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2020年8月20日 (木)

レバノン:新シルクロード上の真珠か、暗黒時代の混乱地域か

マシュー・エレット
2020年8月16日
Strategic Culture Foundation


 8月4日午後にベイルートで起きた衝撃的爆発についての、様々な、あり得る原因の仮説を主張する解説者の合唱に多くの意見が素早く加わり、無政府状態と、8月11日の驚くべき政府辞任をもたらした。

 (ゆっくりと雑音に変わりつつある)増大する様々な仮説に、さほど斬新な貢献はできないが、グレート・ゲームにおけるレバノンの役割について余りに見過ごされている側面に関する洞察を共有したい。先に進む前に、いくつか確実なことを心に留めておくのは役に立つ。

1) 6年間、ベイルート港に置かれていた2700トンの硝酸アンモニウム爆発を、トルコの花火が引き起こした偶然の事故だという公式説明は全く信じ難い。

2) ここ数週間、アラブ、アフリカ世界で起きている爆発や放火の異常に大きなパターンからして、この事件は、どんな形にせよ孤立したものとは考え難い。

3) この混乱のパターンはそれ自体、二つの体制間の衝突という文脈で見なければならない。片や崩壊しつつあるNATO一極連合、片や新シルクロードに率いられる多極連合。

因果関係の問題

 中東は、ズビグネフ・ブレジンスキーやヘンリー・キッシンジャーやバーナード・ルイスなど、ハルフォード・マッキンダーのホッブズ風世界観を信奉する連中に、世界島の「地政学的要点」というレッテルを貼られている。今日この地域を安定させたり、不安定化させたりする誰であれ「世界島」(アフリカ、ヨーロッパとユーラシア)の梃子を支配でき、マッキンダーがかつて言った通り「世界島を支配するものが世界を支配する」。

 レバノンの場合、この地域が「新シルクロードの真珠」として、地球上のあらゆる主要文明社会の交差点として演じる役割が、これまで数年間、ワシントンやロンドンやイスラエルの世界政策構想を形成してきた。レバノンで進行中の破壊的事件は、イラクやイランやシリアや他のアラブ世界における一帯一路の驚異的普及と切り離せない。

偶然の一致を越える

 レバノン大惨事に近い時期には、6月26日、ホジール・ミサイル製造コンプレックスでの爆発から始まり、6月30日、医療クリニックでの爆発で19人が死亡し、7月2日のナタンズ核施設での爆発が、イランの遠心分離機生産計画を数カ月遅らせ、7月15日のブッシェル・アルミニウム工場での火事で、イランは自身が邪悪な連続攻撃の目標であることに気がついた。更に、8月5日、UAEは(Covid-19のため、運良く無人だった)ドバイで最も重要な市場の一つを破壊した異常な火事を経験した。

 これら異常事態を個々に見れば、「偶然」が原因ということになるだろう。だが、これらをひとまとめにして見て、現在、革命的な一帯一路構想で結ばれたイランと中国とロシア間でまとまりつつある協定を考えれば、これら一見孤立した混乱状況に、より深い因果関係に、はっきりと思い至るはずだ。

 イランと新シルクロード

 交渉の最終段階にある待望の4000億ドルの中国-イラン経済・安全保障条約は、インフラ協定の中に、重要な石油だけでなく、先進的な鉄道や新エネルギー・グリッドをイランに延長することまで含んでいる。このプログラムは、中東での「ゲームの規則」を何世代にもわたり劇的に変える重要な軍事/安全保障条約を含んでいる。この条約の要素には、防衛や諜報情報共有インフラだけでなく、貿易に対する欧米支配を迂回する中国の新デジタル通貨e-人民元も強化する。

 一方、ロシアによる、ロウハニ大統領とプーチン大統領が2001年に最初に署名した安全保障/経済連携協定の20年延長発表は、今後数カ月で最終的にまとまるのは確実だ。イランも有名なロシアのS400システム入手への関心を明らかにしたが、トルコから韓国まで、ユーラシア全域に迅速に広まっているこのシステムが、アメリカのF-35や高高度防衛ミサイル・システムを無力で時代遅れにするのを、あらゆる地政学者は理解している。

 中国、ロシア、イランの三角形が確立すれば、アメリカの制裁政策が崩壊するだけでなく、新シルクロードに沿って、中国から東(更にアフリカ)へ、輸送や先進的開発回廊を一層推進する中東開発の重要プラットホームが確立することになる。2018年11月から、イラン-イラク-シリア鉄道が、イランに資金供給された中東再建の一環として、地中海のハブとして究極的にシリアのラタキア港に接続し、32キロのシャラムチェ - バスラ鉄道は開発段階が進んでおり、イラン道路都市開発大臣アバス・アーマドはこう述べている

 「イラン鉄道は中央アジア、中国、ロシアの鉄道と接続され、32キロのシャラムチェ -バスラ鉄道が建設されれば、イラクは商品や乗客をロシアと中国に輸送でき、逆も同様だ。」

 32キロの鉄道は第一段階で、第二段階は、シリアの港に向かう1545キロの鉄道と道路が予定されている。

 イラクが新しい「石油のためのインフラ」プログラムの下、BRIに参加する覚書に2019年9月に署名したので、広範な新シルクロードに対するイラン-イラク-シリアの参加は、特に非常に重要だ。この計画には、ハード・インフラ(鉄道、道路、エネルギーや水プロジェクト)や、ソフト・インフラ(病院、学校や文化センター)などの多面的なプログラムの下で、戦争で荒廃した地域を再建するための中国の関与も含んでいる。

 中国が、シリアで本物の再建計画をおこなう意図も明らかにしているのも良く知られており、最初に2004年に発表され(アラブの春で破壊され)延び延びになっているバッシャール・アル・アサド大統領の四つの海戦略が、とうとう復活するのだ。アサド大統領は、2010年までに、お互いの利益になる協力と地域近代化の原動力として、鉄道とインフラ回廊経由で、四つの主要水系全て(地中海、カスピ海、黒海とペルシャ湾)を結ぶ計画に、七カ国を味方に引き入れ、建設に署名させていた。2009年、アサドは、このプロジェクトについて「我々が、これら四つの海を結べば、投資や輸送や他の多くで、我々は全世界で必至の交差点になる。」と語っていた。

 この重要なプロジェクトのビデオは、ここで見られる。

 レバノン:新シルクロードの真珠

 レバノンはシリアと主要国境を接し、150万人のシリア難民と、地中海への重要な港を擁しており、東西開発の中枢なので、この待望のプロセスへのレバノン参加は全員に明らかなはずだ。この新興発展地域を、近年、一帯一路が変化と希望の牽引役をしているアフリカと結ぶレバノンは、戦略上重要な中枢の一つであることに気づいている。

 レバノンのトリポリ港を、ヨルダン、更に、エジプトを結ぶ鉄道の構想は、新たな積極的な場を生み出し、中東とアフリカの規則を、永久に劇的に変化させるはずだ。

 2020年6月17日、中国大使館は、ベイルートを通って、北の沿岸都市トリポリと南のナコウラと接続する近代的鉄道を目玉にして、一帯一路プロジェクトをレバノンまで延長する提案を公表した。中国のNational Machinery IMP/EXP Corporationも、700メガワットの発電所三件の建設と、新しい全国送電網と、港近代化を提案している。大使館のプレスリリースにはこうある。「中国は、一帯一路を構築する共同事業の枠組みで、平等互恵の原則で、レバノンとの実務的協力を積極的に行う準備ができている。中国はその企業の役割、市場の主導的役割、政府や商業活動の触媒役割を通し、他の国々との協力に尽力する。中国企業は、レバノンにおけるインフラや他分野での協力の機会に関心を持っている。

 これらの提案に、何年も一帯一路構想へのレバノン参加の積極的な提唱者、ハッサン・ナスラッラー(レバノンのヒズボラ指導者で連立政権パートナー)が拍手喝采した。ナスラッラーは、構造調整と条件だらけの投資が、何の見返りも無しに、この小国に、GDPの170%以上に爆発した負債をもたらしたIMFからレバノンを解放することも主張している。

 中国が、この提案を公式に表明した同じ日、ワシントンが、シリアとの取り引きを望む全員を罰するCaesar Syria Civilian Protection Actを制定したことは注目すべきだ自身たださらにシリアの経済復興要求を押しつぶしたのみならず、その国境を通して、シリア商品の90%を地中海に送っているレバノンを直接の標的にしている。

 2019年3月、中国代表団が、最初に、ベイルートからダマスカスまでのアラブ・ハイウェーと中国への鉄道というレバノンへの一帯一路拡張構想を発表した際、欧米の手下、サード・アルハリリは、その代わりに100億ドルのIMF計画に署名するのを好んで、拒否した。一年以上後、一片のインフラも構築されなかった。ナスラッラーや、2019年3月の記者会見で「レバノンとレバノン国民は選択に直面している。独立した、誇り高い国として、勇敢に前進するか、イランとヒズボラの暗い野心が、あなた方の未来を規定するのを可能にするか。」述べたように、アーウン大統領さえ、切望していたのに、ポンペオ国務長官はレバノンが「東へ向かう」のを阻止する上で主要な役割を果たした、

 ヒズボラと、特にレバノンのナスラッラーの影響力を排除しようとするポンペオの強迫観念は、ヒズボラの存在や、イランによる中国の一帯一路構想の受け入れに対するイスラエルが主張する脅迫と、さほど関係していない。

 2020年6月に、中国提案が更新された際、6月23日、ポンペオの部下、デイビッド・シェンカー(近東問題担当国務次官補)は、ヒズボラは「改革を求める組織ではなく、むしろ、汚職で暮らす連中だ」とインタビューで述べた。シェンカーはレバノンに「中国のわな」に落ちるなと警告し、ナスラッラーの、レバノンに「ルック・イースト」するようにと言う要求は「衝撃的だ」と述べた。

 (実際は、中国の一帯一路構想に、自分たちの汚い習慣を投影している欧米帝国主義者の宣伝に過ぎない)「中国負債のわな」説には延々反論せずとも、100%神話だと言うだけで十分だ。アメリカの投資額と同等の、中国のアフリカ投資の概要が、違いは質の問題で、中国は、もっぱら、アフリカを、安い資源と安価な労働力の略奪現場として利用することだけを望んでいる、全ての帝国主義者が禁止している、実際の建設や製造や、アフリカの銀行業務にもっぱら投資しているのだ。

 この問題と、レバノンに対する希望を、より概括的に、 BRIX スウェーデンのフセイン・アスカリが、こう語っている

 「レバノンのような、小さいながら、完全に主権を持ち、独立した国が、中国が提案している双方が恩恵を受けるモデルに従って、進歩と国家主権と、国際協力の道を追求すると決めることで、グローバル帝国のに打ち勝つことができるのが明白になっている。これは西に向かう全ての橋を絶つことを意味しない。レバノンと国民にとって本当の利益になるものは維持する必要がある。アメリカやヨーロッパが、彼らの政策を変え、中国がレバノンに電力や輸送や水や農工業の投資提供するのに加わりたいと望むなら、レバノン国民も指導部も、両手を広げて、彼らを受け入れるだろう」。


 最近、著者はこの話題でインタビューしたmatt.ehret@tutamail.comで連絡できる

マシュー・J.L.エレットはジャーナリスト、講師、カナダのパトリオット・レビュー創設者。

 個々の寄稿者の意見は必ずしもStrategic Culture Foundationのものを意味しない。

記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2020/08/16/lebanon-pearl-on-new-silk-road-or-zone-dark-age-chaos/

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 無症状の人がコロナウイルスを拡散しているのだから、PCR検査を拡大する以外、蔓延を抑える手だては他にないという事実は世界的に常識だろう。厚生労働破壊省の権益や、ガラパゴス御用学者連中を抱えるポンコツ政府、正面からの議論を逃げて、大本営広報部雑誌を利用する卑劣なウソ攻勢しかできない。

 LITERA

岡田晴恵バッシングが止まらない!「新潮」が医療逼迫への警鐘を「予言外れた」と的外れ批判 大ハズレは“K値”丸乗りの「新潮」のほう

 最近知ったラジオ番組、「西谷文和 路上のラジオ」一月ほど前の下記二件、きわめて時宜を得ているように思う。原発御用学者とコロナ御用学者の類似性。そもそも学者を信じるなと。

Vol.29 コロナ禍と原発 ~この国の悪しき体質から抜け出し、持続可能な社会を目指すには?~
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