ウクライナと核兵器
2022年3月3日
スティーブン・スター
コンソーシアムニュースへの特別寄稿
核兵器に関して、プーチンとゼレンスキーが言い、行動したことをニューヨーク・タイムズ記者が甚だしく歪めた後、スティーブン・スターは、その記録を修正し、欧米メディア全般が誤った情報を伝え、世界全体を危険な方向に導くのを遺憾に思っている。
2月28日、集団防衛の文脈で史上初めて動員されたNATO即応部隊に加わるためニュルンベルグ国際空港に到着したアメリカ部隊。(NATO)
最近ニューヨーク・タイムズが「プーチンはウクライナが核兵器製造に向かっていると陰謀論を説いている」という題のデイビッド・サンガーによる記事を掲載した。不幸にして、大いに歪曲しているサンガー自身で、読者に、ロシアとウクライナの大統領が言い、行動したことの極端にゆがんだ彼の自説を報じているのだ。
最近のミュンヘン会議におけるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー声明は、1994年のブダペスト覚書を中心に展開されたが、覚書はソ連が領土に残した核兵器をロシアに返却するウクライナの決定に関連し、核拡散防止条約(NPT)へのウクライナ加盟を歓迎するものだった。
換言すれば、ブダペスト覚書はウクライナが核兵器を放棄し、将来核保有国にならないことに関するものだ。ミュンヘンでのゼレンスキー演説はウクライナがブダペスト覚書を否定しようとしているのを明らかにした。ゼレンスキーは本質的にウクライナはNATO加盟国にならなければならない、さもなくばウクライナは核兵器を獲得するつもりだと述べたのだ。
ゼレンスキーはこう言ったのだ(強調は筆者)。
「私は北大西洋条約と第5条の方がブダペスト覚書よりも効果的だと信じたい。
世界第三位の核保有[すなわちウクライナは冷戦中ウクライナに置かれていたソ連核兵器を手放した]を断念することに対しウクライナは安全保障を得た。我々はその兵器を持っていない。それゆえ我々はあるものを持っている。宥和政策から、安全と平和保証への移行を要求する権利だ。
2014年以来、ウクライナはブダペスト覚書の保証国との協議を三度召集しようとした。三回とも成功しなかった・・・私はブダペスト覚書の枠組みで協議を始めている。外務大臣は、それを召集するよう委任されている。もしそれが再び行われないか、それらの結果が我が国に安全を保証しないなら、ブダペスト覚書は機能しておらず、1994年の全ての決定は疑わしいと信じるあらゆる権利をウクライナは持っているはずだ。
私はブダペスト覚書の枠組みで協議を始めている。外務大臣は協議を召集するよう委任された。もし協議が再び行われないか、それらの結果が我が国の安全を保証しないなら、ブダペスト覚書が機能しておらず、1994年の全パッケージ決定が疑わしいと信じるあらゆる権利をウクライナは持っている。」
サンガーのタイムズ記事は、ゼレンスキーがウクライナの核兵器獲得を主張したのは「陰謀論」だとをほのめかしている。サンガーがブダペスト覚書の意味について知らないはずはなく、むしろ彼は意図的にそれを無視することに決め事実を誤り伝えたのだ。
ウラジーミル・プーチン大統領は、大多数のロシア人同様、多数の歴史的な理由から、ニューヨーク・タイムズやサンガーのようなイデオローグが無視すると決めた、このような脅威を無視できなかったのだ。それが欧米主流メディアでは報じられなかったから、大半のアメリカ人がそれに気が付いていないので、それら事実の一部を列記するのは重要だ。話の一部を書き落とせば、プーチンを、介入の、いかなる理由もなしに征服の決意を抱く狂人に変えてしまう。
まず、ドンバス地域のドネツク州とルガンスク州両方が、その年2月、選挙で選ばれたヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領を打倒した、アメリカに支援されたクーデターに抵抗して、2014年にウクライナからの独立に賛成投票した。この独立賛成投票は、ネオ・ナチがオデッサで多数のロシア人を焼き殺した、わずか8日後のことだった。その後、彼らの独立への挑戦を鎮圧するため、アメリカに任命された新ウクライナ政府は、クーデターに参加していたネオ・ナチ・アゾフ大隊の支援を得て、両州に対する「反テロ」戦争を開始した。それは8年後依然続いている戦争、ロシアがまさに参加した戦争だ。
最近記者会見で、この数値を提供したドネツク人民共和国指導者によれば、この8年間、ウクライナ軍とアゾフ大隊は砲兵隊や狙撃兵や暗殺チームを、組織的にドネツク人民共和国の5,000人以上の人々(更に8,000人が負傷した)主に一般人を虐殺するために使った。ルガンスク人民共和国では、更に2,000人の一般人が死亡し、3,365人が負傷した。2014年以来、ドンバスで、殺され、負傷させられた人々の合計数は18,000人以上だ。
これをニューヨーク・タイムズは実に表面的な報道しかしていない。ワシントンの公式言説に合わないので、ウクライナが、ドンバスの人々に対する絶えず攻撃し「反テロ活動」を推進しているのを欧米商業メディアは報道していない。それどころか、8年間、この戦争は、現在のロシア介入のずっと前から、ロシア「侵略」と描写されてきた。
同様に、ニューヨーク・タイムズは全体的報道で、ウクライナ軍が2022年始めまでに、ドンバスとのその境界に、軍の半数、約125,000人の兵士を配備していたことを報告しないと決めていた。
ウクライナ政府内におけるネオ・ナチ右派セクターの政治家連中や、ウクライナ軍にとっての(アゾフ大隊などの)ネオ・ナチ民兵の重要性も主流商業メディアは報じない。アゾフ大隊はナチの旗を掲げている。彼らはアメリカ軍事顧問チームに訓練され、最近Facebookで称賛されている。2014年、アゾフ大隊は内務省指揮下のウクライナ国家警備隊に組み込まれた。
ナチは第二次世界大戦中、約2700万人のソ連人/ロシア人を殺した(アメリカは404,000人失った)。ロシアは忘れておらず、ネオ・ナチから来る、いかなる脅威や暴力にも極めて敏感だ。アメリカは一度も侵略されたことがないので、アメリカ人は一般に、これがロシアにとって何を意味するか理解できない。
だから、ウクライナ大統領が本質的に核兵器を取得すると脅せば、これは確実に、ロシアは、実存的脅威と考える。それがプーチンがロシアのウクライナ侵略に先行する演説で、これに焦点を当てた理由だ。サンガーとニューヨーク・タイムズはウクライナの核の脅威を無視しなければならない。連中は何年間も、これに関するニュースを組織的に排除しているがゆえに、逃げ切ることができるのだ。
「現在ウクライナは核燃料を製造するための基本インフラさえ持っていない。」と書いて、サンガーは非常に誤解を与えかねない発言をしている。
ウクライナは核燃料を作ることに関心はなく、ウクライナは核燃料を既にアメリカから輸入している。ウクライナは、現在、通常核兵器製造に使われているプルトニウムを大量に持っている。8年前、ウクライナは使用済み燃料アセンブリーで50トン以上のプルトニウムを、多くの原子力発電所で保管していた(原子炉が稼働して、使用済み燃料を作り出し続けているので、現在おそらくもっとある)。プルトニウムは再処理され/使用済み核燃料から分離された途端、武器として使用可能だ。プーチンはウクライナは既に核弾頭を搭載可能なミサイルを持っており、彼らには確実に再処理施設建設と核兵器開発が可能な科学者がいると指摘した。
2月21日のテレビ演説で、プーチンはウクライナが爆弾を作るためのソ連時代のインフラの残り物があると述べた。彼はこう言った。
「我々が知っているように、ウクライナは自身の核兵器を作るつもりで、これは単なる自慢ではないと既に今日述べた。
ウクライナは、ソ連時代に作られた核技術と、航空機や、射程距離100キロ以上のソ連が設計したトーチカ高精度戦術的ミサイルを含め、運搬手段を持っている。
だが彼らは更に多くすることが可能だ。それは時間の問題に過ぎない。彼らはソ連時代以来、このための基礎を持っている。
換言すれば、戦術核兵器の獲得は、このような研究を行っているが、ここで私が言及するつもりがない、いくつかの国々より、ウクライナにとって遙かに容易だろう。特に、もしキエフが外国から技術支援を受ければ。我々はこの可能性も排除できない。
もしウクライナが大量破壊兵器を獲得すれば、世界とヨーロッパの状況は劇的に変化するだろう、特に我々ロシアにとって。我々はこの本物の危険に対応し、益々私は繰り返さざるを得ない。欧米のウクライナ支援諸国は、我が国に対して更に、もう一つの脅威を作るため、これら武器取得を支援するかもしれない。」
拘束力ある核条約を拒否するNATO-アメリカ
タイムズ記事で、サンガーは「アメリカ当局者は繰り返し核兵器をウクライナに置く計画はないと言った。」と述べている。
だがアメリカとNATOは、ロシアと、このような主旨の法的拘束力がある条約に署名するのを拒否している。実際は、アメリカは、ウクライナをNATOの事実上の加盟国にして、軍隊を訓練し、武器供給し、ウクライナ領で共同訓練を行っている。アメリカは、なぜ核兵器をウクライナに置かないのだろう。彼らは既に他のヨーロッパNATO加盟諸国五カ国国境内の軍事基地に配備している。これは実際、NPTの精神に反するが、ロシアがアメリカに核兵器をヨーロッパのNATO加盟国から撤去するよう要求したことをサンガーが指摘する際、避けているもう一つの問題だ。
イランがアメリカに届く核兵器やミサイルを持っていないのに、アメリカは何年間も、ルーマニアとポーランドのロシア国境に配備している弾道ミサイル防衛システム(BMD)は「イランの脅威」から防衛するためだと公言している。だがイージス・アショアーで使われている二重の弾道ミサイル防衛システムMark 41発射システムは、トマホーク巡航ミサイルを発射するため使用することも可能で、核弾頭を装着したSM-6ミサイルを装填すれば、5分から6分でモスクワに命中できるだろう。2016年、プーチンはこの危険について記者団にはっきりと警告した。昨年12月、アメリカとNATOに提出した起草条約にロシアはルーマニアとポーランドのアメリカ弾道ミサイル防衛システムの撤去も含めていた。
もしロシアがカナダかメキシコ国境にミサイル発射施設を設置したら、アメリカの対応はどうかサンガーは考えたことがあるのだろうか?アメリカはそれを脅威と思うだろうか、アメリカはロシアがそれらを撤去するよう要求するだろうか、あるいはアメリカはそうするために軍事的手段を使うだろうか?
30年前
今日ロシアが取っている姿勢は「モスクワがロシア核科学者が平和目的のために彼らの技能を使うよう自発的に再教育されていた時、30年前に受けていた口調と全く異なっている」とサンガーは言う。
30年前には、NATOはロシア国境まで拡大しておらず、何百トンもの武器でウクライナを溢れさせていなかったし、反ロシア政権を据え付けるため、アメリカがキエフ政権を打倒していなかったとロシアは答えるはずだ。
タイムズは依然アメリカの「公式記録新聞」とみなされているが、これまでの数十年間で、それはワシントンが発する公式言説の主要代弁者に変化している。
出版・報道の自由が、反対意見をもみ消し検閲する商業マスコミで置き換えられる時、国にとって本物の脅威がある。我々に今あるのは出版・報道の自由ではなく、ホワイトハウス最新命令の反響室として機能するプロパガンダ省だ。連邦政府の目的に奉仕すべく商業メディアに作られたエセ言説の組織的でっちあげのおかげで、世界の出来事についてアメリカ国民に誤った情報を伝え、ロシアと戦争する準備ができていると思わせている。
おそらく全ての国々や国民を破壊する核戦争で終わるだろうから、これはアメリカとEUにとってのみならず、文明全体にとっての自殺路線だ。
スティーブン・スターは元ミズーリ大学臨床研究室科学プログラム責任者、元「社会的責任を果たすための物理学者」委員会メンバー。彼の論文は原子力科学者会報、アメリカ科学者連盟と物理学とモスクワ物理技術研究所の戦略兵器削減ウェブサイトのブレティンに出版された。彼はNuclear Famine(核飢饉)ウェブサイトを維持している。
表明された意見は著者のものであり、必ずしもコンソーシアムニュースのものを反映するものではない。
記事原文のurl:https://consortiumnews.com/2022/03/03/ukraine-nukes/
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英語元記事がデーターを全て削除してしまったため重要な画像が見られなくなっていた、2014年のウクライナ・ナチスによる、ロシア系住民虐殺の画像を並べた「キエフと右派セクターによるオデッサ水晶の夜 (写真・閲覧注意!)」魚拓ページをご教示いただいた方から、またしてもご教示いただいた記事の翻訳。
ちなみにConsortium News記事は、これまで多々翻訳している。日本だけでなく世界中のメディアや投稿が異口同音に「原発を攻撃した」とロシアを非難している。この記事は事実が全く逆であることを理路整然説明している。この記事に対する説得力ある反論を拝見したいものだ。
これまで、まともと思っていたほとんど全てのブログが、欧米商業メディアの一斉砲撃を鵜呑みにして、一斉にプーチンは狂ったと叫んでいる。狂っているのはプーチンなのだろうか。小生が拝読しているブログの中でプロパガンダに同調しない例外は『私の闇の奥』しかないように思われる。
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コメント
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ウクライナという国とゼレンスキーという男が果たしてマスコミが伝える通り、まともな国であり、狂った大国の侵攻に果敢と立ち向かう英雄なのか、歴史を調べればすぐに判る話です。
ゼレンスキーのロシアに対する好戦的挑発的姿勢は今に始まったことではなく、ロシアの軍事侵攻はいわば売られた喧嘩を買った形にしか見えません。政治経験値がゼロのコメディアン上がりのゼレンスキーはパペットで、操り手は別にいることは当然として、その操り手がメディアを介しあらゆる認知バイアスを駆使し「ロシア=悪」との感情を世界市民に植えつけています。「青い目・ブロンドの髪の人々=ヨーロッパ人」の悲劇だから、その他、中東などの避難民とは違う、ことさらに同情すべしとの人種差別バイアスまで働く有様です。
トランプが暴こうとした、バイデンファミリー(ハンター・バイデン)と現政権との腐れ縁、戦争マフィア等々、幾つも操り手が影で動いているのにそれが我々には見えず、ゼレンスキー主演の感動ポルノに酔っていますが、そのポルノに付き合わされたウクライナ国民こそ不幸でしょう。地政学的に緩衝国(中立国)であるべき身の程を弁えず、偏狭なナショナリズムに衝き動かされてロシアの首元に核兵器という匕首を突きつけるようになれば、キューバ危機の再来となります。
ゼレンスキーの国際社会に売り込む「盾」の値札は高くつきます。「盾」の代償として核戦争の危険性を我々が買うわけにはいきません。
投稿: Film photography | 2022年3月 9日 (水) 02時54分