もし真実が、物質的な狙いに勝利できないなら、我々の命運は尽きている
2018年12月22日
Paul Craig Roberts
長い冷戦の間、プリンストン大学とニューヨーク大学のロシア研究者スティーヴン・コーエン教授は理性の声だった。愛国心から、冷戦にワシントンが寄与していることには目をつぶり、ソ連の寄与だけを批判するのを拒否していた。コーエンの関心は、敵を非難せず、核戦争の脅威を取り除く相互理解に向けて活動することだった。レーガンの最優先課題が冷戦を終わらせることだったから、民主党員で左寄りのコーエンも、レーガン政権には馴染んでいたはずだ。私は冷戦を終わらせる取り組みの一員だったので、これを知っている。パット・ブキャナンも同じことを言うだろう。
1974年に悪名高い冷戦戦士アルバート・ウォルステッターが、ソビエトの脅迫を過小評価したと言って、ばかばかしいことにCIAを非難した。予算と権限の理由からして、CIAには、ソ連の脅迫、今日で言えば「ロシアの脅威」を過大に見積もるあらゆる誘因を持っていたのだから、ウォルステッターの非難は全く意味をなしていなかった。だが彼は懸念を刺激することに十分成功したので、ジョージ・H・W・ブッシュCIA長官、後の副大統領、大統領は、ロシア嫌いのハーバード教授リチャード・パイプスに率いられたBチームに、CIA評価を調査させることに同意した。Bチームは、ソ連が、核戦争に勝つことができ、アメリカを攻撃する力を作りあげたと考えていると結論した。
報告はほとんどナンセンスで、スティーヴン・コーエンは、Bチームが、交渉に対して引き起こした妨害を懸念したに違いない。
現在、核戦争に勝てると思っているのはアメリカだ、とコーエンは強調している。ワシントンは「低出力」核兵器使用を公然と語り、ロシアを悪魔化し、中傷するプロパガンダ攻勢で、ロシアとのあらゆる和平交渉を意図的に阻止し、ロシア国境にミサイル基地を設置し、旧ロシア地域をNATOに取りこむことをに語り、あからさまな嘘をついているのだ。私が大いに勧める彼の最新刊『War with Russia ロシアとの戦争』で、ワシントンが戦争を求めている、という説得力ある主張をコーエンはしている。
ロシアが脅威なら、それは単にアメリカがロシアを脅やかしているせいだという点で、私はコーエンに同意する。ロシアに対する政策が愚かなのは「ロシアの脅威」を作りだしていることだ。プーチンはこれを強調し続けている。プーチンを言い替えれば「あなたは我々が脅威だと宣言し、果てしなく繰り返し、事実を無視し、事実を、アメリカのプロパガンダ・メディアが、事実だとしている画策した意見で置き換えて、ロシアを脅威にしている」のだ。
冷戦中、全てのアメリカ大統領が、特に共和党の緊張を静めようと努力していたというコーエンは正しい。クリントン政権以来、全てのアメリカ大統領が、緊張を引き起こそうと努力してきた。手法のこの危険な変化を、一体何で説明できるだろう?
冷戦のおかげで、何十年も予算と権力を思うままにしてきた軍安保複合体にとって冷戦終結は不利だった。軍安保複合体に、この富と威信を与えた敵が突然姿を消したのだ。
新冷戦は、軍安保複合体の敵を復活させた結果だ。独立したマスコミや学者がいる民主主義国家なら、これは可能ではなかったろう。だがクリントン政権は、独占禁止法に違反し、アメリカ・メディアの90%を6つの超巨大企業に集中させることを認め、言説を支配するため、CIAがマスコミの手先を利用して既に損なっていたマスコミの独立を破壊したのだ。英語版が直ぐに回収され焼却されたウド・ウルフコッテの『Bought Journalism 買収されたジャーナリズム』を含め、CIAのマスコミ利用については多くの本が書かれている。
ロシアの悪魔化は、「トランプを支持する惨めな連中」のおかげで、ヒラリーが大統領選挙に敗北したことによる、トランプに対する民主党員の憎悪と怒りにも助長されている。民主党員は、大統領選挙に対するプーチンの干渉によってトランプが就任したと思うと主張している。この間違った思い込みは民主党員には感情的に重要で、手放せないのだ。
プリンストンとニューヨーク大学の教授としてのコーエンは、コーエンの学問がその狙いに奉仕しない軍安保複合体から資金供給されるアメリカのロシア研究や戦略研究の類をする機会が決してなかったわけではない。私が十年ほど、独自に資金を得て研究職をつとめていた戦略国際研究所CSISでは、同僚の大部分が軍安保複合体の交付金に依存していた。私が30年間上級研究員だったスタンフォード大学フーバー研究所では、この研究所の反ソ連姿勢は、この団体に資金を供給する連中の狙いの反映だった。
私は給与支払い名簿に載っていた同僚が売春婦だったと言ってるのではない。任命された人々は、そう見られるべきだと軍安保複合体が思っている通りにソ連を見がちな人々だったと言っているのだ。
スティーヴン・コーエンが気付いている通り、かつての冷戦では、全ての言説が支配されていわけではなかったので、多少均衡がとれていた。第二次世界大戦により多くの国民を失ったソ連は、平和に対する関心を持っており、それゆえ、核戦争の可能性を避け、合意が達成可能なことを指摘できる自立した学者がいたのだ。
レーガン大統領のソ連大使ジャック・マトロック同様、彼はアメリカの現場にわずかに残った理性ある専門家の声であるように思われるが、スティーヴン・コーエンはそうした思慮ある人々の中の若手だったに違いない。
あなた方がその下で暮らしている喫緊の脅威、スティーヴン・コーエンのようなごく少数の人々だけが取り除こうとしている脅威を理解したいとお望みなら彼の本をお読み願いたい。
買収されたアメリカ・マスコミが、あなた方の存在に与えている緊急の脅迫を理解することを望むなら、コーエンによる彼らの卑劣な嘘の説明をお読み願いたい。アメリカにあるのは、嘘と同義語のマスコミだ。
アメリカの大学が、金目当てで、組織としてどれほど腐敗しているか、組織として真実がどれほど重要ではないか理解したいとお望みならコーエンの本をお読み願いたい。
なぜ地球温暖化現象にやられる前に、皆様が死にかねないのか理解したいとお望みならコーエンの本をお読み願いたい。
これだけ言えば十分だ。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスとクリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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日本にあるのは、嘘と同義語のマスコミではないのだろうか?
日刊IWJの一部をコピーさせていただこう。
IWJからのクリスマスプレゼントは元外務省国際情報局長・孫崎享氏のインタビューです!
IWJテキスト班の川上正晃記者と小野坂 元(はじめ)記者は21日、「ピンチヒッター企画」として、孫崎享氏にインタビューを行いました。
冒頭、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の長期勾留の問題についてうかがった後、フランス国内の話題に移りました。孫崎氏は、マクロン政権の危機とも言える「黄色いベスト運動の一番の特徴は何だと思う?」と小野坂記者に逆に問いを投げかけました。
返答に窮した小野坂記者は、これまでの抗議運動を担ってきたのは労働組合や社会主義政党のはずだが、そうした既存勢力ほど近年の社会問題に対応できていないのではないか、と考え、「背景に組織が存在していないのでは」と、なんとか応じました。
岩上さんよりオーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳『エスタブリッシュメント――彼らはこうして富と権力を独占する』(海と月社、2018年)(https://amzn.to/2EGiHFX)(※)を読むよう宿題を出されていたことも、この回答につながるヒントとなりました。
※同書は冒頭から、イギリスにおける生活保護バッシング、極端な規制緩和、権力と一体化し統治機構の一部と化したマスメディアによる「弱者たたき」に切り込み、実のところ右派も左派も、財界とべったりであることを明らかにしています。
その答えは、孫崎氏と一致するところした。ホッとした小野坂記者でしたが、川上記者はすかさず、マクロン政権と安倍政権とに共通する、富裕層に手厚く弱者に厳しい経済政策の問題を孫崎氏にうかがっていきました。
※「黄色いベスト運動」についてはパリ在住のIWJ会員 村岡和美氏から、現地からの貴重なリポートをいだだきました。下記URLよりご覧ください。
パリは燃えているか!?(1)パリ在住IWJ会員からの現地レポート! 「黄色いベスト運動」はマクロン大統領退陣まで続くのか!? 「抗議しなければ、僕たちはいつまでも羊のままじゃないか!」 2018.12.10
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/437412
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