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2019年12月21日 (土)

イギリス選挙は英連合王国崩壊の先触れ

Finian Cunningham
2019年12月16日
Strategic Culture Foundation

 ボリス・ジョンソンは、彼の保守党が地滑り過半数を勝ち取り、首相に再度された後、数本のシャンペンをたたき割って開ける権利を与えられている。だが祝宴が終わると、イギリスはとんでもない二日酔いに直面するのだ。連合王国の半分が、今や分離主義と独立という変更不可能な道にあるという逃れられない事実に。

 ジョンソンは、少なくともロンドンの見地からは「EUを離脱できるようにする」決定的な信任を勝ち取った。彼の党は下院で、野党の総議席より80議席多い過半数を持っており、1月31日に欧州連合からの英国離脱を実行するという彼の約束実現を保証している。実際の最終的離脱は、ロンドンとブリュッセル間交渉で、離脱条件の最終的合意が完了するまで、更に一年か二年かかるだろう。だが少なくともジョンソンは、イギリス人が、そもそも2016年の国民投票でブレグジットに賛成投票した際、三年以上前に始まった旅行を、1月31日に、EUを離脱する最終旅行を実現したと主張することができる。

 だが極めて重要なことに、ブレグジットに対する保守党の信任は、イギリスとウェールズにしか当てはまらないのだ。野党労働党から、ジョンソンの保守党へという有権者の大規模変動は、この二つの国で起きていた。だから、結果的に、彼の議会過半数は、イギリスとウェールズの有権者によるものなのだ。

 全く対照的に、英連合王国を構成する他の二つの地域、スコットランドと北アイルランドでは、有権者はジョンソンのブレグジット計画を決定的に拒絶し、欧州連合残留を望む党に投票した。結果は、スコットランドと北アイルランドが共にブレグジットに反対投票をした2016年の国民投票結果と矛盾していない。

 更に最近の選挙結果はスコットランドと北アイルランド双方の独立要求を強化した。

 スコットランド国民党は、現在既に過半数の議席を強化して選挙で圧勝した。彼らは今スコットランド全議席のほぼ90パーセントを支配している。党首ニコラ・スタージョンは、スコットランド独立のための二回目住民投票をする決定的な信任を得ていると主張している。2014年に行った前回の独立のための住民投票は敗北した。だがスコットランド国民党は、その目的での大衆支持が、2016年のブレグジット国民投票以来急増したと主張している。スコットランド人は概してEU離脱を望んでいない。従って、EU残留は、必然的に連合国とロンドンの中央政府からの分離を意味する。

 ボリス・ジョンソンはこれまでのところ、スコットランド独立のための二回目の住民投票要求を拒んでいる。だが彼の立場は維持不可能だ。スコットランドでの独立派議員の増という条件のもと、彼は折れざるを得まい。スコットランド国民党は、早ければ来年、再度住民投票を行うことを要求している。

 北アイルランドでの選挙結果は、おそらくより重大だ。民族主義政党が、親イギリスの連合主義政党に対し、これまでで初めて、多数派になったのだ。主要民族派政党シン・フェイン党党首メアリー・ルー・マクドナルドは、今や北アイルランドが連合王国を離脱する問題について住民投票を行う明確な信任があると主張している。最近の選挙での民族主義派が飛躍的な多数派となったことを考えれば、既存の南の国家アイルランド共和国と北が手を結ぶ、統一アイルランドへと必然的に至るはずなのだ。

 北アイルランドの民族主義者はイギリスからの独立を長年熱望している。北アイルランドは、アイルランド島を(アイルランド共和国になった)独立した南の国家と(北アイルランドになった)小さな北の国家に分割した、イギリス政府による自分に有利な区割り行為で、1921年に作られた。北アイルランドは英国統治領として残った。新たに作られた北アイルランドでは、イングランド寄りの連合主義者が民族主義者より多数派だったので、ロンドンのイギリス当局が、アイルランド領の一部を統治する代表権能を得るためアイルランド分割という恣意的な帝国主義行為をしたのだ。それは英国支配体制の卓越した身勝手な振る舞いだった。

 イギリス、ウェールズ、スコットランドと北アイルランドの連合王国という現在の政治構造は出来てわずか一世紀だ。(それ以前、連合王国はアイルランド領全てを含んだが、武装反乱のため、ロンドンはアイルランドに部分的独立を与えることを強いられた。)

 いずれにせよ北アイルランド創設からほぼ一世紀、自然な人口動態変化で、今や民族主義者が過半数となったのだ。12月12日の選挙結果は、否定し難い壮大な歴史的出来事だ。これまでで初めて、民族主義派支持が連合主義支持を越えたのだ。イギリスの身勝手な区割りによる、アイルランド民族主義の独立と自己決定の権利に対する歴史的な妨害行為が、最終的に、選挙投票用紙で逆転されたのだ。

 1998年に、ほぼ30年の武力衝突に終止符を打つべく、聖大金曜日協定として知られる北アイルランド平和協定が署名された際、条約で謳われていたのは「同意の原則」だった。統一アイルランドを要求する北アイルランド過半数の選挙信任を遵守すべく、イギリス政府は、この条約によって拘束されている。

 今や北アイルランドがイギリス支配から離脱する国民投票の引き金となる閾値に到達したのだ。民族主義の党は分離を実現する立法過程を今実施するよう公然と要求している。

 聖大金曜日合意の交渉を監督した経験豊かな英国外交官ジョナサン・パウエルは大言壮語する人物ではない。だが12月14日、英国LBCラジオでのマット・フライとのインタビューで、すぐではなくとも今後10年以内に「英連合王国崩壊」が起こると予想するとパウエルは言った。彼は特にスコットランドと北アイルランドでの選挙結果に言及していた。

 イギリス選挙でのボリス・ジョンソンのうわべの勝利は両刃の剣だ。彼は欧州連合との結びつきを切断する代表権能を持っていると主張するかもしれない。だが結果は、スコットランドと北アイルランドも、連合王国の他の国々と彼らの結びつきを絶つ権限を与えられたことを意味している。この二つの国が分離し、イギリスとウェールズが残れば、いわゆる英連合王国の終わりを意味することになる。

 ジョンソンの選挙勝利は彼が主張するように「大きな可能性を解き放った」のではない。むしろイギリス支配体制にとって、憲法上の実存的危機を解き放ったのだ。

 Finian Cunninghamは主要報道機関の元編集者・記者。国際問題について多く書いており、記事は複数言語で刊行されている。

個々の寄稿者の意見は必ずしもStrategic Culture Foundationのものを意味しない。

記事原文のurl:https://www.strategic-culture.org/news/2019/12/16/british-election-heralds-collapse-of-united-kingdom/

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 今回の選挙での、イギリス・マスコミによる労働党攻撃・中傷については下記のような記事がある。

UPDATED: Britain Just Proved It’s People Are Just As Stupid As Our American Cousins

 いんちきな翻訳しかできないので、何とか多少でも勉強しようと、新刊の新書『ことばの教育を問いなおす─国語・英語の現在と未来』を読み始めた。英語教育がご専門の鳥飼久美子名誉教授と、国語教育がご専門の苅谷夏子先生、社会学がご専門で、オックスフォード大学教授の苅谷剛彦教授三人の「対書」。第9章 大学入試を考える 第10章は 徹底的に読み、書き、考える。実は、第9章から読んでいる。学生のおこさんをお持ちの方には、是非お読み頂きたいご意見。民間英語試験導入、国語の記述式導入を論理的に批判しておられる。

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