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2019年7月27日 (土)

なぜ反移民論は全くの偽善なのか?

2019年7月12日
Andre Vltchek
New Eastern Outlook

 我々は、ほぼ毎日、ヨーロッパでの移民賛成策を標的にした不満の爆発について読まされる。抗議や暴動さえある。報道によれば、ヨーロッパ人が「緩和された移住規制にうんざりした」がゆえに、右翼政権が選出されている。

 我々は、そう聞かされる。それが、我々が理解し、共鳴さえすべきものなのだ。反移民感情は、世界に対し「ブリュッセルや、そのエリートから独立を獲得する」というヨーロッパ人の願望と同義のものだと宣伝さえされている。右翼で、往々にして人種差別的で、甘やかされた利己的なプロレタリアは、多くの人々に、進歩的情熱を持った、辛抱強い、良く働く人々の集団として描かれている。

 遠くから見ると、このような主張は法外で、侮辱的でさえある。少なくとも長い歴史で既に生命を失った何十億人もの人々にとって。ヨーロッパと北アメリカの拡張主義による大量虐殺の被害者にとって。今日まで、母国が破壊され、生計が破壊され、政治意志が侵害され、結局、自由で無条件な入国が拒否された人々にとって。まさに世界のあらゆる所で、恐怖と破壊を広めながら、あらゆる国際法を破り続けている国々への入国を。

***

 このエッセイでは、できるだけ具体的にしたい。簡潔にしたい。

 最初に、全てのアフリカ人、全てのアジア人、中東の全ての人々と全てのラテンアメリカ人(とにかく、この「ラテン」と「アメリカ」という名は何と倒錯的なことか)はヨーロッパと北アメリカに自由に入国可能にすべきだと私は宣言する。更に彼や彼女は、欧米人が享受しているあらゆる良いものを無料で享受し、望むだけの期間留まるのを許されるべきだ。

 以下はこの声明を裏付けるいくつかの(全てではない)基本的な道義的、論理的主張だ。

 第一に、ヨーロッパと北アメリカは、そこに住む人々のものではない。ヨーロッパと北アメリカは、地球のあらゆる場所の人々のものだ。いわゆる欧米を築くため、近代と、近代とは呼べない時代に(友人の国連統計学者たちによれば累積で)ほぼ10億人が死ななければならなかった。劇場、学校、病院、公園、鉄道、工場や博物館など事実上全てが、文字通り、征服された民族の骨と血の上に作られたのだ。現在に至るまで、本当に何も余り変わっていない。ヨーロッパ、後に北アメリカが、地球のほぼ全てを侵略した。彼らは略奪し、殺し、奴隷にし、拷問した。彼らは世界から全てを奪い、宗教と彼らの国を略奪し続けている卑屈で鼻持ちならない一群の「エリート」以外、何もお返ししなかった。ヨーロッパと北アメリカは付けで築かれたのだが、今この付けの支払期日がきているのだ。

 第二に、西洋文化は、全く競合相手のない地球上最も強暴な文明だ。繰り返そう、全く競合相手がいないのだ。西洋文化は、何十億人を軽く越える人命の損失なしには、軍事的に打ち破ることができない。だから更なる世界的悲劇の規模を小さくする唯一の可能性は、人種や文化的な優越性という欧米原理主義文化を「薄める」ことだ。ロンドンやニューヨークのような都市で、欧米人が今少数派になっている事実が、イギリスとアメリカ合州国が、恐ろしい犯罪を行い、攻撃し、外国を略奪するの完全に止めるわけではない。だが、もしヨーロッパと北アメリカが均質のままでいれば、自由な独立国家は、世界のどこにも、ほとんど残るまい。欧米への移民は、少なくともある程度、世界を救うのに役立っている。第一世代や、最も古い世代の移民が、少なくとも、ある程度、非西洋人の声に耳を傾けるよう要求するのだ。

 更に、もちろん、これは良く知られている主張だ。イラクやリビア、ベネズエラ、イランやシリアなど、かつて豊かだった国々の人々がなぜ移住を強いられるのかという唯一の理由は、彼らの国が石器時代に戻るよう爆弾を投下されたり、加虐的な制裁によって破壊されたりしたためだ。なぜだろう? そうすれば政府が変わるだろうし、天然資源からの利益は、国民ではなく、欧米企業のためになる。もちろん「ドミノ効果」を防ぐためでもある。欧米は「ドミノ効果」の考えを憎悪している。つまり、そうした国々の国民生活を改善する決意が強い共産党員や社会主義者や革新政府の、地域的、世界的影響力を。欧米は、偉大な英雄や、聡明な思索家ではなく、従順な、おびえた奴隷を必要としているのだ! 不幸な国々のごく一例をあげれば「ドミノ効果」を止めるため、1965年のインドネシア・クーデターや、インドシナ(ベトナム、ラオスとカンボジア)で、コンゴ民主共和国で、イラクで何百万人もが死ななければならなかった。もし、あなたが、豊かで、社会的に均衡が維持された国に行って、自分と自国民の繁栄のために、そこから全てを奪い、政府を打倒し、「破綻国家」におとしめた場合、その国の一部の人々が、あなたが盗んだ資源の後について来ようと決めた場合、あなたは衝撃を受けるだろうか。つまり、あなたの国への移民になろうと決めたら。

 この一連の論理を欧米の人々が追えない理由は、彼らが徹底的に無知だからに過ぎない。何十年も何世紀も、一生懸命無知のなままでいようとしてきたのだ。無知を主張すれば行動しなくても良い。代償を払わずに略奪品を享受できるのだ。実に単純ではないか?

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 イギリスやハンガリーやギリシャやフランスやイタリアや他のEU加盟国の右翼有権者は、本当に見えないのか、道徳的に余りに頽廃していて現実が分からないのだろうか?

 彼らは、もう一世紀か二世紀「ただ乗り」するつもりなのだろうか?

 ヨーロッパの学校では歴史を教えているのだろうか? 私は疑問に思う。もし教えているのであれば、どんな種類の歴史だろう? 国際連合で働いているスペイン人の友人たちの何人かが、スペインが中南米で行った残酷行為について全く何も知らないのを知って私はショックを受けた。あるいは今のブラジルやカーボベルデででのポルトガル。

 今、北部同盟(そう彼らが好んで言いたがる「反体制」)が、しっかり政権に入っているイタリアは、(主にフランスと他のEU諸国に破壊された)リビアや他の打ちのめされたアフリカ諸国から航海してくる「ポートピープル」がイタリア海岸に着くのを助ける人々を違法にしている。善良な「労働者たちは」、何百人も何千人もの人々が既にそうなったように、難民には地中海の真ん中で沈んで欲しいのだ。この反移住言説は実際「勇敢」で、「反体制」として称賛されている。ヨーロッパ文化は、いかに酷く、低劣であり続けるのだろう。ヨーロッパ文化は、常に極端に強暴で攻撃的だったが、今やそれは浅薄で、非論理的で、狂信的だ。それは、もはや人種差別ではない。それを遥かに超えている。それは超人種差別的で、法外に利己的だ。彼らは「原理主義者」で、ISISやヌスラ戦線のような連中の「論理」に見られるものと変わらないと私はしばしば書いている。

 アメリカ合衆国で状況は遥かに悪い。メキシコ国境の壁? 自分の歴史を勉強していただきたい! アメリカは拡張主義戦争を通して、メキシコの半分にドロボウに入った。不法に国境を越えている移民の大部分が、実際はメキシコ人(メキシコは、あらゆる社会問題を抱えてはいても、OECD国だ)ではなく、貧困に陥った中米諸国からだ。これらの国はなぜ貧困に陥っているのだろう? 彼らが国民のために機能する用意がある革新政府を民主的に選出すると、アメリカは常に、即座にファシストの独裁的「モンロー主義」を適用し、政府を打倒し、右翼暗殺団を送り込み、民営化を強制し、イナゴの大群のように国から全てを奪い去るのだ。グアテマラ、サルバドール、ホンジュラスやドミニカ共和国の人々には、アメリカへの略奪品の後について、そのすぐそばで居を構える完全な権利がないのだろうか?

***

 欧米の教義は単純で、同時に全く非合理的だ。それは定義されていないが、定義されるとすれば、このようなものだろう。「我々は、どこであれ選んだ場所を攻撃し、強盗し、移住することができる。なぜなら我々は、白人で、キリスト教で、誰よりも優れた文化と、武器を持っているのだから。他には何も理由はないが、これで十分なのだ。他の連中は、はるか遠くで、近寄らないようにしていなければならない。さもないと! もし彼らが服従しなければ、彼らはイタリア人に沈められ、ギリシャ人に外海で、ゴムホースで打ちすえられるだろう。壁が作られ、もし難民が南から北アメリカへ越えようとするなら、人々は、今行われているように、不快な収容所に集結させられる。」

 おお、北アメリカ、主としてヨーロッパ人の一世だが、二世や他の世代が、先住民族をけもののように、追い詰めて捕まえた場所。ファースト・ネーション、北米先住民族の大多数が恐ろしい死を遂げた場所。アメリカ合衆国とカナダで、先住民族が、しばしば、今日に至るまで、全くの貧困で暮らすことを強いられる場所。北アメリカ、しかしオーストラリアも、同じ文化、同じパターン、同じ「論理」だ。

 そして、先住民族を虐殺した後、何が次におきただろう? 「新しい世界」を築くために、ヨーロッパ人によって奴隷として連れて来られた鎖につながれた何百万というアフリカ人。拷問にかけられ、尊厳を奪われた男性たち。毎日、女性たちは畑に縛りつけられ、白人プランテーション所有者によって、レイプされた。民主主義。自由。欧米風。

 合衆国のような「国」が、一体誰がその国境を越えるべきか、一体誰をその領土に定住させるべきか決める道義的権利を持っているのだろうか?

 私はそう思わない。あなたはそう思われるだろうか?

***

 全く違う状態があり得る。ソ連時代のロシアをご覧願いたい。決して中央アジアの共和国を占領しなかった。彼らは自発的に参加したのであり、ウズベキスタンやキルギスタンで人々に話をすれば、大多数が、再び、楽しくロシアに加入するというだろう。ほとんど全員がソ連を郷愁的に感じている。

 ソビエト社会主義共和国連邦時代、モスクワはタジキスタンやキルギスタンの生活水準がロシアとほぼ同じになるようにしていた。ロシアは強奪するのでなく、大量の助成金と国際主義で支持した。

 それから、ソ連が、外部勢力(欧米との軍備競争と、欧米プロパガンダ)によって破壊された後、国はいくつかの独立国家に分裂した。そして移民の流れが始まったのだ。

 ロシアは決して国境を閉鎖しなかった。(ワシントンに不安定化された)中央アジアから、今や裕福なロシアまでの旅行は容易だ。旧ソビエト共和国から何百万という人々がロシア連邦中の至る所で楽しく働いている。そしてロシア国家は彼らに対する「道義的責任」はない。この全ては実際、常識、共有した歴史と価値観への敬意と普通の人間の優しさなのだ。

***

 一部の人々は言うだろう、欧米がしたことは、全てずっと昔に起きたのだ。だが、違う、そうではない。それは今も、まさに今、起きているのだ。

 もちろん、もしあなたがどこかのパブかロンドンのクラブで、ぼーっとしているなら、あるいは、パリで豪華なカフェに座っているなら、あなたは決してそう思うまい。あなたが望んでいるのは、邪魔をされずに、快いヨーロッパの生活を送ることだ。何億という被害者の骨と血の上に形成された生活。

 巨大な、超金持ちのヨーロッパは、破壊された中東から流れ出る数百万人の人々さえ受け入れることができないのだろうか? 本当に? ごく小さなレバノンは、いわゆる「シリア危機」の絶頂で、200万人の難民流入から生き残ることに成功した。犯罪率は急上昇せず、国は崩壊しなかった。なぜかご存じだろうか? なぜならレバノンの人々には心と品位があるから。欧米にはその種の性格は皆無だが。

 もし強盗して、人を殺したがゆえに、あなたの家族が金持ちになったなら、あなたは強奪品を返そうと望むだろうか? あなたはご自分の親や兄弟が拷問にかけ、略奪した人たちのために、ドアを開けるだろうか? 一部の人はそうするだろう。状況を理解した後、彼らはそうするだろう。だが欧米はそうではない。欧米は奪うだけだ。欧米は決して与えない。欧米は与える人々を憎む。欧米はあらゆるまともな国を中傷し、攻撃さえする。

 恐怖は、灰と化された国で、中国やロシア、旧ソ連邦中央アジア共和国、イランやパキスタンに潜入し、損害を与える準備ができている原理主義者の訓練基地にされた、打ちのめされたアフガニスタンで、いまだにおきている。私はそこで働き、私は知っている。あるいはシリア。私はそこでも働く。あるいは地球上の私の大好きな国の一つ、ベネズエラ。そしてリストは延々と続く。

 イギリス、フランス、イタリア、北アメリカ、ギリシャの、恩恵だけを欲し、自国政権が全世界で犯している世界的大量虐殺に気付かないままでいると決めている有権者の独善的な偽善の噴出を読むのを私はもう耐えられない。

 これらの人々は、誰が彼らの福祉に対して支払うか、あるいは彼らに特典を与えて、一体何百万人が死ぬかに、全く何の関心もない。

 彼らはさらに多くを欲する。彼らは常に「彼らはなんと貧しく、搾取されているのだろ!」と不平を言う。彼らは新植民地主義を止めることを望まない。彼らは自身のため、より多くの金と生活条件改善を切望するだけだ。「我々は全て人間だ」と彼らは言う。「我々はすべて被害者だ」。それから彼らは最右翼を選出し「難民」が締め出されるよう要求する。

 彼らは血塗られた手の持ち主だ。彼らの大部分が被害者ではなく虐待者だ。彼らは国際主義者ではない。単なるミニ帝国主義者、彼らの文化、植民地政策の利己的産物だ。

 何世紀もの間打ちのめされてきた世界のために、欧米は扉を開かなければならない。

 「外の」一部の人々は、欧米が繁栄できるように文字通り乞食に変えられたのだ。

 ロンドンやニューヨークの「政治的公正」は外部世界がどれぐらい素晴らしいかと言ってウソをつく。とんでもない! そうではない。その多くが貧しく、壊疽にかかり、非常に不快だ! むかつく。なぜなら、そのように作られたからだ。なぜなら、それは打ちすえられ、侵害され、何世紀間も強奪されたから。

 これらの人々、正真正銘の被害者は、たった二つだけ要求する。そっとしておかれ、自分の利益のみを追求するNGOや欧米の支配下にある国連政府機関なしで、欧米の軍事介入なしで、彼ら自身の国を作ることが可能になるように。それが一つだ。

 二つ目は、彼らが行きたい時に、盗まれた彼らの富があるところに行くことだ!

 彼らは受け入れられ、補償され、罪の許しを請われるか、それとも彼らの権利を行使して、門を壊すかのいずれかなのだ。

A Andre Vltchekは哲学者、小説家、映画製作者で調査ジャーナリスト。彼は Vltchek’s World in Word and Imagesの創作者で、China and Ecological Civilizationを含め、多くの本を書いている作家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.org/2019/07/12/why-are-anti-migrant-arguments-in-the-e-u-u-s-pure-hypocrisy/

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 岩波新書『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』を読んだ。
 88ページにこういう文章がある。

事実、フランスなどの諸国を征服したのちのドイツの占領政策は、資源や工業製品の徴発、労働力の強制動員といった点を強調したものとなる。そのおかげで、ドイツ国民の生活は、戦時下であるにもかかわらず、一九四四年に戦争が急速に敗勢に傾くまで、相対的に高水準を維持していた。彼らは初期帝国主義的な収奪政策による利益を得ていることを知りながら、それを享受した「共犯者」だったのである。

 212ページにこういう文章がある。

つまり、ヒトラーに加担し、収奪戦争や絶滅戦争による利益を享受したドイツ国民は、いよいよ戦争の惨禍に直撃される事態になっても、抗戦を放棄するわけにはいかなくなっていたのである。

 いつも不思議に思うのが、労働者の不利益になる政策を支持する労働組合の存在。反労働組合だろう。核や軍需のような、国家に保護された産業で働いていると、そこでの比較的高水準な生活を享受するために、「共犯者」になるのだろうか?そうした組織の票に依存する政党に多くを期待するのは無理だろう。

日刊IWJガイド・土曜版「選挙後、突如『生まれ変わった』と言い出した国民民主党・玉木雄一郎代表が『憲法改正の議論を進めていきますし、安倍総理にもぶつけます』と衝撃発言!『改憲の議論を進めること』は、5野党・会派と市民連合との政策協定違反!!」 2019.7.27日号~No.2508号~(2019.7.27 8時00分)

 

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