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2022年7月 4日 (月)

アジアを二分するワシントン

2022年6月24日
ドミトリー・ボカレフ
New Eastern Outlook

 現代世界は矛盾によって引き裂かれている。アメリカと同盟諸国は世界支配に慣れていて、他の国々の利益を代償に、自分たちの立場を維持、拡大しようと努めて危機と対立を招いている。中東で、戦争は何十年間もおこなわれ、ヨーロッパでは、ウクライナで戦いが起きた。これまでのところ東アジアでは平和が優勢だが、地域状況は次第に悪化している。地域の最大勢力、中華人民共和国は、アメリカの主要な経済的ライバルで、常に欧米の敵意の脅威下にある。今数年にわたり北京とワシントン間に「貿易戦争」があり、お互いに対する経済的圧力のみならず、相手側の代表者の逮捕や実刑判決に現れている。

 中国-アメリカ対決は、この地域を分裂させ、東、南東、中央アジア諸国に、対立する側の一方につくよう強いている。一方、東アジアの主要アメリカ同盟国、韓国と日本は、何千人ものアメリカ軍兵士が彼らの領土に既に駐留しているにもかかわらず、近年ワシントンからの強烈な圧力を受けて、自身の軍事力を強化しているが、これら準備は本質的に反中国である(そして日本の場合、おそらく反ロシアでもある)ことは疑いようがない。報道によれば、一方、アメリカの宣伝屋は、一部の国々に認められている国家で、北京が自国領域と思っている台湾に対し、中華人民共和国は侵略を準備していると益々語っている。状況が絶えず激化していると結論できる。そしてワシントンはこれに満足しており、アメリカ指導体制は、できる限りのあらゆることをして、地域を分割し、アジア諸国をお互い戦わせようとしているように思われる。

 2022年4月、アメリカのジョー・バイデン大統領が、来月、アジアの主要同盟国、韓国と日本を訪問する予定だというメディア報道があった。歴訪のしばらく前に、その目的は、アメリカが「二つの外交政策の脅威は即座に対処できる」と言ってアメリカのパートナーを安心させることだと言われた。つまり、ウクライナ領域でのロシアの特殊作戦と、これに対する戦いは、ウクライナでの出来事の前は、ホワイトハウスにとって優先課題だった中国の活動だ。

 歴訪中、バイデンはアメリカのアジアのパートナーを、ワシントンがウクライナ問題に払っているすべての注意にもかかわらず、中国に対処する以前の全ての協定は依然有効だと言って安心させよう望んだ。さらに、ワシントン・ポストは公然と、会談の話題は「攻撃的超大国に対する連合を率いる」ためのワシントンの準備についてだろうと書いた。ありとあらゆることを「指導する」ことに対するアメリカの思いは長年知られているが「攻撃的な超大国に対する連合」のような明白な言葉は外交言辞では頻繁に聞かれない。少なくともそれぞれの国家との友好的か、あるいは中立関係の外観を維持することが必要に思われる現在の不穏な時に、ワシントンが、公然と中国を「攻撃的超大国」と宣言することに不安を持っていないのは特に興味深い。

 予想された通り、北京はどんな熱狂もなしにバイデンの旅行を受けとめた。中華人民共和国は、外務省を通して、韓国と日本に、ワシントンの不必要に大胆な計画に参加しないよう警告した。これを目指して、中国の王毅外務大臣は韓国と日本の外務大臣と適切な議論さえした。欧米メディアは中華人民共和国の不満を他人の不幸を喜ぶ気持ちで受けた。アメリカ雑誌ポリティコは「北京は幻覚症状を起こしている」と報じさえした。

 2022年5月19日、バイデンのアジア歴訪が始まった。韓国では就任直後の尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領と会った。一般的な狙い通り、彼らの会談の主な話題はアメリカ-韓国の軍事協力強化だった。アメリカ大統領は、アメリカは核使用まで含めて、韓国の安全を保証する用意があると韓国に保証した。

 バイデンは更に日本に向かい、日本の岸田文雄首相のみならず、インドとオーストラリアの国家リーダー、ナレンドラ・モディとアンソニー・アルバネーゼとも会った。東京で、4人の指導者はもう一つのクワッド(日米豪印戦略対話)サミットを行った。周知の通り、クワッドの主目的はインド・太平洋地域(IPR)で中国の野心に対処することだ。これは4人の指導者が東京で彼らの会談を捧げた話題だった。

 軍事協力とは別に、バイデンは韓国と日本の指導者と、経済協力について、すなわち、インド太平洋経済枠組み(IPEF)と呼ばれるアメリカの構想を論じた。東京で、2022年5月22日、バイデンは公式にIPEFの立ち上げを発表した。IPEFはインド・太平洋地域全体でアメリカと同盟諸国間の経済的結びつきを強化し広げるよう意図されている。最初のIPEF参加国は、アメリカの他、オーストラリア、ブルネイ、ベトナム、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、タイ、フィリピン、韓国と日本だった。これら全ての国はアメリカの同盟国か、中国との意見の相違がある。

 最近まで広範な人々には知られていない「インド・太平洋地域」という概念は、北京とワシントンの地域ライバル関係が、アジア太平洋に限定されず、中国に対抗することが明確になったここ10年、欧米メディアに積極的に促進されていることは想起されるべきで、アメリカは太平洋での反中国の戦いを、インド洋におけるインドの反中国の戦いと組み合わせようとしているのだ。中国に対するインド・太平洋提携の軍事的基盤はクワッドにより保障され、IPEFの始動で、その生存能力を保証するための強い経済基盤を持つはずだ。

 バイデンの韓国と日本訪問は、西洋とアジアのアメリカの支援者に前向きに受けとられた。アメリカ大統領は、アメリカのインド・太平洋戦略を鮮やかに実証し、アメリカが、それで、21世紀に人類の運命を決定して、インド・太平洋地域での「道義的な有効な」指導力を確保しながら、同時に「ロシアの脅威」に対し「自由世界」を率いることができると親欧米派メディアは報じた。これは、おおまかに、アメリカ国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリバンがそれを表現したものと一致している。

 しかしながら、アジアの全ての国がアメリカの「道義的で効果的な指導」を感謝して受け入れる準備ができているわけはない。それで、2022年5月25日、バイデンの日本訪問とアジア歴訪の終わり直後、韓国とアメリカの長年の敵、北朝鮮(DPRK)が3発の弾道ミサイルを試験発射した。集められたものから判断して、ミサイルの一発は大陸間だった。ミサイルは日本海に落ちた。どうやら、この示威発射はバイデン歴訪の終わりと一致するよう意図的に時間設定されていた。

 あらゆる矛盾にもかかわらず、中国、インド、日本と韓国は貿易関係を発展させ、平和共存する方法を求めて、何十年もの間、比較的平和に暮らしていたことは指摘されるべきだ。しかしながら、中国とその近隣諸国間の矛盾は今激化している。アメリカの支持に依存して、インド、韓国と日本は、益々ワシントンが、彼らを、そこから容易な逃げ道がない中華人民共和国との葛藤に引きずり込むことを可能にしている。

 アメリカは、アジア太平洋とインド・太平洋地域を、支持者と反対者に分けることにより、ワシントンは、明らかに中国との対立激化に準備しているのだ。アメリカが戦わずに、インド・太平洋地域の支配権を断念しないのは明らかだ。他方アメリカが戦う準備をするよう強いられている事実が、アメリカが対抗者のいない覇権と「一極世界」時代が終わったのを悟っていることを示している。そして今、世界支配を主張する代わりに、ワシントンは、まだ支配することが可能な世界の地域を分離しなければならない。

 ドミトリー・ボカレフは政治評論家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.org/2022/06/24/washington-splits-asia-in-two/

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 『紙屋町さくらホテル』を観劇。原爆投下時、広島にいた劇団がモデル。素晴らしい脚本と熱演。ウクライナ状況と重なって見える。

 Thorsten J. Pattberg氏の辛口記事は原爆後に続く悲惨な現状。外国と条約を締結する際、宗主国の承認を頂く。主権とほど遠い。

Things Are Not Looking Good For Japan’s Sovereignty

 ロシアを敵国扱いした効果てきめん。サハリン・ガス事業が国有化された。広島にガスは来るのだろうか?

 今朝の孫崎享氏メルマガ題名

ゾルゲ事件の正体』(文庫本化):今覆る世界のゾルゲ事件神話―ゾルゲ、尾崎は死刑に値しない。事件は東條の近衛首相潰しのために作られた冤罪。ゾルゲはソ連のスパイ。尾崎はゾルゲの協力者。だがその事は両者が甚大な被害を日本に与えたこと」を意味しない。

 耕助のブログ

No. 1492 リアリティ・チェック(1of 21)
投稿日時: 2022年7月4日

ウクライナ戦争においてロシア側の報道を禁じているように、日本のメディアは中国に関しても米国側の言い分しか報じないが、中国メディアによる「米国の言い分のリアリティ・チェック」は読む価値がある。(耕助)

 日刊IWJガイド

<本日のタイムリー再配信>本日午後7時から、2021年6月22日収録「重要土地調査規制法案スピード可決『台湾有事のための戦時立法』アメリカ軍の戦略のために日本全体を最前線の『戦場』にする法案 ~岩上安身によるインタビュー第1044回 ゲスト 沖縄の風・伊波洋一参議院議員」を再配信します!

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