一帯一路構想:批判者と新メンバー
2019年6月20日
ニーナ・レベデワ
New Eastern Outlook
北京での第2回BRF -2019サミットは、2016年に、以前の名、「一帯一路One Belt, One Road (OBOR)」を「Belt Road Initiative帯路構想(BRI)」に変えたこのインフラ・プロジェクトの実績を示す画期的な催しとなった。「帯」は陸上経路、一方「路」は海上航路を表すが、無数の異なる側枝が作成されたので「一、一」は名前から取り除かれた。
サミット主催者として、中国は以下の6つのカテゴリーに細分された283の成果案件を含む、実質的な成果と参加者に対する討論用の疑問と提案のリストを提供した。「1)中国に提案されたか、着手された構想; 2)2回目のBRFの前、あるいは、すぐに署名された二国間、多国間の文書;3) BRF枠組みの下での多国間協力メカニズム;4)投資プロジェクトとプロジェクト・リスト;5)資金調達プロジェクト;6)地方自治体と企業によるプロジェクト」。これらの協定には、赤道ギニア、リベリア、ルクセンブルグ、ジャマイカ、ペルー、イタリア、バルバドス、キプロス、イエメンと、セルビア、ジブチ、パプアニューギニア、アフリカ連合と一緒の行動計画、国際連合人間居住計画(国連ハビタット)、国連アフリカ経済委員会や他のものに署名された覚書が含まれている。明らかに、このような業績は強い印象を与えざるを得ない。
中国国家主席を始めとした高官は(一斉に)全員成功について語った。OBORに関する前のNew Eastern Outlook記事で強調したように、習近平は演説で、多くのプロジェクトにまつわる間違いや危険があったことを初めて認め、将来「共に利益になる」手法に従うことを約束した。同様に、王毅外務大臣も、BRIは「国々が落ち込みかねない「借金地獄」ではなく、現地に恩恵をもたらす「経済的なパイ」」であることを聴衆に納得させようとした。2019年サミット中、中華人民共和国の劉昆財務大臣は「リスクを防ぎ、解決するための債務の持続可能性の枠組み」構築計画を発表した。
習近平主席が、グローバルなメディアによって強化することを意図している中国の宣伝機関が、常に構想の背後にある原動力だったのは確実だ。まさしくこの目的で、2017年に一帯一路ニュースネットワーク(BRNN)が設立された。それは86カ国の182以上の印刷媒体を含んでいる。彼らの目的は批判に対処し、不都合な事実は軽く扱い、構想の立場を高め、それに関する肯定的なニュース記事を出版することだ。これを達成するため、ジャーナリストが北京での研修に招かれた。
中国が他国に、自身の装置や材料や労働者を持ち込み、現地資源を利用したり、雇用を生んだりしかった事実に不賛成を表明する人々の数が減らないので、それは適切な措置だった。建設工事を管理し、その後、現場を経営する基準も非常に低かった。多くの例で、まともな土地が現地から没収された。あちこちで北京は多少の譲歩をし、マハティール・ビン・モハマド首相が厳しい声明を出した後、マレーシアでの140億ドル大プロジェクト経費は3分の1切り下げられた。パキスタンやタイやラオスなどとの協定が再交渉され、負債レベルを引き下げる処置がとられた。
習近平国家主席は、2019年のサミットに、37人の外国の国家指導者を招待したが、更に多くの人々が次の催しに出席すると予想している。彼は全ての国の中でも、日本がBRIへの参加希望を表明することに、まだ希望を待ち続けている。一方、東京の戦略立案者たちはBRIについては複雑な心境だ。一面では、一帯一路構想は、日本の権益と、日本の主要同盟国アメリカの権益を犠牲にして、北京の世界的立場を強化するプロジェクトと見なされている。また一面では、日本は二つの重要なパートナーの間で引き裂かれている。中国は重要な貿易相手国だが、アメリカは安全の重要な保証人だ。公式には東京はBRIの一部ではないが、2018年10月、長い歴史がある輸送企業日新が、シノトランス社(中国対外貿易運輸総公司)とヨーロッパでの商品輸送路線試験運用を始動した。このような協力は多くの例がある。アメリカの他の同盟国やパートナー諸国と同様、日本はユーラシア統合の取り組みに将来性を見ている。BRIの背後にある原則を一貫して長い間拒絶していたインドさえ、中国が設立したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の大きい融資を組んだ。
2回目のBRFで、「現代のマルコ・ポーロ」が3月、ローマで23の覚書と、約30の他の異なったタイプの文書に署名したイタリアに、習近平主席は最も暖かな挨拶をした。イタリアは公式に中国の大プロジェクトを支持する、7カ国グループ(G7)で最初の先進西欧国となった。イタリアが協定を準備するため外交努力を続けるにつれ、大陸の近隣諸国に「ドミノ効果」を持ち得る、確立された秩序(評論家たちによれば)の転覆に既に成功したのだ。皮肉にも一日前(3月22日に)、欧州理事会(EC)は、中国に対するEUの全体戦略を論じるため会合した。新しい欧州連合(EU)の取り組みで、北京はヨーロッパの「体制的ライバル」として初めて言及された。中国と3つのヨーロッパの国、ドイツとフランスとイギリス間の貿易量が目立って増加したにもかかわらず、これが起きた。ユーロスタットデータによれば、2018年、ドイツは中国に938億ユーロ(1060億ドル)の商品を輸出した、イギリスの輸出は234億ユーロ、フランス208億ユーロで、イタリアは(4位で)131.7億ユーロドルだ。
EUが中国に対する旧い2016年戦略を置き換えるため、様々な展望を策定していた間に、中華人民共和国は「ゆっくりとEUの「柔らかい」中央と南周辺を突き崩した」。2012年から、それは「16 + 1″プラットホームを経由して11の新たなEU加盟国の支持と5つの潜在的なEU候補を獲得した。後にギリシャ(2018年8月)とポルトガル(2019年1月)がBRIの一部になった。
イタリアはBRIからどんな形で恩恵を得ようと期待しているのだろう? 意欲的な覚書は物流分野、輸送インフラ、人的交流、貿易障壁の引き下げ、環境保護、財政、投資障壁の撤廃で協力を深めるイタリアと中国の意図を概説している。中華人民共和国の海のシルクロード構想(BRIの不可欠な一部)の枠組みで、イタリアは中国にとって、ヨーロッパにおける重要な戦略パートナーだ。ずっと前に考え出され、現在実行されている「5つの港」概念によれば、北京は北アドリア海港湾協会を通して、スロベニアのコペルと、クロアチアでリエカ(元イタリア領フューメ)と同様、ベニス、トリエステ、ラベンナとの結びつきを確立するだろう。
近年、経済成長がかなり緩慢なイタリアは、BRI加盟のおかげで、中国との貿易が増加することを期待している。結果として、上記ヨーロッパ諸国に、イタリアが追いつくことが可能になり、例えば、中国の巨大複合企業から何億ドルも受ける予定のトリエステのように、港湾インフラへの投資を引き付ける機会が増す。一方、中国は、時間とともにイタリア経由で他の主要西欧諸国へのアクセスを得ることを望んでいる。
マッテオ・サルヴィーニ副首相は(おそらく彼は、BRIに突きつけられた批判を覚えているのだ)北京とのどんな協定の契約条件であれ、イタリア政府は手ごわく交渉すると強調した。彼は「我々は誰とでも話をする用意があるが、もし外国企業イタリアを植民地化する話題なら、我々は決してそうする用意はない」と述べた。マッテオ・サルヴィーニは、戦略上重要な部門が損なわれないことを保証するため、出資を受ける分野を監視することは重要だとを警告した、すなわち「イタリアの機微な情報は、イタリアの手中になければならない」と。
イタリアにとって、金融と負債の「罠」になりかねない中国大規模プロジェクトの一部になることを思いとどまらせる機会を、ワシントンは見逃さなかった。ヨーロッパの首都からも類似の警告が当然おこなわれ、北京とのより親密な結びつきを求めるのは、欧州連合の枠組みを通してのみ(中国に対するEUの2016年戦略に従ってもしほかに何もなければ)可能であることをローマに想起させた。しかしながら、ジョージ・C ・マーシャル安全保障ヨーロッパセンターの戦略イニシアチブ部門の議長イタリア人政治学者ヴァルボナ・ゼネリによれば「イタリアは、ヨーロッパで最も重要な経済的、政治的当事者の一つで、イタリアを排除する、あらゆるEU対応は、不完全で、成功しない」。彼女の意見に同意するのが合理的だろう。
ローマの運命に対する海の反対側からと、ヨーロッパからの警告をローマは無視することに決めたのだ。だから我々は、この結果を 1)中国対アメリカのサッカー試合の得点は、1 - 0 2)イタリアからの「軽い警告」、あるいは 3)現在の世界秩序の中で、時代の流れに乗らないのは危険であるという有効な指標だと見なすことができる。
アメリカの専門家連中さえこの傾向を把握し始めた。ランド研究所の専門家たちが行った「中国一帯一路構想:国際貿易に対する輸送接続性改善の影響を測定する」(2018年8月)という題の包括的な分析は、世界経済のこの部門に対するプロジェクトの増大する影響に関するBRF-2019の際の、習近平主席の言葉を文字通りおうむ返しにしている。もう一つの有名なアメリカの機関シティグループのGPSが、2018年12月に「五年目の中国の一帯一路」進捗報告を出版した。文書は書類情報や様々なの数値やグラフを用いて、一帯一路構想が、どのように(すでに)次第に中華人民共和国中心の「1対多」モデルから、より多面的で包括的な「多数対多数」に変わりつつあるかについて概説している。
2018年11月、APECサミットでの演説で、(とりわけ)マイク・ペンス副大統領が、アメリカが中国より「良い進路」を提示しているという意見を公式に広め続けた。彼はアメリカ企業が雇用を生み出し、ハイテク部門が地域に繁栄をもたらすと言って、この選択肢を手短に説明した。それでも、アジアの何百万人もの人々は、言葉の約束だけでなく、実際に物理的インフラを必要としているように見える。
それ故、一帯一路構想は、話題の興味深い論争の的のままだ。だが、この構想の支援者を中傷者から切り離す傾向は依然存在するものの、最近、懐疑論者の数が益々減少し、参加者の数が増加し続けていることを認めずにいるのは困難だ。
ニーナ・レベデワは歴史学修士、ロシア科学アカデミー東洋研究所インド研究センター主任研究員。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2019/06/20/obor-initiative-critics-and-new-members/
----------
宗主国も属国も、外交ではなく、害行が得意。
« 保護を失った「自由」 | トップページ | ジュリアン・アサンジ拷問 »
「アメリカ」カテゴリの記事
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
- 熟練専門家を前線に派兵して、戦争遂行努力の失敗を示しているウクライナ(2024.11.26)
- ネタニヤフに対するICC逮捕令状はアメリカの政策と共謀に対する告発でもある(2024.11.27)
「NATO」カテゴリの記事
- 対シリア戦争を再燃させるアメリカと同盟諸国(2024.12.02)
- ロシア新形ミサイルが、いかにゲームを変えつつあるのか(2024.11.29)
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
「中国」カテゴリの記事
- ウクライナ紛争や国内政治崩壊の損失によりドイツは崩壊しつつある(2024.11.23)
- トランプ政権:「戦争タカ派なし」から「全員戦争タカ派」へ(2024.11.20)
- ドイツはロシア燃料を使用していたがゆえにヨーロッパの原動力だった(2024.10.24)
コメント