アメリカは本当にイランとの戦争準備をしているのだろうか?
2019年10月5日
Salman Rafi Sheikh
New Eastern Outlook
アメリカ大統領が危機を緩和するために望んでいたに違いない、アメリカ大統領との秘密会談をイランのロウハニ大統領が拒否したのを主流欧米メディアは大々的に報道する一方、アメリカ国防総省が最近行った極めて重要な軍事行動、アメリカとイラン間の重要な、全面的戦争ではないにせよ、直接の戦争行為に向かう可能性がある措置を示す動きについては、本格的、あるいは、わずかな報道さえなかった。主に核問題で、イランを屈伏させる能力が、アメリカにないために、イランとの緊張が高まるにつれ、アメリカは、中東指揮統制センターを、カタールからサウスカロライナのショー空軍基地へと、遥々11,200キロ、移転した。センターは、湾岸戦争時、1991年にサウジアラビアに設置され、これまで13年間カタールで活動していた。だが時代は変わった。イランがアメリカを攻撃する能力を持っているという事実は、このセンターは、軍事的対決が起きた際、容易に標的に定められて、アメリカの能力に障害を与えかねないことを意味している。
「いざとなって全面紛争になった場合、それ[指揮統制センター]が優先目標の一つになると考えるのに、山のような想像力は不要で」防衛は不可能なのだと、ワシントン・ポストが報じた。司令センター全体を移動するというような大きな判断は、国が戦争を予想しているか、あるいは始めることを目指している時にしか行われない。アメリカ-イラン関係の緊張という文脈で、この移転が意味するのは、核問題が転換点に近づきつつあるということだ。
アメリカが制裁を撤廃する兆しはなく、EUがその誓約を遵守する中、11月にイランが、2015年合意下の誓約からさらに離れる、もう一つの措置をとる、あらゆる可能性がある。EUにとって、11月7日にイランが行う予定の「次の措置」は、核合意の終わりを意味するかもしれず、EUは合意から離脱を強いられるかもしれない。
だが、アメリカにとって、EUの離脱は、アメリカ大統領自身が、合意から離脱する決定をして以来、ずっと期待していたことを達成することになる。実際、アメリカによれば、サウジアラビアの石油施設に対する攻撃で示されたような中東で増大するイランの活動が、ヨーロッパを「目覚め」させて、政策を変える強い理由になるべきなのだ。
イランを攻撃するアメリカの「秘密計画」が最近ようやく漏洩されたのは単なる偶然の一致ではない。Theatre Iran Near Term(差し迫るイラン戦場)(TIRANNT)という暗号名を付けられた戦争計画は、大規模な空軍力(飛行機とミサイル)で、地上侵略を避け、イランに対し、壊滅的、破壊攻撃を行う国防総省戦略だと言われている。もしこのような計画を実行する場合、アメリカは、アメリカを傷つけるための適当な目標をイランが決して見つけられないようにしたいと望むはずで、それ故、司令センターをカタールから移動動する決定となったのだ。
だが、最悪の場合、アメリカはこのような攻撃をするかもしれないが、戦争によって最も影響を受ける国は、十分イラン弾道ミサイル射程の範囲内にある中東、特にサウジアラビアと、その同盟諸国だ。それが、これら攻撃を阻止する上で全く無能なサウジアラビア王国が、最近のイエメンによる空爆と地上攻撃後、なぜ戦争に、さほど熱狂的でないかを説明する。アメリカとイランが関与する大規模戦争は、究極的にサウジアラビアも巻き込み、王国は状況を制御することはできず、王国の崩壊をもたらしかねない。サウジアラビアは、今そうであるほど脆弱だったことが一度もないのだから。
それが、最近のインタビューで、彼の国はイランとの戦争を求めていないと言った際、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が「道理をわきまえているように」聞こえた理由だ。イランとの戦争は壊滅的で、世界経済を崩壊させるだろう。同時に、サウジアラビアは、アメリカにイランに対し、更に厳しい立場を強要し続けている。MbSはインタビューで言った。「もし世界がイランを阻止するための強い、断固とした行動をとらなければ、我々は世界の利益を脅かす、それ以上のエスカレーションを見ることになるだろう。石油供給は混乱させられ、石油価格は想像も及ばないほど未曾有の高値に急上昇するだろう。」
だが戦争は望ましくはなく、「政治的、平和解決の方が、軍事的解決より遥かに良いとMbSは結論を出した。もしサウジアラビアが戦争に気乗りがしないのであれば、アメリカもさほど熱狂的ではない。
上記のアメリカの動きは、サウジアラビアへの、より多くの兵士とF-35戦闘機配備をともなっており、アメリカは彼らの安全保障源でありつづけると言って、同盟国を安心させることを意図している。イエメン攻撃を阻止しそこねたアメリカ防衛システム失敗のおかげで、頼れる安全保障パートナーとしてのアメリカの信頼性は深刻な疑問を投げかけられている。
これは戦争が決して予想されないことを示唆するものではない。アメリカとサウジアラビアの戦争に気が進まない立場に関する、より妥当な説明は、大規模戦争は、サウジアラビアが、政治的にも、軍事的にも耐えることができない、遥かに大きな規模の破壊をもたらすという認識が増したことだ。一方、国防総省は、不測の場合のために、このような事前計画を続けている。
Salman Rafi Sheikhは国際関係とパキスタンの対外、国内問題専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2019/10/05/is-the-us-really-preparing-for-war-with-iran/
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岩波書店『世界』11月号 「メディア批評」第143回 (1)テレビよ、怒りをこめて振り返り、残された可能性に向かえ (2)内閣改造、警察国家と大政翼賛 いずれも、おっしゃる通り。
一方、「〈逃亡犯〉たちの街 香港の今を歩く─私の取材記」、ヴルチェク氏の記事とは、かなり違う雰囲気。
数日前、「証言ドキュメント辺野古」という番組を見た。政治ニュースとしょうする垂れ流し専門と思いきや、かなりまともなので驚いた。「共犯者たち」ではない方々も確実におられるのだろう。
孫崎享氏の今日のメルマガ題名は
米国大統領候補、世論調査のトップにバイデン元副大統領に代わりエリザベス・ウォーレン。バイデン、サンダース、ハリスの支持率は各々過去最低レベル、ウォーレンは学生債務救済、富裕税、大企業への課税、環境保護政策等を提唱。大企業側に危機感→どう展開
2014年5月、下記記事を翻訳した。ウクライナ・スキャンダルが話題の今、ウォーレン女史が優位になって当然と思える。
参院埼玉選挙、対立候補は論外にせよ、本命が「憲法改正には前向き」とは悩ましい。
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