指針的神話を失ったヨーロッパ
アラステア・クルック
2023年4月24日
Strategic Culture Foundation
今日のアメリカには、生きている神話から長い間切り離されたヨーロッパよりも多くの文化的エネルギーが存在するようだ。
中国国防相による三日間のロシア訪問で送られたメッセージは明確だ。彼の歓迎(注目を集める出来事)は、意図的に非常に目立たされた。そして象徴的中心は(正教会)復活祭の日、プーチン大統領との会談で、これは外交儀礼の規範をはるかに超えており、プーチンが通例働かない復活祭の日に行われたことの両方から重要だった。
重要なメッセージは中国の環球時報の元編集長胡錫進が以前した発言から推測できるかもしれない。「進行中のウクライナ紛争でロシアに中国が「致死的な軍事援助」を提供する準備をしているとアメリカは繰り返し主張している」。しかし、この戦争は「一年以上続いている。そして欧米の以前の計算によれば、ロシアは既に今頃崩壊しているはずなのだ。そしてNATOはロシアより遙かに強力なはずだが現地状況はそのように見えない。それが欧米が[大いに]不安になっている理由だ」。
胡錫進は続ける。
「ロシアだけで対処するのが非常に困難な場合、巨大な産業能力を使用して中国がロシア軍のためロシアに軍事援助を提供し始めたらどうなるだろう。ロシアだけでも欧米諸国の手に負えないのだ。中国とロシアが軍事的に提携するよう欧米が本当に強制すれば、連中を悩ませる問題は、欧米はもはや好きなようにできなくなるのだ。ロシアと中国がまとまれば、アメリカを抑制する勢力になるはずだ」。
これこそ中国国防大臣訪問の本質だ。数週間前、胡が環球時報に記事を書いて以来、事態は進んでおり、どちらかといえば最近の進展は、中露提携は軍事的なパラダイム変化だという彼の明確な警告に新たな次元を加えたのだ。
最近のアメリカ諜報情報漏洩(とシーモア・ハーシュによる以前の報道)はアメリカ「恒久国家」における深い内部分裂を示しているように見える。
一つの要素は、ウクライナの春季攻勢は大災厄の卵で、アメリカの威信に大きな悪影響を与えるのは確実だ。一方、ネオコン徒党はこの分析に激しく反論し、代わりに、中国とロシア両国に対し、すぐに行うアメリカ戦争に対する即時の準備(台湾武装)によるエスカレーションを要求している。ウクライナによる攻撃の24時間以内にロシアのパニックと崩壊が起こり得るとネオコンは主張している。
わかりやすく言えば、対中国ネオコン戦争熱の突然の点火は胡が以前に予見したことが実現したに過ぎない。それが必ずしもウクライナではなく、欧米との戦争でロシアと中国に軍事的に手を組むことを余儀なくさせたのだ。
諜報漏洩をきっかけに、アメリカにおけるウクライナへの注目は薄れ、アメリカでは中国との戦争への熱が高まっている。
中国国防相のモスクワ訪問は現在中国とロシアが戦争の可能性は現実だと確信しており、その準備をしている具体的証拠だ。プーチンは、とりわけロシア太平洋艦隊の強化を優先し、全般的にロシア海軍能力を強化することによる「接合」を強調した。
これは、まともではない。胡は「図星」だった。もしNATOが自力でロシアを打ち負かす軍事産業能力を持っていないなら、アメリカとヨーロッパは、中国とロシアを一緒にして、どうして勝てると期待できるのだろう? そういう考えは妄想だ。
古代ローマ世界史の大家、歴史学者のポール・ヴェーヌは、かつてこういう疑問を投げかけた。ギリシャ人は彼らの神話を信じていたのか? 全ての社会は「真実」と「虚偽」の間に、いくつか概念的区別を工夫していると彼は書いたが、結局彼によれば、これも我々がたまたま暮らしているもう一つの「金魚鉢」に過ぎず、認識論の問題として、少なからず神々についての神話や物語という点で古代ギリシャ人が暮らし、その世界を理解していた金魚鉢より決して優れているわけではない。
アメリカの外交政策を育んでいるローマ帝国の神話に関し、ヴェーヌの立場は全く対照的だ。彼の基本的主張は、ローマ帝国主義は、国政術や経済的捕食、支配の主張や、服従要求とはほとんど関係なく、むしろローマ人は単なる安全ではなく、邪魔されずに放っておかれる世界を作りたいという集合的願望に動機付けられていたというのだ。それだけだ。
逆説的に、この説明はネオコンのそれより、バーク-ブキャナンの視点に寄りがちなアメリカの伝統的「右翼」をヴェーヌのローマの「現実」に近づける。つまり、ほとんどのアメリカ人が望んでいるのは、アメリカが放っておかれ、安全になることだ。
そう、神々と神話は古代人にとっては具体的だった。人々は彼らを通して生きていた。ここでの要点は古代ローマ人を我々の変種として「怠惰に扱う」ことに対するヴェーヌの警告で、確かに異なる環境で暮らしていても、本質的には我々と置き換え可能なのだ。
ギリシャ人は彼らの神話を信じていただろうか? ヴェーヌの短い答えは「いいえ」だ。公式の権威の光景はそれ自体が目的だった。疑問の余地ない権威の表現として、それは聴衆のいない人工物だった。「公共圏」はなく、実際そのような「公共」はなかった。国は楽器演奏者だった。その役割は帝国をこれら目に見えない強力な力と調和させ、調整し、維持することだった。
神々と神話は今日の我々にとってほとんど全く異質な方法で古代人に理解されていた。それらは世界を形作り、意味を持った明確な性質を持ったエネルギッシュな目に見えない力だった。今日我々は世界を象徴的に読む能力を失った。シンボルは厳格な「もの」になった。
ヴェーヌの分析の含意は、ローマはアメリカ優位性の必然性「神話」を支持するための比較としては間違っているということだ。もちろん「神話的」ネオコン手法では、アメリカの優位性が(神々により)定められており、ロシアはぶら下がっている果物で簡単に倒せる壊れやすい腐った構造だと我々全員を説得するため道具化されている。
では、ネオコンは自分たちの神話を信じているのだろうか? 「イエス」で「ノー」だ。ネオコンは、多くの場合、資格があると見なされる少数の理論家が提案する共通見解(つまりロシアは脆弱で分裂している)を共有する人々の集団だ。しかし、それは見解で、現実には基づいていない。これら信奉者は自分の見解が正しいと知的に確信しているかもしれないが、彼らの信念は疑う余地なく確認できる方法で試すことはできない。それは単に彼らがそうだと想像する世界の構図に基づいているか、もっとはっきり言えば、彼らがそうあってほしいと望むものなのだ。
そう、それが機能しているように見えるので、ネオコンは彼らの神話を信じている。周囲を見回して頂きたい。コミュニケーション手段が分散化され、デジタル化され、アルゴリズム化されるにつれ、現代文化は個人を「群れ」に追いやっている。この談話から離れて存在するものはない。Tik-Tocの情報以外に考えはないのだ。それは世界から切り離された、より広いイデオロギー的目的のため生成された疑似現実を形成する。
端的に言えば、現代的な意味での「公共圏」はローマには決して存在せず、今日の意味で生きている西洋の「公共圏」も存在しなかった。ソーシャルメディア・プラットフォームを介して麻痺させられているのだ。権威づけられたネオコン・イデオロギー権威の(例えば、中国との戦争を提唱しているリンゼイ・グラハム)目をみはるような見世物は、それ自体が目的なのだ。疑う余地のない権威の表現だ。
ロシアは内破する瀬戸際だというネオコン神話は意味をなさない。しかし、それはネオコンが想像している、あるいはもっと端的に言えば、そうなるよう望んでいる世界の構図なのだ。(彼ら自身のアメリカ)漏洩諜報情報に詳述されているウクライナ軍の欠点。彼らは気づかないふりをするのだろうか? Foreign Policyが説明しているように、予想されるウクライナ攻撃が開始されると「ロシア兵はパニックになり、ロシア指導者間で麻痺を引き起こした場合、反撃は成功するだろう」。
このような妄想的分析が追求されればされるほど機能的精神病質が益々現れ、正常でなくなる。要するに、まだそうでないとしても、集合的妄想に陥るのだ。
アメリカは戦争熱にかかっているのかもしれない(今のところ!(ウクライナでの出来事が展開されるにつれ、それがどれほど続くか見よう))、しかしヨーロッパはどうだろう? 一体なぜヨーロッパは中国との戦争を求めるのだろう?
トーマス・ファジは次のように書いている。
「エマニュエル・マクロンがアメリカへの依存を減らし、独自の「戦略的自立」を開発するようヨーロッパに呼びかけたことは大西洋両岸で癇癪を引き起こした。アメリカの大西洋主義支配層はヨーロッパと同じくらい典型的に抑制されない形で対応し、そうすることで重要なものを見逃したのだ。
「マクロンの言葉は、ヨーロッパ内の関係についてほど、ヨーロッパとアメリカの関係の状態について明らかにしていない。
「非常に簡単に言えば、マクロンが語る「ヨーロッパ」は、過去存在したとしても、もはや存在していない。紙の上では大陸ほぼ全体が一つの超国家的国旗つまり欧州連合の旗の下で統一されている。だが、それはこれまで以上に分裂している。常にこのブロックを悩ませてきた経済的、文化的分裂に加えて、ウクライナでの戦争は鉄のカーテンの境界に沿って巨大な断層線を再出現させた。東西分断がすさまじい勢いで戻ってきたのだ。」
「冷戦終結と、10年余り後の中欧・東欧諸国のEU加盟は、どちらも共産主義後諸国の待望の「ヨーロッパへの回帰」だと予告された。EUの普遍主義プロジェクトは西欧と中欧、東欧間の主要な社会的、文化的違いを解決すると広く信じられていた。そのような傲慢な(そして間違いなく帝国主義的)プロジェクトが失敗するのは確実だった。実際二つのヨーロッパ間の緊張と矛盾はすぐ明らかになった。」
統合ヨーロッパ文化への信念はヨーロッパ西端より中央ヨーロッパの感性の印だった。東側にとって問題だったのはロシアだけではなかった。彼らは自分たちが不可欠な部分だった世界から切り離されたことに憤慨していた。しかし共産主義が後退した際、反体制派が想像していたように、ヨーロッパ文化は分裂に悩まされ、国民文化を復活させる試みを故意に絞め殺そうと中心部から課せられた文化戦争で消滅したのだ。ミラン・クンデラや彼のような他の作家たちにとって、ヨーロッパに生きた文化はなく、子孫は至高の価値消失によって生み出された空白の中で暮らしている。
逆説的だが、ウクライナでの戦争はロシアの国民文化を強化したが、EUの見せかけを露呈した。生きた神話から長い間切り離されたヨーロッパよりも今のアメリカには多くの文化的エネルギーが存在するようだ。
個々の寄稿者の見解は必ずしもStrategic Culture Foundationのものではない。
記事原文のurl:https://strategic-culture.org/news/2023/04/24/europe-has-lost-its-guiding-myth/
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The Jimmy Dore Show アメリカの国家犯罪を暴露したジャーナリストを投獄しながら、ロシアがアメリカ人ジャーナリストを似たような理由で投獄すると文句を言う偽善。アサンジ監禁はアメリカ(とその属国)では「報道の自由」が禁止されている証拠。
U.S. Actually Criticizes Russia For Jailing Journalists! 19:46
Reporter Kevin Gosztola is one of the few top journalists who frequently cover the Julian Assange case and its importance as a bellwether to the prospective demise of a free press in the United States. Now Russia has jailed journalist Evan Gershkovich on similar charges and U.S. elites don’t see the hypocrisy in calling the charges “trumped up” and demanding that Putin to release him.
耕助のブログ
今朝の孫崎享氏メルマガ記事題名
ウクライナ問題に関する安倍元首相発言「ゼレンスキーが、NATO 不加盟、東部の 2州に高度な自治権供与なら戦争回避の可能性あった」、反応「岸田文雄首相に背後から弓を引くに等しい、知米派の政府関係者は“米国を批判する安倍氏理解できない”と憤り隠さない。
国際刑事裁判所はアメリカ刑事裁判所と読み替える必要がある。
「バイデン政権は子ども人身売買の斡旋をしていた! 国際刑事裁判所が子ども連れ去り容疑でプーチン大統領に逮捕状を発行したのは何なのか!?」
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