平和と繁栄をもたらす鉄道とパイプライン
Brian Cloughley
2021年9月14日
Strategic Culture Foundation
ワシントンは事実に直面して、攻撃的姿勢を維持するよりも、中国とロシアに協力しなくてはならないことをアメリカは認めるべきだ。
国際商業輸送における、二件のきわだつ進展が、8月、9月に報じられたが、いずれも主流欧米メディアは、さほど報じなかった。一つ目は、新華社通信とスペインEFEが詳しく報じている通り、中国-ヨーロッパ・鉄道路線が著しい成果をあげていることだ、二つ目は、9月6日、Oil Priceのウエブと、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣による公式声明には言及しなかったドイチェ・ヴェレが、ある程度報じた、ロシアとドイツを結ぶノルド・ストリーム2天然ガス・パイプラインが稼働間近だという話題だ。だが例えば、ニューヨークタイムズは、この進展には、ほんの僅かも、ニュース価値があるとは考えておらず、この新聞のウェブサイトを検索してみても、全く無駄だったが、全ての欧米主要メデイアでも、これは同じだ。
この二つの重要な出来事が大半の欧米首都で歓迎されず、それほど徹底的に無視されたのは興味深いが、中国とロシアの共同事業の成功に対する欧米政府とメディアの、うわべの反感の背後にある理由を知るには不安定な国際関係状態の説明が必要になる。
ノルド・ストリーム・プロジェクに対する反対は、広範囲にわたり、攻撃的で、例えば、ポーランドが特に批判的だ。7月、ポーランドの外務次官は、アメリカ国務省のデレク・ショレ参事官と会談し、「このプロジェクトは、以前のエネルギー源を多角化する必要性があるという宣言に反し、EUをロシア・ガスに依存させ、中欧だけでなく、ウクライナだけでもなく、ヨーロッパ全体の安全保障に有害だとポーランドは考える」と発言した。案の定、2014年、ウクライナで、クーデターを大いに支援したビクトリア・ヌーランド国務次官は、それは「悪いパイプライン」だと述べ「モスクワがパイプラインを政治的武器として利用した場合」課すはずの制裁を楽しげに語った。
このパイプラインは、ヨーロッパ中の約2600万家庭に妥当な価格の天然ガスを送るのが主目的なのだから「政治的武器」論は興味深い。つまりパイプラインの狙いは政治ではなく、人々だ。もちろん、ガスをバルト海の海底を1230キロ(764マイル)パイプで送るロシアには、経済利益があり、アメリカが真っ先に断言するだろうが、それは国際貿易の多くの肯定的結果の一つなのだから、取り引きに利益がなければ驚くべきことだ。
だがヨーロッパ市民や他の人々の利益など全くおかまいなしに、異なる見解を持った多くのアメリカ議員がいるのだ。アメリカ政府機関ラジオ・フリー・ヨーロッパは、ロブ・ポートマン上院議員(共和党員-オハイオ選出)が「ノルトストリーム2はロシアを強化し、アメリカの国益を傷つけ、アメリカの重要同盟国ウクライナの安全保障を脅かす」とTwitterで書いたと報じ、他方民主党のマーシー・カプター下院議員は「大西洋両岸の安全保障とウクライナ主権を損ねるどんな合意も議会は拒絶しければならない」と述べた。
ノルド・ストリーム・サクセスストーリーがウクライナに影響を与える唯一の問題は、結果的に、ガスの領土通過を認めることに対して受け取る年間30億ドルを請求できなくなることだ。これは資本主義だ。多くの人々は好きではないかもしれないが、アメリカはそれで働いている、アメリカ議員が自由企業体制の動きに反対する気になれるとは実に奇妙だ。他方LAタイムズは「ヌーランドは、アメリカはパイプラインに反対し続けるが、罰は、より広範囲なアメリカ権益に逆効果なので、パイプラインを建設するドイツ企業と経営幹部に対する制裁を差し控えるとバイデンは言った」と指摘した。だから、対ノルド・ストリーム2キャンペーンは、人々や信条には無関係なのだ。それは、もっぱら反ロシアで「アメリカ権益」が中心なのだ。そこで、欧米が好きではない、もう一つのサクセスストーリーの話になる。
中国の一帯一路構想(BRI)は、外交問題評議会CFRによって「これまで考えられたものの中で最も意欲的なインフラ計画の一つ」とされる世界的プロジェクトだ。習近平主席が2013年に発表した、開発と投資構想の巨大な集合は、東アジアからヨーロッパまで広がり、中国の経済的、政治的影響力を大幅に拡大する。習の構想は、鉄道やエネルギー・パイプラインや道路や合理化された国境検問所の巨大ネットワーク構築だ。」
2021年第2四半期、BRIに沿った貿易のレベルが「進行中のCovid-19流行にもかかわらず増加し続け、中国のエレクトロニクスと家具輸出が在宅勤務傾向から恩恵を得て、2021年前半、BRIに沿った国との貿易が前年比38%増え、中国の全世界貿易合計の29.6%を占めている。BRIに沿った国からの中国輸入は商品価格上昇の中、66.6%増加した」と、コノミスト・インテリジェンス・ユニットは報じている。それは中国やパートナー諸国にとって、実に立派で、肯定的だ。だがアメリカ議員はBRIをそのようには見ない。それは世界、特にアメリカに脅威と見なされている。
2021年のアメリカ上院の戦略的競争法案は「中華人民共和国は、政治、外交、経済、軍事、技術、イデオロギーの力を利用して、アメリカにとって、戦略的に対等に近い、世界的競合相手になろうとしている。これらの分野で中華人民共和国が、益々追求している政策は、アメリカやパートナーや世界の他の国々の価値観や権益に反する。」という攻撃的姿勢は変えず、多少修正した形で、法律になると予想される。」9月9日、バイデン大統領が習主席との電話会話で何を言ったかにかわらず、ワシントンの議員連中による、これ以上明確な宣言はあり得ず、中国に対するアメリカの圧力は減少するまい。
習主席は「中国とアメリカが、相互の関係を適切に処理できるかどうかは、世界の運命にとって、世紀の大問題で、両国は、それに答えなくてはならない」と指摘したが、アメリカや行政府が、よく知られた棍棒外交以外のもので中米関係に対処する兆しはない。
「一帯一路構想(BRI)を開発構想であるかのように見せているが、中華人民共和国は、BRIを自身の安全保障権益を推進すべく、戦力投射能力を拡大し、人民解放軍の海外軍事施設の利用を促進するために利用している」というのがアメリカ議会の意見だ。ワシントンによる国際問題の対処を最低のものにしているのは、この種のゆがんだ発言だ。中国には、たった一つの「海外軍事施設」(アフリカの角のジブチ港施設)しかないのだが、9月10日「アメリカは、世界の少なくとも80カ国で、約750の基地を支配し、アメリカに続く10カ国を合わせたより多くを軍事に使っている」と報じられている。
ワシントンの議員が、このような恥知らずな誇張にふけっている時に、実に多くの国が、アメリカ外国政策を冷静に見るのが困難なのは驚くべきことではない。ロシアと中国が全く合法的な方法で、彼らの経済的影響力を拡張したいと望んでいる重要な国だということを認めなければならないのは、ワシントンで政権を握っている連中にとっても、アメリカの非常に多くの他の人々にとっても、不幸にも不快なことかもしれない。
ロシアがパイプライン敷設に100億ドルも費やし、輸送するガス販売で年間何十億も稼ぐ立場にある時に、モスクワ政府が、どんな風であれ、このパイプラインを「侵略や悪意ある活動」にふけるために使うのは経済的愚行なのを彼らは理解できないように思われる。同様に、BRIのパートナー138カ国に対処する上で、協力せず、責任を負わず、一帯一路の拡大する成功を危険にさらせば、中国は経済的に賢明でなく、戦略上、全く愚かだ。
ワシントンは事実に直面し、アメリカは攻撃的姿勢を維持するのではなく、中国とロシアに協力しなくてはならないことを認めるべきだ。新冷戦は全く非生産的で、全ての国々にとって、交易方法や手段を開発し改善するほうが恩恵であることは認識されるべきだ。アメリカ政権は北京やモスクワと協力すると決定するのは弱さを示すと考えているかもしれないが、それは冷戦を放棄し、協力に注力する常識と先見の明を示すはずだ。
Brian Cloughleyは、イギリス軍とオーストラリア軍の退役軍人、元カシミール国連軍事使節副団長、元在パキスタンのオーストラリア国防担当大使館員
個々の寄稿者の意見は必ずしもStrategic Culture Foundationのものを意味しない。
記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2021/09/14/railways-and-pipelines-bring-peace-and-prosperity/
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『コロナ狂騒録』を今読み終えた。英雄的な人々が、腐敗しきった属国政治を変えてくれるお話。
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