ウクライナ危機を巡るアメリカの脆弱な指導力で広がる亀裂
Finian Cunningham
2022年1月27日
Strategic Culture Foundation
ウクライナの大失敗がまざまざ示している通り、アメリカ覇権と虚栄心に対する代償は犯罪的なほど常軌を逸しているのを世界は理解しつつある。
これは、まさにワシントンが最も恐れていることだ。ヨーロッパ同盟諸国指導部とされるものの中に亀裂が現れている。ウクライナを巡りアメリカ率いる対ロシア圧力キャンペーンはヨーロッパで悲惨な戦争が燃え上がりかねないほど危険にかき立てられている。
そしてヨーロッパはアメリカ政府の無謀さに不安になりつつある。神経がすり減り、それとともに、神聖な「団結」つまりアメリカ覇権が、ほころびつつあるのだ。
今週ドイツのオラフ・ショルツ首相はベルリンにフランスのエマニュエル・マクロン大統領を迎えて、両リーダーはロシアとのヨーロッパ対話でウクライナ危機を段階的に緩和するよう呼びかけた。二人の発表はワシントンのモスクワに対する対決的姿勢の遠回しな拒絶だった。
ロシアの軍事侵略とされるものによる「差し迫った」ウクライナ戦争というワシントンの表現に、フランスとドイツは危機感を募らせているとメディアは報じている。モスクワは、どんな侵略計画も、誰であれ攻撃する計画も、持っていないと繰り返し断固否定している。誰かが嘘をついており、ロシアによる侵略が起きず日々が過ぎ去るにつれ、ワシントンと、その狙いは何なのかという疑問が生じている。
アメリカは外交努力で対応できない程緊張を高めているという懸念が拡大している。アメリカさえ、自身の自殺的傾向を理解しているようには思われない。
重要なことに、ベルリンはノルド・ストリーム2ガスパイプラインを中止したり、ロシアを国際金融機構から排除したりして、ロシアに一層極端な経済制裁を課すというアメリカとイギリスの考えを支持するのを拒否した。後者の動きは、ロシアと同じ位、ヨーロッパに大損害を与えるはずなのだ。
ショルツ政権は、ウクライナへのNATO武器供給も断固拒否している。
一方、バイデン政権とNATOイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、アメリカとヨーロッパ同盟諸国間の団結イメージを示すべく「しゃかりき」だ。懸命な努力は、欧米の同盟関係が、言われる程強固ではなく、団結してはいないという暗黙の不安を物語っている。ヨーロッパ同盟諸国に対する優勢な立場が、その絶対的権限に依存するため、ワシントンにとって、この不安は極めて深刻だ。
バイデン大統領は全てのNATO同盟諸国と話しをしたが、ウクライナの状況とロシアとの緊張に関しては「我々全員認識が一致している」と主張している。今週バイデンはアメリカと同盟諸国は「全員一致」していると断言した。アメリカ大統領の主張は、現実というよりより希望的観測だ。フランスとドイツの指導者が示している通り満場一致ではない。
ウクライナのキエフ政権が、ありえない平手打ちをした。ロシア侵略が差し迫っているというアメリカの主張を彼らが反ばくし、他の防衛幹部官僚同様、ボロディミル・ゼレンスキー大統領も今週180度転換したのだ。大使館から外交官を引き上げるというワシントンとロンドンの決定にキエフはいらだっている。それらの動きは人騒がせで、過度の不安をひき起こすと見なされている。
ウクライナを巡る緊張を煽動する上で、アメリカと、常に卑屈なイギリスのボチは明らかにやり過ぎている。ワシントンとロンドンがロシアと武力衝突を促進しつつあると、通常ロシア嫌いのキエフ政権さえもが懸念している。
NATO加盟国クロアチアのゾラン・ミラノヴィッチ大統領によるものは、アメリカの指導力に更に悪影響を及ぼす亀裂だ。彼は緊張のエスカレーションを非難し、クロアチアは、いかなる紛争にも参加しないと述べた。彼は述べた。「もしエスカレーションすれば、我々はクロアチア軍の最後の一兵まで撤退させる。」
クロアチア大統領は、先見の明を持って、この行き詰まりに関して、こう発言した。「これはウクライナやロシアには無関係で、アメリカの内政力学の問題だ。」
張り詰めたアメリカ指導部に対するもう一つの打撃は、ドイツのドイツ海軍海軍総監カイ=アヒム・シェーンバッハ海軍中将がウクライナへのロシア侵略というアメリカの主張に「ナンセンス」とレッテルを貼った後、辞職したことだ。自分の権威とされるものに対するドイツの裏切りにワシントンは激怒した。
ウクライナを巡る危機は、ロシアに対する総力戦という奈落の底への向こう見ずな突進になっている。今週バイデン大統領は、不気味にも、このような戦争は「世界を変えるはずだ」とまで言った。それは無知な過小表現だ。関係する核保有諸国を考えれば、おそらく世界の終わりだ。
それでも大惨事へと向かう非合理的な滑落の背後には、ふらちにせよ論理的な政治的動機があるのだ。
まず第一に、ヨーロッパとロシア間での、エネルギーや他の正常な貿易を妨害するアメリカの歴史的戦略目標がある。西ヨーロッパとロシア関係の、いかなる正常化も阻止するというワシントンの冷戦戦略は、第二次世界大戦終結以来、これまで80年間そうだったのと同様に今も生きている。ワシントンにとって格別な狙いは、自国の炭化水素でヨーロッパへの主要なガス・石油供給国のロシアを追い出し、世界貨幣としての米ドルを維持するため、重要なオイルダラー体制を支えるのだ。
アメリカが主導するNATO圏を軍事警戒態勢にしておくのは機能不全なアメリカ資本主義の脈打つ心臓たるアメリカ兵器産業にとって極めて大きなな恩恵だ。
だが、ここ数ヶ月、ウクライナとロシアが、このようなるつぼ状態に爆発したのには、より短期的な、せこい政治的理由があるのだ。
今週AP通信が主要ニュースで意図する以上のことを明らかにした。「バイデンの大切な試験。プーチンに対抗し同盟諸国を召集できる証明」。
アメリカ大統領は「四年間のドナルド・トランプの不安定なホワイトハウスの後、国内を完全に立て直し、世界におけるアメリカの立場を復活できると言った2020年バイデン立候補公約二本柱の大事な試験」に直面しているとAP報道は述べている。
就任したバイデン大統領が「アメリカは戻ってきた」と誇らしげに語った時、彼が切望していたのは、彼の監督下、アメリカ政府が再度世界で尊敬されることアメリカ有権者に示すことだった。
バイデンの国内関係の誓約は、これまでのところ明らかに失敗に終わり、世論調査支持率はアメリカ社会改造失敗で低下している。それゆえ、死に体の大統領は、なおさら、ロシアのような典型的な外国の敵に対する同盟諸国の強い指導者というイメージを取り戻そうとしているのだ。
ウクライナ危機は、アメリカ政治と、破綻した寡頭政治資本主義経済の組織的失敗に引き起こされているのだ。一部は冷戦風目的のような戦略的なものによる。一部は、せこい国内政治によるものだ。アメリカの政治的必要性を満たすため世界は危険な絶壁へと押しやられているのだ。
だがアメリカ帝国にとって致命的なことは、ウクライナの大失敗がしっかり示している通り、アメリカ覇権と虚栄心の代償が犯罪的なほど常軌を逸しているのを世界が明らかに認識しつつあることだ。それ故、アメリカ政府の指導部と現実、両方に対する脆弱な掌握下で亀裂が広がりつつあるのだ。
西欧とアメリカの団結がばらばらになるのは、まさにモスクワが求めていることに過ぎないとアメリカ帝国の宣伝屋は主張するだろう。おそらく、そうだろう。だが一番の原因は、ワシントン自身の本来衰えつつある権力と、覇権への固執だ。
Finian Cunninghamは主要報道機関の元編集者・記者。国際問題について多く書いており、記事は複数言語で刊行されている。
個々の寄稿者の意見は必ずしも Strategic Culture Foundation のものを意味しない。
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