ドイツ、ヨーロッパ、いずれもロシア・ガスなしでは立ちゆかない
2021年10月1日
ヘンリー・カメンズ
New Eastern Outlook
ドイツやヨーロッパの多くの国々が直面しているエネルギー危機によって、ドイツ政党、特に緑の党が出鼻をくじかれた。これは国内のみならず、ロシア連邦や様々なNATOやEU加盟諸国とドイツの関係に広範囲な影響があるだろう。
ドイツはこれを予想して、発電にまつわるの多くの環境問題にとって万能薬と見なされている風力発電所への依存に向かった。だが一部の賢者が予測した通り、それは宣伝通りの環境に優しい安いエネルギーをもたらしてはいない。風は吹いておらず、発電し家を暖房するガスは不足している。
特に冬には日がより短い北国にとって、太陽エネルギーも理想的な発電源ではないかもしれない。晴れた休日が欲しい場合、人々はドイツではなく、スペインに行く。需要が大きい時、あるいは、そうでない時、エネルギーが、その場所や季節に手近にないのは不都合な偶然だ。
起きていることの多くは過去の歴史に根ざしている。2011年の福島大惨事後、ドイツが全ての原子力発電所を閉鎖すると決めたのを忘れないようにしよう。これは、それまでも既に複雑だった状況を、一層複雑にし、我々は今その結果を見ているのだ。
だが、原子力は、肯定的あるいは否定的に見られるかにかかわらず、常に政治問題だった。現実政治を反映するエネルギー需要は、常にドイツや他の国々で問題に直面する。
エネルギー危機あるいは政策の失敗
問題の要点は、より大きな地政学目的のためにエネルギー政策を利用する試みが、裏目に出ていることだ。最近の見出しに、こうある。「風が吹くのが止まると、ヨーロッパのエネルギー危機は悪化する」。多数のエネルギー問題が今重なりあい、今や最悪の状態が差し迫っている。
このウォール・ストリート・ジャーナル記事が報じているように、天然ガス不足と、予想以上に低い風力発電のため、ヨーロッパのエネルギー価格は史上最高になっている。欠乏は非常に深刻で、一部の国々は、消費者に十分な電気を保証するため、石炭発電施設を再起動するよう強いられさえしている。
だが問題を解決するどころか、イギリスは、COVID19とその影響後、景気回復を傷つけるため、エネルギー価格を不正に操作したと、ロシアを非難することに決めた。今までと同様、ロシアは問題として描かれ、解決策は一つにまとめられた。アメリカは非難すべき相手、当然ロシアを狙って、上院公聴会を開いている。
実際には、伝統的にロシアとの論争の的だったパイプライン問題の大部分が概ね解決している。ベルリンは、西洋の意見では「ウクライナにとって深刻な安全保障と経済的脅威である」ノルド・ストリーム2ガスパイプラインを、キエフに対するお粗末な保証と補償と引き換えに完成した。
ドイツや多くの西ヨーロッパ諸国は、値ごろなロシア・ガス供給が続く期待に満足している。プーチンが6,000語の文章で、ロシアとウクライナの親密な結びつきを説明したように、ロシアは西洋の懸念に分別を持って対応できるのだ。
ウクライナ自身は、その主張と現実の間で板ばさみになっている。ウクライナにはロシア・ガスが、パイプラインを流れる必要がある。それ故、ウクライナはロシアの権益に友好的でいなければならない。
ロシアがエネルギー輸出独占の立場を失っていると考えられる今、エネルギー独立と政治的独立との同一視や、西洋との、より親密な関係という考え方が推進されている。だが他のエネルギー源からの輸入は、間に合わせの解決策に過ぎないかもしれない。短期的問題を避けるために頼っている国々からの量の辻褄が合わないのだ。
ノルウェーの生産高は、2000年頃まで着実に増加し、そこで石油生産高が減り、ガスも頭打ちになった。2020年、ガス生産は2019年より3パーセント減った。ガスの総売上高は1123億立方メートル(1101億立方メートル 40メガジュールのガス)だった。2020年、天然ガスは、石油換算で総生産の半分以下だった。
紛争は依然一触即発状態
カーステン・ウェストファールは、ドイツ国際安全保障問題研究所(SWP)のシニア・アナリストだ。彼女の最新記事「ノルド・ストリーム2パイプライン建設は終わったが、それを巡る紛争は終わっていない!」で、彼女はノルトストリーム完成は天然ガスパイプライン運用の実際の条件や送付に関する最終決戦の開始を意味するだけだと論じている。
ドイツが、最高10年のウクライナ通過協定をまとめ、どれだけ延長契約をするのか、「エネルギーを、圧力をかけるために使ったり、ウクライナに対し攻撃的な行為をしたりした場合」、制裁する政治的決意があるかどうか見るのは興味深い。
ノルド・ストリーム2への反対が、より多くの混乱をもたらしたので、今ウクライナは、交渉し、バランスがとれた政策の模索を始めなければならないかもしれない。今年ワシントンとベルリンが最終的に完成に妥協し、建設に参加した企業に対する制裁を解除したことを考えると、ウクライナの全ての努力は無駄だったのだ。
ウクライナは、ガスと通過料金の両方が必要で、特定の分野で、ロシアと意見が違うことに同意する方法を見いだせた場合しか安全と感じることができない。このためには、政治的に役立つものではなく、エネルギー需要を満たす、エネルギー判断が必要になる。
ロシアは、アメリカとパートナーの一部が、エネルギー政策を操作し損ねたことで、どれほど落胆しているか十分承知している。彼らに関与しないための手段として、欧米はエネルギー地政学の現実と歴史を不吉なものとして放棄したがっている。
プーチンが文章で説明している通り「私は何らかの秘密記録ではなく、良く知られている事実を含むオープンソース文書に依拠した。現代ウクライナとその指導者や外部「支援者連中」はこれら事実を見落とすのを好んでいる。」欧米が同じように反論できなければ、これは勝てない議論だ。
外部パトロール隊は、あらぬ方向を見ている
ドイツで(一時、世論調査で先行していた)緑の党は、万一そうする立場に選ばれたら、ドイツのガス需要に影響を与える再生可能なものを優先し、化石エネルギーを積極的に段階的に廃止すると約束した。オランダはフローニンゲン・ガス田のガス生産に起因する沈下と地震で苦しんでおり、将来ガス生産国をやめるだろう。彼らが何が起きようとしているか知らなかったわけではない。オランダの病気は地域の流行病、悩みの種になり、皆が減少した供給の厳しい現実とガス田の閉鎖で苦しんでいる。
デンマークも石油とガス生産を段階的に縮小している。北海は石油盆地として老いて、イギリスは自給からガス輸入国に至った。
だから、ヨーロッパ全体にとって、おそらくロシアは唯一信頼できる長期供給国であることが分かるだろう。ドイツは多分ノルドストリーム1と2だけでなく、ウクライナの既存ルートを経由して、かなりのガスを必要とするだろう。ウクライナのガス貯蔵容量もピーク冬需要を満たすのを支援する上で理想的なパートナーだ。
ドイツや他のヨーロッパ政府は、燃料陸揚げ専門港に大規模投資が必要な液化天然ガス輸入計画を再考し始めなければなるまい。アジアにおけるLNG高価格が、ヨーロッパへの出荷を減少させている。
もう一つの問題は、メルケルが2022年までに原子力を段階的に縮小するのに同意したことだ。彼女に代わる政治家は約束を守るだろうか?それは彼女が引退する理由だろうか?ドイツは、少なくとも消費者が買える価格で一体どのように電力源を変えるのだろう?
不安定な足場
特にオランダからの供給に関する、ガソリン価格上昇は地域問題だ。そこでの微少地震が実際オランダ油田の閉鎖をもたらしている。ガス採掘後のより低い圧力のおかげで、沈下し、地震を引き起こす。
予想より寒くなれば、ヨーロッパのガス不足は、この冬、全世界が更に温かくするため、より多くの金を払わせることになるだろう。ヨーロッパの不確実性が、国際レベルの価格に影響を与えると多くの人々が予想している。
ヨーロッパは、これまでオランダのガスの供給に依存していた。だがノルウェーとロシアは予知可能な将来に関する限り、北ヨーロッパの主要ガス供給元になるだろう。
イタリアも多少生産しており、アルバニアとギリシャのパイプラインもカスピ海ガスを送っている。アルジェリアは大ガス生産国でヨーロッパ市場への供給国だ。だが、この供給いずれも現在の政策で生じた不足を満たすのに十分大きくないか、安定していない。
アゲイン・キャピタルのパートナー、ジョン・キルダフは、ヨーロッパ貯蔵所の天然ガスが、なぜ5年の平均を16%下まわっているかを説明するが、貯蔵所のレベルは、9月は最低記録だ。「それで過去数年間見逃されてきたこの商品に焦点を当てることになる」と彼は言う。
当然アメリカは、ヨーロッパが液化天然ガスの供給国として、自分の方を向くよう強いられるのを期待している。だがジョー・バイデンは、アメリカのパイプラインを閉鎖し、国際エネルギー市場に不確実性をもたらし、選挙公約実現どころではない。
結論として、ヨーロッパ人だけでなく、全員が一層高いエネルギー代を支払うことになる。エネルギー価格は天井知らずに上がり、経済、政治両方に波及する。
総合的に、この影響はヨーロッパの主要経済のみならず被害甚大だ。ガソリン価格は消費者価格に加わり、農業、工業製品原価を上げかねず、支払うべき政治的代償を招くだろう。
お願い!と言え
多くの政治家は、今や彼らの言説の熱が、風車をくるくる回らせる風に変換できたらいいと願っている。彼らは穏やかな冬を望んでいるに違いない。逆に、より寒い天気は、ロシアや他のエネルギー生産国にとっては思いがけない棚ぼただ。
国際エネルギー機関IEAさえ「より多い冬期需要と、世界的供給不足が価格を大きく押し上げることを予想して、ヨーロッパへのガス供給を増すようロシアに促している。」全ての国際機関同様、この機関も常にアメリカに目をつけていなければならず、だから、この文章も、単なる言葉の組み合わせではない。
ヨーロッパが複数のガス供給元を必要とする理由の一つは、多少競合させ、価格でだまされないようにするためだ。それは彼らが他のエネルギー源の使用や開発や高価なLNGさえ支持すると言う理由でもある。
だがドイツにかなりのガスを供給できる僅か二つの国はロシアとノルウェーだ。基本的需要を最初に満たされるようにしなければ、多様性を得ることはできず、この二国しかそれができないのだ。ノルド・ストリーム1と2(かつてはソ連邦からヨーロッパへの最初のガス輸出)に対する戦略上の大問題は、彼らは送付に反対したが、おそらくは一つもないので、可能な選択肢を提示していないことだ。
ドイツは、フランスから余剰原子力を、スカンジナビアから水力電気を輸入することが可能かもしれないが、現実には、ドイツは将来何年もガスを必要とし、唯一有望な供給元はノルウェーとロシアなのだ。そこで、ノルウェーの生産高は安定しているが、イギリスにもガスを輸出しており、大陸の国々は、より僅かしか利用可能ではない。
カスピ海ガスとLNGは供給元を多角化し、量を多少増すのに役立つが、今後数十年、ドイツのガスは主にロシアとノルウェーからのものだろう。唯一実際の選択肢は、再生可能資源が不十分な時には、需要を満たすために、より多くの石炭、そして/あるいは原子力を、使うことだ。だが、それは国民の必要に基づいた新たな一連の政治的誓約をするのを意味するが、ドイツ民主政治は、これまでのところ、それを実現し損ねている。
結論として、ドイツ総選挙で、2005年以来初めて、WSJ報道によると、中道左派が、わずかに先行している状態で、僅差で予断を許さないのは少しも不思議ではない。以前自分たちがメルケルを引き継ぐかもしれないと思った緑の党が、世論調査で落ち込んでいるのも驚くべききことではない。ガス問題が、ヨーロッパに解決策、スケープゴートを捜させているのだ。今ヨーロッパ人は遙かに高い価格に直面し、再生可能エネルギーを含めた選択肢のために、ガスの代替源を見いだし、支払わなければならない。
ヘンリー・カメンズは、コラムニスト、中央アジアとコーカサスの専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2021/10/01/neither-germany-nor-europe-can-live-without-russian-gas/
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植草一秀の『知られざる真実』最新記事は深刻。
下記は通常賛成するメディアだが、読む意欲が削がれる記事。いくら富農出身とはいえ、窮鼠猫を噛むで迷家権力者に反抗するだろうか。売国迷家でこそあれ、名家のわけなどないのだが。
自民党「3A」が怯える菅前首相の反撃開始説(日刊ゲンダイ)
古賀茂明氏の新刊『官邸の暴走』を拝読中。
134ページ中ほどの文章をコピーさせていただこう。最近の弁護士暴言を彷彿させるのだ。おかげで、暴言以来、昼のワイドショー全くみなくなった。代わりに、PCにスピーカーを接続し、youtubeの音楽を聴いているので、電気代は変わらないが?
中には、自らトップに媚びて、政権擁護の姿勢を誇示するキャスターまで現れた。報道番組とは名ばかりだ。朝昼のワイドショーも、その質の低下は目を覆うばかり。 ギャラが安く何の見識もないタレントを並べて、無意味なコメントをさせる。見ているほうが恥ずかしくなるほどだが、まるで各局が質の低下を競い合うかのように、情報番組の堕落は止まらない。
技術は高い国から低い国に流れる。日本から中国に流れるという妄想を信じる阿呆連中。宗主国に吹き込まれた幻想。
今日の孫崎氏メルマガ題名
経済安保という愚と時代錯誤。新たに設けた担当大臣の下、技術流出の防止等を主体とする経済安全保障を推進。相手は中国。だが“優れた論文”の国別シェアで中国は1位で世界シェアは24.8%。日本のシェアは2.3%。互いに流出止めたらどちらが-を受けるか。
【撮りおろし初配信・ IWJ_YouTube Live】16:00~「難民不認定翌日に強制送還されたスリランカ人男性が『裁判を受ける権利』侵害を訴え、東京高裁が違憲と判決、確定!『そもそも出入国管理法・制度に問題がある!』~10・6第33回 難民問題に関する議員懇談会 総会」
視聴URL: https://www.youtube.com/user/IWJMovie/featured
八月の白井聡氏ンタビューをアーカイブで再度拝見しよう。
※対コロナ戦争の敗北を否認するばかりの菅政権!繰り返し現れる「無責任の体系」、日本は崩壊する米帝国への従属を続け「敗戦準備」を加速するのか!?~8.25岩上安身によるインタビュー 第1049回 ゲスト 京都精華大学国際文化学部講師 白井聡氏 2021.8.25
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/495539
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