ウクライナにおける埋没費用効果の誤謬
2023年8月23日
Moon of Alabama
ウクライナの軍事戦略に対する批判を米軍は続けている。
ウクライナ軍と火力配備は間違っているとアメリカ当局は言う-NYタイムズ
反攻の主目的は、ロシアと占領下のクリミア半島の間のいわゆる陸橋を切断することで、ウクライナ南部のロシア供給ラインを遮断することだ。しかし、それに焦点を当てる代わりに、ウクライナ司令官は軍隊と火力を東と南でほぼ均等に分割したとアメリカ当局は言った。
その結果、どちらも遙かに戦略的に重要な前線だと当局者が言う南部のメリトポリやベルディアンスク付近より東部のバフムトや他の都市付近にいるウクライナ軍が多い。
アメリカの計画立案者は、たとえウクライナがその過程でより多くの兵士と装備を失うにせよ、キーウの最優先事項であるメリトポリへの前線運転と、ロシアの地雷原やその他の防御突破に集中するようにウクライナに助言した。
批判は正しい。バフムト(アルチョモフスク)奪還の試みは間違っている。だが、より多くの兵力を南に向けるという結論は、私の見解では誤りだ。
配備図は、南より東にかなり多くのウクライナ部隊があることを示している。
丘に囲まれた低い道路や鉄道の中心地であるバフムトをウクライナが守ったのは間違いだった。丘がワグネル戦士に奪われるとすぐ、バフムトは彼らの手に落ちる運命にあった。何ヶ月もの間、キーウ政府は軍隊に都市を保持するよう圧力をかけた。「バフムトは持ちこたえる」というポップソングも出版された。ワグネルによれば、ウクライナはバフムトの絶望的防衛で約70,000人の兵士を失った。ワグネルはそこを奪取する間に約40,000人失った。双方にとって高い代償だ。しかしウクライナがチャシフヤール周辺の一連の丘のほうが遙かに良い防御位置であっただろう西にわずか数キロ後退していれば、それを支払うことは避けられたかも知れない。
南への多くのバリーフーの反撃とバフムト奪還のための新たな攻撃を組み合わせるのは重大な間違いだった。ウクライナ指導部は埋没費用の誤謬に陥っていたのだ。
埋没費用の誤謬とは、ある努力や行動方針を放棄した方が有益な場合にも、人々がその努力や行動を継続する傾向のことだ。時間やエネルギーや他の資源を投入しているため、辞めてしまえば全て無駄になると感じるのだ。
その結果、我々は不合理や最適でない決定を下す。埋没費用の誤謬は、事業や人間関係や日々の意思決定など、様々な状況で見ることができる。
バフムトは陥落しないとゼレンスキー大統領は約束していた。陥落後、奪還すると彼は約束した。しかし両方の試みで大量の兵力が使用されたにもかかわらず進歩はなかった。ロシア防衛線は持ちこたえている。11週間の戦闘で、バフムト近郊の小さな町クリチフカだけウクライナ軍が奪還した。米軍がウクライナに望んでいるのは、全軍を南部戦線に集中させることだ。
他の数人の西側当局者との内部議論について匿名を条件に話したあるアメリカ当局者はこの記事のためインタビューに応じ、戦術変更と劇的な動きしか反攻のテンポは変えられないと述べた。
ウクライナは余りに戦力分散しており、戦力を一か所にまとめる必要があると別のアメリカ当局者は述べた。
反攻からほぼ三か月経ち、死傷者が増え続け、ロシアが依然軍隊と装備で優位に立っているため、ウクライナ人はこれら助言を心に留めているかも知れない。
8月10日のビデオ会議で、統合参謀本部議長マークA.ミリー将軍、イギリス軍のトップトニー・ラダキン提督とヨーロッパ・アメリカ軍最高司令官クリストファー・カヴォリ将軍は、一つの主要戦線に集中するようウクライナ最高司令官ヴァレリー・ザルジニ将軍に促した。そして電話に関して説明を受けた二人の当局者によるとザルジニー将軍は同意した。
今回、米軍によるもう一の埋没費用の誤謬を私はここで感じる。30年以上にわたり「諸兵科連合」の考えに注力してきたのだ。南部の試みでこの形の戦闘をするようアメリカはウクライナに促した。ウクライナには制空権がなく、広いロシアの地雷原を突破する手段が少なすぎるため、それは大損失で失敗した。既に失敗した戦略を、より多くの軍で再適用する新たな試みを現在米軍は推進している。
バフムト周辺のウクライナ攻撃は停止する。ウクライナはチャシブ・ヤールと周辺の一連の丘の防衛に集中しなければならない。それは確実に他の場所に移動できるよう多少の兵士を解放するだろう。たとえば現在バフムト付近には四つの砲兵旅団がいるが、南方向の二つの試みのそれぞれに二つしかない。バフムトから二つ追加すれば有効かもしれない。
しかし南部での両方の試みの進展はわずかだ。突破可能で戦闘が発生する最前線の長さはわずか数キロだ。この地域には配備した部隊を収容したり隠したりできる町はごくわずかだ。より多くの部隊を南に前進させれば、ロシアがそれを発見し、爆撃し破壊するのを容易にする危険な集中を生み出すだろう。
諸兵科連合がアメリカのお気に入り戦術になった理由と、防空が欠如している軍に対してのみ機能する理由を以前私は説明した。諸兵科連合攻撃には制空権が必要だ。ウクライナがそれを実現する方法はない。
現在バフムト周辺にいる軍隊はウクライナ軍最高の装備ではない。彼らは皆何ヶ月も戦い続けており大きな損失を被っている。武器と人員が不足しているこれら部隊を諸兵科連合攻撃に追いやるのは重大な謝りだ。
ロシア防衛線を攻撃する他の軍事的選択肢がある。
最善の方法はウクライナが防御に向けて動くことだ。丘やその他お気に入りの景色のつながりに沿って複数の強力な防御線を構築するのだ。移動奇襲部隊を前線前に配置し、攻撃側が防御線に到達する前に攻撃するのだ。残りの軍を防衛線に入れて予備軍にする。それは現在ロシア戦略がうまく機能しているものと酷似したものになるだろう。
ロシアはドネツクを奪いたいと思っている。それを守るのは、ウクライナに代償を払わせるる最良の方法だ。十分準備されたロシア防衛線への攻撃実行はロシアの消耗戦略に陥ることだ。それはウクライナ軍と装備を消耗させるだけだ。
より優れた別の選択肢もある。
停戦するか、少なくとも和平交渉を開始してみるべきなのだ。永久戦争はアメリカは望んでいるかもしれないが、ウクライナにとっては最悪の状況だ。
たとえ将来キーウがロシア軍に対し成功する作戦を実行したとしても、それが戦争終結につながるかどうかは不明だ。一つは、モスクワがウクライナ軍が実現したあらゆる戦利を消し去るため反攻を開始すると決定し、おそらく軍事的に行ったり来たりの無限サイクルを始める可能性があるのだ。あるいはキーウとNATO支援諸国がウクライナの9月反攻で得られた大きな戦利に勇気づけられて、代わりに「完全勝利」を追求するため、交渉という考えを拒否し、最終的に悲惨な代償を払った昨年秋を繰り返すこともあり得る。
今でも、ウクライナ指導者と欧米支持者の多くは、クリミア奪還を含め、2014年以前のウクライナ国境を回復するという最大限要求の狙いを維持している。
皮肉にも、長期にわたる戦争は、少なくとも一部NATO当局者がロシアをアフガニスタンのような大失敗に陥らせるため当初から望んでいたもので、2022年3月、政権は「ウクライナがロシアを泥沼に閉じ込めるのを支援しようとしている」とニューヨーク・タイムズは報じた。
しかし長引く戦争で既にあぜんとするほど莫大な人的、経済的代償に苦しんでおり、毎月益々借金に陥るウクライナにとって、長期にわたる戦争は良くない。そして、それは世界の他地域にとっても良くなく、既に二度回避した核戦争に変わる可能性がある壊滅的NATO-ロシア戦争の可能性をもたらしながら世界中の生活費ショックにつながっている。
より多くの兵士を南部攻撃に投入すれば、米軍が認めている通り、物的、人的に更に多くの損失を生み出すだろう。ウクライナは、そのどちらも余裕がないのだ。そのような攻撃は、まだ到達していない準備されたロシア防衛線を突破する可能性で僅かな利益はあるかもしれないが、ほとんどない。
一つの代案は防衛行動をするよう戦略を変更することだ。
もっと良い方法は和平を求めることだ。
だがアメリカがそれを許さない。バイデン政権は埋没費用の誤謬に陥っているのだ。対ロシア代理戦争に、金銭的、物質的、心理的に実に多額の投資をしているため、より良い結果につながる可能性が低い場合でも、一層多く投資し続けるだろう。
和平交渉は避けられない。交渉を遅らせれば、避けられない敗北の代償が増加する。
記事原文のurl:https://www.moonofalabama.org/2023/08/the-sunk-cost-fallacy-and-ukraine.html
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The Duran
US policy slowing down China's economy w/ Jeffrey Sachs (Live) 1:10:02
https://www.youtube.com/watch?v=zJboBdQeJzg
身も蓋もない劣等支配状況を語るSachs 同じ手法で中国経済を締め付けようとしているが中国は属国ではないので、そう簡単ではないと。
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
ヘリテージ財団は元来反共、対外軍事活動の牙城。政策をトランプ的なナショナリスト的方向に移行。主要スタフもトランプ政権の国家安全保障担当副補佐官を起用。「バイデンがウクライナ戦争終結計画を提案するまで、議会はこれ以上一銭も承認すべきではない」と主張
「ロシアのプーチン大統領がBRICSでビデオ演説、『我々の経済関係の脱ドル化プロセスは不可逆的であり、加速している』!」
はじめに~ロシアのプーチン大統領が、BRICSビジネス・フォーラムでビデオ演説、西側による経済制裁が世界経済を悪化させたと非難、「重要なことは、我々の協力が、平等、パートナー支援、相互の利益の尊重という原則にもとづいている」ことだと主張!「我々の経済関係の脱ドル化という、客観的かつ不可逆的なプロセスは、加速している」、「BRICS内の輸出入業務に占める米ドルの割合は低下しており、昨年はわずか28.7%にとどまった」と報告!
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