猫としてのロシア
ポール・クレイグ・ロバーツ氏へのお答え
アンドレイ・マルチャノフ
2018年9月4日
The Unz Review
部分的に、私と(Sakerとして知られている)アンドレイ・ラエフスキーに宛てた彼の記事で、ポール・クレイグ・ロバーツ氏が提起された、いくつかの問題にお答えする前に、私はアメリカ国民としてのロバーツ博士の勇敢な見解と、見せかけだけでない本当の愛国心に深い尊敬の念を表明したいと思う。アメリカとロシア間で今や公式となった冷戦2.0と、それにおけるロシアの姿勢に関し、地政学的現実のいくつかの点で意見が異なるとはいえ、このような尊敬されている方と会話出来るのは名誉であり栄誉だ。ロバーツ博士はこう書いておられる。
私も同様なことを指摘したので、マルチャノフとThe Sakerには拍手喝采するばかりだ。我々が違っているかもしれない点は、侮辱と挑発を際限なく受け入れていると、結局、唯一の選択肢が降伏か戦争になるまで侮辱と挑発が増すのを促進するだけだという認識だ。そこでプーチンとロシア政府に対するアンドレイ・マルチャノフとThe Sakerへの質問は下記だ。侮辱を甘んじて受けるのは一体どれだけの期間機能するのだろう? あなた方は、対決上、あなた方の優位を敵が無力化できるまで、あなた方は侮辱を甘んじて受けるのですか? 国の名誉を守りそこね、愛国的国民の支持を失うほど長い間、侮辱を甘んじて受けるのですか? 最終的に、戦争や服従を強制されるほど長い間、侮辱を甘んじて受けるのですか? 結果が核戦争になるほど長い間、侮辱を甘んじて受けるのですか?
ロシアの戦略問題に関し、ここが私とPaul Craig Roberts氏の意見が劇的に異なるところだ。そう、私はロバーツ博士に、ウィリアム・フルブライトの言葉通りなのに同意する。「言葉は行為で、態度は、それが人の心と行動に影響を与える限り実体だ」。侮辱や挑発は不快で、場合により、一部の人の心や行動に影響を与えるが、現代ロシアでは、そうではないのだ。私はUnzレビューのここで、ロシア戦略の基本を既に多少ご説明したが、紛れもなく、ごもっともなロバーツ博士の質問に答えるため、もう少し詳しく言おう。
20世紀初期からロシアの子供がロシア文学の授業で習い、成人になっても覚えている19世紀のロシア古典寓話作家イワン・アンドレエヴィッチ・クルイローフの多くの素晴らしい寓話の中には現在の地政学的現実を完全に記述しているものがある。その寓話は「猫と料理人」で、法事で料理人が居酒屋に出かける際、ネズミから食べ物(鶏)を見張るよう猫を残してゆく。寓話では、居酒屋から帰った彼は、鶏を「守る」猫の全ての結果を見ることになる。猫は鶏を食べ終えているのだ。料理人は突然猫をとがめ始めるが、寓話は大部分が、猫(ヴァーシカ)が言うことを聞かず、横柄で、無責任で、邪悪なことについての料理人の独白だ。寓話の最終行が状況を簡潔に要約している。
だが彼が話をし続ける間に
猫は鶏をすっかり食べてしまった。
А я бып о варуиному
Велел настенке зарубить:私は、料理人に、こう言いたい
壁に、こう書いておこうЧтоб там речей не тратить по-пустому,
Где нужно власть употребить.言葉をできるだけ無駄にしないよう
必要な場合は、力を使わなければならない。
重要なのはここだ。アメリカは、ロシアに対し、自身が壊滅されることなしには武力を使用できないが、ロシアは、この有名な猫のヴァーシカのように、やかましいだけの話を背景に食べ続けている。この現実に、とうとうワシントンの多くの連中も、実に死に物狂いで無力な形で気づき始めたのだ。グラハム・アリソンもこう言っている。
ロシアがどれほど悪魔的で、破壊的で、どれほどよこしまで、どれほど締め殺すに値するにせよ、我々が自殺せずには、このいやなやつを殺せないのが生の事実だ。
最終的に、2017年のアメリカ地政学「学界」の「尊敬される」メンバーが、少なくとも連中の、そもそも、はなはだしく膨れあがった権力に、多少の限界を把握し始めたのは若干の進歩だ。かつて2013年に世界がどうだったかを考えれば、これは進歩だ。2008年、ジョージアで、グローバリストの傀儡に完勝したにもかかわらず、ワシントンのグローバリスト陰謀団に、ロシアはまだ、さほど真剣に受けとめられていない。やっと2014年になって、あらゆる類の米軍「専門家」が、勝ち誇る米軍とNATO軍が、ウクライナで、慣例通りロシア軍を打ち敗るシナリオを大量に書いた。それは、クリミアをNATO基地に変えようとするアメリカの動きを、電光石火の作戦でロシアが防いだクリミアでの作戦に対する自己治療だ。ロシアの反撃は全員の不意をついた。当時実現されたことを、今多くの人々が早くも忘れている。これは「甘んじて受け入れ」とは到底表現できまい。むしろ、ロシアが真っ向から挑戦したのは、既存世界秩序に対する大打撃だったのだ。けちな中傷ではなく行動こそ名誉の守り方なのだ。ドンバスでは、アメリカに「訓練された」ウクライナ軍の大規模敗北が続いた。
私は2015年1月にこう書いた。
ほぼ4年後の今、大きく変化して同じものとは思われないような世界に我々は暮らしており、評判を無視した大衆芸能紙への執筆でない限りは、アメリカ人は誰もロシアが敗北するシナリオを書こうとしない。我々は本物の多極世界に移行しつつある世界ではなく、多極の現実で生き、アメリカがユーラシアに権力投射をしようとする試みが事実上阻止されている世界に既に暮らしているのだ。他には何もできないので、相手を罵り、侮辱し、挑発するだけの落ちぶれた世界に。歴史的な意味で、劇的で信じられない程速いアメリカ権力の凋落という事実を、人々はどういうわけか無視している。第二次世界大戦後のアメリカの繁栄と影響力は、主にアメリカ軍事力の神話と虚勢で、逸脱すれば「罰」せられるのを恐れさせ、他の国々をアメリカの方針に従わせることに依存していた。ロシアは、これを、虚勢だと言ったのだ。
現在、アメリカの行動は、気が狂うことなしには現実に直面できない衰退しつつある国の徴候を益々示している。アメリカは気が狂いつつあり、国際的にも国内的にも、益々この非合理的で危険な政権が、ほかの皆を道連れに、自殺するのを阻止できる唯一の力は、軍事的大敗の脅威だ。ロシアにはそうする力があり、これまでのところ、それは機能している。だが私には個人的疑問がある。強暴な患者を取り押さえ、ベッドに抑制する際、患者による侮辱と抵抗で精神病院の雑役係は感情を害されるだろうか? 私はそう思わない。人は強暴な精神病患者には感情を害されない。看護人は患者を取り押さえながら名誉を守るわけではない。看護人と強暴な精神病患者間に、名誉に関わるような交流はあり得ない。アメリカは条約を締結するに値する相手ではなく、1990年代初期以来そうではなく、アメリカ側には、ロシア-アメリカ関係で名誉にかかわるような交流はない。
それで、2014年と2018年、世界の二つの国を比較して、状態を評価するのは正当だろうかと私は尋ねたい。答えは、それは正当であるのみならず、それは唯一そうする方法なのだ。クラウゼビッツの格言は今も有効だ。「それが最も理に適った基準なのだから、結果によって出来事を判断するのは正当だ」。アメリカの全ての挑発、侮辱と、ロシアが甘んじて受け入れているとされることに関し、人はこれを問わねばならない。ロシアは勝っているのだろうか? 全体像を見れば、答えは疑う余地なく、イエスだ。経済から、軍事、地政学に至るまで、多くのことが自明だ。だから、
ワシントンで支配しているシオニスト・ネオコンは、ナポレオンやヒトラーがしたのと同じ間違いをする可能性がある。ソ連崩壊で、歴史は、アメリカを将来のモデルとして選んだことを意味するという「歴史の終わり」を彼らは信じ込んでいる。彼らの思い上がりは、実際、ナポレオンやヒトラーの思い上がりを超えている。
ナポレオンもヒトラーも核抑止力問題に対処していなかったし、即時に情報が広がる世界に住んでもいなかった。2015年のシリアでの出来事や、2018年3月1日のプーチンの連邦議会演説に対する、これら正にネオコンや連中の軍事「専門家」のヒステリー反応から判断すれば、メッセージが読み取れる。ヒステリーは弱さの最初の兆候だ。ネオコン連中は少なくとも一部は非合理的かもしれないが、そうした連中さえ、支払うべき代償があり、別途論じるべき、アメリカの力への厳しい制約を理解していると信じる理由があることを理解している。結局、ヨーロッパを屈伏させた後、ナポレオンもヒトラーもロシアに進軍した。大陸軍グランド・アルメグランデとドイツ国防軍ヴェールマハト双方に続く評判に、彼らは大いに浴していた。1950年以来、サダムの甚だし弱体な軍に対する朝飯前の射撃遊びを除けば、アメリカはレベルの低い相手に対する戦争で一つも勝利できていない。
セミョーン・バグダサーロフは善良な人物で、ロシア愛国者で、元政治将校だが、アメリカ航空母艦を「沈没させる」彼の提案を、私は本気には受け止めない。愛国心は不合理な考え方の口実にはならず、シリアのいくつかの標的に限定されたトマホーク対地攻撃ミサイル攻撃で、航空母艦が一隻喪失すれば、世界がまさしく核戦争の瀬戸際の上に立つような規模の政治危機をアメリカ国内で引き起こすだろう。ソ連崩壊後、自身を世界で自称最大の軍と見なしていた1990年代の短期間の中断を除き、本質的に、アメリカは核報復の方向に偏っている。愚かなことはせず、必要なのが、ここ数年のロシアの対応だ。これが唯一正しい戦略なのだ。
そして、これが私の結論だ。元軍人として、バグダサーロフや他のあらゆる「評論家」同様、参謀総長やロシア諜報機関によるウラジーミル・プーチン大統領への日々の秘密ブリーフィング内容を全く知ることができない、ただの作家に過ぎないことを、私は十分認識している。愛国心や多少のプロ意識でさえ、この世界が全滅するのを防ぐ唯一適切な判断をするために必要な重要情報を提供するために自らの命を危険にさらしさえする無数の人々が、最高司令官に提供する完全な状況認識把握の代わりにはならない。ロシアは、アメリカ合州国が、現在どういう状態か知っており、過去5年間の世界史を振り返れば、ロシアは鶏を平らげる、あのことわざの猫で、他方、武力を使うはずの連中は、そうできずに大声を出すだけで、実力行使できないように私には見える。このニワトリは、パックス・アメリカーナだ。ロシアはどのように戦争をするべきか知っており、ロシアはどのように自身を守るべきか知っており、それが機能しており、現在我々全員、アメリカではなく、ロシアが考えているような別世界で暮らしているので、ロシアは今していることを続けるだろう。その場合、侮辱を浴びせたり、シリアでのトマホーク対地攻撃ミサイルの無用な一斉砲撃を、もう一度始めたり、軍事的挑発のため、ウクライナの傀儡を「訓練」したりすることさえ、アメリカ合州国にとっては限度で、そこには高潔なものなど皆無だ。
記事原文のurl:http://www.unz.com/article/russia-as-a-cat/
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記事の英語原文では「猫と料理人」ロシア語原文(翻訳)にある料理人が居酒屋に出かける理由が省略されている。「猫と料理人」翻訳は岩波文庫の内海周平訳『完訳クルイロフ寓話集』を参考にした。
一年前の文章だが、今も重要と思えるので、遅ればせながら掲載させて頂く。しかし、一番悪いのは、殺人と搾取が主要産業のテロ国家。
国民の金も血も宗主国に捧げながら、しっかり私利だけは確保する怪物連中。
「こういう連中を支持している方々、脳味噌はあるのだろうか」と全く会っていない幼馴染みたちを思い出した。
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