もう一つの核兵器削減条約からのアメリカ脱退は本当にロシアの恩恵になるのか?
2018年10月30日
そうではない。明らかに、ロシアは、アメリカ合州国との戦争のさなかの核攻撃応酬を防ぐもう一つの条約を破棄することで、恩恵を受けることはない。
ところが、アメリカによるあからさまな挑発を、あたかも“ロシアの責任”のせいにしようとする言説が出回り始めている - 中距離中距離核戦力全廃条約からのアメリカ離脱は、ロシアに恩恵があるのみならず - 条約破棄の種を蒔いたのは、ロシア“傀儡”のドナルド・トランプ大統領だったというのだ。
最近、卓越した反トランプ派として、イメージを一新した元アメリカ・ロシア大使のマイケル・マクフォールのようなこの中傷的言説を広めているのは、アメリカの偽左右政治パラダイムに情報を出したり、そこから取ったりしている政治挑発者だ。
ソーシャル・メディアへの投稿の一つで、マクフォールはこう主張していた。
トランプは、どうして親密な個人的関係を活用して、プーチンに、ロシアに中距離核戦力全廃条約を遵守するようにできないのだろう?
他の投稿で、彼はフォロワーに、アメリカ離脱がいかに“ロシアを助け、アメリカを傷つけるか”について、アメリカの大企業-金融業者が資金提供しているシンクタンク - ブルッキングス研究所が公開している論評を読むよう勧めている。
アメリカの元駐ウクライナ大使スティーヴン・パイファーが書いた評論は“ロシアによる違反”とされるものの、いかなる証拠も公表されていないことを認めている。もし配備された場合、ロシア中距離ミサイルの射程距離内になるはずのアメリカのヨーロッパ同盟諸国が、クレムリンに公的にも私的にも強く抗議していないことも認めている。
だが、パイファーは、アメリカはロシアによって開発中とされるものに対抗できるミサイルを保有しておらず、もし保有していたとしても、NATOも日本も韓国もアメリカがそのようなシステムを自国領に配備するのを認めるはずがないので、アメリカはそれを配備する場所がないと主張している。彼もマクフォールも、これがアメリカの条約からの脱退が、一体なぜ中距離ミサイルの独占が認められたロシアの“恩恵になるか”という理由だと示唆している。
別のワシントン離脱が、そうではないことを証明している
ところが、アメリカは、既にいくつかの条約から離脱しており、同盟諸国に圧力を加え、新規開発されたミサイル・システムを、彼らの領土に配備することを可能にしたのだ。
別の冷戦時代の協定から、ワシントンの一方的離脱 - 1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約を、アメリカのジョージ・ブッシュJr大統領が2002年に破棄した後 - アメリカは、ロッキード・マーチンのイージス・アショア弾道ミサイル防衛システムを開発し、ヨーロッパに配備し、韓国には、やはりロッキード・マーチンが製造した終末高高度防衛ミサイル (THAAD)弾道弾迎撃ミサイル防衛システムを配備した。
ブッシュとトランプの下での一方的な条約離脱や、オバマ政権の下での弾道弾迎撃ミサイル・システムのヨーロッパと東アジア配備が、誰がホワイト・ハウスの主かとは無関係に、計画が連続していることを示しているのは明らかだ。
これら条約脱退と、それに続く、ロシアと中国を包囲するためのアメリカ・ミサイル・システム配備に加えて、両国国境でのアメリカ部隊の直接的強化が行われている。
彼らはロシアが中距離核戦力全廃条約に違反していると主張し、“8年間”そうしてきたとは言うものの、アメリカのトム・コットン上院議員がワシントン・ポストで発表した2017年の論説で主張されている通り、過去8年間、アメリカによるパトリオット・ミサイル・システムのロシア国境沿い配備に加えて、バルト諸国における、より大規模な配備計画も進行中だったのが明らかになったことに留意が必要だ。
“WikiLeaks電報、バルト三国をロシアから守るNATOの秘密計画を暴露”と題するガーディアンの2010年の記事は、こう認めている。
ブリュッセルのアメリカNATO代表団からの秘密電報によれば、ヨーロッパにおける同盟の最高司令官、アメリカ海軍のジェームス・スタヴリディス提督は、リトアニア、ラトビアとエストニアという旧ソ連バルト諸国のための防衛計画を策定するよう提案した。
もちろん、こうした“防衛計画”自身、バルト三国へのアメリカ軍配備を意味しており、アメリカ軍兵士は現在、ロシア国境に駐留している。
条約からアメリカが離脱し、ミサイルを配備し、更に別の条約を脱退して、ロシア周辺とロシア国境に更なる軍隊を配備するため、自国の国境での敵対的な武力強化に対するロシアの合理的な反応を理由にするという、明らかなパターンが浮かび上がる。
一体誰が本当に恩恵を受けるのだろう? 金の流れをたどってみよう
アメリカによる中距離核戦力全廃条約でロシアが恩恵を受けるという様々な主張をした後、マクフォール自身、本当の受益者が誰かを遠回しに認めている。
より最近のソーシャル・メディア投稿で、マクフォールは、こう主張している。
もしプーチンが多数の新たな中距離ミサイルをヨーロッパに配備したら、それに対応して、どのようなミサイルと発射装置を、アメリカはヨーロッパに配備しようとするのだろうか? そして、どこに配備するのだろう? 私は我々が対応しない/できないことを懸念する。
この“ミサイルと発射装置”が何であれ、それを製造する企業は誰であれ、その開発と配備でreap何千億ドル。ロッキード・マーチンのイージス・アショア・システムは10億ドル以上する。ロッキード・マーチンの年間収入はロシアの年間軍事予算に匹敵する。アメリカによる中距離核戦力全廃条約廃棄で、一体誰が一番恩恵を受けるかは明らかだ - 少なくとも金銭的には。
ヨーロッパに配備するワシントンの能力を巡るマクフォール疑問については、アメリカの弾道弾迎撃ミサイル制限条約からの離脱で証明されている通り、アメリカは、論議の多い、望まれていないミサイル・システムを開発し、ヨーロッパと東アジアの両方に、首尾良く配備できているのだ。
アメリカが中距離核戦力全廃条約から離脱さえする前に、アメリカ国防省は、それをするための中距離ミサイル・システム計画を既に開発していたのだ。2018年2月という早い時点で『ディファンス・ワン』は“ペンタゴン、ロシア・ミサイルと同様なものに反撃する核巡航ミサイルを開発中であると認める”と題する記事でこう報じている。
アメリカ軍は、モスクワとワシントン間の軍縮協定に配備が違反する同様なロシア兵器に反撃するための地上発射形中距離巡航ミサイルを開発していると、アメリカ人幹部が金曜日に述べた。
当局者は、まだ開発中のアメリカ・ミサイルは、もし配備されれば、中距離核戦力全廃条約に違反することを認めている。
記事は、そのようなミサイルの開発は配備されない限り中距離核戦力全廃条約に違反しないと主張する統合参謀本部戦略的能力室グレッグ・ウィーヴァー副室長の発言も引用している。
中距離核戦力全廃条約からのアメリカ離脱で、ミサイルは公然と開発し配備できるようになり - つまり誰であれ契約を獲得したアメリカ兵器メーカーにとって需要は更に増える。
こうして、マクフォールは、一体誰が中距離核戦力全廃条約破棄の本当の受益者かというあらゆる疑問に答えている - アメリカが弾道弾迎撃ミサイル制限条約から脱退した後、既に開発済みで、配備済みの他の何十億ドルのミサイル・システム事業に加えて、こうした新型ミサイル・システムの開発と配備で、兵器メーカーは何千億ドルも獲得するのだ。
包囲し封じ込めるロシアことを目指している連中も恩恵を受けるが、そうすることを正当化する、いかなる合理的口実も欠如している。
マクフォールや、彼のような他の連中は、聴衆はひどく無知で、全く情報不足のままだという想定を前提にして、言説を作り上げる。欧米マスコミとの協力で - 大衆は無知と困窮の状態に置き続けることで - モスクワとアメリカ納税者の懐を狙ったあからさまな挑発を、マクフォール自身が『Foreign Affairs』に書いた2018年の長たらしい論説の中で主張していた通り、“プーチンと彼の傀儡”がたぶらして、アメリカがロシアを包囲し、封じ込めるようにさせているのだと容易に押し通せるのだ。
ロシアを、アメリカ自身による挑発の背後の首謀者として、でっちあげることで、マクフォールや彼が代表している既得権益団体が、連中が公然と述べている、ロシアを包囲し、封じ込める狙いを更に何段階も前進させようとしていることが、世界平和と安定にとって、一体誰が本当の脅威かを証明している。
Tony Cartalucciは、バンコクに本拠を置く地政学専門家、著者で、これはオンライン誌“New Eastern Outlook”独占記事。
----------
今日の孫崎享氏のメルマガ題名で、昨日の記事を連想。
共和党の危険、単にトランプの党になったというだけでなくて、「赤狩り」を主導したマッカーシー上院議員1947年 - 1957年的党になった。ここでフェイク・ニュースと偏狭的妄想で人々を扇動。最近の例は中南米で米国移民を目指すキャラバンの脅威を煽る。
今日の日刊IWJガイドには、昨日の梅田正己氏インタビュー第5弾についても書かれている。長くなるが一部を引用させていただこう。こういう歴史、事実、大本営広報部バラエティーを一年中見続けてもわかることはない。彼らは「日本スゴイ」洗脳がお仕事。
昨日の岩上さんによる書籍編集者・前高文研代表梅田正己氏インタビューは第5弾を数え、今回は戦国時代に入りました。会員限定の配信では、高文研のシリーズにならい、【これだけは知っておきたい】との表題で、豊臣秀吉の朝鮮出兵を扱いました。
秀吉を理解する上で重要なのは、彼が仕えた織田信長の特異な宗教観やそれと密接に関わる残虐性です。信長以前の戦国武将が温厚だったわけではありませんが、寺社仏閣を畏れ、朝廷にも敬意を払うなど、極度の破壊行為には自制がかかっていました。
しかし、天皇すらも京都支配の道具としてしかみなさず、キリスト教宣教師に近づいたのも鉄砲調達を目的として南蛮貿易を握るためだったという、徹底した唯物・無神論者であった信長の戦い方は手段を選ばないものでした。その継承者になった秀吉は、合戦のみならず検地(耕作人と土地を一致させる土地調査事業)でも情け容赦ない弾圧を仕掛けるつもりでした。
本インタビューで重視したのは、そうした唯物・無神論の果てに自身を神格化しようとしたという信長と秀吉の共通点です。彼らの野望は日本の支配だけにとどまりませんでした。ついに秀吉は朝鮮に出兵し(文禄の役、1592-1593年)、朝鮮の援軍となった明との交渉でも、自らの神格化のために画策しました。しかし、明側の返答は「秀吉を日本国王にする」と、秀吉を明の皇帝の臣下扱いするものでした。このように秀吉の「神格化」欲求が満たされなかったことが、再度の出兵におよんだ理由とされています(慶長の役、1597-98年)。ここで朝鮮側が受けた被害は、「民族的記憶として残ってる」と梅田氏は言います。
この秀吉最晩年のつまずきが、その後の日本において、思わぬところで影を落とします。明治維新を主導した薩摩(島津)・長州藩(毛利)の先祖は、秀吉に従って朝鮮に出兵し、その後1600年の関ヶ原の戦いで徳川家康に破れ、江戸時代は外様大名として周辺に追いやられ、その勢力も削られてしまいました。そうした因縁や挫折感は、江戸幕府打倒、その裏返しとしての秀吉賛美、さらには朝鮮支配の夢をもう一度という妄想を長年溜め続けることになりました。ここには、被害妄想はあっても、朝鮮の民衆を蹂躙したという加害者の記憶が入る余地はありませんでした。
事実、次のような驚愕の証拠があります。1910年8月29日に日本が韓国を併合した際に、初代朝鮮総督の寺内正毅は、秀吉に従っていた武将たちを偲んで「小早川 加藤小西が 世にあらば 今宵の月をいかに見るらむ」(小早川隆景、加藤清正、小西行長らがこの世にあったならば、【韓国併合の日の夜】の月をどのように見ただろうか)と詠んでいるのです。寺内は長州出身の陸軍軍人で、同じく長州出身の山県有朋の引き立てで総理大臣になった人物です。この寺内が詠んだ歌などは、勝者にして加害者の歴史観の極致と言うべきものでしょう。この点についても梅田氏は「信長、秀吉の時代から、最近の徴用工の件まで直結している問題をメディアではほとんどやらない」と憤りを含んだコメントをしています。
最近報じられたように昭和戦時中の元徴用工訴訟に関しても、安倍政権の閣僚、自民党の発言のみならず大手メディアの報道も韓国非難一色となり、日本の朝鮮支配の歴史に対する無理解さが露呈しています。そんな険悪な風潮に対抗するためにも、被害者から見た歴史に可能な限り接近し、近隣諸国と共有可能な歴史認識を形づくっていく試みを、梅田氏の著作に即しながら今後も継続していく予定です。事実を重んじる点では歴史研究も日々の報道も変わるところはありません。第6弾に向けて準備を重ねてまいりますので、どうかご支援のほどよろしくお願いします!
« トランプというカルト | トップページ | 今回の選挙は一体何を問うものなのか »
「アメリカ」カテゴリの記事
「アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事
「ロシア」カテゴリの記事
- 続くマイクロチップ戦争(2025.01.24)
- 依然、経済的ストックホルム症候群に陥っているウクライナ(2025.01.21)
- 大統領の鳴り物入り宣伝など忘れろ アメリカ帝国主義によるホワイトハウス占拠だ(2025.01.19)
コメント