サウジアラビア、その不確実な未来
2020年5月27日
ビクトル・ミーヒン
New Eastern Outlook
未曾有の規模のコロナウイルス流行、リヤドの無能な政策による石油価格の突然の下落、迫りくる経済危機は、サウジアラビア経済に巨大な損失をもたらし、国家予算に深刻な打撃を与えた。この進展で、他の国々も、サウジアラビア王国の現在の支配者による効果的支配のみならず、かつて世界で最も豊かな国の状況を何とか維持する能力への信頼も喪失した。
父親の病気のために支配権力を完全に引き継いだムハンマド・ビン・サルマーン・アル・サウド皇太子が、この国を行き詰まらせていることを、様々な証拠が示唆している。唯一の解決策は、王国の崩壊と、いくつかの新国家の建国かもしれない。
これまで世界の多くの国々に石油(黒い黄金)を供給してきたサウジアラビアは、もはやアラーからのこの贈り物で何をすべきかわかっていない。現在、既に生産された石油の貯蔵場所が不足して巨大な問題になっている。最近、ゴールドマン・サックス・グループは、五月の末までに、タンカーを含め既存の全ての貯蔵場所が完全に満杯になると予測した。韓国、シンガポールとインドは、もはや超過の石油のための余裕がない。アメリカの状況も同様だ。全ての石油ターミナルは完全に満杯だ。世界中のマスコミが、海を漂流する多数のサウジアラビア・タンカーの写真を掲載している。そしてこれらの船のオペレーターは、その貨物を降ろすためどこに行くべきか知らないのだ。結局、タンカーは原油を水に放出できないのだ。現在、このようなタンカーの貨物になっている石油の総量は過去二カ月で、倍になり、1億6000万バレルを超える。その大半が、これから売られるべきサウジアラビア石油なのだ。
当然、こうしたことの全てが、タンカー・チャーター経費の突然の上昇を招いた。彼らがサウジアラビア((彼らの顧客)が貯蔵のためにそれらを使うことを悟るやいなや、Teekayタンカーや、フロントラインのような船主は貨物運賃を引き上げた。これは現在、大西洋や太平洋を横切って海路で石油輸送するのは経済的にひきあわないことを意味する。例えば、2020年3月、浮体貯蔵に対する大型石油タンカー(VLCC)定期用船契約は一日約18,000ドルだった。コンサルティング会社リスタッド・エネルギーのデータによれば、最近、容量200万バレルの中サイズのスーパータンカーのレートは300,0000ドルだ。言い換えれば、VLCCでサウジアラビア石油を一カ月間保管するのに4.5ドルの費用がかかり、パイプライン経由で輸送されるロシア原油と比較して競争力が弱くなる。
現在、サウジ・アラムコは、商品の買い手、あるいは貯蔵場所がないため、極めて困難な立場にあり、生産を減産するのにも費用がかかる。もし他のどのような選択肢も利用可能でなければ、余った燃料は燃やすしかなるまい。見たところでは、一部のサウジアラビアの指導者がそうする意図を表明した。結局、ムハンマド・ビン・サルマーン・アル・サウドが世界で最も金持ちだった王国の無能な指導者だということが分かったため、彼らは自身の困難な状況を解決するのに必死だ。問題は井戸が封鎖された場合、再びそれを稼働させるのが非常に難しいことだ。この過程には大変な努力と金が必要だが、リヤドは現在利用可能な資金がない。例えば、うまく平均的な油井を封鎖するには、一単位の経費がかかるが、それを再開するには、三倍経費がかかるのだ。
世界的マスコミは、サウジアラビアへのメッカ巡礼、ハッジのキャンセル可能性を、経済的損失と、国際的舞台での、サウジアラビアのイメージに対する打撃になるとしている。三月、サウジアラビアは、コロナウイルス流行のために(時に「より小さい巡礼」と呼ばれる)ウムラを中止した。(今年7月29日に始まるはずの)メッカ巡礼、ハッジが中止される可能性が日々益々ありそうになっている。最新報道によれば、全国封鎖措置は四月に緩和され始めたが、メッカの24時間外出禁止はまだ有効だ。サウジアラビア王の公式職位が、メッカとメディナの二つの神聖なモスクの守護者(あるいは、二つの高貴な聖域のしもべ、あるいは、二つの神聖な都市の守護者)でもあるのを想起することは重要だ。それ故、彼はイスラム世界の目から見て、それに相応しく生きる必要があるのだ。実際、以前、この称号は、サウド家による征服まで、10世紀以来、長くメッカを支配していたハーシム家のものだった。それ故、ヨルダン王、アブドゥッラー2世・ビン・アル=フセインはハシミテ王朝のメンバーとして、この称号に対して、遥かに強い権利を持っている。そして、既に、多くのマスコミが「王とサウジアラビア自身は、二つの神聖な都市の守護者の称号に相応しく行動しているか?」という質問をし始めている。
メッカ巡礼、ハッジは、神に命じられた宗教的義務と見なされるので、全てのイスラム教徒に共通のイスラム組織は、巡礼で得られるあらゆる利益に責任を持つべきなのだ。シャリアによれば、この責任はイスラム国家にある。このカリフの府は、支出と所得を含め、ハッジに関係する全ての財政を管理し、巡礼の利益をどのプロジェクトに割り当てるべきか決めなければならない。現在のところ、人々の小集団、すなわちサウド家(何よりまず第一に王と彼の親族)と、巡礼で王家に協力する企業の従業員が、メッカ巡礼のハッジとウムラから収入の全てを受け取っている。エジプトの新聞アル・アハラムは、利益は人々の少数に入り、結局、イスラムの諸団体や普通のイスラム教徒が恩恵を得ない外国プロジェクトに、この金が投資されていると述べた。
国際通貨基金(IMF)によれば、今年、サウジアラビアに起きた、これらすべての不幸は、少なくとも3%の財政赤字をもたらす。過去、王国は財政黒字を享受してきた。皇太子の思慮不足な改革は、何よりまず第一に、特別金持ちではないサウジアラビア国民に影響を与えるだろう。王国は付加価値税を(5%から15%まで)三倍に引き上げ、毎月の生活費手当を(約250EURになる)停止した。サウジアラビアの指導体制は、このような金融政策措置で約1000億リヤル(246.1億ユーロ)を節約しようと望んでいる。国家予算の約50%がサウジアラビアのかなり非生産的な公務員の給料に使われている。だが彼らの所得(国家予算を均衡させるためには、バレル当たり80ドルの石油価格が必要とされる)削減については話がなかった。報告された決算によれば、2020年第一四半期、サウジアラビアの財政赤字は90億ドルに達した。王国の緊縮措置は、サウジアラビア・ビジョン2030の13の計画用資金を削減する決定を含んでいる。サウジアラビアの外貨準備高は2014年からほとんど三分の一に減少した。3月、外貨準備高は、ほぼ270億ドル「過去20年で、一ヶ月最大の下落」で減少した。
世界で最も裕福な国の一つだったサウジアラビアは、金を借りる手段に出た。王国のムハンマド・アル= ジャドアーン財務相が、リヤドは国の莫大な赤字予算をカバーするため600億ドル借りなければならないかもしれないと述べた。アル・アラビーヤTVのニュース・チャンネルで、サウジアラビアは「コロナウイルス流行の経済的影響と石油価格の暴落に対処するため強い痛みを伴う措置をとらなければならないかもしれない」と大臣は説明した。ムハンマド・アル= ジャドアーン財務相の声明後、サウジ・アラムコ株は6.8%下落した。サウジアラビア企業のジャドワ・インベストメントは、王国の赤字予算が今年1120億ドルになると推定した。2019年4月、IMFはサウジアラビア経済が2.3%減少すると予測した。一方ロンドンに本拠がある研究コンサルタント企業キャピタル・エコノミックスは王国経済が「石油販売に対する依存の結果として」少なくとも5%縮小すると述べた。
付加価値税を増やし、公務員が享受する多数の恩恵を、しばらく見合わせるという指導部の未曾有の決定は、明らかにサウジアラビアが最近重大な財政問題を経験していることを示している。金融危機は、経済の多角化と、王国が中東における主導的役割を引き受けるという皇太子の意欲的計画に対して高くつくことになるかもしれない。サウジアラビアの近隣諸国は、王国が現在遭遇している困難な状況につけこむのに敏速だった。内部の権力と影響力の闘争も激化するかもしれず、サウジアラビアの事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマーン・アル・サウドが取る路線に不満な人々が増えるかもしれない。
7月1日に始まる、5から15%まで付加価値税を上げるという決定に触れて、サウジアラビアのムハンマド・アル= ジャドアーン財務相は、コロナウイルス流行から生じる前例がない危機の影響を緩和し、国家財政と経済の安定性を保証するため苦痛を伴うが必要な処置をとることを王国はいとわないと述べた。加えて、サウジアラビアの人材・社会発展省は、民間企業が「契約終了させる可能性を持たせて給料を最高40パーセント削減する」のを許すことに決めた。公務員のための毎月270ドルの生活手当も停止されている。
Covid-19流行と戦うべく、実施がまずく、良く調整されていない措置が、出稼ぎ労働者や、サウジアラビア国民やサウド王家メンバー間にさえコロナウイルス蔓延をもたらした。イラン・ニュースによれば、支配王家の約150人の家族が、これまでに、コロナウイルスに感染したと考えられている。サウジアラビア病院事業者と王室に近い情報源からの情報を引用して、ニューヨーク・タイムズが、サウジアラビア王子でリヤド知事、70歳以上のファイサル・ビン・バンダー・アル・サウドがコロナウイルスで集中治療中だと報じた。記事は、流行の中、84歳のサルマーン国王が「ジッダ市に近い島の宮殿に安全のため引きこもって」おり、他方、皇太子は「紅海海岸の上のへき地」にこもっていると報じた。一カ月以上前、サウジアラビア医療当局が、国民に「流行が始まったばかりだ」と警告した。公式のサウジアラビア通信社によれば、数週間前、タウフィーク・アル・ラビア保健相が、感染者数は「最小10,000人から最大200,000人までの幅」だと述べた。
このような不人気な措置と、最も重要なことに、皇太子の成功と程遠い政策が、文字通り「全ての活動領域で」支配家族の中で断絶をもたらしたのは非常に明白だ。この分裂は、OPEC合意が崩壊し、石油価格が急落した直後、ムハンマド・ビン・サルマーン・アル・サウド皇太子の命令で王室メンバーが逮捕された三月の始めに丸見えになった。欧米マスコミが、アフメド・ビン・アブドルアジズ王子(84歳の王の弟)、前皇太子ムハンマド・ビン・ナーイフ(王の甥)やナワフ・ビン・ ナーイフ王子を含む、最も影響力を持ったサウド家メンバーが拘留されたと報じた。だがサウジアラビア国内の不満の話になると、これは氷山の一角に過ぎない。
この文脈から、現在の経済危機が政治的なものに変わっても驚くべきことではない。現代の革命理論によれば、金融危機は、クーデターをもたらす鍵となる要因の一つだ。一般に、後の二つは、外交政策の敗北と、支配層内での断絶だ。多くの事実に基づけば、これら要因の両方とも、サウジアラビアでは現在明白だ。世界石油市場での価格競争は確かにサウジアラビアに勝利をもたらさなかった。だが王国が石油価格を下げる措置をとり続ける可能性は残っている。にもかかわらず、サウジアラビアは「誰が最初にまばたきするか」のポーカーゲームで負けているように思われ、多くの専門家が王国の不確実な未来を予想している。
ビクトル・ミーヒンはロシア科学アカデミー客員。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2020/05/27/saudi-arabia-and-its-uncertain-future/
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サウジアラビア支配者のすごさで『週刊金曜日』巻頭記事を思い出した。崔善愛さんの文章だ。
だが、こんなこともあるそうだ。ひどい指揮者が来ると逆に「こりゃまずい、このままでは大変なことになると、必至になって演奏する。結果、いつもりよ緊張感ある良い演奏になる。今の日本は、この状況に近いかも知れない。
「ああ、これが晋裸万障の日本式だ」と思い至った。
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デモクラシータイムス ウイークエンドニュース 2020年5月29日
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