ビクトリア・ヌーランドの警告 外国干渉主義者は本当にロシアが嫌い
フィリップ・ジラルディ
2020年6月23日
Unzレビュー
ドナルド・トランプについて語るべき良い点を見つけるのは困難だが、現実には、ベネズエラとイランの場合、かなりきわどかったし、今後四カ月間は「強い大統領」のあかしを強化し、コロナウイルスや「黒人の命は大切だ」から目を逸らせるのに役立つ何かを始めるかなりの誘因があるだろうが、彼は新しい戦争を始めていないのだ。
それはともあれ、トランプは三人の前任者、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマが作った実績に追いつくためには、相当頑張らなければなるまい。ブッシュは根っからのネオコンで、ドナルド・ラムズフェルド、リチャード・パール、マイケル・レディーン、リュエル・ゲレクト、ポール・ウォルフォウィッツ、ダグ・フェイト、エリオット・エイブラムス、ダン・シナーやスクーター・リビーを含む彼らが少なくとも簡単に操れた。彼は不幸にして、実際は自分こそ責任者だと思っていたディック・チェイニー副大統領に耐えなければならなかった。彼ら全員、20年後もアメリカが軍隊を配備しているアフガニスタンやイラクのように、他の国々の侵略を含め、アメリカの安全保障を強化するために必要と考えるあらゆることをする権利があると信じるタカ派だった。
クリントンとオバマは、いわゆるリベラル干渉主義者で、一層受けようして、他の国々に民主主義と呼ばれるものを輸出しようと努めた。マスコミが何らかの方法でモニカ・ルインスキーと彼の関係のうわさを耳にすると、目をそらすため、クリントンはアフガニスタンとスーダンに爆弾を投下し、オバマはクリントン夫人に支援されてリビアを破壊することに決めた。オバマは、無人飛行機で殺害することで、利益を受けるだろうアメリカ国民のリストを再検討するため毎週火曜朝の会議を設定した最初の大統領でもあった。
だから、ネオコンとリベラル干渉主義者の違いは、実体より、むしろスタイルだ。どの尺度でも、全般的に見れば、トランプはかなりましに見えるが、それでも、彼の政権には、ネオコン思考の復活があった。アメリカは例外的な国という精神構造は、現在、アメリカは、他の国々と対処する際、もっぱら自身の規則で行動してよいと神から権限を与えられているという信念の権化、マイク・ポンペオ国務長官が最高の実例だ。それは主導的ネオコン、マイケル・レディーンのものだとされる「アメリカは、10年に一度ぐらい、どこか小さい、でたらめな国を拾い上げ、それを壁にたたきつけて、我々が本気だと世界に示す必要がある」という助言に従うことを含むだろう。
ネオコン/ リベラル干渉主義の世界で一番の家族の一つは、ケイガン家のロバートとフレデリックだ。フレデリックはネオコンのアメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員で、妻のキンバリーは、奇怪な名称のInstitute for the Study of War(軍事問題研究所)の所長だ。ロバートの妻ビクトリア・ヌーランドは、ブルッキングス協会参与で、オルブライト・ストーンブリッジ・グループの非常勤上級研究員だ。それは、ビクトリアも、ブルッキングスにいる夫同様、リベラル干渉主義者であるとことを意味している。彼女はヒラリー・クリントンの愛弟子と見なされており、制裁で500,000人のイラクの子供を殺すことは「価値があった」と発言したマドレーン・オルブライト元国務長官と現在働いている。ヌーランドはディック・チェイニーが集めたスタッフの一員だったことで、ネオコンとは相当の関係がある。
ヌーランドは、2013年-2014年、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領政府を不安定化する企みの背後の原動力だったのを多くの人々が覚えているだろう。ヤヌコーヴィチは、確かに腐敗した独裁者だったが、自由選挙で、首相になっていた。国務省でヨーロッパとユーラシア担当国務次官補だったヌーランドは、抗議行動参加者を励ますため、広場でクッキーを配るマスコミ好みの演技をして、ヤヌコーヴィチ政府に反対するマイダン広場のデモ参加者を、あからさまに支援した。
ワシントンとキエフが表向きは友好関係を持っていた事実にもかかわらず、ヌーランドは、反政府派を露骨に支援して、ウクライナに公然と政権交代を求めていた。いかなるアメリカ政権であれ、特にもし、50億ドルもの予算で支援されているような、外国によるアメリカ内政干渉の、似たような企みを容認すると想像するのは困難だが、ワシントンは長い間、自身の行動を評価する上で、世界的な二重基準を信じてきたのだ。
ヌーランドは、彼女と全米民主主義基金がウクライナで醸成するのを支援していた不安に対処する上で、ヨーロッパのあり得る役割に言及した際の、彼女の汚い言葉で悪名高い。ヌーランドにとって、キエフでの政府転覆は、ウクライナにおけるロシアの権益、特にクリミアでの権益を守ろうとするロシアの取り組みを巡って、本当の敵、モスクワとの断固たる決別と、エスカレートする対立の前兆に過ぎなかった。
紛争を拡大し、直接ロシアと対決するという、当時のヌーランドのより広範な狙いは明らかだ。上院証言で、彼女は政権が、どのように「モルドバとジョージアのような他の前線諸国を支援して」いたかを述べた。「前線」という言葉の使い方は示唆に富む。
ビクトリア・ヌーランドは火遊びをしていたのだ。アメリカを破壊する軍事力を持っている唯一の国、ロシアは、サダム・フセインのイラクや、タリバーンのアフガニスタンのような取るに足りない国ではない。恫喝と制裁を使って、モスクワを逃げ場のない窮地に追いやるのは、良い政策ではない。対テロ活動の取り組みを含めて、ワシントンには、モスクワと安定した関係を維持すべき多くの素晴らしい理由があり、反対方向に動いても、ほとんど利益はない。ロシアはワルシャワ条約を再編成しようとしておらず、ウクライナを武装させたり、北大西洋条約機構(NATO)に加入したりして、冷戦体制に戻る、やむにやまれぬ理由などない。
ビクトリア・ヌーランドは、フォーリン・アフェアーズ誌の7月/8月号に、ロシアの「脅迫」と彼女が考えるものに対処する上で、アメリカにとって適切な方法について、長編記事を書いたところだ。それは「How a Confident America Should Deal With Russia.(自信があるアメリカは、いかにロシアに対処すべきか)」という題だ。フォーリン・アフェアーズ誌は、ネオコンとリベラル干渉主義者双方にとって快適な居場所を提供する、外交問題評議会(CFR)が発行する支配体制の機関紙だ。
アメリカと同盟諸国が、ロシアが、軍縮協定や、国際法、近隣諸国の主権や、アメリカとヨーロッパで選挙完全性に違反するのを許して、プーチンに「悪い手で、うまくプレーすることを可能にさせ」、ウラジーミル・プーチンに対し、アメリカが自分で「ゲームを変える能力」の自信を失い、同盟諸国が冷戦を勝ち取った政治的手腕を忘れ、その後、何年も結果に甘んじ続けたというのがヌーランドの意見だ。この戦略には、大統領レベルでの一貫したアメリカ指導部、民主的な同盟諸国やパートナーとの団結、クレムリンによる危険な行動を阻止し反撃するという決意の共有が必要だ。それには、モスクワに協力させる誘因や、時には、魅力をより良い関係の恩恵について、ロシア国民に対する直接の呼びかけも含まれる。ところが、リベラル世界に対するロシアの脅威が増大する中、この手法は使われなくなった。」
ロシアは「リベラル世界」を脅かす、ならず者国家だという彼女の認識を共有すれば、ヌーランドが書いているものは完全に意味をなすだろう。NATOやアメリカの支出に比べれば小さく見えるのだが、プーチン下のロシア再軍備を彼女は脅威と見ている。近隣諸国の安全保障体制を拒否していることから、彼女はプーチンが東ヨーロッパで「ロシア勢力圏を再確立しようとしている可能性があるという恐れを抱いている。ここで、特にNATO拡大という話題に関し、自由民主主義と、ロシアを指揮している依然非常にソ連的な人物との間に深い亀裂が直ぐさま広がった。NATOは純粋に防衛連合で、ロシアに対する脅威にはならいと、ワシントンと同盟諸国が、どれほど懸命にモスクワを説得しようとしても、ヨーロッパをゼロ・サムという観点で見るのがプーチンの狙いには役立つのだ」。
NATO拡大というヌーランドの考えは、実に見当違いで、むしろ空想に近い。もちろん、アメリカ政権は拡大しないと保証していたのだから、ロシアは目の前の軍事同盟を脅威と考えるはずだ。NATO拡大に対するプーチンの大きな恐怖は、ロシアを取り巻く益々繁栄する民主主義諸国の帯は、彼の指導者モデルに対する挑戦で、ロシア国民に民主主義への熱望を再感染させるリスクだと考えているからだと彼女は全くのたわごとを言っている。
ヌーランドは似たようなことを延々語っているが、中心主題は、彼女が明かに憎悪し漫画の悪人のように描写している人物ウラジーミル・プーチンを阻止するため、ロシアに対決しなくてはならないということだ。彼女の分析の中には、こういうばかばかしいものがある。「ロシア軍はシリア油田の利用と密輸経路を得るため、シリアに残った少数の米軍を定期的に試している。もしこれらアメリカ軍が去れば、モスクワとテヘランは、シリア石油や密輸薬物や兵器で彼らの作戦資金調達をするのを阻止するものがなくなる。」
大半の狂信者と同様、ヌーランドは自己批判の感覚が全く欠如している。ロシアに余りにも友好的だと見なされるので、合法的に選ばれたウクライナ政府を打倒しようと彼女は企んだのだ。彼女はクリミアを「占拠した」と言ってクレムリンを非難するが、アフガニスタンやイラクでの米軍の大きな存在や、イスラエルやサウジアラビアの戦争犯罪を地域で幇助しているのを見落としてている。彼女が拡張主義と考えているロシアには海外軍事基地がたった一つしかなく、アメリカは、1000千以上の基地を保有しているのを彼女は知っているのだろうかと疑問に思う。
アメリカの思い通りにならない国々、永続の敵ロシアに加えて、中国や、最近では、イランやベネズエラに対するホワイトハウスの恫喝に、ヌーランドは明らかに気付かないことに決めている。これらの国のどれも、アメリカを脅やかしてはおらず、あらゆる活動や警告はクレムリンやテヘランやカラカスや北京の「非民主的」指導者からでなく、ワシントンで語るマイク・ポンペオという名の紳士から間もなく発せられようとしている。
ビクトリア・ヌーランドは「2021年のアメリカにとっての課題は、強みをもとに作り上げ、ロシア国民を含めて、プーチンの弱点に圧力を加え、ロシアに対し、より効果的な方法を作りあげる上で世界の民主主義を率いる」ことだと勧めている。興味深いことに、これは、2016年にロシアに対して行われた、インチキな主張を思い出させる、外国政府の営みに対する干渉と見なされる可能性がある。それは、まさに、ヌーランドがウクライナで実際にしたことだ。
ヌーランドは論文で、大いに語っており、ワシントンにおける干渉主義の現在の状態に興味がある人々は彼女を無視するべきではない。何らかのイデオロギーの敵として、ロシアと対決するのは、双方をより貧しくし自由度を減らす、決して終わらない過程だ。モスクワが、国境で起きることに関心を持ち、8000キロ離れた、巨大な経済と軍隊の両方を持つアメリカが多少くつろいで、自薦世界の警官の重荷を下ろすのが適切だろう。
Ph.D.のフィリップ・M・ジラルディは、中東での、より権益にかなうアメリカ外交政策を検討する501(c)3の課税控除対象教育財団Council for the National Interest(連邦ID番号#52-1739023)事務局長。ウェブサイトはhttps://councilforthenationalinterest.orgで、アドレスはP.O. Box 2157, Purcellville VA 20134、電子メールはinform@cnionline.org。
記事原文のurl:https://www.unz.com/pgiraldi/victoria-nuland-alert/
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