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2024年7月21日 (日)

ウクライナでロシアがNATOに勝利する理由

マイク・ホイットニー
2024年7月14日
Unz Review



 ワシントンDCで3日間にわたり開催されたNATOサミットは、今後のロシア連邦攻撃に、同盟諸国32カ国全てが一致して支持を表明できる公開フォーラムを開催する当初の目的を実現した。これがこの会議の真の目的だった。会議主催者は、モスクワとの将来の敵対行為を正当化し、第三次世界大戦開始の責任を問われる可能性を減らすため、劇的に団結を示そうとしたのだ。

 首脳会談後、既に開戦が決定されたことを強く示唆する公式宣言が発表された。多くの人が知っている通り、ロシア領内標的へのミサイル発射を許す政策をNATOは承認した。この政策は、近い将来ウクライナに配備される多数のNATOのF-16にも適用される。(F-16は核ミサイル搭載可能だ)加盟諸国の間でこの政策に対する圧倒的な支持があるにもかかわらず、これは国際法で禁じられている露骨な侵略行為なのを忘れてはならない。どんなに大騒ぎしても「最大犯罪」を犯す方向にNATOが進んでいる事実を隠すことはできない。

 注目すべきは、戦争遂行において、NATOがより積極的役割を果たすつもりでいることだ。アメリカ国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリバンによると、同盟はウクライナ国内に軍事作戦を監督するNATO事務所を正式に設置する計画だという。要するに、もはや自らの関与を隠すことに紛争管理者には興味がないのだ。これは今やNATO作戦だ。以下はWorld Socialist Web Site記事の抜粋だ。
 
このNATO事務所は、ウクライナ戦争を監督するNATO司令部創設に伴って設置され、武器供給と兵站監督を、アメリカ主導の特別集団からNATO同盟自体に移行することになる。

 サリバン発言は、ワシントンで3日間にわたり開催される首脳会談の主要議題を概説したもので、ウクライナにおけるロシアとの紛争の大幅な激化と、欧州全域で全面戦争に備えるNATOの能力を大幅に強化する計画を示唆するものとみられる。

 サミットでは「ウクライナ軍の訓練、装備、戦力開発計画を開始する三つ星将軍が率いるドイツにおける新NATO軍司令部設置」も発表される予定だとも彼は述べた。

 キーウにNATO事務所を開設し、NATOの直接指揮下で武器供給、訓練、軍事兵站を再編したことは、ウクライナ紛争はNATOとロシアの戦争ではないという見せかけの終焉を意味する。これは戦争の危険な新たな局面を示し、大規模エスカレーションの可能性を高めている。ワシントン・サミットはウクライナ国内にNATO事務所を設立する計画を発表、WSWS

 これら全てに加え、ウクライナがNATO加盟への「不可逆な」道を歩んでいると首脳宣言で断言しており、モスクワを挑発するため、あらゆる努力が払われているのは明白だ。

 当然ながら、宣言の中でロシアは徹底的に悪魔化されている。これはサダムやカダフィやアサドなど他のワシントンの敵国で見られたお馴染みのパターン通りだ。以下は、本文から直接引用した「邪悪な」ロシアの簡単な要約だ。
 
 ロシアは依然、同盟諸国の安全保障に対する最も重大かつ直接的脅威であり続けている。

 国連憲章を含む国際法の明白な違反であるウクライナに対する侵略戦争についてロシアは単独で責任を負う

 ロシア軍と当局による人権侵害や侵害、戦争犯罪、その他の国際法違反に対する免責は認められない。

 ロシアは数千人の民間人の死に責任があり、民間インフラに甚大な被害を与えた。

 7月8日に病院を含むウクライナ国民に対してロシアが行った恐ろしい攻撃を、我々は可能な限り強い言葉で非難する。

 ロシアの攻撃的行動を抑制し、対抗し、NATOと同盟諸国に対する不安定化活動を行うロシアの能力に我々は対抗する決意だ…ワシントン・サミット宣言、 NATO

 ロシアに対するワシントンの猛烈な拒絶は、この全てがどこに向かっているのか疑う余地を残さない。戦争に向かっているのだ。戦場でのロシアの前進を後退させ、モスクワの政治指導者を倒し、国をより小さく、より管理しやすい小国に分裂させると決意している億万長者エリート連中の見解を、この宣言の筆者は繰り返し述べている。アジアに武力を投射し、中国を包囲し、世界で最も繁栄している地域で卓越した勢力としての地位を確立するワシントンの全体的な地政学的戦略にとって、ロシアは最も手ごわい障害となっている。これら戦略的目標はメディア報道では常に省略されるが、それこそが出来事を形作る根本要因だ。バイデンはこう述べている。
 
ヨーロッパでは、ウクライナに対するプーチン大統領の侵略戦争が続いている。そしてプーチン大統領が望んでいるのは、ウクライナの完全征服、ウクライナ民主主義の終焉、ウクライナ文化の破壊、そしてウクライナを地図から消し去ることだ。

 プーチンがウクライナで止まらないことは分かっている。しかし誤解しないよう願いたい。ウクライナはプーチンを止められるし、止めるだろう。特に、我々の全面支援があればなおさらだ。そして彼らは我々の全面支援を受けている。「ウクライナはプーチンを止められるし、止めるだろう。」ホワイトハウス

 全てたわ言だが、バイデンの明らかな意図である戦争の根拠を構築するには役に立つ。(プーチンがヨーロッパを征服したがっているというバイデンの主張に対するジョン・ミアシャイマーの反論は下記。YouTube ; 30秒マーク)

ビデオリンク



 この戦争はNATO拡大によって引き起こされたのが真実で、これはNATO議長イエンス・ストルテンベルグが何度も認めている不都合な事実だ。2022年4月のキーウとモスクワの和平交渉の際、ロシアの主な要求はウクライナがNATO加盟を拒否し、永世中立を宣言することだったのを思い出す方も読者の中におられるかも知れない。ゼレンスキーは、これら条件に同意したが、これは事実上、プーチンの行動がNATO拡大に関連していたことを証明している。プーチンがヨーロッパを征服したがっている証拠は事実上ない。皆無だ。プーチンは単にウクライナが中立に関する条約上の義務を尊重するのを望んでいるに過ぎない。Antiwar.comのテッド・スナイダーによるこの抜粋を確認頂きたい。

 
ウクライナはNATOに加盟しないことを約束した。ウクライナの非同盟はウクライナ独立国家の基本文書に明記されている。

 1990年のウクライナ国家主権宣言第9条は、ウクライナは「軍事ブロックに参加しない永久中立国となる意図を厳粛に宣言する」と述べている。 この誓約は1996年のウクライナ憲法でも繰り返され、ウクライナは中立を約束し、いかなる軍事同盟にも参加することを禁じられた。しかし、2019年にペトロ・ポロシェンコ大統領が、ウクライナ憲法を改正し、NATOとEU加盟の「戦略的方針」にウクライナを誓約させた。

 NATOの過去の行動を考慮して、これはロシアにとっての直接的脅威とみなされた。2023年にウクライナの主権を、まだロシアが認めているかどうか尋ねられた際、セルゲイ・ラブロフ外相は次のように答えた。「我々は、ウクライナがソ連から脱退した時に採択した独立宣言に基づいて、1991年にウクライナの主権を認めた…この宣言において、[ロシアにとって]主な要点の1つは、ウクライナは非ブロック非同盟国になるはずで、いかなる軍事同盟にも参加しないはずなことだった…その版で、それら条件で、我々はウクライナの領土保全を支持する。」 NATO75周年:戦争につながった破られた約束、 Antiwar.com


 もちろん、ワシントンが誠意を持って行動していれば、この問題はずっと前に解決できたはずだが、ワシントンは誠意を持って行動しなかった。実際、ワシントンは依然、世界で唯一無二の超大国としての将来を確保する「アジアへの回帰」戦略を実行するため、ロシアに「戦略的敗北」を負わせると決意している。これら目標は、エスカレーションや、紛争や、本格的戦争なしに実現できない。NATOサミットは、核超大国間のより広範でより暴力的な紛争の前触れにすぎない。



 我々が自問すべき疑問は、NATOが実際ロシアとの戦争に勝てるかどうかだ。本当に勝てるのだろうか?

 答えは「いいえ」だ、勝てない。

 なぜか?

 この質問に軍事評論家ウィル・シュライバーは次のように答えている。

 
2022年よりずっと前から私は何年も研究をしてきた。ウクライナ戦争はアメリカ/NATOが決して勝てない戦争だと私は繰り返し警告してきた。(アメリカを含む)NATOの「書類上の」強さと、実際の戦闘能力の間には大きな隔たりがある。アメリカは東ヨーロッパで25万人の戦闘員を集結、装備、配備、維持することさえできず、そうしようとすれば、地球上の全主要アメリカ基地撤退が必要になる。アメリカ/NATOはロシアとの戦争に勝てないだけでなく、その取り組みで骨抜きにされるだろう。

 アメリカ/NATOによるユーゴスラビア、イラク、リビアの破壊に警戒したロシアは、過去25年間、特に過去2年間、アメリカ/NATOとの最終戦争に備えて、大規模で非常に強力な軍備増強と近代化に従事してきた。過去2年以上にわたり、ウクライナ代理軍を、ロシアはいとも簡単に三回連続、計画的に破壊したロシアの軍隊構築、戦闘訓練、軍事産業生産は、NATO圏全体を合わせたより遙かに優れている。あなた方のような物見遊山軍事評論家がハリウッドのファンタジーや欧米諸国の国営メディアで徹底的に洗脳されている度合いは理解できるが、戦争は架空の物語や派手なスーパーヒーローが戦って勝つのではない。戦争に勝つのは生の火力で、この基準から、ロシア、中国、イランの三国同盟は、今や傲慢さに酔った敵より優位に立っている。現時点で、正気な選択肢は一つしかない。帝国を放棄し、復活した世界の文明国と和平を結ぶことだ。さもなくば現代人類文明そのものの多くが破壊される危険に曝され、回復には何世紀もかかるだろう。ウクライナは勝てない、ウィル・シュライバー、ツイッター

 また「弾薬庫の奥行き」という厄介な問題もある。これは敵に勝ち、最終的に打ち負かすために必要な武器弾薬備蓄を指す。ここで再びシュライバーの言葉を引用する。

 
イスラエルは(偉大な後援者アメリカ同様に)「大戦争」という状況において、潜在的に同等または準同等の敵に対して、複数の損害を与える攻撃を遂行する能力があるのは疑いようがない。しかし帝国の領域全体では、現時点で存在しており、短期または中期のどの時点でも強みに変えられない致命的弱点がある。第一に、軍人が「弾薬庫の奥行き」と呼ぶものだ。攻撃で圧倒し、防御で、打ち負かし、戦略的に敵より長く生き残るのに十分な弾薬の備蓄だ。アメリカも、ほとんど無力な属国諸国も、同等の敵、ロシアや中国やイランや、彼らの全て、またはいずれかの小国に対し、比較的短い作戦以上のものを実行するのに十分な「弾薬庫の奥行き」を持っていない。弾薬庫の奥行き」ウィル・シュライバー、Twitter

 シュライバーの言い分は深刻なのと同時に憂慮すべきだ。ロシアとの戦争でアメリカとNATOは勝利することはないだろう。なぜなら彼らはロシアほどの工業力、戦力、戦闘訓練、弾薬庫の奥行き、総合的火力を持っていないためだ。あらゆる基準で、彼らの戦闘力は劣っている。更に既にロシアは「ウクライナ軍で最も訓練され、最も装備が整った兵士」数十万人を殺害または捕虜にしている。既にウクライナ軍は事実上壊滅している。現在塹壕にいる兵士は訓練不十分で、技術がなく、士気の低い新兵で、数千人単位で虐殺されている。NATOの関与が、この流れを変え、勝利を確保できると本気で信じている人などいるのだろうか。以下は更なるシュライバー発言だ。

 
アメリカやNATOが、彼らに対して展開するあらゆる種類の攻撃ミサイルを日常的に撃墜できることをロシアは実証してきた。常に全てのミサイルを撃墜できるわけではないが、ほとんどの場合、ほとんどのミサイルを撃墜できる。しかも時間が経つにつれ、ロシアのミサイル迎撃能力は益々向上している。

 実際、ここ数ヶ月「ほとんどの場合、全て」という状況が益々増えている。今週初め、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相がこう報告している。

 「特別軍事作戦中に我々は防空システムを総合的に活用している。これにより、システムの対応力と攻撃範囲が大幅に向上した。過去6か月間で、NATOのHIMARSロケット、短距離ミサイル、巡航ミサイル、誘導爆弾を1,062発撃墜した。

 世界の他の軍隊は、これまで、このレベルの能力を証明したことはない。アメリカはその能力を持っていないし、開発するには少なくとも10年はかかる。

 現在、最前線に配備されているアメリカの戦術弾道ミサイルや海上および空中発射巡航ミサイルは、ロシア防空軍にとって、ウクライナ戦争で既に目にして破壊したものより大きな技術的脅威にはならないはずだ。この戦場での進展の重要性は誇張してもし過ぎることはない。これは何十年もの間想定されてきた戦争計算を変えるものだ。Empty Quiver、Will Schryver、Twitter


 成功の可能性を徹底的に調査せずにNATOが戦争に突入すると信じられない向きも読者にはおられるかもしれない。だが、まさにそれがここで起きているのだ。大声で怒鳴るアメリカ政府は自分が「参戦すればすぐ勝てる」と愚かにも信じている。ロシアに有利な状況にあり、参戦すれば猛烈な反撃を受けるのを彼らは受け入れられないのだ。しかし、それが彼らが直面している現実だ。最後にもう一度シュライバーの言葉を引用しよう。

 
たとえ目標に合意できたとしても、NATOは調整、教義、戦力編成という大問題に直面するだろう。NATO軍はこの種戦争のために訓練されておらず、共に行動したこともない。

 2023年の大攻勢に向けて欧米諸国が訓練し装備したとされる9個旅団より強力な部隊を配備するのは困難だろう。この大攻勢はロシア軍に撃退されただけで、目立った成果は得られなかった。

 高強度地上戦に少しでも適した地上戦闘部隊をアメリカはヨーロッパに持っていない。十分な時間と資金、政治的意志と組織があれば、ほとんどのことは可能だ。しかし、ロシアにとって迷惑以上のものを構成する軍隊をNATOが編成し、多くの命を危険にさらす可能性はない。NATO幻影軍、ウィル・シュライバー、サブスタック

 ウクライナの戦場で、NATOがロシアと対峙すればロシアに勝てると確信している妄想的分子が外交政策体制内部にいると私は確信している。なぜそういうことが起きないのかを示すのに、シュライバーの分析は役に立つ。

記事原文のurl:https://www.unz.com/mwhitney/why-russia-will-defeat-nato-in-ukraine/

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