ウクライナでの教訓を学ばずにイギリスは「威力ある」戦車チャレンジャー3号を発表
2024年4月29日
Brian Berletic
New Eastern Outlook
「イギリスで最も威力ある戦車」が生産ラインから出ているとイギリス国防省が発表した。「ヨーロッパで最も威力ある戦車の一つ、チャレンジャー3の入手に更に一歩近づいている」と声明で、イギリス陸軍兵士が主張することになるだろう。
しかし、いくつかの例外を除いて、ラインメタルBAEシステムズとのほぼ9億9,000万ドルの契約に基づいて製造されたチャレンジャー3主力戦車の詳細は、目的より利益を重視し、ウクライナで進行中の紛争から重要な教訓をイギリス政府と軍隊は学べていない。
チャレンジャー3は本当に「新しい」わけではない
最初の発表と価格は、チャレンジャー3が新たに生産された戦車であることを示唆しているが、実際は既存のチャレンジャー2戦車を改修し近代化したものだ。
2024年4月の「イギリスで最も威力ある戦車が試験に入る」という題名の記事で、イギリス陸軍既存のチャレンジャー2戦車221輌が改修/近代化されたチャレンジャー3127に「スリム化」されるとBBCは主張した。国防省声明は、チャレンジャー3号は合計148機引き渡されるとしている。
既存戦車を改修し近代化したにもかかわらず、9億9,000万ドルの計画は戦車一輌あたり約600~800万ドルに相当し、改修/近代化されたロシアのT-72B3、T-90M、またはT-80BVM戦車より数倍高価で、最近のBusiness Insider記事によると、ロシアの最新戦車T-14 Armataと同じくらい高価で、価格は500万ドルから900万ドルと考えられている。
改修され近代化された主力戦車は依然戦場で効果的に機能する。戦車の最も重要な特性は火力、防御力、機動性で、これらは全て近代化計画中に改良されることがよくある。
ロシアは、改修および近代化計画により戦場で効果的な装甲を大量に配備できることを証明しているが、そのような計画の成功の鍵は、その過程が迅速かつ安価に行われることだ。「不毛の樽」と題する2022年11月の記事で、ロシアの戦車産業は年間最大250両の新型車両を生産し、更に最大600両を近代化する能力があると欧米資本のメディア、ノーバヤ・ガゼータは主張した。これは、2040年までに計画されている全てのチャレンジャー3戦車の総数より遙かに台数が多い。
時代遅れの設計哲学を強化
イギリスのチャレンジャー3戦車がその高価格と少量を正当化できるという証拠はない。戦車がどれほど効果的でも、数が少ないため、同等または同等の敵との大規模作戦では不利になる。
チャレンジャー3の基になっているチャレンジャー2主力戦車は既にウクライナで実験され、性能は低かった。イギリスの在庫にあるチャレンジャー2の数は全体的に少ないため、戦闘で使用するためにウクライナ軍に移送できたのは14輌だけだった。ウクライナの攻勢が失敗に終わる2023年9月、最初のチャレンジャー2号は、おそらく地雷により、ロシア軍に破壊されたとイギリス・メディアは報じた。
2023年攻勢の中「突破口」に備えてチャレンジャー2号戦車を予備としてウクライナが保有しているのではないかという憶測があったが、そのような作戦は行われなかった。
その代わり、チャレンジャー2派、前線の要塞を攻撃するための高価で、重く、過度に複雑な突撃砲として使用されていたと報告書は主張している。同様の報告書で、チャレンジャー2は「重すぎ」、保護が欠如し、「過度の保守」が必要だと批判されている。報道によると、重い重量と比較的出力の低いエンジンが組み合わさったため、この戦車はウクライナの泥だらけの地形で動けなくなったという。また、その重さから、戦場を横切っている戦車を支えられない橋を渡る際も問題が生じる。
同様の設計思想を採用した他の欧米主力戦車も同じ挫折を経験した。
また他の欧米主力戦車と同様、チャレンジャー2の多くのシステムは不必要に複雑だった。この戦車は、最新の戦車のようなトーションバーの代わりに、油圧空気圧サスペンションを使用している。複雑なサスペンションシステムにより、主砲の精度が向上すると考えられている。サスペンションの複雑さが増すことで、修理用交換部品の数が増えるとともに、より複雑な保守作業が必要となり、既に悲惨なウクライナでの物流上の課題が一層複雑になった。
チャレンジャー2は、他のNATO戦車設計で使用されている120mm滑腔砲とは対照的に、独特のライフル主砲を使用したため、弾薬の別途供給が必要となり、戦場で戦車を維持するのが更に困難になっていた。
チャレンジャー3は実際にはチャレンジャー2より重いが、同様の大きさと出力のエンジンの使用が予想されており、これは、余分な重量を支えられる橋を見つけるのと同様に、困難な地形を横断するのが一層困難になることを意味する。チャレンジャー3には、チャレンジャー2の複雑な水圧空気圧サスペンションの改良版が使用される。
全体的改善としての設計上の決定の1つは、共同作戦演習や戦場で改良された戦車の兵站的負担を軽減するチャレンジャー3がNATO標準弾薬を使用できるようにする120mm滑腔砲の使用だ。
全体として、チャレンジャー3は時代遅れの設計哲学を強化したもので、少数の複雑な戦車が、低品質な、より多くの敵の戦車に対し、優位性を獲得することを目的としていた。今日、現代のロシアの主力戦車は、数キロメートルの射程で射撃し、最初の射撃で標的に命中させられる。ロシアの主力戦車は主砲から対戦車誘導ミサイル (ATGM) も発射するため、実際には欧米戦車の射程外の標的と交戦できる。
しかし、ウクライナが証明している通り、戦車対戦車の戦闘は比較的まれだ。双方が広汎な移動プラットフォームに搭載される可搬性の高い対戦車誘導ミサイルを使用しており、対戦車用には神風ドローンを使用する。代わりに、戦車は、敵の防御に対する攻撃や長距離直接射撃兵器として使用される。これらの役割は、いずれも、チャレンジャー2や3の設計に含まれる高価で複雑な機能を必要としない。
代わりに、主力戦車が攻撃を受け重大な損傷を受けたり破壊されたりする可能性が高いため効果的戦車を最も速く最も安価に生産できる国が消耗戦略で本質的に有利になる。
これら教訓を、チャレンジャー3は全く学んでいないことを示している。
アメリカのM1エイブラムスやドイツのレオパルト2など他の欧米戦車同様、チャレンジャー3は、組織化が不十分で武装が不十分な過激派に対し武器を組み合わせる、数十年にわたる「小さな戦争」の中で開発された兵器だ。その役割でさえ、欧米諸国の大きく重く複雑な設計哲学は、世界中の戦場で普及した安価で効果的なロシアの対戦車ミサイルの餌食になり始めている。
これら大型で複雑で高価な主力戦車の改良版を製造し続ける動機は、戦場での有効性への狙いではなく、主に経済的利益への欲求から生じている。全く新しい主力戦車の開発には、研究開発に多額の資金が必要となるだけでなく、最終的に製造するための新たな工具類も必要で、たとえそれら戦車が現代の戦場にどれほど不適切であれ、さほど大掛かりではない (が効果も遙かに少ない) 改良を既存戦車に行うことで金を儲けられるのだ。
初代チャレンジャー3の配備に関するグラント・シャップス国防長官の次のような発言をBBCは記事で引用している。
イギリスが直面する脅威が進化するにつれ、より危険な世界で、チャレンジャー3のような車両の必要性が不可欠となっている。
しかし、過去20年、イギリスやアメリカや欧州同盟諸国が戦ってきた多くの戦争や代理戦争は、全て自分たちが選んだ紛争で、欧米集団が直面しているとされる「脅威」に関する意図的な嘘に基づいて、そうした介入が国民に売りこまれたことが多かった。
現実は、目的よりも利益を優先する、この考え方こそ、インフラや教育や医療から「必要不可欠な」チャレンジャー3のような高価で役に立たない兵器計画に公共資源を振り向けて、欧米の民衆の福祉や幸福に最大の脅威をもたらしているのだ。
Brian Berleticは、バンコクを本拠とする地政学研究者、著者。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
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