ヨーロッパの「戦略的自立」に関するマクロンの思いは空騒ぎだがアメリカの不安は明白
フィニアン・カニンガム
2023年4月12日
Strategic Culture Foundation
地政学的には無力で信頼できる家臣であるにもかかわらずのマクロン発言に対するアメリカの怒りは教訓的だ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は大ヨーロッパの戦略的自治を提唱し、旧大陸は台湾をめぐる米中対立に巻き込まれるのを避けるべきだという発言はアメリカを興奮させた。
マクロンは習近平国家主席に歓迎されたように見える中国からの帰路発言した。報道によると、この訪問で、エリゼ宮が全国的抗議と経済的苦境に対するストライキに襲われる中、フランス企業は、いくつか有利な貿易協定を獲得した。
ヨーロッパの戦略的自治に関するマクロンの思索に対するアメリカのいらだちは少なくとも二つの形で明らかになっている。
マクロンは「ドゴール主義カード」を使っているとニューヨーク・タイムズが鼻であしらうように非難し、ウォール・ストリート・ジャーナルはフランス指導者を「台湾の過ち」で厳しく批判し「彼は中国侵略に対する抑止力を弱め、ヨーロッパに対するアメリカの支持を弱体化させる」と付け加えた。
共和党のマルコ・ルビオ上院議員は明らかに不満を抱き、マクロンがヨーロッパ全体を代表して話しているのか、フランスだけを代表して話しているのか「速やかに」明らかにするよう要求した。むっとしたルビオは、アメリカは今後「中国の脅威」に注意を向けるから「お前たち[ヨーロッパ指導者]がウクライナに対処しろ」と言った。
アメリカ騎士道の見当違いの感覚を笑いとばすべきだ。これは第一次世界大戦や第二次世界大戦のように、連中が再びヨーロッパを紛争から救っていると信じているアメリカお決まりの言い草だ。ルビオが示唆するように、アメリカ政府は「中国侵略」とされるものに「対処」しながら、ヨーロッパを血なまぐさい争いの中に見捨てるつもりなのだ。
現実は正反対だ。ヨーロッパが第二次世界大戦以来最悪の戦争に巻き込まれているのは、まさに、対ロシア代理戦争を仕掛けて、戦略的なロシア-ヨーロッパ・エネルギー貿易を破壊するワシントンの狙いに、無気力な指導者連中が奴隷のように従っているためだ。何十年にもわたるアメリカ主導のNATO拡張主義は「ヨーロッパを守る」という名目で、この危険な岐路を生み出してきた。ウクライナでの戦争は手に負えない覇権主義野望を強化するワシントンの必要性によって推進されている。ロシアと中国との対決はヨーロッパを属国植民地として従属させるアメリカの必要性と同様、ワシントン帝国主義ゲームの不可欠な要素だ。
アメリカの政治家やマスコミにとって、ウクライナを巡って、ヨーロッパにある種高貴な恩恵を与え、ヨーロッパの乙女を「野蛮なロシア人」から救っているかのように描くのは身勝手な偏愛だ。それは実に陳腐で虚偽だが、欧米メディアによる洗脳のおかげで、使い古された比喩は依然まだ機能している。
マクロン発言をめぐる騒動が示しているのは、ヨーロッパ指導者連中が、いかにアメリカ支配下にあるかということだ。ヨーロッパの大統領が自国や欧州連合の他の加盟国が中国との独立した関係を追求する上で自国の利益を優先すべきで、特に台湾をめぐる紛争を回避すべきだと断言するのは、日常的な常識や理性や、当たり前の権利だと思える。アメリカ政治階級が猛烈な形で反応したのは、皮肉にもヨーロッパ人が実際どれほどひどく従属しているかを示している。マクロンは頭が冴えた瞬間に発言したが、ヨーロッパ家臣が、あえて命令から外れたがゆえに、アメリカの反発は条件反射的で厄介だ!
さらに重要なことに、アメリカの怒りは威圧的で強気かもしれないが、ワシントンの不安がいかに脆弱かも明らかにしているのだ。
アメリカ支配層は、アメリカ・グローバルパワーが慢性的、体系的に危機だと益々感じている。アメリカ一極秩序は衰退しつつあり、多極世界が不可避的に出現している。かつて強大な米ドルは、もはやかつてのような安全を提供しない。中国やロシアやグローバル・サウスは、アメリカ・ドルや独特で恣意的な特権を不要にする多極秩序を益々強く求めている。それが完全に実現すれば、債務に窮したアメリカ資本主義経済と、かつての世界支配は、それ以前の多くの帝国と同様、崩壊するだろう。
これが、ワシントンがマクロンの「横柄さの」爆発に非常に激怒している理由だ。アメリカ権力は従属と独裁への固執に依存している。家臣による独立に関するつぶやきは、その考えが広まったり採用されたりしないよう容赦なく潰さなければならない。
だがエマニュエル・マクロンはシャルル・ド・ゴールではない。ドゴールは冷戦初期の数十年間、フランスをNATO軍事同盟から一時的に脱退させ、真のフランスの独立を示した。ドゴールの独立は、アメリカ軍産複合体と帝国国家に挑戦したジョン・F・ケネディを最終的に殺害したのと不思議な類似性を持つ暗殺策謀を招いた。
ほぼ4年前マクロンはNATOに「脳死」とレッテルを貼った。その後、彼の発言はヨーロッパの中国との独立した関係の呼びかけに関し今引き起こしたと同様の論争を引き起こした。
NATOに対する彼の「脳死」軽蔑にもかかわらず、マクロンはヨーロッパの独立を実現するため全く何もしなかった。他のEU指導者同様、マクロンもウクライナにおけるワシントンの対ロシア戦争の道を哀れにたどってきた。マクロンはワシントンの地政学的ニーズに完全に従ってフランス兵器で戦争を煽ったのだ。
だから戦略的自立に関するマクロンの最新の願望をめぐる全ての騒ぎは「空騒ぎ」だ。マクロンは大言壮語が好きなマリオネットで、ドゴールの見劣りする模倣だ。彼はアメリカの覇権野心を弱体化させるため実質的なことは何もするつもりはない。中国からの帰国便で彼はおそらく中国国家の壮観の余波(無駄な)壮大な欲望感覚に負けたのだ。
地政学的には無力で信頼できる家臣であるにもかかわらず、マクロン発言に対するアメリカの怒りは教訓的だ。それが本当の話だ。帝国の力がどれほど脆弱になっているか連中は知っているので、ほんの僅かの反対意見でもワシントンをパニックに近い状態に陥らせるのに十分なのだ。
マクロンはどうでも良いが、アメリカの激しい反応は注目に値する。
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宗主国拡声器の大本営広報部、宗主国の脅威は語らず中国の脅威だけ語る。
ロシア・メディアのスプートニックはこう報じている。
https://sputniknews.jp/20230420/15740388.html
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は広島、長崎への原爆投下について、「(核兵器による)前例のない破壊をもっとも強く思い出させる」と述べた。この発言は日本でなされたにもかかわらず、ブリンケン長官は、この非人道的な行動を実際に行ったのが誰なのかを指摘したり、日本国民の前で謝罪したりする必要があるとは考えなかったようだ。
オバマも広島で演説した際、原爆攻撃を人ごとのように述べた。雨ではないので自然に降ってくるわけなどないが、アメリカが投下したことには触れなかった。
71年前の明るく晴れわたった朝、空から死が降ってきて世界は一変しました。閃光(せんこう)と炎の壁によって町が破壊され、人類が自らを破滅させる手段を手にしたことがはっきりと示されました。
昔翻訳した記事、ハワード・ジン「歴史の効用とテロリズムに対する戦争」を語る を思い出す。一部を貼り付けよう。太文字強調は小生の加工。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post-6c7c.html
彼はゲーリングに、ヒットラー、ナチスがドイツ人を一体どうやってあのように馬鹿げた戦争と侵略の破滅的な政策を支持するようにできたのか尋ねたのです?で、手元にそのノートがたまたまあるのですが。我々はいつも言うのですね。「たまたま、これが手元にありまして。」
ゲーリングは言っています。「もちろん国民は戦争を望んではいない。なぜ畑にいる貧しいまぬけが、自分の命を戦争にさらそうなどと望むだろう?だが、結局、政策を決定するのは国家指導者だ。国民はいつでも指導者達の命令に従わせることができる。連中に、我々は攻撃されているのだと言って、平和主義者は愛国心に欠けると非難するだけで良いのだ。これはどこの国でも同様に機能する。」
私には最後の行が興味深いものでした。「これはどこの国でも同様に機能する。」つまり、ここで、彼らはナチスです。あれはファシスト体制です。アメリカはデモクラシーです。けれども、自分の国を何制度と呼ぼうと、これはどこの国でも同様に機能するのです。自分の国を全体主義国家と呼ぼうと、あるいは自国をデモクラシーと呼ぼうと、同じように機能するのです。つまり、国家指導者達は国民を、丸め込んだり、無理強いしたり、唆したりして戦争をさせることができるのです。国民を脅かし、国民が危険な状態にあると言い、もしも支持しなければ、非愛国的と見なされるぞと国民を脅迫し、無理強いして。そして、これが9/11直後にこの国で本当に起きたことなのです。これがブッシュがイラクの大量破壊兵器という妖怪をよみがえらせた直後に起きて、しばらくの間アメリカ国民がこれを支持するようにさせたわけです。
けれども問題は、どうやって連中がまんまとそれをやりおおせたかです?新聞はどうでしょう?テレビはどうでしょう?政府がしていることを暴くのは新聞の仕事ではありませんか?テレビの仕事ではありませんか?ジャーナリズムの仕事ではありませんか?ジャーナリスト達はI・F・ストーンからは学ばないのでしょうか?「ひとつだけ覚えておくように」と彼はジャーナリズムを勉強している若者に言いました。「ひとつだけ覚えておくように。政府は嘘をつくものです。」ところがマスコミはそれには注意を払わなかったのでしょう。マスコミは支持したのです。彼らは大量破壊兵器というアイデアを喜んで受け入れたのです。覚えておいででしょう。コーリン・パウエルがイラク戦争開始の直前に国連に登場し、彼によればイラクが所有するのだといううんざりするほど大量の武器を国連で説明し、大変な詳細まであげたのです。この弾筒がいくつあるか、これが何トンあるか、云々と。そして翌日、新聞報道は称賛で輝いていました。彼らは、質問してみるという自分たちの仕事をしなかったのです。彼らは尋ねるという自分たちの仕事をしなかったのです。「どこに?あなたの証拠は何ですか?どこからそうした諜報情報を入手したのですか?誰と話をしましたか?あなたの情報源は何ですか?」
軍産複合体や政治家の強欲のため中国脅威論をあおるアメリカ支配層を批判するマグレガー氏の話はハワード・ジン講演と通底する。アメリカ軍幹部は政府拡声器に過ぎない。
Ukraine & the Globalist War Mongers - Col Doug Macgregor 27:59
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
米中攻防。中国の弱点、米の優位は通貨。世界貿易で人民元の利用は3%程度、ウクライナ戦争中米国はロシアに通貨制裁。通貨の兵器化、中国、貿易での元利用を積極化、ロシア、サウジ、ブラジル、そして若干フランスとも。「中国の“脱アメリカドル化”戦略加速
「米国ではワクチン懐疑派のロバート・ケネディ・ジュニア氏が大統領に出馬表明! IWJは号外で深堀り! 日本ではコロナ第9波の可能性!?」
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