« バフムートの戦いの終わり? | トップページ | ウクライナ状況報告:反攻の遅れ、ロシア防衛線、武器の効率 »

2023年5月14日 (日)

中東とトルコ選挙

2023年5月10日
ビクトル・ミーヒン
New Eastern Outlook

 5月のトルコの重要な選挙結果が、この地域秩序をどのように変える可能性があるか多くの中東専門家たちが益々注目している。不安定な国政と、地域における優位性への野心の上で極めて重要な大統領選挙と議会選挙に国民が投票するのだ。同時に、5月14日の同時選挙は、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と、20年以上権力を握っている彼の公正発展党(AKP)の運命を決定する可能性がある。

 エルドアンと彼の党は、トルコの政治的行き詰まり、経済運営、50,000人が死亡した2003月のこの地域の壊滅的な地震への対応に対する不満が高まる中、大統領と議会の議席を争うため協力した6つの野党の厳しい挑戦に直面している。トルコの近隣諸国は、それぞれ選挙結果に関心を持っており、問題がより少なく、より予測しやすいトルコ政治の新時代になるよう願っている。2003年に最初は首相として、次に2014年から大統領としてエルドアンが権力を握って以来、トルコは地域舞台で積極的な当事者になり、中東およびそれ以南(リビアなど)の多くの危機に断固介入してきた。

 様々な地域紛争への関与やエルドアンの断固とした攻撃的政策は、多くの中東諸国で彼に対する反感を高め、彼の成功は反対派を失望させてきた。欧米に対するアンカラの見方や近隣諸国との関係などの外交政策問題は、選挙結果に大きな影響を与えると予想され、野党はトルコの外交政策をより国内志向にすることを望んでいる。共和人民党(PRP)党首で野党連合の大統領候補であるケマル・クルチダルオール率いるトルコ野党は、AKP政府が直面している問題を有利に利用しようとしている。エルドアンを権力の座から追い出すため、とりわけ経済危機と、地震への政府の適切な対応の失敗を問題にしている。

 野党の優先事項は内政だ。エルドアンの権威主義的支配と型破りな経済政策の両方を逆転させることだ。エルドアンを批判する人々は、彼が自身のイメージでトルコ政治制度を形成し、彼を頂点とする現代のオスマン・スルタン帝国を建設しようとしていると非難している。何百万人もの人々を財政破綻の危機に陥れた経済政策をエルドアンが推進していることも野党は非難している。2月の地震の影響を受けたトルコの11の州では数百万人が家を失った。

 トルコの法律では、投票の半分以上を獲得した大統領候補は無条件の勝者だ。第1回投票で勝利した候補者がいない場合、二週間後に決選投票が行われる。エルドアンが選挙で敗北すれば、トルコ野党が直面する外交政策課題は膨大なものになるだろう。彼の強引な外交政策はトルコを地域大国に変えることを目的としており、新指導者と政府はトルコ社会が喜ぶ新しい外交政策を考え出さなければならないだろう。

 野党連合は、NATOや欧州連合との困難な関係から、近隣諸国との信頼の再構築まで、世界的、地域的に多数の課題に直面するだろう。トルコはNATO加盟国で、EUとの緊密な提携と貿易関係を深めているが、エルドアンはロシアとの良好な関係や他の多くの政治問題で欧米同盟諸国の怒りを呼び起こしている。ウクライナでロシアに対して解き放たれたアメリカ-NATO戦争や、欧米同盟におけるトルコの将来など、様々な問題における欧米との意見の相違を野党は解決しなければなるまい。

 トルコの近隣諸国に関して言えば、野党にとって最も差し迫った問題は何年にもわたる地政学的緊張の高まりの後、トルコと近隣諸国間の問題を抱えた関係の根本原因に対処することだ。いくつかの紛争への介入、イラク、リビア、シリアで軍事作戦を開始する意欲、地中海での執拗な領土主張など、エルドアンの増大する地域的野心は、ある意味トルコを孤立させ、近隣諸国との関係に疑問を投げかけている。確かに近年エルドアンは、エジプト、イスラエル、サウジアラビアなどの主要な地域大国との和解を含め、外交政策を変更しようとしている。彼は近隣諸国との関係を回復する試みの一環として、バッシャール・アル・アサドのシリア政権との和解も進めている。

 それにもかかわらず、トルコと他の国々間の断絶はエルドアンの友好的身振りを超えている。それは、この地域で指導的役割を果たすという現在のトルコ指導者の野心に対する深い不信と欲求不満の結果だ。アフメト・ダウトオール元トルコ首相が提唱した「近隣諸国との問題ゼロ」政策への回帰は、トルコと地域の他の国々との関係に対する信頼回復に不可欠だ。エルドアンの非常に攻撃的な政策は、近隣諸国の国内政治の不一致では頻繁に一方を支持する結果となるため、将来の野党主導の政府は(野党が選挙に勝った場合)、トルコのゲリラ的介入(例えばイラクやシリア)や海外軍事駐留(例えばリビア)終了など、多くの問題に取り組む必要がある。

 エルドアンとAKP政権の下、クルド人反政府勢力と両国の同盟者からの安全保障に対する脅威とされるものに対抗するため、イラクとシリア両国でトルコは介入を強化した。トルコはイラク北部での軍事駐留を拡大し、数十の基地と前哨基地を建設し、イラクのクルディスタン内のクルディスタン労働者党(PKK)に対し頻繁な航空作戦と地上侵攻を実施している。トルコ・イラク関係におけるもう一つの障害は、イラクが下流の生活を脅かすと恐れている大規模上流プロジェクトによって引き起こされたユーフラテス-チグリス盆地の水不足だ。

 シリアへのトルコ関与の規模は、2011年のシリア蜂起以来、その後の内戦に関するアンカラの懸念に対処するだけでなく、拡大している。政治的に始まったトルコ介入は、後にシリア反政府勢力への軍事援助に発展し、シリア領の大部分の占領に変わった。エルドアンのシリア政策の結果の一つに、現在選挙討論に関与している何百万人ものシリア難民のトルコ内での存在がある。多くのトルコ野党は、反移民の選挙綱領で運動をしており、これら難民をシリアに送り返したいと考えている。

 両国で、この紛争はトルコにおける長年のクルド人問題の根底にある見解を反映している。トルコの戦略家は、両国を巻き込む混乱を利用して、クルド人がイラクとシリアに独自の国家を創設し、トルコのクルド人地域でPKK主導の分離主義運動を加速させる可能性があると恐れている。この問題は、特にトルコに約15万人のクルド人が暮らしており、その有権者が投票結果に決定的影響を与えることを考えると、選挙前に深刻だ。

 トルコの選挙地図は選挙結果がクルド人に依存する可能性があることを示している。最近の世論調査によると、主にクルド人を基盤とする国民民主主義党(HDP)は、投票の少なくとも10%を獲得すると予想されており、選挙後、最有力候補になる可能性がある。HDPは、姉妹政党であるYeşil Sol Parti(緑の左翼)の旗印の下で議会候補を立候補させ、PKKを支持したという告発をめぐりトルコ憲法裁判所で禁止される可能性を回避している。この党はクルチダルオール大統領候補を支持する6党連立に正式に参加していない。代わりに大統領選挙で更に大きな役割を果たす可能性が高い有権者は、HDPが指名した「緑の左翼」を支持している。したがって野党同盟は、クルド人社会弾圧と近隣戦略両方の口実としてPKKの存在を使用することに関するトルコ公共政策に取り組む上で根本的な問題に直面することが予想される。

 将来のいかなるトルコ反政府勢力主導政府も、南地中海地域におけるトルコの権益を推進するためトルコ兵と外国人戦士が配備されているリビアへの関与も再考する必要がある。野党勢力は同国への軍事介入をやめ、リビアの近隣諸国にその平和的意図で安心させることを目的として、リビアにおけるトルコの代替戦略を提案する必要がある。東地中海の排他的経済水域に対するトルコの主張もライバル主張国に敵対し、地域の緊張を高めている。他の多くの国がこの地域で一連の紛争に巻き込まれており、そこでガス生産が増加している。トルコ野党はエルドアンによるこれら一方的合意を支持しないことを明らかにしており、地域のガス市場におけるトルコの権益を確保するための代替計画を策定していると伝えられている。

 近隣諸国がトルコの経済的、政治的幸福と安全にとって重要なのと同様トルコはこの地域にとって重要だ。トルコ人とアラブ人および他の中東の少数民族との関係は何世紀にもわたる歴史があるが、4世紀にわたるオスマン帝国の支配下で彼らがどのように生き残ったかは意見が異なる。最近ではエルドアンの増大する地域的野心が外交関係を緊張させ、反トルコ感情を煽り、アラブ諸国にトルコに対する慎重な姿勢を強いている。

 誰が選挙に勝っても、次のトルコ政府は、ライバルの隣国に対処する最も効果的な方法を考え出し、より公平で有益な地域協力への道を開くため、これら全ての複雑な問題を念頭に置く必要がある。したがって野党同盟は、クルド人社会の抑圧と、その戦略両方の口実としてPKKの存在を利用するトルコ公共政策に取り組む上で根本的問題に直面すると予想される。

 ビクトル・ミーヒンは、ロシア自然科学アカデミー客員。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.org/2023/05/10/the-middle-east-and-the-upcoming-elections-in-turkey/

----------

 スコット・リッター氏、著書ロシア語版刊行記念講演、今回はエカテリンブルク

Scott Ritter May 12 Book Event in Yekaterinburg 1:12:06

 Alex Christoforou 狂気のEU外相会談。

Borrell trashes China. Baerbock warns SA. Storm Shadow hits Lugansk. Elensky, Eurovision lies. 44:42

 耕助のブログ

No. 1789 ロバート・F・ケネディ・Jrとドナルド・トランプ

 植草一秀の『知られざる真実』

立憲民主党が衰退する理由

 今朝の孫崎享氏メルマガ題名

老後の生活。国民年金男女全体平均月額:5万6368円、厚生年金男女全体平均月額:14万3965円、65~69歳就業率、2011年36.2%、2021年には50.3%、生活費実収入:23万6576円支出25万5100円、65歳から先の世帯貯蓄・平均値:2376万円・中央値:1588万円

 日刊IWJガイド

「ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏への民主党支持層からの支持率が14%から19%に上昇! 2024米大統領選の台風の目となるか?」

はじめに~米大統領候補に名乗りをあげたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏への民主党支持層からの支持率が14%から19%に上昇! 2024米大統領選の台風の目となるか? 米左派評論家はケネディ氏の出馬は「最良のリベラリズムの復活」であり、「米国の分断を修復するのはケネディ氏」だと期待! ケネディ氏は米国を再統合できるのか!?

« バフムートの戦いの終わり? | トップページ | ウクライナ状況報告:反攻の遅れ、ロシア防衛線、武器の効率 »

チュニジア・エジプト・リビア・アルジェリア」カテゴリの記事

トルコ」カテゴリの記事

シリア」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« バフムートの戦いの終わり? | トップページ | ウクライナ状況報告:反攻の遅れ、ロシア防衛線、武器の効率 »

お勧め

  • IWJ
    岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal

カテゴリー

ブックマーク

最近のトラックバック

無料ブログはココログ