下落し続けるトルコ・リラ
2023年6月9日
Alexandr Svaranc
New Eastern Outlook
スペインの日刊紙ラ・バングアルディアによると、エルドアンが大統領選挙の決戦投票で勝利した後、トルコ・リラは新たな歴史的安値に急落した(今日一ドル、20リラだが、欧米専門家たちは、リラは更に40%下落して、一ドル・28リラになると予測している)。インフレが急上昇する中、トルコ大統領は低金利政策(8.5%)を推進しているが、ほとんどのエコノミストの理論と矛盾している。
選挙の結果、トルコ・リラがドルに対して急落している理由の説明は決して困難ではない。アメリカ合州国と、その支配下にある世界の金融機関(株式市場)は、これまで支配しそこねている保守派(民族主義者とイスラム主義者)エルドアンを支持する選択をしたトルコ有権者に批判的に反応したのだ。エルドアン支持者(例えばスレイマン・ソイル内務大臣)はトルコの罪と問題の全て、アメリカとIMFの責任だと主張して状況の助けになっていない。
同時に、エルドアンの主敵、親欧米の共和人民党指導者ケマル・クルチダロオールを支持したトルコのイスタンブールとアンカラの首都の支持者たちは、明らかに自分たちの候補者が負けた選挙結果をそのような方法でボイコットすると決めたのだ。それでも外部勢力は、これまで正式に同盟関係にあったトルコに対し、金融および信用政策を独自に決定する権利を持っているが、トルコを拠点とする国内資本家は金融操作の点で特に自由ではない。法執行機関はエルドアン大統領の裁量で、厳しい要求をし始めることが可能で、金融投機家や高利貸しは罰せられかねない。
当然ながら、そのような取り締まりは、壊滅的地震と二度の激しく戦われた選挙の余波で複雑になっているトルコ財政や他の社会経済的問題を決して軽減しない。エルドアンがまだ金利を下げない場合、金利をどうすべきなのだろう? 金利の上昇はそのような困難な時代に彼らの指導者を支持した一般市民の社会生活において反対のプロセスにいたりかねない。簡単に言えば、貸出金利の高い企業は商品価格を引き上げ、トルコ製品の輸出機会は減少し、トルコは外国の競争市場での地位を失い、国民(特に地震の影響を受けた地域)は悲惨な状況に陥る。トルコ経済は安い外債がなければ停滞する可能性があり、それがエルドアンが国内生産者を圧迫したくない理由だ。
トルコ大統領は権威主義的な管理方法を使用して、中央銀行に貸出金利を低く抑えることを事実上義務付けている。実際、トルコ中央銀行は相対的利益を生み出すあらゆる事業に投資するため、名目金利で事業に金を配っている。国内の起業家精神に対するそのような保護主義は、エルドアンが、工業生産を維持し、輸出を増加させるのを可能にし、その結果、外国為替収入が増加した。ところが、ヨーロッパとアメリカ志向で、アメリカと関係ある大企業は利益を失ったため、エルドアンの政策に不満を抱いている。
そのような傾向の中、欧米の投機家や治安機関の達人が、不服従と反政府抗議の大規模な「自発的」行為の波を開始するのは、どれほど困難だろう? もし若者(特に夏休みの学生)が街頭に出始めたら、エルドアンは前任者の一人であるアドナン・メンデレスがしたのと同じくらい多数の問題を抱えることになる。
メンデレスも最初に経済的躍進を実現し、次に彼の権威主義的権力、ポピュリズム、ナショナリズムの強化に賭け、アメリカに反抗して独立ゲームを始めた。その結果、抗議する学生の血が流れ、ジェマル・ギュルセル将軍率いる軍事クーデターか起きて、続いて首相と外務、財務、医療大臣の逮捕、反逆罪と憲法違反の告発となり最後に処刑された。
そう時代は変わった。エルドアンの前任者(例えば、スレイマン・デミレル、トゥルグト・オザル、ネカメッティン・エルバカン)が、トルコの政治生活における軍と諜報機関の影響を減らすという点で実現できなかったこと(したがってワシントンが望まない指導者を排除し、無力化するため、トルコで定期的クーデターとグラディオ風の作戦を実施するCIAの能力を最小限に抑える)をエルドアンは2016年7月のクーデター失敗後の改革、人員粛清と大規模弾圧を通じて成功したようだ。今日、トルコ国防相フルシ・アカルと現在の参謀総長ヤシャル・ギュレル将軍は、レジェップ・タイイップ・エルドアンに反対することを敢えてすることはほとんどないだろうが、トルコ国家情報局MITのかけがえのない長官ハカン・フィダンは大統領に忠実だ。それでも、バランスが崩れ、野党が大衆を抗議に駆り立てた場合、大統領は何をすべきだろう?
当然ながら、現代トルコは、国の通貨を安定させ、地震地帯での建設5カ年計画を強制するため、外部パートナーの本格的な財政援助を必要としている。エルドアンは、選挙前の被災地住民への公約で、一年以内に全てを回復すると約束したが、破壊の規模は、尊敬される大統領の善意の願いの実行を非常に困難にしている。
トルコは今どのくらいの金(営利投資と無料援助の両方)を必要としているのだろう? これは複雑な質問だ(筆者の意見では、多ければ多いほど良い)。少なくともエルドアンには100億ドル必要だ。間違いなく小さくはないが、これはまだ実行可能な数字だ。では今日、誰が、どの機関がトルコ経済への援助資金供与者になれるのだろう。
まず第一は豊かで肥えたヨーロッパだ。ヨーロッパ・マスコミは、一方で、エルドアンの成功に臆面もなく不満で、フランスのモンドが「沈むことがない」、スイスのTempsが「不滅」、ドイツのツァイトが「経済危機の犯人」などと呼んだが、他方で、ヨーロッパ統合に対するトルコの希望というトルコの選択を、少なくとも今のところ、そしておそらくは永遠に、葬り去っており、アンカラはEUにとって不便だが重要なパートナーであり続けるだろうと考えている。エルドアンが国を危機から脱出させるためヨーロッパに金銭的支援を何度も求めると旧世界は考えている。しかしエルドアン政権下のトルコはロシアと中国との提携に向かって漂流し続けるだろう。
ヨーロッパのアナリスト連中に何を言うべきだろう? 第一に、貿易相手国としてのトルコの重要性は、その地理によって決定される。第二に、トルコは過去100年間、ヨーロッパ自体が大きく依存する新たな国際輸送物流とエネルギー・インフラ構築の上で大きな進歩を遂げている。第三に、トルコは有利なパートナーであるロシアから、EU諸国にとって間違いなく興味深いガス・ハブの更にもう一つの独自の巨大プロジェクトを獲得している。第四に、ロシア・ガスの拒否に対するある種のガス補償を期待して、ウルズラ・フォン・デア・ライエン女史が署名したガス取り引きに関するアゼルバイジャンとEUの合意は、再びトルコを通過する場合にのみ可能だ。第五に、進行中のロシア-ウクライナの軍事政治危機を考えると、穀物取り引きは、欧米にとっては最も不都合ながら、依然ウクライナのパンをヨーロッパに届けているエルドアンの柔軟な外交によってのみ生き残れる。一方、スウェーデンはNATO加盟の取り組みで、明らかにテロとの戦いに関するエルドアンの条件に耐えなければならないだけでなく、トルコが被った政治的、道徳的損害の一部をトルコに支払わなければならないかもしれない。トルコの影響力とEUへの影響力を強化するための他の議論を見つけるのはおそらく困難ではない。これが意味するのは、ブリュッセルや他のヨーロッパの主要首都(ベルリン、ロンドン、ローマ、ベルン、マドリッド、ストックホルム等)はトルコの「100億ドル」危機パッケージに依然貢献しなければならないということだ。
トルコに対するもう一つの重要だが、さほど頼りにならない財政的支援の源は、チュルク諸国機構(OTS)の資源豊富で財政的に有望な同盟国、特にアゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの可能性がある。バクーは、第二次カラバフ戦争での彼の一貫した支援についてエルドアンに多くを負っている。イルハム・アリエフはレジェップ・エルドアンの親友だ。アゼルバイジャンは被災地で慈善および人道支援を提供した最初の国の一つだった。バクーはトルコの地震被災地に住宅、教育機関、診療所、その他の社会インフラを建設する1億ドル・プロジェクトを既に発表している。しかし、おそらくOTS諸国は、トルコへの財政的および物的支援のための新しい統合構想を考え出すだろう(そしてそれは10億ドルではない)。
トルコの財政(投資)支援の重要な参加者は中東の信頼できる外部パートナーになる可能性がある(そしてロシアとイランの支援によるトルコとシリアの関係回復の話題は、サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタールおよびペルシャ湾の他の君主国でそのようなプロセスを加速する)イラン、中国、ロシア。
ロシアは現代トルコの経済的持続可能性を強化するため既に多くのことをしている(二つのガス・パイプライン、メルスィンで既に完成し、シノプで開始された二つの原子力発電所、ガスハブ・プロジェクト、アゼルバイジャンからトルコへの新しい石油・ガス・パイプライン、黒海穀物取り引き)。まとめると数百億ドルだ。ロシアの中国との技術協力は近い将来トルコ市場を高品質商品の拡大先と見なす可能性がある。同時にエルドアンがロシアの地政学的、地域的(特にソ連後の地域)の利益にもっと忠実になれば、モスクワは友好的なトルコへの有益な融資の新しい機会と形態を見つける準備ができているだろう。
たとえば、ナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャン関係の解決に関連して、ロシアの平和維持部隊(RPC)が既に駐留しているのに、なぜ国連やNATO(OSCE)の旗の下の外国監視者や平和維持軍をトランスコーカサスに認めるだろう? なぜアルメニアとアゼルバイジャンは、コソボのセルビアとアルバニアの運命を繰り返したいのだろう? したがって、バクーとエレバン両方が、プーチン大統領とエルドアン大統領の合意を得て、カラバフでのRPC駐留期間を延長し、地域と両国と、両国民の安全保証人としてのロシアの地政学的存在を強化するのだ。同じ地域と隣接する中央アジアにおける新しいやりとりの再活性化に関しても、同様テーマや他のテーマが残っている。したがってエルドアンのトルコのロシアへの忠誠心は政治的にも経済的にも報われるだろう。
この記事を要約すると、もちろん今日ロシアの隣国トルコは困難な時期を経験していると言える。しかし困難は発展のための新たな準備金を見つけるのを助ける傾向がある。特別軍事作戦と、それに課せられた制裁を考えると、同じことがロシアにも当てはまる。しかし現在の緊急性は、両国を中傷する連中のうらやみうらに反駁し、効果的な協力と友好の新たな分野につながる。
アレクサンドル・スヴァランツは、政治学博士、教授、オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2023/06/09/meanwhile-the-turkish-lira-has-gone-downhill/
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ウクライナ軍反攻に関するマグレガー氏解説
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
ユーロ圏「景気後退」、1〜3月マイナス成長、独が前期比0.3%減 独の消費者と企業は高インフレと金利上昇で打撃を受けている、人々は引き締めに。ウクライナ侵攻の影響色濃い。独はロシアのガス輸入。ノルド・ストリームは爆破される。誰?バイデン爆破意向を22年表明
「ゼレンスキー大統領がおくればせながら、ウクライナ軍による反転攻勢が始まったことを認める! NATO仕様の兵器で戦闘レベルがアップ!」
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