ウクライナの黒海「勝利」は陽動作戦
2024年2月5日
Brian Berletic
New Eastern Outlook
ウクライナはロシア海軍艦艇や港湾などクリミア全域の標的を攻撃し、クリミア大橋などの民間インフラを攻撃するための複雑な作戦実行に多大な努力を費やしてきた。キーウによれば、これは全て、まず半島を孤立させ、次にロシアから奪取する戦略の一環だ。
一方、ウクライナが黒海で「勝利」していると世界を説得するのに欧米マスコミは多大な努力を費やしており、クリミア占領だけでなく、ロシアを完全に打ち負かす勝利を期待している。
現実には、黒海におけるウクライナ作戦は根本的に地上戦で、この危機に対処しなければ必然的にウクライナの敗北につながる危機の中、増大するウクライナ危機から目をそらす陽動作戦だ。
多大な投資
クリミアを孤立させ占領したいというウクライナの願望は、海軍や空中の無人偵察機から、欧米諸国がウクライナに与えた最も高度で有力な長距離攻撃能力まで、あらゆるものを使った長期的長距離攻撃作戦として現れている。
わずかに残ったウクライナ空軍部隊が発射する空中発射巡航ミサイルは、半島全域の港湾、軍事基地、民間インフラを標的にしている。ウクライナ戦闘機は、時に空中発射型巡航ミサイルの一斉射撃中に標的にされて破壊されることもあり、ウクライナの戦闘力は更に低下する。そうしたミサイル一斉射撃は、ロシアの恐るべき防空・ミサイル防衛と電子戦能力で対応され、大部分の弾が迎撃されている。
残るミサイルは、ロシア防衛線を回避できる同様に僅かな数の無人機とともに、海軍艦艇を破壊し、建物やインフラを破壊し、一度の攻撃でクリミア橋に損害を与えた。しかし、これらの成功はごくわずかで、約2〜3か月に一回しか起きない。
それにもかかわらず、長期にわたる作戦で、ロシアは黒海艦隊の大半をロシア本土沿岸に沿って更に東に移転させることを余儀なくされた。この移転自体が、黒海におけるウクライナの大きな勝利だと称されている。
しかし昨年末には、黒海艦隊とカリブル巡航ミサイルによる脅威が続いているとウクライナ自身が警告していた。最大2,500kmの射程を持つカリブル巡航ミサイルは、黒海艦隊の新しい位置からでも、ウクライナのあらゆる標的を攻撃できる。
ウクライナは時折ロシア海軍艦艇を標的にするのに成功しているが、黒海艦隊の大部分は無傷のままで、主に陸上で行われる軍事作戦であるロシアの特別軍事作戦(SMO)で支援的役割を果たし続けている。
ウクライナの黒海「勝利」のもう一つの側面は海運回廊の開放とされるものだ。
2023年11月に経済協力開発機構(OECD)が発表した記事によると、ウクライナの海運がSMO開始段階を経てゼロに近いレベルから再開したのは事実だが、依然戦争前レベルの数分の一にとどまっている。長引く紛争がウクライナ経済に与えた打撃を考えると、最近のロイター記事が主張するように、海運業が戦前の水準に戻ったとしても、経済回復支援はおろか、ウクライナ経済の維持にも役立つ可能性は低い。
ロシアがウクライナ船舶を封鎖しようと最善を尽くしているにもかかわらず、ウクライナが黒海を再開したという前提には大きな欠陥がある。ロシアがウクライナ海運の再開を止めない理由について多くの理由を専門家は挙げるかもしれないが、軍事的にそれが不可能なことはその中に含まれていない。イエメンの準非正規軍が紅海の海運を著しく妨害する能力があるなら、長距離対艦ミサイルやディーゼル電動攻撃潜水艦を含むロシアの遥かに高度な対艦能力は、黒海海運を著しく妨害する能力を十二分に備えている。
「特別軍事作戦」という言葉は全面的侵攻の婉曲表現だと西側諸国政府やメディアは主張するが、黒海でのエスカレーションを含め、ロシアはかなりの自制を示している。
見出しと実際の戦略的成功を分離すると、残るのは、一連の広報活動の勝利に相当するもののためのウクライナとNATOによる高価な投資だ。黒海艦隊を移転する必要性にロシアは当惑しているが、巡航ミサイル発射における黒海艦隊の役割は途切れることなく続いている。主に武器輸送を阻止する手段として、ロシアは黒海を通るウクライナ輸送を阻止しようとしたが、西側の武器備蓄が枯渇していることを考えると、ウクライナに送付する方法とは無関係に、送るべきものはほとんど残っていない。
武器、弾薬、訓練された人的資源の面でウクライナが直面している根本問題は、黒海で見出しを飾る高価な投資では克服できない。こうした見出しは全て、ウクライナの根本的問題から目をそらす役割を果たしているのだ。
陸戦で敗北する中、海で見出しになるウクライナ
2024年1月17日付の「黒海は今やウクライナ戦争の重心」と題する記事で、ザ・ヒルは次のように主張している。
2023年、ウクライナは陸上で決定的突破口を開くことはできなかったかも知れないが、海上での戦争は大成功だった。海上ドローンとイギリス製ストームシャドー巡航ミサイルを組み合わせ、容赦ない海と空の作戦のおかげで、ウクライナはロシア黒海艦隊に大損害を与えられ、ロシアはセバストポリの海軍要塞への撤退を余儀なくされた。12月下旬に揚陸艦ノボチェルカッスクが破壊された後、ロシアは過去4カ月で黒海艦隊の20%を失ったとイギリスのグラント・シャップス国防相が発表し、作戦の成功を称賛した。
ウクライナの2023年攻勢がロシアの防衛により決定的に敗北したのをここで欧米メディアは認めている。
そして記事は次のように説明している。
黒海における次のステップは、2014年にロシアが不法に併合したクリミア半島をキーウが標的にし、ウクライナ南部で活動するロシア軍の兵站ライフラインを断ち切るのを欧米が支援することだ。
この兵站ライフラインは、クリミア大橋とクリミアとヘルソン、ザポリージャ、ドネツクを経由してロシアの他地域とを結ぶ陸橋で構成されていると記事は主張している。クリミアを孤立化させる究極の狙いは、最終的にロシアに「クリミアでの姿勢を再考させる」ことだとザ・ヒル紙は報じている。
黒海艦隊に移転を強いるのは、この狙いの実現と無関係だ。ウクライナがこの「勝利」を実現する手段は、希な無人機やミサイル攻撃で、それ以外で、クリミアを孤立化させたり、半島での姿勢をロシアに再考させたりはできない。
たとえウクライナのミサイルや無人機がクリミア大橋の破壊に成功したとしても陸橋は無傷のままだろう。ウクライナの2023年攻勢が示した通り、陸橋切断はウクライナの能力を超えている。しかし、たとえ将来ウクライナ攻勢が何らかの形で陸橋を切断したとしても、クリミアは依然孤立しないはずだ。
クリミアには多くの空港や飛行場があり、何百万人もの人々や何百万トンもの貨物をロシアの他地域間で移動できる多くの主要港があるためだ。実際クリミア大橋が建設中の2014年から2018年にかけて、そして2022年に陸橋が架橋されるずっと前から、ロシアが半島における経済とロシア軍駐留維持を可能にしたのは空路と港湾のネットワークだった。
従って、実際にクリミアを孤立化させるには、ウクライナは陸橋を切断し、クリミア橋を破壊しなければならないだけでなく、クリミアに点在する複数の空港や港湾の稼働を長期にわたり妨害することも必要になる。そのためにはロシア防空網や電子戦能力を圧倒するのに十分な速度で、毎月数百発のミサイルや無人機による攻撃を仕掛ける必要があるだけでなく、ロシアが攻撃の合間に修復できる以上の損害を標的の兵站インフラに与える必要があるはずだ。
これほどの早さの作戦を遂行するのに十分なミサイルや無人機は欧米諸国のどこにも存在しないし、近い将来も存在しないだろう。欧米の軍事産業生産の拡大に関する最も空想的な議論のどこにも、この早さを実現するのに必要な量のミサイルや無人機を生産する計画は見当たらない。クリミア半島全域の兵站を混乱させるだけでも、ウクライナにとって遙かに大きな問題、つまり、ロシアの巨大な軍需産業基盤とウクライナの戦場をつなぐ兵站を混乱させる必要性(そして絶対的無力さ)を露呈している。
ウクライナや欧米諸国スポンサーよりも多く訓練された要員、武器、弾薬を生み出すロシアの能力は、ウクライナと欧米諸国が勝てない消耗戦をもたらした。
代償が大きい突破口攻勢を回避しつつ、戦闘能力を高めながら、補充できないほど早くウクライナ要員と装備を破壊するロシア戦略は累積的効果をもたらしている。この影響は、ロシアの戦闘能力が拡大し続ける一方、ウクライナの戦闘能力の最終的崩壊をもたらすだろう。現在ロシア軍が「前進」していないため欧米専門家が「膠着状態」と片付けているが、実際は将来の攻勢に先立ち、ロシア軍が戦場でロシア軍の戦術的・戦略的優位性を高めるためのロシア軍司令官による意図的選択だ。「膠着状態」が続く一日ごとに、ウクライナに対するロシア勝利の可能性が向上する。
黒海におけるウクライナ「成功」に関する話は、この根本的問題や、それがもたらす必然的結果に全く触れていない。ウクライナの「成功」は、この必然性から注意をそらすだけで、それを阻止することはできない。ウクライナの「成功」に対する「弱さ」と解釈されているロシアの「不作為」は時間はロシアの味方で、広報活動の戦いに勝つことは実際の戦争に勝つことより遙かに重要でないと認識しているがゆえの無関心と解釈できる。
ブライアン・バーレティックはバンコクを拠点とする地政学研究者、作家。オンライン誌「New Eastern Outlook」独占記事
記事原文のurl:https://journal-neo.su/2024/02/05/ukraines-black-sea-victory-is-a-distraction/
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大本営広報部大政翼賛会、こぞってナワリヌイの死に大騒ぎ。クリス・ヘッジズのように、まともなジャーナリストとして、宗主国の犯罪を曝露したがゆえに、イギリスで監視の厳しい監獄に投獄されているアサンジ問題を取り上げることはない。
I will moderate this event on Monday at 7:00 pm with Stella Assange, attorney Jennifer Robinson and Kristinn Hrafnsson, Editor-in-Chief of WikiLeaks, at The Frontline Club in London.
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
日経平均3万8487円、あと50円ほどと最高値に肉薄、前日の米株式市場、主要3指数がそろって上昇が追い風、「新たな海外投資家が取引に参加」NIKKEI ASIA、米国株式動向:CNN・Fear & Greed Index 77(75-100が極めて貪欲)。円安で中国含め、外国から資金流入
「世界中が証人! 現代のホロコースト! イスラエル軍が避難したパレスチナ人130万~140万人が密集するラファへ総攻撃を開始!」
はじめに~世界中が証人! 現代のホロコースト! イスラエル軍が避難したパレスチナ人130万~140万人が密集するイスラエル最南端の都市ラファへ陸海空から総攻撃を開始! 各国の警告と非難の中、ネタニヤフ首相は「完全勝利まで軍事的圧力を継続することによってのみ、人質全員の解放がもたらされる」として武器を持たない市民に陸海空から総攻撃を断行! この後には、イスラエル軍の地上侵攻が開始される! なんとこの「特別作戦」は、3月10日のラマダンまで1ヶ月も継続するとネタニヤフ首相は意思表明!
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