では次のように詳しく説明されている。
台湾海峡の両側にいる全ての中国人が、中国は一つで、台湾は中国の一部だと主張していることをアメリカは認めている。アメリカ政府はその立場に異議を唱えない。
したがって、台湾と中国の他地域とのいかなる交流も中国の内政問題で、国際法、より具体的には国連憲章と国家の領土保全と政治的独立の保証に従い、アメリカには干渉する権限がない。
国連憲章は明確にこう述べている。
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
台湾の独立運動に対するワシントンの非公式支援は、台湾の地位に関する北京との合意に反しており、そもそも国際法違反なのは明らかだ。無人システムを含むいかなる軍事力を使っても、中国内政問題に介入するというアメリカの計画は、国際法の下では全く不完全な弁護の余地がない立場から始まっている。
ドローンによる「地獄の光景」が機能しない理由
ドローン軍で戦い勝利すると米軍計画者が想定している水陸両用侵攻以外にも、アメリカが支援する分離主義や台湾に対する中国主権侵害に対処する方法を中国は多数持っている。
台湾の地方行政をワシントンが政治的に掌握しているにもかかわらず台湾経済は中国他地域に大きく依存している。台湾産業輸出のほぼ半分が中国他地域に輸出されている。台湾の広範な半導体や電気部品産業に必要な原材料を含め中国他地域からの輸入も不可欠だ。
単に貿易を断つだけで、台湾は存続可能な経済体として機能しなくなる。中国軍航空部隊、潜水艦部隊や中国の大規模ドローン能力により強制される封鎖と相まって、決して起きない侵略を阻止するためにドローンを使用するというワシントンの「地獄絵図」戦略は意味をなさない。
だが、もし台湾島周辺で中国軍がアメリカ無人機と交戦したらどうなるだろう?
ワシントン・ポスト論説は下記のように主張している。
地獄の光景計画が進展していることを示す公的兆候がいくつかある。3月、まさにこの任務のため無人水上艦艇と空中ドローン群を建造する「レプリケーター」と呼ばれる計画に10億ドル費やすと国防総省は発表した。レプリケーター計画は、ドローン技術でウクライナが革新を起こしたロシア・ウクライナ戦争からアメリカも教訓を得ていることを示しているとパパロは述べた。
これらシステムの配備時期は不明だ。アメリカのシンクタンクが実施したほとんどの軍事演習によると、攻撃時にドローン群が準備できていない場合、紛争が長期化する恐れがあり、米海軍と空軍の資産に大きな損失をもたらし、日本や韓国やフィリピンなどの同盟諸国にまで拡大する可能性がある。
これは、アメリカ・インド太平洋軍の新司令官サミュエル・パパロ米海軍提督発言をワシントン・ポストが引用した後のことだ。パパロ提督は計画の詳細を明らかにするのを拒否したが「これは現実のもので、実現可能だ」と主張した。
アメリカと同盟諸国がウクライナに送ったドローンが成果を上げていないことを考えると、ワシントン・ポストがウクライナに言及したのは実に皮肉だ。これには、トルコのバイラクタルTB-2ドローンなどの、より大型の長距離攻撃用ドローンだけでなく、アメリカ製スイッチブレードのような小型神風ドローンも含まれる。
ウクライナが最も効果的に活用したドローンは、中国から購入したものか、中国で調達した部品から作られたものだ。
中国国営メディア「環球時報」が発表したワシントンの「地獄絵図」計画に対する反論の中で、この戦略を推進する欧米メディアが明らかに省略している、非常に明白な、いくつかの要素を胡錫進は指摘している。
アメリカより多くのドローンを、中国はより安価に、より速く、より高性能に製造できると胡錫進は指摘している。ウクライナ軍がドローン戦争でわずかな成功を収めているのは、アメリカ兵器製造業者が開発したドローンではなく、ウクライナ人が軍事目的で改造した中国製ドローンによるものだというウクライナ現地の現実を考えると、胡錫進の結論は大げさな主張から程遠い。
台湾周辺での中国との戦争に関するアメリカの議論で省略されている、もう一つの要素は、そもそも戦場に赴くためアメリカが移動しなければならない距離だ。太平洋で隔てられているため、台湾海峡や周辺地域に到達するまでアメリカは何千キロも移動しなければならない。
韓国と日本とフィリピンにまたがる軍事基地ネットワークをアメリカは維持しているが、依然アメリカは本土からこれら基地に物資を補給する必要があり、台湾海峡に到達するため米軍は依然何百キロも移動しなければならない。一方、現場が中国なので、中国軍は既にそこに駐留している。
人口が多く、産業基盤が大きく、軍事産業の生産能力も大きく、軍事力も同等の国と、その国の海岸沿いで戦争するのは、台湾を中国の一部として正式に認めながら中国から「台湾を守る」という考え同様、全く非合理的で、そのような紛争は始まる前から失敗する運命にある。
死と破壊を引き起こす能力を米軍が持っていることに疑いの余地はない。しかし世界中に引き起こした混乱の渦中で勝利を収められるかどうかは極めて疑わしい。ウクライナでのロシアとの代理戦争の方が、中国本土沖合で中国と戦うよりも多くの点でアメリカにとって有利だが、それでもアメリカと同盟諸国は代理戦争で負け続けている。
ワシントンの「地獄の光景」戦略の背後にある能力を評価するのは困難だ。戦略の一部たりとも公表されていないこと、そして近年、アメリカ軍が世界の他地域でいかに劣悪な実績を示してきたかを考えれば。アメリカ軍の弱さから、ワシントンは「フグ」戦略に頼らざるを得なくなったのかもしれない。つまり実際より遙かに大きく強力だと敵に思わせるために、アメリカ軍は自分を誇張しているのだ。更なる抑止力として、フグは棘や毒も使う。しかし自然界では、多くの種がフグの欺瞞を見破り、棘や毒をうまく利用して簡単にフグを捕食できるよう進化してきた。
中国もワシントンのはったりを見抜く能力がありそうだし、台湾の主権を維持するよう北京を説得するためワシントンが使っている「とげとげしい棘と毒」を乗り越えて働くのは苦労する価値がない。
また、ワシントンの目標は実際には台湾を「防衛」することではなく、台湾を中国の他の地域と完全に再統一するための代償をできるだけ高くすることなのを忘れてはならない。戦闘の最中に台湾が取り返しがつかないほど破壊されるのは、台湾の人口、産業、インフラのかなりの割合が最終的に完全に中国の他の地域と統合されることよりもワシントンにとって、ずっと都合が良い。
2023年1月に発表された論文「次なる戦争、最初の戦い:中国の台湾侵攻をシミュレーションする」で、台湾を巡る中国とアメリカの紛争可能性をシミュレーションした結果、アメリカ政府と軍需産業が出資するシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は下記のことを認めている。
アメリカと台湾は中国による侵攻阻止に成功したが、台湾のインフラと経済に与えた甚大な損害により、効果も薄れてしまった。
注目すべきは、これがCSIS最良のシナリオだったことだ。おそらく、この最後の点こそ、台湾の人々がもっとも考慮すべき点だろう。
自国の主権と領土保全を守るため、中国には明らかにどんな代償も払う覚悟がある。自国権益のためなら、代理国家を完全に犠牲にする覚悟があることをワシントンは繰り返し示してきた。台湾の人々が本当に選択できる唯一の選択肢は、統一か殲滅だが、殲滅は、中国の政策立案者ではなく、中国を困らせるためアメリカが意図的に仕組んだものであることを理解しなければならない。
ブライアン・バーレティックはバンコクを拠点とする地政学研究者、ライター。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
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Dialogue Works
Russia has Destroyed Ukraine's Army and Demilitarized NATO | Scott Ritter 49:26
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