ブリンケン-ロイド二人組のアジア再訪
2021年8月5日
ウラジーミル・テレホフ
New Eastern Outlook
七月末、アンソニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースティン米国防長官は、過去10年間、全てのアメリカ政権が直面していた鍵となる外交政策課題の一つ、この地域でも、世界的規模でも、中国の影響力の絶え間ない拡大を解決するため、アジアに戻った。この地域における外務大臣、防衛大臣揃い踏みは(前任者連中同様)バイデン大統領が言ったアメリカ外交政策に「軍事支援」与えるという原則の具体的兆しかも知れない。
実際、この地域への彼ら最初の共同訪問は、前回は、新大統領就任一カ月半後の四カ月前だった。当時、彼らは、日本と韓国を訪問し、その後分かれた。アンソニー・ブリンケンは中国外務大臣との会談のためアンカレッジに向かった。一方、ロイド・オースティンは、何年間も狙っていた対中国作戦で、二つのアジア大国の、もう一つの国を巻き込むアメリカ最近の試みの一環として、インドを訪問した。
今回の彼らのアジア歴訪でも、インドは目的地の一つだった。今回デリーを説得するのはアンソニー・ブリンケンの番で、他方ロイド・オースティンは、二大国間の地政学的策謀上、常に大きな役割を果たす地域、南東アジアに焦点を合わせ、シンガポール、ベトナムとフィリピンを訪問した。
アンソニー・ブリンケンはデリーで、インドのナレンドラ・モディ首相とアジット・ドバル国家安全保障補佐官に迎えられたが、幅広い問題に関する主な交渉は、アンソニー・ブリンケンとインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣間の会談で行われた。アンソニー・ブリンケンのインド訪問で、一つの重要な点は人権問題で、彼はインドの市民団体代表者との事前会談で論じた。この問題は現アメリカ政権にとって優先事項だが、この話題は、即座に、ジャンムーとカシミール連邦直轄領で起きている問題につながるので、インドにとっては弱点だ。
人権という機微な問題を、事前会談に限定したことは、本協議にそれを持ち出す必要がなかったことを意味した。それは4カ月前のインド訪問でのロイド・オースティンのミスで、非常に重要なパートナーと見ている国で、新アメリカ政権の印象を損なっていた。
アンソニー・ブリンケンとスブラマニヤム・ジャイシャンカル間の話の内容に関しては、評論家は三つの主要分野に焦点を当てた。Covid-19によって起きた問題、アフガニスタンの状況と、アメリカ、インド、日本とオーストラリア間で提案されているパートナーシップであるクアッド・プロジェクトの現状と未来のあり得る進展だ。
これらの問題でも、最初のもは(インドに初めて出現した新たな大いに危険な変異株のため)インドにとっても、世界の他の国々にとっても極めて重要で、五月末、スブラマニヤム・ジャイシャンカルのアメリカ訪問の重要な焦点の一つだった。我々が先に指摘した通り、インド・メディアによれば、インドでのCovid-19の実際の状況は、既に驚くほどの公表数値より何倍も酷いもっと悪いかもしれないのだ。
確かに、、Covid-19の結果を和らげるためにインドを支援することを、アメリカは、おそらく「インドにとっての戦い」の最重要な部分と見ている。
「不必要な」紛争から撤退するワシントンの全般的政策という条件のもとで、アフガニスタンは最大の関心事としての程度は下がり、他方インドは重要性が増大する。二つの国の間に、ほとんど逆の相互関係があるかのように。結局、インドは長い間、中央アジアと南アジアで、政治情勢の主要観察者として、かつてアメリカが占めていた地位の権利主張者として見なされているのだ。
この地域は厄介で、インドはまだ、このような役割を引き受けることの利点と不利な点を比較評価している。例えばスブラマニヤム・ジャイシャンカルはモスクワへの最近の訪問中、そして、その後、タシケントにおける最近の上海協力機構の閣僚級会談でも、これら二つの地域間の関係に関する協議で、この問題を考慮した。
協議終了後、スタッフとジャワハーラル・ネール大学学生に行った演説で、アフガン問題は、アメリカ国務長官とインド外務大臣が触れた主要問題の一つだった。ゲストの両人とも、大学での演説で、クアッド・プロジェクトの主題にも簡単に触れた。2000年代、一種のアジアNATOとして考え出され、今や益々ぼんやりし、元の概念から益々遠くなっているように思われる、提案されているパートナーシップの最近のビデオ・サミットに、スブラマニヤム・ジャイシャンカルは触れた。
アンソニー・ブリンケンの演説の重要なメッセージは「主な外国政策の優先順位の一つ、インドとの提携強化」に対するワシントンの誓約の繰り返しと表現できる。彼はクアッド・プロジェクトと「他の多国間提携」にも言及した。世界の舞台で、アメリカが、自身を、インド・太平洋の国として言及していることを我々は強調したい。
アンソニー・ブリンケンはロシアとインドの最近の武器取り引き問題を提起した。だが彼は(概して驚くほど辛抱強かった)主人役を悩ませないよう、この点をさほど強調しなかった。
三つの東南アジア諸国歴訪中に彼が行った演説で、ロイド・オースティン米国防長官は(明らかに中国と理解される)特定されない競合相手に対し、軍事・政治連合を設立する問題に焦点を当てた。彼の最初の訪問国はシンガポールで、そこで彼は、ロンドンに本拠がある国際戦略研究所(IISS)がシンガポールで行う年中行事の二つのうち一つ(この都市国家のホテル名にちなんで名付けられた)フラトン講義を行った。最初のフラトン講義は当時の国連事務総長潘基文が2012年に行った。
IISSが行う主な年中行事(もう一つのシンガポール・ホテルの名にちなんで名付けられた)シャングリラ・ダイアログが、何年もの中で初めて今年中止されたため、今回のフラトン講義は、いつもより重要な催しだった。シャングリラ・ダイアログは多くの国々(オーストラリアやアメリカ両国を含め)が現職、退職両方の幹部政治家が代表を務める、地域と世界規模の安全保障と関係する問題を議論する有名フォーラムだ。
中止の公式説明はCovid-19世界的流行だった。だが実際は、シャングリラ・ダイアログの組織者が(非常に正しいが)、このダイアログの主要創始者である二大グローバルパワー間における、現在の高い憎悪レベルを考慮して、今年開催すれば、国際関係を更に傷つけると考えたと筆者は推測する。結局、この関係は、現状十分に張り詰めているのだ。
どうやら七月始めに開催されるはずだったシャングリラ・ダイアローグで、ロイド・オースティンがインド・太平洋地域におけるアメリカ戦略について演説することが意図されていたようだ。結果的に、フラトン講義で彼は同じ主題を語った。フラトン・ホテルの聴衆は、講演者に要点のいずれも明確に示すよう要求する特定理由を持たないシンガポール政権の代表で構成されていたのに対し、シャングリラ・ダイアローグのような、注目を集める国際フォーラム参加者は講演内容に、より差し迫った関心を持っているはずだ。
それでも(再び、これは筆者の考えだが)主要グローバルパワーの国防長官が語る、明らかに高位のスピーチライターが準備した講義の内容は、かなり正式なものと見なさなくてはならない。それには、今日我々が既に言及したアメリカと中国間の政治的、経済的、軍事的対立のような、地球規模の国際政治における重要問題に悪影響を与える、どんな新しい構想を含んでいるとは誰も予想するまい。講義の全般的メッセージは、彼の就任式二週間後、アメリカ大統領としての国務省と国防省での演説で、ジョー・バイデンが行った主要声明と一貫している。
ロイド・オースティンがベトナムとフィリピンで言い行動した全てが、我々が既に述べた通り、彼がシンガポールで行った明らかに事前に計画された演説に見いだせる。
上記の国際地球規模での政治における重要な問題については、アメリカ大臣二人のアジア訪問は、中国との対話のためにドアを開いておく効果があるかもしれない。アメリカ政界支配層の多くの人物が、和睦への道に、あらゆる政治的がらくたで、バリケードを築くため最善を尽くしているとは言え。
それは、現在、二つの主導的な世界強国間の関係の更なる進展に関してどんな論証的予想もするのを難しくする要因の一つに過ぎない。我々ができる全ては、事態が進展する中、出来事から目を離さないことだ。
ウラジーミル・テレホフは、アジア太平洋地域問題専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2021/08/05/blinken-lloyd-duo-returns-to-asia/
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フィリピンより遥かに前のめりな属国がある。
岩波書店の月刊誌「世界」9月号は【特集2】最前線列島――日米安保70年
メディア批評【第165回】で、横田一氏のバッハへの批判発言を揶揄する御用記者批判や、北海道新聞の新人記者を守らない姿勢への叱責を拝読して納得。
三年前に翻訳したアンドレ・ヴルチェク氏による記事を突然思い出した。三年前の8月に掲載したもの。
彼は既に説明書きやガイド説明が、中国人や朝鮮人強制労働の話題を意図的に避けている問題点を指摘していた。今世界遺産委で、こうした対応は「遺憾」だと採択されている。
例えば、朝日新聞記事には、こういう記事がある。
朝鮮半島出身者らが強いられた労働についての説明が不十分なままだと判断したためで、登録時の約束を果たすよう日本に強く迫った格好だ。
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