サウジアラビア世継ぎとアラムコの絶望 - カショギ殺害の動機
Finian CUNNINGHAM
2019年2月3日
Strategic Culture Foundation
サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギの残忍な殺人の数週間前、彼の暗殺がなぜ命令されたかの鍵であり得る大きな出来事があった。その出来事とは、サウジ王国の国有石油会社アラムコ株の株式公開中止だった。
この最近のドキュメンタリーで語られているように、世界最大の石油会社アラムコの新規株式公開IPOは、ムハンマド・ビン・サルマーン(MbS)皇太子の「発案」だった。彼が2017年早々王位継承者になった時に、若い皇子は国有資産の部分的売却を、超保守的な砂漠の王国を改革する彼の広範な計画の「基礎」にしたのだ。
高齢のサルマーン国王お気に入りの息子MbSは、ほぼ完全な石油依存をやめて、サウジアラビア経済を近代化することを含め、主要政策決定の自由裁量権を与えられた。皇太子は「ビジョン2030」基本計画で、サウジアラビアを中東のハイテク・ビジネスハブとして徹底的に作り替える構想を描いた。広く欧米マスコミが「野心的な新たな始まり」と歓迎した計画には、女性により多くの権利を与え、映画館やスポーツ会場など取り締まりがより緩いレジャー施設を開発するなどの社会改革も含まれていた。若い皇族に対する欧米の称賛は、彼の自我と虚栄心に迎合していた。
しかしながら、32歳の皇太子は、ジャマル・カショギのぞっとするような殺人を巡って、彼のかつての欧米支援者から好感を失った。10月2日、カショギは、皇太子MbSによって命じられた暗殺計画だったと多くの人々が信じているものにより、イスタンブールのサウジアラビア領事館で死んだ。サウド家は皇太子の関与を激しく否定し、殺人は、カショギを強制的に本国に返すため、イスタンブールに送られたサウジアラビア情報局員の「狂暴な作戦」によるものだと主張している。ほとんどの人々、特にドナルド・トランプ大統領は、MbSは無罪だというサウジアラビアの公式主張を信じていない。
ここでは出来事の時期が重要だ。MbSが王位継承者になった数カ月後、カショギは、2017年9月に自ら亡命した。MbSの次期王位継は、多くの観察者によって、サウジ王国の継承規則違反と見られていた。MbSは、彼の父親の承認で、継承順位が、より上位だった他の継承者たちを飛び越えた。横柄で衝動的であることで知られている強引なMbSによる「権力略奪」だった。
彼のアメリカ亡命中、カショギは、ワシントン・ポストの常連コラムニストと、様々な影響力があるシンクタンクでの、中東問題に関する著名な来賓講演者になった。この反体制派人物の主要な話題はMBS批判と深刻な政治的な過ちを強調することだった。カショギは、イエメンでのサウジアラビア戦争や、カタール封鎖や、レバノン内政に対する不安定化干渉、について批判的で、皇太子が反汚職の取り締まりだと主張している、他の皇族たちの一斉検挙と拷問というMbS独裁支配のより暗い面を暴露していた。そこで若い皇族の「改革主義者」イメージは、カショギという部内者の洞察によってそこなわれた。
著名なアメリカ・マスコミによる、こうした全ててのマイナスイメージ報道は、アラムコ株の売却に関する戦略に強い影響を与えたことは疑いがない。アラムコ新規公開株(IPO)はこれまでで世界最大の株式上場だと言われていた。投資家連中がよだれを垂らしてまっていた。ニューヨークは、取り引きを扱おうとして、ロンドンと競っていた。
この企業はサウジアラビア皇太子と顧問により2兆ドルと評価された。意図されていた企業株式5パーセントの売却は、1000億ドルを集めると算定された。その棚ぼたの大金は、当時MbSが、彼の評判とエゴをそれに賭けていた意欲的なビジョン2030を促進するために使われるはずだった。
だが外国投資家は非現実的に高いと思い出し、2兆ドルというアラムコ評価額に対する信頼を失い始めた。第二に信頼性に足る支配者としてのMbSに対する疑いが増した。多いにもてはやされていた企業の株式公開の評判は2017年末から2018年始め弱まり始めた。投資家たちは、史上最も壮大な投資計画として推奨されたものに用心深くなった。
アラムコの見込みが縮小するにつれ、サルマーン国王が最終的に介入し、概念全体を止めさせたと報じられている。
アルジャジーラはこう報じた。「国王が働きかけ、2兆ドルの夢は水泡に帰した。」ファイナンシャル・タイムズは当時こう書いた。「サウジ・アラムコIPO[売却]棚上げは、皇太子にとっては打撃。国王にとって、重要資産を売った人物として歴史に残ることがおそらく耐えられなかったのだ。」
アラムコ株式上場計画の突然中止は、MbSに対する厳しい拒否となった。若い皇族は自らを世界的企業家と同類と見なしていることが知られている。彼が去年アメリカを2週間訪問した際、彼はシリコンバレーの連中や他の企業幹部とキスをした。彼が成功の「象徴」とみなしている人々の間で「彼自身の実力を証明しよう」としている、この過保護サウジアラビアお世継ぎの個人的不安感を誰でも容易に想像できる。
アラムコ上場というMbS「発案」が中止され、彼のビジョン2030の全体改革「基本計画」も同様に混乱に投げこまれた。彼の世界は逆転し、彼の評判がひどく落ちたのは誇張ではない。この事態展開が「先見の明ある」皇族を、どれだけ傷つけたかを誇張するのは困難だ。
ワシントン・ポスト報道によると、皇太子MbSのCIA査定は「優れたテクノクラート」だが横柄で衝動的な人物だとしている。「彼は、してはならないことがあるのを理解しているようには思われない。」とポストは書いた。
欧米マスコミが、アラムコ株式上場計画が放棄されていたことを明らかにして、この驚天動地のニュースは2018年8月末に報じられた。おまけに、MbSのかつての明るいイメージが、父親にチェックされていたことも明らかになった。
わずか5週間後、ジャマル・カショギが、サウジアラビア領事館で法的書類を受け取るため、偽りの口実でイスタンブールに呼び寄せられた。10月2日、彼は領事館内で拷問されて殺害され、遺体は、処分のため電動骨のこぎりで細かく刻まれたと信じられている。彼の遺骸は決して回収されていない。
イスタンブールにカショギを誘い出する計画は、MbSがまとめたと言われている。マスコミで批判していたため、このジャーナリストは、サウジアラビアに帰国するのを恐れていた。MbSの弟でアメリカ大使としてワシントンに駐在しているハーリドが、イスタンブールに行っても彼が安全なのを保証するため、カショギに電話をかけたと報じられている。それは9月のいずれかの時点だったに違いない。サウジアラビア大使館は電話されたことを否定している。
提案されていたアラムコ株式上場計画に関して、ジャマル・カショギが何らかの意見を表明したとは知られていない。しかし「改革主義」皇太子に関する彼の批判的記事と、皇太子に対する信頼性の欠如が、少なくとも間接的に、ベンチャー全体に対して、相当深刻な気が滅入る影響を与えたと推論して無理はあるまい。
自分の夢が押しつぶされたことに対するMbSの傲慢な怒りから、ジャマル・カショギはおそらく皇太子の悩みの種になったのだ。5週間で、このジャーナリストの運命は、激怒と復讐の特徴を帯びた殺人計画によって閉じられた。
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今日の衆院予算委国会中継、立憲民主党議員の質問まで、すべて音声OFFにする。昨日の参院予算委国会中継、音声を出して聞いたのは、共産党の倉林明子議員と、井上哲士議員のお二人。井上議員は、宗主国からの無駄な兵器の爆買い構造を鋭く指摘。下記は国民全員にとほうもない影響をあたえる重要な話題毎勤統計不正と、国保制度問題についての倉林明子議員質問。
IWJ岩上氏、ひさびさの復帰で矢部氏インタビュー、さすがに中身が濃い。なんとフルオープン、会員でない方々も拝聴できる企画。復帰はとても嬉しいが、健康第一でお願いしたいもの。ロシア政府関係の方々は、矢部宏治氏のご著書を読んでいるのだろうか?地位協定はとんでもない代物だが、日米安保もとんでもないしろもので、日本は永久に完全属国におかれるように作られている。『知ってはいけない 2 日本の主権はこうして失われた』(講談社現代新書)、刊行直後に購入、拝読したつもりだが、ご本人による核心の説明は,有り難い。ポイントがすっと頭に入る。これからのインタビューも見逃せない。
岩波書店の月刊誌『世界』3月号、新聞労連の南彰氏「記者の連帯がなぜ必要か」をまず拝読した。ガース氏への鋭い質問を封じようとしている官邸の動きを止める必要性ついて書かれている。
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