ウクライナ危機はウクライナに無関係。ドイツの問題だ。
マイク・ホィットニー
2022年2月11日
Unzレビュー
「第一世界大戦や第二次世界大戦や冷戦と、我々が何世紀もそれを巡って戦争をしてきたアメリカの根源的な関心は、彼らが団結すれば、我々を脅かすことが可能な唯一の勢力なので、ドイツとロシアの関係だ。そしてそれが決して起きないようにすることだ。」シカゴ国際問題評議会におけるSTRATFOR CEOジョージ・フリードマン
ウクライナ危機はウクライナには無関係だ。それはドイツの問題、特に、ドイツをロシアと結びつけるノルドストリーム2と呼ばれるパイプラインだ。ワシントンは、このパイプラインを、ヨーロッパにおける優位に対する脅威と見なし、至る所でプロジェクトを破壊しようとしている。たとえそうでも、ノルド・ストリームは突き進み、今完全に運用可能で準備万端だ。ドイツ規制当局が最終承認を出した途端、ガス送付が始まるだろう。ロシアのガス収入に本格的な後押しになり、ドイツの自宅所有者や企業は、きれいな高価でないエネルギーの頼れる源が得られる。双方にとり、お互い有利な関係だ。
アメリカ外交政策支配層はこの進展に不満だ。彼らは、貿易が信用を形成し、信頼が取り引きの拡大に導くから、ドイツがロシア・ガスに一層依存するのを望まないのだ。関係がより深まり、更に多くの貿易障害が撤廃され、規制が緩和されるにつれ、旅行・観光が増加し、新たな安全保障構造が発展する。ドイツとロシアが友人で貿易相手国である世界では、米軍基地は不要で、NATOは不要で、高価なアメリカ製兵器やミサイルシステムも不要だ。米ドルでのエネルギー取り引き決済も、勘定のバランスをとるため財務省長期債券をため込む必要もない。ビジネス・パートナー間取り引きを自身の通貨で行うことが可能だが、これはドル価値の急落や、経済大国の劇的移行を促進するのは確実だ。これがバイデン政権がノルド・ストリームに反対する理由だ。それは単にパイプラインというだけでなく、未来への窓なのだ。ヨーロッパとアジアが巨大な自由貿易地帯に入り、より近くなり、相互の力と繁栄を強化し、アメリカはのぞき込むだけで置きざりにされる未来だ。ドイツとロシア間のより暖かい関係は、これまで75年間アメリカが監督してきた「一極」世界秩序の終わりを意味する。ドイツ・ロシア同盟は、現在刻々と奈落の底に近づきつつある超大国の下落を早めるおそれがある。これがワシントンがノルド・ストリームを妨害し、自らの軌道内にドイツを引き留めるべく、できる限りあらゆることすると固く決意している理由だ。それは生き残りの問題なのだ。
そこでウクライナが登場する。ノルド・ストリームを粉砕し、ドイツとロシアの間にくさびを打ち込む上で、ウクライナはワシントン「お好みの兵器」なのだ。この戦略はアメリカ外交政策ハンドブックの一ページに「分割と支配」という見出しで書かれている。ロシアはヨーロッパに対する安全保障上の脅威だという認識をワシントンは作る必要がある。それが狙いだ。彼らは、プーチンが、すぐカッとなる性格の血に飢えた信用できない侵略者だと示す必要がある。それを目指して、メディアは「ロシアはウクライナ侵略を計画している。」と繰り返し何度も言う役割を当てがわれている。決して話題にされないのは、ソ連崩壊以来、ロシアはどこの国も侵略しておらず、一方、アメリカは同じ期間に、50以上の国で政権を侵略したり打倒したりしており、アメリカは世界中の国々に800以上の軍事基地を維持していることだ。これらをメディアは、いささかも報じず、代わりに焦点を当てているのは、全ヨーロッパを再び血まみれの戦争に陥れるおそれがある、ウクライナ国境に沿って推定100,000人の兵隊を寄せ集めている「邪悪なプーチン」だ。
全てのヒステリックな戦争プロパガンダが、ロシアを孤立化し、悪者にし、究極的に、より小さな断片に粉砕するために使える危機をでっちあげる意図で作られている。だが本当の標的はロシアではなく、ドイツだ。Unzレビューのマイケル・ハドソンによる記事の抜粋を検討しよう。
「アメリカ外交官にとって、ヨーロッパのガス購入を阻止するために残された唯一の方法は、ロシアを軍事対応へと駆り立てて、次に、この対応に報復するのは、国の経済上のどんな純粋な利権より重要だと主張することだ。1月27日、タカ派の国務次官(政治担当)ビクトリア・ヌーランドが国務省記者会見でこう説明した。「もしロシアが何らかの形でウクライナを侵略すれば、ノルドストリーム2は前進しない」。(「アメリカの本当の敵はヨーロッパと他の同盟諸国だ」Unzレビュー)
これは物事を良いか悪いだけで見ているのだ。バイデンチームはノルドストリームを破壊するため「ロシアを軍事対応に駆り立てる」ことを狙っている。それは、プーチンをウクライナ東部でロシア人を守るため彼の軍隊を国境を越え派兵する気にさせるよう意図された何らかの挑発があることを意味する。プーチンがワナにかかれば対応は素早く厳しいはずだ。世界中の指導者がプーチンを「新ヒットラー」と非難し、メディアは、この動きを全ヨーロッパに対する脅威と糾弾するだろう。これは要するにワシントン戦略で、演出全体が一つの狙いを念頭に置いて画策されている。ドイツのオラフ・ショルツ首相がノルドストリームに最終過程を承認するよう指示するのを政治的に不可能にするのだ。
ノルド・ストリームにワシントンが反対していることを我々が知っているという条件のもとで、読者は、年初バイデン政権が、なぜ議会に、このプロジェクトに、より多くの制裁を課さないよう圧力をかけたのかと思うかもしれない。その疑問への答えは単純だ。国内政治だ。ドイツは現在原子力発電所を廃炉にしつつあり、エネルギー不足を埋め合わせるため天然ガスが必要だ。経済封鎖の脅威は、それを外国干渉の兆候と見るドイツにとって「いやなもの」なのだ。「なぜアメリカは我々のエネルギー決定に干渉するのか?」と平均的ドイツ人は問うている。「ワシントンは人に干渉せず、いらぬおせっかいをしないようすべきだ。」これは、まさに、どんな道理をわきまえた人にも期待するだろう対応だ。
そして、アルジャジーラのこの記事だ。
「過半数のドイツ人がプロジェクトを支持しており、パイプラインに反対しているのはエリートとメディアの一部に過ぎない
「アメリカが制裁について語ったり、プロジェクトを批判したりすればするほど、ドイツ社会で益々人気が高まる」とGerman Council on Foreign Relationsのロシアと東ヨーロッパ専門家ステファン・マイスターが言う。(「ノルドストリーム2:ヨーロッパへのロシアのパイプラインがなぜ欧米を分断するのか」Al Jazeera)
だから、世論はノルド・ストリームを強く支持しており、それがワシントンが新しい方法に決めた理由の説明に役立つ。制裁が機能しないからアメリカ政府はプランBに転換したのだ。パイプライン始動を阻止するようドイツが強いられる十分大きな外的脅迫を作るのだ。率直に言って、この戦略には絶望の雰囲気があるが我々はワシントンの忍耐力に感銘するべきだ。彼らは9回裏で5点負けているかもしれないが、タオルを投げ入れ降参していない。彼らは最後の一撃で多少成果を上げられるかどうか見ようとしているのだ。
月曜日、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのオラフ・ショルツ首相と最初の共同記者会見を開催した。この催しを取り巻くばか騒ぎは全く未曾有のものだった。全てバイデンがアメリカ政策の方向に首相に圧力をかけて従わせるために使う「危機の雰囲気」を作り出すため画策されていた。その週早々、ホワイトハウス報道官ジェン・サキは繰り返し「ロシア侵略が差し迫っている」と述べた。彼女の発言に、東ウクライナで近い将来行われると予想するロシアの「ニセ旗」作戦とされることの詳細を諜報機関が彼に提供したと意見を述べる国務省広報担当ニック・プライスが続いた。プライスの警告は日曜朝、ロシア侵略が「明日さえ」いつでも起きかねないとはっきり示すジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官が続いた。これはブルームバーグ・ニュースが「ロシアがウクライナを侵略する」という扇情的な全く偽りの見出しを公表してからわずか数日後だ。
ここで皆様は同じパターンにお気づきだろうか?これら根拠のない主張が、どのように全て彼を狙った作戦に気付いていないように思われる疑うことを知らないドイツ首相に圧力をかけるために使われたか皆様はお分かりだろうか?
想像できる通り、最終的な打撃はアメリカ大統領自身に加えられた。記者会見中に、バイデンが断固としてこう述べた。
「もしロシアが侵略すれば、もはやノルドストリーム2はあり得ないが。我々がそれに終止符を打つ。」
それで今や、ドイツのためワシントンが政策を決定するのだろうか???
なんと耐えがたい横柄さ!
明らかに元々の脚本の一部ではなかったバイデン発言に、ドイツ首相は不意をつかれた。それでもショルツは決してノルド・ストリームを中止することに同意せず、名指しでパイプラインに言及さえするのを拒否した。もしバイデンが公開討論会で彼を追い詰めることで、世界で三番目に大きな経済の指導者を攻撃できたと思ったのであれば、彼は見当違いだった。ドイツは遠く離れたウクライナおける紛争の可能性にかかわらず、ノルド・ストリームを始動するとを決心している。だが、それはいつでも変化しかねない。結局、誰がワシントンが近い将来、どんな煽動を計画しているかもしれないかを知っているだろう?誰が、ドイツとロシアの間にくさびを打ち込むため、彼らは何人もの命を犠牲にする用意があると知っているだろう?バイデンがアメリカ没落を減速し、新たな「多極」世界秩序が出現するのを阻止するため、いかなる危険もいとわないか一体誰が知っているだろう?今後何週間も何であれ起きかねない。何であれ。
当面ドイツは有利な立場にある。問題をどのように解決するか決めるのはショルツ次第だ。彼はドイツ人の利益を支持する最良の政策を実行するだろうか、それとも彼はバイデンの容赦ない圧力に屈服するだろうか?彼は活気のあるユーラシア回廊で新たな同盟を強化する新たな進路を決めるだろうか、それとも彼はワシントンの狂気の地政学的野心支持を表明するのだろうか?多くの新興権力中心が等しく世界統治を分かち合い、指導体制が断固多国主義、全員の為の平和的発展と安全保障に忠実な新世界秩序におけるドイツの中枢的役割を彼は受け入れるのだろうか、それとも彼は明らかに賞味期限を過ぎて生き残ったぼろぼろの戦後体制を支えようとするのだろうか?
一つ確実なことがある。ドイツが何を決定しようと我々全員に影響するのは確実だ。
記事原文のurl:https://www.unz.com/mwhitney/the-crisis-in-ukraine-is-not-about-ukraine-its-about-germany/
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この記事「メモ・独り言blog」様が『「ウクライナ危機」はウクライナとは何の関係もない』として、既に、フランス語から?翻訳しておられる。当ブログの様々な記事とのつながり上、こちらにも置いた方が皆様わかり易いのではと想像、屋上屋を架して翻訳させていただいた。
朝、RTを読む。
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
ウクライナ問題の根幹は①ウクライナのNATO加盟問題と②「ドネツク」と「ルガンスク」の独立問題。西側が真に沈静化を望むなら、かつて米独が約束した通りにNATOを東方に一段と拡大しない、ウクライナへの加盟は露の理解得られるまで棚上げと約束することだ
「ロシアがウクライナの軍事施設に攻撃開始! ロシアは『占領はない』と主張、ウクライナは『侵略戦争』『国家を破壊することが目的だ』と非難」2022.2.25号~No.3452号
<本日のタイムリー再配信>本日午後6時から2014年収録「『日露エネルギー同盟を締結せよ!』シェールガス革命の幻想と日本のエネルギー戦略のこれから~岩上安身によるインタビュー 第425回 ゲスト 現役の経産省官僚(※収録当時)・藤和彦氏」を再配信します!
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