トランプのネオコンはエルドアンを中東全体の戦争への手段と見なしている
マイク・ホィットニー
2019年4月6日
Unz Review
トルコ軍兵士と機甲部隊隊が北シリア侵略命令を待って、トルコの南国境に沿って集結している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、現在16キロの幅で領域を占拠する、テロリストとつながっている戦士(YPG)を排除するため、ユーフラテス川東岸地域の一掃を望んでいる。想定されている攻勢は、アメリカ特殊部隊をも攻撃を受ける状態におかれ、アメリカ人死傷者の可能性を飛躍的に増大させるだろう。もしアメリカ兵が、トルコ作戦によって死亡したり負傷したりすれば、ワシントンは二つのNATO同盟国間で大惨事の対決となりかねない武力で反撃するだろう。トルコとアメリカ間の激しい衝突の可能性が今日ほど大きくなったことはこれまでない。
水曜日、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官はシリアでのいかなる一方的な行動も「破壊的な結果」となるとトルコに警告した。ポンペオ国務長官の発言は、火曜日に先週末の選挙のすぐ後、軍事攻撃が始まるだろうと述べたエルドアンを恫喝すること意図していた。もしエルドアンが計画を推進すれば、ポンペオはトルコ軍に対する報復攻撃に承認を与えるのは確実だ。これはトルコの素早い撤退か、地域中のアメリカ戦略的施設に対する、非対称攻撃となるだろう。ともあれ、トルコとのけんかは、かつての同盟国二国間に深い割れ目を広げ、エルドアンに欧米同盟に対する関与を再考するよう強いるのは確実だ。アメリカとトルコの関係の、それ以上のいかなる悪化も、世界的な力の均衡を劇的に変化させることになろう。
ワシントンのエルドアンとの問題は、現在の騒動の何年も前に始まっている。トルコ指導者は常に自主的外交を進めようとしており、それがホワイトハウスにとってフラストレーションの原因だった。イラク戦争の際、エルドアンはアメリカがトルコ空軍基地を彼らの作戦を行うために使用するのを拒否した。(エルドアンはあの戦争を支持しなかった。) 現在彼はロシアから航空防衛システム(S-400)を購入しつつあり(それをマイク・ペンス副大統領が強く非難した)、彼はシリアでの戦争に政治的解決を見いだすためソチで、モスクワとテヘランのサミットに出席し、彼はトルコを南ヨーロッパのエネルギー・ハブにするはずのガスプロムとの契約に署名し、彼はアメリカ国務省のテロ組織リストにある集団クルド労働者党(PKK)の支流である東シリアにいるクルド人代理部隊(SDF)へのアメリカ支援について極めて批判的だ。
エルドアンとアメリカ間の摩擦の大部分が、トルコの安全保障上の懸念を、ワシントンがはなはだしく無視することで引き起こされてきた。現在の危機は、エルドアンの政権掌握を強化し、広範囲にわたり、アメリカ不信に拍車をかけ、はなはだしく裏目に出た2016年のクーデター未遂のような、もう一つの自傷行為に過ぎない。2016年8月2日付けのニューヨーク・タイムズ記事の抜粋をご確認願いたい。
「トルコの新聞が、イスタンブールに近いマルマラ海の島の瀟洒なホテルで、アメリカ人学者と元国務省当局者が、トルコ政府を倒す強暴な陰謀を計画するのを手伝っていたと報じた。同紙は、一面見出しで、失敗したクーデターの夜、アメリカがレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を暗殺しようとしていたと素っ気なく書いた。
もう一つの政府支持派新聞がツイッターで行った最近の世論調査で、トルコ人に、アメリカ政府のどの組織が、クーデター計画者を支援したか尋ねた際、CIAが69パーセントで一位、ホワイトハウスは20パーセントで、大きく水を空けられて二位だった。
これら陰謀論はトルコ社会周辺部のわずかな変人の産物ではない。トルコはひどく分裂した国かも知れないが、イスラム至上主義者、非宗教的な人々、リベラル派、国家主義者など、社会のあらゆる部分で、トルコ人がまとまることができる一つのことは、クーデター未遂に、直接あるいは、広く陰謀の首謀者と疑われているイスラム聖職者フェトフッラー・ギュレンが、自ら亡命して、アメリカに住んでいる」というだけの理由で、何らかの方法でアメリカが関係しているということだ。(トルコ人は一つのことに合意できる。アメリカはクーデター未遂の黒幕だった - ニューヨーク・タイムズ)
ずばり要点を言おう。アメリカは、2016年、エルドアンを大統領の座から追放する陰謀の黒幕だったのか?
アメリカが第二次世界大戦の終わりから、50以上の他の政権転覆作戦の黒幕だったのとちょうど同じように、おそらくそうだ。
そして今アメリカは、ペンシルベニア郊外の広大な敷地にトルコ軍事政権立案者を匿っているのだろうか?
そうだ。これも同様におそらく本当だ。だが、トルコがギュレンがクーデター首謀者だと特定する証拠の山をアメリカに提供しても、トルコは、アメリカが探している多数のテロ容疑犯人引き渡しに協力したのに、アメリカは、敬意と公正さでトルコを扱って、恩返しをする義務を感じていないのだ。それはなぜだろう? なぜアメリカにとっての一つの基準と、他の全ての国々にとって完全に異なる基準があるのだろう?
エルドアンは繰り返し、トランプ政権に、トルコ南境界周辺のテロリストとつながる戦士(YPG)を地域から追い出し、トルコの合法的な安全保障上の懸念を尊重するように依頼している。12月中旬に、トランプは電話で問題についてエルドアンと議論し、トルコ大統領の要請を実現することに同意した。4日後(12月19日)トランプは全てのアメリカ兵が30日以内にシリアから撤退すると発表した。以来、政権はそれまでの約束のいずれも果たし損ねている。アメリカは東シリアの軍隊を増やし、軍用装備品と兵器を強化し、境界に沿って陣地を強化した。
アメリカは同様に、都市内や周囲から全てのクルド人民防衛隊戦士を撤退させ、トルコがマンビジで安全を確立するのを支援するよう要求しているマンビジ・ロードマップ条件下の義務を果たし損ねている。この戦線では全く動きがなかった。どちらかと言うと、状況は更に悪化した。これはトランプ・チームが、トルコの安全保障上の関心事に対処するために指一本動かすことも、明記された約束を最後まで遂行する意図もないことを示唆している。ワシントンは実際は、問題をエルドアン自身で処理するよう挑発し、後に後悔するかもしれないことを彼にさせようとしているのを示唆している。
シリア領土に対するアンカラの構想には法的根拠がないが、これは戦争最初期の日々から(変更なしで)首尾一貫して繰り返されてきた。ずっと以前の2012年に溯って、トルコは自国と東シリアで活動すクルド人民防衛隊戦士間の緩衝区域を設立する「安全地域」を強く要求した。オバマ政権は、戦略的な場所にあるインジルリク空軍基地の使用と引き換えに、安全地域の創造でエルドアンを助けることに同意した。ニューヨーク・タイムズが2015年7月27日付で説明するもう一つの記事の抜粋がここにある。
「トルコとアメリカは、トルコ国境沿い北シリアの長さ96キロの帯状地帯からイスラム国過激派闘士を排除するため、アメリカ軍用機とシリア反政府勢力とトルコ軍が協力する構想計画におおまかに同意したとアメリカとトルコの当局者が述べた。
計画は両国当局者が、追い出されたシリア人のためにも「安全な地域」であり得るとトルコが言う、比較的穏健なシリアの反政府抗勢力が支配する非イスラム国ゾーンと呼ばれるものを作り出すはずだ。
帯状地域がどれほど深くシリアに及ぶかを含め、多くの細部がまだ決定されていないが、計画はシリア内のイスラム国過激派闘士に対するアメリカとトルコの軍事行動と、現地のシリア反政府勢力とアメリカの協調を大幅に強化するだろう。
「細部は練らなければならないが、我々がトルコと話をしているのはISILに対処している北シリアの地上パートナー支援のために協力することだ」とオバマ政府高官が、イスラム国家のもう一つの表現を使って述べた。「目的は非ISILゾーンを確立し、シリアとトルコ国境に沿ってより本格的な安全と安定性を確保することだ。」(「トルコとアメリカはISISがいないシリア「安全地域」を作ることを計画」ニューヨーク・タイムズ)
繰り返そう。「トルコとアメリカは、安全地帯について合意し」、引き換えに、アメリカはインジルリク空軍基地を使うことを認められる。これはオバマがエルドアンとした取り引きだが、アメリカは決してアメリカ側の責任を果たさなかった。もちろん、インジルリクにまつわる事実は、エルドアンを悪者にし、彼が全ての問題を作る人物であるかのように見せるため、メモリー・ホールに押し流された。だがそれは事実ではない。安全地帯の取り引きを止めたのはエルドアンではなく、オバマだった。
ところで、トルコがインジルリクについてオバマと取り引きしたという発表は、ロシアの戦争参入の引き金であることが分かった。このほとんど知られていない事実に歴史家や専門家は注目しなかったが、真実ははっきりしている。上記記事の(2015年7月27日)掲載直後、ロシアはあわただしく飛行場を整備し、シリアに軍用機を送り始めた。2カ月後、ロシアはシリア中で本格的な空爆作戦を開始した。
なぜ急いだのか?
NYタイムズ記事に載った情報、特に下記情報が主な理由だ。
「トルコ当局者とシリア反政府派指導者と、合意は、彼らがアサドに対して長い間求めていたものにわずかもう一歩のものだと記述している。トルコ国境近くのシリア内の飛行禁止区域。」
「飛行禁止区域」? それはオバマの密かな切り札だったのだろうか?
プーチンはアメリカがインジルリクをシリア上空に(リビアでと同じ方法で)飛行禁止区域を設定するのに使おうとしていたのを悟っていて、ロシア大統領は素早く行動を開始したのだ。彼は、国が混乱に陥れられ、もう一人の非宗教主義アラブ指導者が打倒されるのを許すことができなかったのだ。これがロシアが介入した理由だ。
トランプのネオコンが欲しているもの
トルコとアメリカが争っている今、トルコ軍はユーフラテス東への越境作戦準備を完了し、他方ポンペオ、ボルトンとペンスは次々好戦的声明を発表して、状況を悪化させ続けている。
これは中東でワシントンに一層深い関与を強いる対立へとトルコを誘い込む政権の戦略なのだろうか? それがアメリカが、アンカラとの約束を無視し、国境沿いに入り込み、アラブ世界の中心にクルド国を作り、エルドアンをあざけっている理由なのだろうか?
ネオコン(ポンペオ、ボルトンとペンス)が何を本当に欲しているのだろうか?
より多くのアメリカ兵と兵器が必要とされるよう、彼らは戦闘を強化し拡大することを望んでいるのだ。彼らはトランプに「全面的」地域支配の誓約を強化するよう強いる、より広範な戦争を欲しているのだ。彼らはアメリカ軍が何十年間も長く、レバノン、トルコとイラン国境の向こう側に広がる勝利できない戦争で難航するのを望んでいるのだ。彼らはライバルを減らし、イスラエルの地域覇権を強化することで、ワシントンが中東地図を書き換えるのを望んでいる。彼らはさらなる紛争、さらなる流血と、さらなる戦争を欲しているのだ。
それがネオコンが欲し、彼らの挑発で実現しようと意図しているものだ。
記事原文のurl:http://www.unz.com/mwhitney/trumps-neocons-see-erdogan-as-their-ticket-to-a-region-wide-m-e-war/
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植草一秀の『知られざる真実』4月16日記事
OECD=財務省消費税率26%提言絶賛御用の朝日星浩氏
昼の洗脳痴呆番組、ほとんど見なくなっているが、夜の「報道番組」と題するものも最近は興味が薄れてきた。昨日のアサンジに関するBS番組はその典型。あの場合、興味が薄れたのではなく、嫌悪感に満ちた。テレビ全体、「サクラを見る会」に他ならない。「たらいの水と一緒に赤子を流す」という表現がある。植草氏も、孫崎氏も、矢部氏も登場しない呆導機関というたらいの水はひどく汚染していて、赤子はいないように思えてならない。
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